最終更新:2026年10月20日
法人の生命保険の保険料は、保険の種類と受取人、そして最高解約返戻率で「損金」「資産計上」「役員への給与」のどれになるかが決まります。定期保険と第三分野保険(医療保険など)は、令和元年6月28日付の法人税基本通達の改正により、令和元年(2019年)7月8日以後の契約から、最高解約返戻率50%以下・50%超70%以下・70%超85%以下・85%超の4区分で処理が分かれるようになりました。この記事では、その区分を国税庁の通達・FAQ・タックスアンサーで確かめた表にし、架空の数字で経理処理を検算します。特定の保険会社や商品は勧めません。また、節税を目的に保険へ入ることも勧めない立場で書いています。内容は最終更新日(2026年10月20日)時点の制度にもとづきます。
法人の生命保険とは?結論から
法人の生命保険とは、会社が契約者になり、役員や従業員を被保険者にして会社が保険料を払う生命保険のことです。一人法人なら、被保険者は社長である自分になります。経理処理の答えは「解約したらどれだけ戻ってくる保険か」と「保険金を誰が受け取るか」の2つで決まります。
| 論点 | 結論 | 確認した出典 |
|---|---|---|
| 4区分が使われる契約 | 令和元年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険(解約返戻金のない短期払のものは令和元年10月8日以後の契約) | 国税庁FAQ Q1 |
| 最高解約返戻率50%以下 | 原則として期間の経過に応じて損金 | 法基通9-3-5 |
| 50%超(保険期間3年以上) | 区分に応じて保険料の一部を資産に計上し、後で取り崩して損金にする | 法基通9-3-5の2 |
| 受取人が被保険者の遺族で、役員だけが被保険者 | 保険料はその役員への給与 | 国税庁 No.5364 |
| 令和元年7月8日より前の契約 | 改正前の通達の取扱いが続く(さかのぼって適用されない) | 国税庁FAQ Q1 |
一人法人でいちばん効いてくるのは4行目です。社長しか被保険者がいない会社で、保険金の受取人を家族にすると、保険料は会社の経費ではなく社長への給与として扱われます。
法人の生命保険の損金算入の区分(制度・要件)
定期保険と第三分野保険の保険料は、まず最高解約返戻率が50%を超えるかどうかで分かれ、超える場合は3つの区分ごとに資産に計上する割合と期間が決まっています。以下は2026年10月20日に国税庁の法人税基本通達 第3節 保険料等とタックスアンサー No.5364-2(令和8年4月1日現在法令等)を開いて確かめた内容です。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産に計上する額 | 取崩期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | なし | なし(期間の経過に応じて損金) | なし |
| 50%超70%以下 | 保険期間の開始日から、保険期間の40%相当期間を経過する日まで | 当期分支払保険料×40% | 保険期間の75%相当期間の経過後から、保険期間の終了日まで |
| 70%超85%以下 | 当期分支払保険料×60% | ||
| 85%超 | 保険期間の開始日から、最高解約返戻率となる期間の終了日まで(5年未満になるときは5年。保険期間が10年未満なら保険期間の50%相当期間) | 当期分支払保険料×最高解約返戻率×90%(11年目以降は×70%) | 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間の経過後から、保険期間の終了日まで |
表の外にある条件も大事です。50%超70%以下の保険でも、被保険者1人あたりの年換算保険料相当額(保険料の総額÷保険期間の年数)の合計が30万円以下なら、資産計上はせず50%以下と同じ扱いになります(法基通9-3-5の2)。また、保険期間を通じて解約返戻金のない短期払の保険で、被保険者1人あたりその事業年度に払った保険料が30万円以下なら、払った事業年度に全額を損金にする処理も認められています(法基通9-3-5の注2)。
受取人と保険の種類による違いは次のとおりです(No.5364・No.5365)。
| 保険の種類 | 受取人が会社 | 受取人が被保険者・遺族 |
|---|---|---|
| 定期保険・第三分野保険 | 上の4区分で処理 | 原則は上の4区分。ただし役員や特定の使用人だけが被保険者なら、その人への給与 |
| 養老保険(死亡保険金・生存保険金とも) | 契約が終わるまで資産に計上 | その人への給与 |
| 養老保険(死亡は遺族・満期は会社) | 2分の1を資産に計上し、残りは期間の経過に応じて損金。役員などだけが被保険者なら残りは給与 | |
用語も2つだけ押さえておきます。最高解約返戻率とは、保険期間を通じて「その時点の解約返戻金相当額÷それまでに払う保険料の合計」が最も高くなる期間の割合です。当期分支払保険料とは、払った保険料のうちその事業年度に対応する部分を指します。改正の背景について国税庁は、保険期間の前半の保険料に多額の前払部分が含まれる保険を期間の経過どおり損金にすると、課税所得の適正な期間計算を損なうと説明しています(令和元年改正通達の趣旨説明)。
