最終更新:2026年10月20日
業務委託契約書の書き方は、テンプレートの空欄を埋める作業ではなく、「何を・いくらで・いつまでに・できなかったらどうするか」を先に決めて文字にする作業です。最低限決める条項は、業務範囲、報酬と支払期日、納品と検収、知的財産権の帰属、再委託、秘密保持、損害賠償の上限、中途解約、遅延損害金の9つ。2024年11月1日に施行されたフリーランス法で、フリーランスや一人法人に仕事を出す発注者には取引条件を書面かメールなどで示す義務ができたので、契約書はその義務を満たす器にもなります。この記事では、条文と公式ページで確認できたことだけを使い、受ける側と頼む側の両方の立場から整理します。内容は最終更新日時点の制度にもとづいています。
業務委託契約書の書き方とは?結論から
業務委託契約書は、法律で書式が決まった書類ではなく、当事者が合意した取引条件を残す書類です。民法522条2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面は要らないとしています。だからこそ、書かなかった条件は「決めていなかった」ことになりやすく、揉めたときの手がかりが残りません。最低限決めておく9つの条項を表にします。
| 条項 | 決めること | 決めないと起きやすいこと | 関係する条文・公式ページ |
|---|---|---|---|
| 業務の範囲 | 何を作るか・何をするか、どこからが範囲外か | 範囲外の作業が無償で増える | フリーランス法3条(給付の内容の明示) |
| 報酬と支払期日 | 金額、消費税の扱い、支払日、振込手数料の負担 | 入金が遅れても催促の根拠が弱い | フリーランス法3条・4条(受領から60日以内) |
| 納品と検収 | 納品の方法、検収の期間、期間内に連絡がない場合の扱い | 検収が終わらず請求に進めない | フリーランス法4条(検査の有無を問わず受領日から起算) |
| 知的財産権の帰属 | 著作権を譲渡するか、いつ移るか、翻案の権利、著作者人格権の扱い | 改変や二次利用で揉める | 著作権法61条・59条 |
| 再委託 | 外注してよいか、承諾が要るか | 知らない第三者に情報が渡る | 民法644条の2(委任・準委任の復受任者) |
| 秘密保持 | 秘密情報の範囲、期間、実績として公開できるか | 制作実績として紹介できない | 契約で決める |
| 損害賠償の上限 | 賠償の範囲と上限額 | 報酬を大きく超える賠償を求められる | 民法415条(債務不履行による損害賠償) |
| 中途解約 | 予告期間、途中までの作業の精算方法 | 途中までの作業代が払われない | 民法641条・651条・634条・648条3項、フリーランス法16条 |
| 遅延損害金 | 支払いが遅れたときの利率と起算日 | 定めがなければ法定利率(年3%) | 民法419条・404条、法務省 |
収入印紙が要るかどうかは、契約書の名前ではなく中身(請負か準委任か)で決まります。税額表と判定の手順は印紙税と契約書の記事に任せ、この記事では条項の中身に集中します。
制度・要件──フリーランス法と民法で決まっていること
業務委託契約書に何を書くかは自由ですが、相手が個人のフリーランスや一人法人なら、発注者にはフリーランス法の義務がかかります。公正取引委員会によると、同法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年(令和6年)11月1日に施行されました。同法2条1項は、従業員を使用しない個人だけでなく、代表者1人のほかに役員がおらず従業員を使用しない法人も「特定受託事業者」に含めています。契約書とつながる義務を表にします。
| 発注者の義務 | かかる場面 | 内容 | 契約書で対応する条項 |
|---|---|---|---|
| 取引条件の明示(3条) | フリーランスに業務委託をしたすべての発注者 | 直ちに、書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で明示。口頭は不可 | 業務の範囲・報酬・支払期日・納品 |
| 支払期日の設定(4条) | 従業員を使用する、または役員が2人以上の発注者 | 給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で定め、期日までに支払う | 報酬と支払期日・検収 |
| 7つの禁止行為(5条) | 同上で、1か月以上の業務委託 | 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し | 業務の範囲・修正の回数・中途解約 |
| 中途解除等の予告(16条) | 同上で、6か月以上の業務委託 | 解除や不更新は少なくとも30日前までに予告。求められれば理由を開示 | 中途解約・契約期間 |
明示する事項は、公正取引委員会のフリーランス法Q&A(問35)で8項目です。①発注者とフリーランスの名称、②業務委託をした日、③給付・役務の内容、④給付・役務提供の期日、⑤給付・役務提供の場所、⑥報酬の額と支払期日、⑦検査をする場合は検査完了日、⑧現金以外で払う場合の支払方法に関すること。同委員会の特設ページは報酬の額と支払期日を分けて9つと数えていますが、中身は同じです。契約書にこの8項目が入っていれば、明示の器になります。
