最終更新:2026年10月20日
個人事業主が扶養を外れる条件は、税の扶養と社会保険の扶養で別々に決まります。税の扶養(配偶者控除・扶養控除)は「合計所得金額」で見て、令和7年分は58万円以下、令和8年分は62万円以下が線です。社会保険の扶養(健康保険の被扶養者)は「年間収入」の見込みで見て、協会けんぽでは原則130万円未満が線です。個人事業主の場合、税は売上から経費と青色申告特別控除を引いた後の所得で判定し、協会けんぽは売上から必要経費を引いた額で判定するので、同じ人でも片方だけ外れることがあります。
ぼくは40歳でtiny合同会社を一人で設立したマーケターです。確定申告の全体はフリーランスの確定申告の完全ガイドに、退職したときの健康保険の選び方は独立したら保険証はどうなるかの記事に任せ、この記事は家族の扶養に入っている人が個人事業で稼ぎ始めたときの線引きだけを、国税庁・協会けんぽ・日本年金機構で確認できた範囲で整理します。2026年10月20日時点の制度で書いています。
個人事業主が扶養を外れる条件とは?結論から
税の扶養は「所得」で、社会保険の扶養は「収入」で判定します。判定する期間も、税はその年1月から12月の実績、社会保険はこれから1年間の見込みで、考え方がそもそも違います。
| 比べる点 | 税の扶養(配偶者控除・扶養控除) | 社会保険の扶養(協会けんぽの被扶養者) |
|---|---|---|
| 判定に使う数字 | 合計所得金額(事業収入-必要経費-青色申告特別控除) | 年間収入(自営業は年間総収入-必要経費) |
| 基準(配偶者の場合) | 令和7年分は58万円以下、令和8年分は62万円以下(超えても133万円以下なら配偶者特別控除) | 130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)。同居なら被保険者の年間収入の半分未満 |
| 判定する期間 | その年の1月から12月の所得(12月31日の現況で判定) | 扶養に入る時点からの今後1年間の見込み |
| 外れると起きること | 扶養している家族の所得控除が減る、またはなくなる | 自分で国民健康保険と国民年金(第1号)に入る |
| ルールの違い | 所得税法で全国共通 | 加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)ごとに運用が違う |
よく聞く「103万円の壁」は、給与だけの人の税の線です。給与のみの場合の配偶者控除の線は、令和6年分以前が103万円以下、令和7年分が123万円以下、令和8年分が136万円以下です(国税庁 No.1191 配偶者控除)。個人事業主には給与所得控除がないので、この金額は当てはまりません。事業の売上で考える人が見るべきなのは、所得の58万円・62万円の線です。
税の扶養と社会保険の扶養の基準(令和7年分・令和8年分)
税の扶養の所得要件は、令和8年度税制改正で令和8年分から引き上げられました。改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税に適用されます(国税庁 令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(令和8年5月))。
| 扶養される人の区分 | 令和7年分 | 令和8年分 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 配偶者控除の対象(控除対象配偶者) | 合計所得金額58万円以下 | 合計所得金額62万円以下 | 国税庁 No.1190、No.1191 |
| 配偶者特別控除の対象 | 58万円超133万円以下 | 62万円超133万円以下 | 国税庁 No.1195 |
| 扶養控除の対象(配偶者以外の親族) | 合計所得金額58万円以下 | 合計所得金額62万円以下 | 国税庁 No.1180 |
19歳以上23歳未満の親族が扶養控除の線を超えた場合も、令和8年分は合計所得金額62万円超123万円以下なら、扶養する側が特定親族特別控除を受けられます(国税庁 No.1177)。配偶者控除と配偶者特別控除は、扶養する側(納税者本人)の合計所得金額が1,000万円を超えると受けられません。扶養される側が青色申告者の事業専従者として給与を受けている場合や、白色申告者の事業専従者である場合も対象外です。
社会保険の扶養は、協会けんぽに加入している会社員の家族の場合、日本年金機構の手続きページに基準がまとまっています。