法人の生命保険の経理処理の例(架空の数字で検算)
経理処理は、区分ごとに「資産計上期間」「何もしない期間」「取崩期間」の3つの段階で考えると迷いません。以下はすべて説明用の架空の例で、実在の商品や加入をすすめる数字ではありません。計算を単純にするため、契約日を事業年度の開始日とし、年払の保険料がそのまま当期分支払保険料になる前提で書きます。資産に計上する勘定科目名は法令で決まっていないので、ここでは「前払保険料」とします(保険積立金とする会社もあります)。
例1:最高解約返戻率50%超70%以下と70%超85%以下(保険期間40年・年払50万円)
年換算保険料相当額は2,000万円÷40年=50万円で、30万円を超えるので資産計上の対象です。資産計上期間は40年×40%=16年、取崩期間は40年×75%=30年を過ぎた31年目から40年目までの10年間です。
| 期間(例) | 50%超70%以下の場合 | 70%超85%以下の場合 |
|---|---|---|
| 1〜16年目(資産計上期間) | 前払保険料20万円/支払保険料30万円 | 前払保険料30万円/支払保険料20万円 |
| 17年目の時点の資産計上の累計 | 20万円×16年=320万円 | 30万円×16年=480万円 |
| 17〜30年目 | 支払保険料50万円(全額損金) | 支払保険料50万円(全額損金) |
| 31〜40年目(取崩期間) | 支払保険料50万円+取崩32万円=損金82万円 | 支払保険料50万円+取崩48万円=損金98万円 |
| 40年間の損金の合計 | 30万×16+50万×14+82万×10=2,000万円 | 20万×16+50万×14+98万×10=2,000万円 |
検算すると、どちらも40年間の損金の合計は払った保険料の総額2,000万円と一致します。区分が変えるのは損金の総額ではなく、損金になる時期です。1〜16年目の仕訳は「(借方)前払保険料20万円・支払保険料30万円/(貸方)現金預金50万円」、31年目以降は取崩分を「(借方)支払保険料32万円/(貸方)前払保険料32万円」と追加します。
例2:最高解約返戻率85%超(保険期間30年・年払100万円)
最高解約返戻率が90%で、それが10年目に来る保険を仮定します。10年目より後に資産計上期間を延ばす条件(解約返戻金相当額の対前年増加額÷年換算保険料相当額が70%を超える期間)はなく、解約返戻金の金額が最も高いのも10年目とします。資産計上期間は1〜10年目で、5年以上あるので延長はありません。
| 期間(例) | 計算 | 損金になる額 |
|---|---|---|
| 1〜10年目 | 資産計上=100万円×90%×90%=81万円 | 100万円−81万円=19万円 |
| 11年目の時点の資産計上の累計 | 81万円×10年=810万円 | ― |
| 11〜30年目(取崩期間20年) | 810万円÷20年=年40.5万円を取崩 | 100万円+40.5万円=140.5万円 |
| 30年間の合計 | 19万×10+140.5万×20 | 3,000万円(保険料の総額と一致) |
85%超の区分は、最初の10年間で保険料の8割以上が資産に残ります。「保険料を払った年に経費が大きく出る」という期待で入ると、想定と大きく食い違う区分です。
例3:一人法人で受取人を家族にした定期保険(月払1万円)
被保険者が社長だけで受取人が社長の遺族なら、最高解約返戻率にかかわらず保険料は社長への給与です(No.5364)。会社が経常的に負担する保険料なら毎月おおむね一定の経済的利益なので定期同額給与になり、仕訳は「(借方)役員報酬1万円/(貸方)現金預金1万円」です。給与になった保険料は、社長個人の生命保険料控除の対象になります。役員報酬の損金の考え方は定期同額給与とは(要件と崩れるパターン)にまとめました。
個人事業主・一人法人の判断ポイント
生命保険を考える前に、公的な保障で足りない部分がどこかを先に見ます。個人事業主と一人法人の役員では、入っている公的制度も、自分に掛けた保険料の扱いも違います。
| 比べる点 | 個人事業主(国保・国民年金=第1号) | 一人法人の役員(協会けんぽ・厚生年金=第2号) |
|---|---|---|
| 自分に掛けた生命保険料 | 原則として生命保険料控除(新契約の一般の生命保険料は最高4万円、令和8年分以降は23歳未満の扶養親族がいれば最高6万円、3つの控除の合計は最高12万円) | 会社の契約なら通達の区分で処理。受取人が遺族なら給与になり、個人で生命保険料控除 |
| 亡くなったときの公的年金 | 遺族基礎年金(子のある配偶者または子が対象) | 遺族基礎年金に加え、遺族厚生年金 |
| 病気で働けないとき | 国保の傷病手当金は条例で定める任意給付 | 協会けんぽの傷病手当金の対象 |
出典は国税庁 No.1140 生命保険料控除、日本年金機構の遺族基礎年金と遺族厚生年金、厚生労働省の事務連絡(令和2年3月10日)、協会けんぽ 傷病手当金です。個人事業主でも、融資の条件として金融機関を受取人にした掛け捨て保険の保険料を必要経費とした国税庁の質疑応答事例があります。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で作り、法人の代表者として健康保険と厚生年金に入りました。手続きと毎月の支払いは大変でしたが、国保・国民年金と比べると傷病手当金などの保障は厚くなります(一人で会社を作るときの手順と費用)。会社を作ったら、まず社会保険で何が増えたかを確かめ、それでも埋まらない穴にだけ保険を当てる。この順番にすると、保険の金額を「経費になるか」ではなく「何が足りないか」で決められます。