民法側で押さえるのは遅延損害金です。民法419条は、金銭の支払いが遅れたときの損害賠償の額を法定利率で定め、約定利率がそれを超えるときは約定利率によるとしています。法務省によると、法定利率は2026年(令和8年)4月1日から2029年(令和11年)3月31日までも年3%のまま据え置かれました。フリーランス法の条文には遅延利息の率の定めがないので、利率は契約書で決めます。
取引の規模によっては、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律・旧下請法)もかかります。公正取引委員会によると、改正法は2026年(令和8年)1月1日に施行され、取適法の対象なら、支払期日までに払わなかった代金には年14.6%の遅延利息がかかります(同法6条・公正取引委員会規則)。対象になるかどうかは、発注者と受注者の資本金や従業員数で決まります。
書き方の手順と条文例
業務委託契約書は、条文を書く前に「業務の範囲」と「お金の流れ」を一枚に書き出すと、ほとんどの条項が埋まります。
- 業務の範囲を言葉にする:成果物があるか(LP、記事、バナー)、作業そのものか(運用、助言)。範囲外の作業も一文で書いておきます
- 報酬の決め方を選ぶ:成果物ごとの固定額か、月額か、時間単価か。消費税を別に書くか、源泉徴収の前の金額かもここで決めます
- 支払期日と検収をセットで決める:フリーランス法4条の60日は、検査をするかどうかを問わず受領日から数えます。検収期間を長くしても、支払期日の起算日は動きません
- 権利の行き先を決める:著作権を譲渡するか、利用を許すだけにするか。譲渡するなら移転の時期と、著作権法27条・28条の権利を含めるかを書きます
- 「うまくいかなかったとき」を書く:修正の回数、損害賠償の上限、中途解約の予告と精算、遅延損害金
- 形式を決める:紙か電子契約か。電子契約の仕組みと印紙が要らない理由は電子契約の記事にまとめています
以下は条文の例(そのまま使える雛形ではない)です。発注者を株式会社あおば商事(甲・架空)、受注者を合同会社こもれび(乙・架空)とし、LP制作を想定しています。実際の契約では、取引の中身に合わせて弁護士に確認してください。
| 条項 | 条文の例(架空の当事者・雛形ではない) | 書くときの考え方 |
|---|---|---|
| 業務の範囲 | 乙は、甲の新商品のランディングページ1ページについて、構成案・原稿・デザインを作成し、甲に納品する。運用型広告の設定および運用は、本契約の業務に含まない。 | 「含まない」と書くと、範囲外の依頼を別見積もりにしやすい |
| 報酬と支払期日 | 甲は、本業務の報酬として金50万円(消費税別)を、乙から成果物の納品を受けた日から起算して30日以内に、乙の指定する口座に振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。 | 起算日を「納品を受けた日」にしておくと、検収の長さに左右されない |
| 修正 | 納品前の修正は2回までとし、3回目以降の修正および納品後の仕様の変更は、甲乙協議のうえ別途見積もりとする。 | 回数と、追加になったときの扱いをセットで書く |
| 知的財産権 | 本成果物の著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む)は、甲が報酬の全額を支払った時に、乙から甲に移転する。乙は、本成果物を自己の制作実績として紹介することができる。 | 移転の時期を支払いに結びつけるか、納品時にするかは交渉で決まる |
| 遅延損害金 | 甲が支払期日までに報酬を支払わないときは、支払期日の翌日から支払済みまで、年◯%の割合による遅延損害金を乙に支払う。 | 利率を書かなければ法定利率(年3%)。取適法の対象なら別に年14.6%の遅延利息の定めがある |
著作権については、著作権法61条2項が、翻案権など27条・28条の権利は譲渡の目的として特に書いていなければ譲渡した側に残ると推定しています。「著作権を譲渡する」とだけ書くと、改変や二次利用の権利が受注者に残っていると読める余地があるので、例のように括弧で書き足すのが分かりやすい形です。著作者人格権は59条で譲渡できないとされているので、改変を予定する発注者は、人格権の扱いを別に一文で決めておく必要があります。
フリーランス・一人法人の判断ポイント
一人法人やフリーランスは、ある案件では受ける側、別の案件では外注先に頼む側になります。フリーランス法の義務も、頼む側が従業員を使っているかどうかで変わります。
| 論点 | 受ける側(フリーランス・一人法人) | 頼む側(発注者) |
|---|---|---|
| フリーランス法の立場 | 代表者1人で他に役員がなく、従業員を使用しなければ特定受託事業者。同居の親族が役員なら「他の役員」に数える(公取委Q&A) | 従業員を使用していない一人法人でも、業務委託事業者として3条の明示は必要。60日・禁止行為・解除予告は、従業員を使用するか役員が2人以上の発注者にかかる |
| 「従業員を使用」の意味 | 1週間の所定労働時間が20時間以上で、継続して31日以上雇用される見込みの労働者(公正取引委員会 フリーランス法Q&A) | |
| いちばん見る条項 | 支払期日・遅延損害金・修正の回数・中途解約の精算 | 業務の範囲・知的財産権・再委託・秘密保持 |
| 契約書の案を誰が出すか | 自分の案を出してもよい。双方が合意すれば契約になる(民法522条) | 明示の義務は発注者側にあるので、相手の案を使う場合も明示の8項目が入っているかを確かめる |