| 要件 | 協会けんぽの基準 |
|---|---|
| 年間収入 | 130万円未満。60歳以上または障害者は180万円未満。扶養認定日が令和7年10月1日以降で19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)は150万円未満 |
| 被保険者との比較 | 同居なら被保険者の年間収入の半分未満、別居なら被保険者からの仕送り額未満 |
| 年間収入の考え方 | 過去の収入ではなく、扶養に該当する時点以降の1年間の見込み。雇用保険の失業給付、公的年金、傷病手当金なども含む |
| 自営業の収入 | 年間総収入から必要経費を差し引いた額。必要経費は社会通念上明らかにその所得を得るために必要な経費に限る |
| 自営業の確認書類 | 直近の確定申告書の写し |
出典は日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき」と協会けんぽ「被扶養者資格の再確認について」よくあるご質問(Q15)です。扶養認定日が令和8年4月1日以降の人は、給与収入のみなら労働契約の内容で年間収入を判定できるようになりましたが、事業収入がある人はこの取り扱いの対象ではありません。
「所得」と「収入」で比べる(例)
同じ売上でも、青色申告かどうかで税の判定だけが変わります。会社員の配偶者が個人事業を営んでいる架空の例で、令和8年分の判定を並べます。
例:配偶者(扶養される側)は個人事業主で給与収入なし。扶養する側の合計所得金額は900万円以下。協会けんぽの判定で引ける必要経費は、税の必要経費と同じ額と仮定します(実際には同じにならないことがあります)。金額はすべて説明用の架空の数字です。
| 項目 | A:青色65万円控除 | B:白色申告 | C:売上が多い年 |
|---|---|---|---|
| 事業の売上(年間) | 180万円 | 180万円 | 300万円 |
| 必要経費 | 60万円 | 60万円 | 120万円 |
| 青色申告特別控除 | 65万円 | なし | 65万円 |
| 合計所得金額(税の判定) | 55万円 | 120万円 | 115万円 |
| 税の扶養(令和8年分) | 62万円以下なので配偶者控除38万円 | 配偶者特別控除16万円 | 配偶者特別控除21万円 |
| 年間収入(協会けんぽの判定) | 120万円 | 120万円 | 180万円 |
| 社会保険の扶養 | 130万円未満なので扶養内(同居なら被保険者の半分未満であることも必要) | 扶養内(同じ条件) | 130万円以上なので外れる |
検算します。Aは180万円-60万円-65万円=55万円、Bは180万円-60万円=120万円、Cは300万円-120万円-65万円=115万円です。Bの120万円は配偶者特別控除の表の「115万円超120万円以下」で16万円、Cの115万円は「110万円超115万円以下」で21万円です(扶養する側の合計所得金額が900万円以下の場合、国税庁 No.1195)。協会けんぽの判定には青色申告特別控除が出てこないので、AとBは同じ120万円になります。青色申告特別控除は必要経費ではなく、協会けんぽのFAQが差し引けるとしているのは必要経費だけです。
AとBの差は、帳簿のつけ方だけで生まれています。65万円の控除には複式簿記での記帳とe-Taxでの申告などが要り、令和9年分からは控除の仕組み自体が変わります(複式簿記と単式簿記の違いの記事)。
個人事業主・副業の人の判断ポイント
個人事業主が先に見るべきなのは、社会保険の130万円の線です。税の扶養は外れても配偶者特別控除で段階的に減るだけですが、社会保険の扶養を外れると、自分で保険料を払う立場に一度に切り替わります。
扶養を外れて厚生年金などに入らない場合は、国民年金の第3号被保険者から第1号被保険者への切り替えが必要です(日本年金機構)。令和8年度の国民年金保険料は月17,920円です(日本年金機構 国民年金保険料)。国民健康保険の保険料は市区町村ごとに違うので、住んでいる自治体で試算します。年間収入が130万円を少し超えるくらいで外れると、保険料の負担が増えた分だけ手取りが減ることがあります。売上の見込みを立てるときは、この負担を引いた後の数字で比べてください。
判断で迷いやすい点を3つ挙げます。
- 副業で給与と事業の両方がある:税は給与所得と事業所得を合計した合計所得金額で判定します。協会けんぽの年間収入も、給与と事業の収入を合わせて見込みます