判断の手順は次の4つです。
- 公的保障(遺族年金・傷病手当金)で、自分が倒れたときに何が残るかを確かめる
- 足りないのが家族の生活費か、会社の借入金や支払いかを分ける
- 家族の生活費なら個人の保険、会社の支払いなら会社の保険と、契約者と受取人を目的に合わせる
- 会社で入るなら、保険設計書の解約返戻率で区分を確かめ、経理処理を税理士とすり合わせる
保険を役員退職金の原資にする話を聞くことがありますが、退職金が損金になるかどうかは保険とは別に、在任期間や同業同規模の会社の支給状況から見た相当性で判断されます(役員退職金の計算方法)。
法人の生命保険のよくある間違いと注意点(節税目的で入らない)
法人の生命保険でいちばん多い間違いは、保険料を経費にすれば税金が減ると考えて入ることです。この記事は節税目的の加入を勧めません。資産に計上した保険料は後で取り崩して損金になりますが、解約して戻ってきた解約返戻金は会社の収益として益金に入ります(法人税法22条2項)。損金を先に出しても、戻ってきたお金にはその年に税金がかかる。課税の時期がずれるだけの場面が多いと考えておくほうが安全です。
- 通達の日付と適用日を取り違える:通達は令和元年6月28日付ですが、4区分が適用されるのは令和元年7月8日以後の契約です。解約返戻金のない短期払の保険は令和元年10月8日以後の契約から(国税庁FAQ Q1)
- パンフレットの返戻率で区分を決める:判定に使うのは、パンフレットの標準例ではなく、保険設計書などに書かれた自分の契約の解約返戻金相当額です(FAQ Q4)
- 30万円の判定を1契約で見る:年換算保険料相当額30万円以下の判定は、保険会社や加入時期にかかわらず、同じ被保険者で会社が入っている最高解約返戻率50%超70%以下の保険すべての合計で見ます(FAQ Q9)
- 契約内容の変更を放っておく:払込期間の変更や保険期間の延長など、解約返戻率が変わる変更は、変更後の内容で処理し直します(法基通9-3-5の2の注5・FAQ Q11)
- 払済保険に変えたときの差額を忘れる:払済保険に変更すると、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額の差額が、その事業年度の益金または損金になります(法基通9-3-7の2)
令和元年7月8日より前に契約した保険は改正前の取扱いが続き、その後に契約内容を変えても原則は改正前のままです(FAQ Q1・Q13)。一方で、適用日の後に転換や払済保険への変更をした場合や、保険給付のある特約を付けた場合は、その部分に改正後の取扱いが使われます(FAQ Q14)。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。保険の経理処理は契約ごとの数字で答えが変わるので、加入前に設計書を税理士に見せるのが確実です(いい税理士の選び方)。
法人の生命保険に関するよくある質問
法人の生命保険の経理処理はどうなりますか?
令和元年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率で決まります。50%以下なら期間の経過に応じて損金、50%超なら区分に応じた割合を資産に計上し、決められた期間に取り崩して損金にします。受取人が遺族で役員だけが被保険者なら、保険料はその役員への給与です。
掛け捨ての保険料は全額損金になりますか?
最高解約返戻率50%以下の定期保険・第三分野保険なら、原則として期間の経過に応じて損金になります。保険期間を通じて解約返戻金のない短期払の保険は、被保険者1人あたりその事業年度に払った保険料が30万円以下なら、払った年度に全額を損金にできます。ただし受取人が遺族で役員だけが被保険者なら給与になります。
法人の生命保険は節税になりますか?
保険料を損金にできても、解約返戻金は受け取った年度の益金になるため、課税の時期がずれるだけの場面が多くあります。返戻率の高い保険は保険料の多くが資産に計上されます。この記事は節税目的の加入を勧めず、公的保障で足りない部分を埋める目的で考える立場です。
役員だけを被保険者にした場合はどう扱われますか?
受取人が会社なら、最高解約返戻率の区分で処理します。受取人が被保険者やその遺族なら、保険料はその役員への給与になり、経常的に負担するものは定期同額給与になります。給与とされた保険料は、役員個人の生命保険料控除の対象です。一人法人は被保険者が社長だけになりやすいので注意が要ります。
おわりに──法人の生命保険は、税金を減らす道具ではなく、自分が止まったときの穴をふさぐ道具
令和元年の通達改正で、法人の生命保険は「解約したらいくら戻るか」に合わせて経費になる時期が決まるようになりました。区分を変えても、損金の総額は払った保険料の総額から動きません。だから先に決めるのは損金の割合ではなく、自分が倒れたとき会社と家族に何が足りないかです。保険を選ぶのは、その答えが出てからで十分です。