マーケティングの仕事で揉めやすいのは、成果物の著作権、修正の回数、運用型広告費の立替の3つです。著作権は前の章のとおり、移転の時期と翻案の権利まで書かないと、バナーの改変やLPの使い回しで認識がずれます。修正の回数は、フリーランス法5条2項が禁じる「費用を負担せずに給付をやり直させること」との境目にも関わるので、回数と追加費用を決めておくと双方が楽になります。広告費は、媒体社に発注者が直接払うのか、受注者が立て替えて精算するのかを書きます。立て替えるなら、精算の期日と上限額まで決めておかないと、受注者の手元の現金で他社の広告費を払い続ける形になりかねません。立替金の請求書での扱いは、適格請求書の記載事項の記事とあわせて確認してください。
ぼくの反省も一つ書いておきます。独立2年目、納品も請求も済んだ取引先からの入金が、振込予定日を過ぎても3週間止まったことがあります。原因は先方の社内承認の遅れで、悪意はなかったと思います。そのとき困ったのは、最初の契約書に支払いが遅れた場合の条項を入れていなかったことでした。今は全ての契約書に入れています。経緯はクライアントが払ってくれないときのファクタリングの記事に書きました。遅延損害金の条項は、使うためというより、相手の社内で支払いの優先順位を上げてもらうための一文だと思っています。入金が遅れたときの帳簿上の扱いと対処の順番は、売掛金の記事にまとめています。
よくある間違いと注意点
業務委託契約書でいちばん多い間違いは、ネットのテンプレートをそのまま使い、自分の仕事の範囲と報酬の決め方を書き換えないことです。ほかにも間違えやすい点を並べます。
- 口頭やチャットの雑談で済ませる:民法上は口約束でも契約は成立しますが、フリーランス法3条の明示は書面か電磁的方法に限られ、口頭は認められていません。メールやメッセージで条件を送ってもらい、残しておくのが最低ラインです
- 検収を長くすれば支払いを遅らせられると考える:フリーランス法4条の60日は受領日から数えます。検収期間の長さは起算日を変えません
- 「業務委託」という名前で中身を決めない:成果物の完成に報酬を払う請負なのか、作業そのものに払う準委任なのかで、報酬を請求できる時期や責任の形が変わります。どちらに近いかを契約書の業務の範囲の書き方で明らかにしておきます
- 源泉徴収を考えずに金額を書く:個人に払うデザイン料や原稿料などは、源泉徴収の対象になります(国税庁 No.2792)。報酬欄が源泉徴収前の金額か、消費税を区分しているかで、振り込まれる額が変わります
- 損害賠償の上限を書かない:上限がなければ、民法415条の原則どおり生じた損害の賠償を求められ得ます。受ける側は、例えば報酬額を上限とする形を提案できます。業務上の賠償に備える保険はフリーランスの保険の記事で整理しました
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約の判断は弁護士・税理士に確認してください。内容は最終更新日時点の制度で、e-Gov法令検索、公正取引委員会、法務省、国税庁で確認できたことだけを書いています。契約上のトラブルで困ったときは、厚生労働省の委託事業として弁護士に無料で相談できるフリーランス・トラブル110番があります(公正取引委員会の案内では令和2年11月から運営)。
業務委託契約書に関するよくある質問
業務委託契約書について、検索で一緒に調べられている「印紙」「テンプレート」「支払条件」「報酬の書き方」の疑問に答えます。条文と期間は、最終更新日時点で確認できたものです。
業務委託契約書に収入印紙は必要ですか?
中身によります。成果物の完成に報酬を払う請負の契約書は印紙税の課税文書で、作業や助言そのものに払う準委任だけの契約書は課税文書になりません。PDFや電子契約で結んだ契約は、電磁的記録なので印紙税がかかりません。税額は国税庁のタックスアンサーで確認してください。
契約書を作らず、メールだけで仕事を受けても大丈夫ですか?
民法522条2項のとおり、契約は書面がなくても合意で成立します。発注者には、フリーランス法3条で取引条件を書面かメールなどの電磁的方法で示す義務があります。メールで受け取るなら、給付の内容・報酬の額と支払期日など明示の8項目がそろっているかを確かめ、保存しておきます。
業務委託の報酬の支払期日は何日以内にする決まりがありますか?
発注者が従業員を使用しているか役員が2人以上なら、フリーランス法4条で、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で定める必要があります。期日を定めなかったときは受領日が、60日を超えて定めたときは受領日から60日を経過する日が支払期日とみなされます。発注者が一人法人などでこの規定がかからない場合も、契約書で期日を決めておきます。
支払いが遅れたときの遅延損害金は何%にできますか?
契約書に利率を書かなければ、民法419条により法定利率で計算され、2026年4月1日から2029年3月31日までは年3%です。約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります。取適法の対象となる取引では、別に年14.6%の遅延利息の定めがあります。
おわりに──契約書は、揉めたときに読む紙ではなく、揉めないために先に話す台本
業務委託契約書の条項は、どれも「うまくいかなかったとき」の話です。仕事が始まる前の、関係がいいうちにしか話せないことを先に話して、文字にしておく。業務委託契約書の書き方とは、その話し合いの順番を決めることです。