- 開業した年の途中から扶養を考える:税はその年の実績で年末に判定し、社会保険はこれから1年間の見込みで判定します。月の売上が伸びて年130万円を超える見込みになった時点で、扶養から外れる手続きの対象になり得ます
- 健康保険組合に入っている家族の扶養:協会けんぽ以外の健康保険組合では、自営業の収入から何を差し引けるかなどの運用が、組合ごとに違うことがあります。家族の勤務先を通じて、加入している健康保険の基準を確認します
ぼくが独立して確定申告を始めた1年目にいちばん損をしたのは、青色申告の申請期限を軽く見ていて、準備が間に合わなかったことでした(確定申告の完全ガイドに書いた話です)。上の例のAとBの差は、その申請と記帳の準備の差です。扶養の内側で事業を始める人ほど、開業した年の青色申告の承認申請の期限を先に押さえておく価値があります。家事按分で経費を分ける考え方は家事按分の記事にまとめました。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、税の扶養の線と社会保険の扶養の線を同じものだと思うことです。税は所得で、社会保険は収入の見込みで判定するので、片方の数字だけを見て安心すると、もう片方で外れます。
- 103万円・123万円を事業の売上に当てはめる:給与だけの人の線です。個人事業主は所得の58万円(令和7年分)・62万円(令和8年分)で見ます
- 青色申告特別控除を引いた所得で130万円を判定する:協会けんぽの判定で引けるのは必要経費です。加入している健康保険の扱いを確認します
- 前年の確定申告の数字だけで判断する:社会保険はこれから1年間の見込みで判定します。確定申告書は確認書類の1つです
- 失業給付を収入に入れない:協会けんぽの年間収入には、雇用保険の失業給付も含まれます。基本手当の日額が3,612円以上で支給が始まると、扶養から外れる届出が必要です
- 扶養を外れたのに届出をしない:年間収入が130万円以上見込まれるようになったら、家族の勤務先を通じて被扶養者の削除を届け出ます(日本年金機構)
- 住民税の扶養も同じ基準だと思う:この記事の数字は所得税です。住民税の扶養の扱いは、住んでいる市区町村で確認します
この記事は最終更新日時点の制度で書いています。健康保険の被扶養者の認定は、加入している健康保険が個別に判断します。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。税理士の探し方はいい税理士の見分け方と探し方にまとめています。
個人事業主の扶養に関するよくある質問
個人事業主はいくらから扶養を外れますか?
税の扶養(配偶者控除)は、合計所得金額が令和7年分は58万円、令和8年分は62万円を超えると外れ、133万円以下までは配偶者特別控除に移ります。社会保険の扶養は、協会けんぽの場合、年間収入の見込みが130万円以上になると外れます。売上ではなく、経費などを引いた後の金額で判定します。
健康保険の扶養は、所得と収入のどちらで判定しますか?
収入です。協会けんぽでは、自営業の人の年収は年間総収入から必要経費を差し引いた額とされ、過去の実績ではなく今後1年間の見込みで判定します。必要経費として引けるのは、社会通念上明らかにその所得を得るために必要な経費に限られます。
青色申告特別控除の65万円は、扶養の判定で引けますか?
税の扶養では引けます。青色申告特別控除は事業所得の金額から差し引くので、合計所得金額が下がります。協会けんぽのFAQが差し引けるとしているのは必要経費だけで、青色申告特別控除は必要経費ではありません。扱いは加入している健康保険で確認してください。
扶養を外れたら、何の手続きが必要ですか?
家族の勤務先を通じて被扶養者の削除の届出をし、自分は国民健康保険と国民年金の第1号被保険者に加入します。令和8年度の国民年金保険料は月17,920円です。税の扶養は、扶養している家族の年末調整か確定申告で控除の額を直します。
おわりに──税は「所得」で、健康保険は「これからの収入」で外れる
扶養の線は1本ではありません。税は経費と青色申告特別控除を引いた後の所得を、その年の実績で見ます。健康保険は経費を引いた収入を、これから1年の見込みで見ます。帳簿を整えれば下がるのは税の数字だけで、健康保険の130万円の線は売上と経費でしか動きません。
今日やることは1つです。今年の売上と経費の見込みを書き出し、所得(税)と収入(健康保険)の2つの数字を別々に計算してください。どちらの線に近いかで、先に確認する窓口が決まります。