最終更新:2026年10月12日
D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーやブランドが卸や小売店を通さず、自社のECサイトや直営店、SNSなどを通じて生活者に直接商品を売るビジネスモデルです。DtoCとも書き、読み方は「ディートゥーシー」。結論から言えば、D2Cの本当の価値は中間マージンが減ることではありません。直接売るからこそ、誰がなぜ買い、なぜ離れたのかというデータと関係が自分の手元に残る。その資産を育てられるかどうかが、D2Cが成り立つかどうかを分けます。売り方の種類、B2Cとの違い、実務での判断の手順、2026年時点の論点まで順に整理します。
D2Cとは?意味と読み方、売り方の種類の一覧
D2Cとは、商品を企画・製造する側が、生活者との接点まで自分で持つ売り方のことです。従来は「メーカー→卸→小売→生活者」と何段階も手渡されていた流れを、「ブランド→生活者」の一本にまとめます。
D2Cと呼ばれる売り方には、いくつかの型があります。一つのブランドが複数を組み合わせることがほとんどです。
| 売り方 | 中身 | 手元に残るもの | 向いている商品 |
|---|---|---|---|
| 自社ECサイト | ブランドの公式サイトで注文から配送まで完結させる | 購入履歴・閲覧行動・メールアドレス | ほぼすべて。D2Cの土台 |
| 定期便・サブスクリプション | 一定の間隔で商品を届け、継続課金する | 継続期間・解約の理由・使用ペース | 化粧品・食品・日用品など使い切るもの |
| 直営店・ポップアップストア | 自社で運営する実店舗や期間限定の売り場 | 試着・試用の反応・接客での会話 | アパレル・眼鏡・寝具など試したいもの |
| SNS・ライブ配信での販売 | SNSの投稿や配信からそのまま購入へつなぐ | 反応したコメント・フォロワーとの関係 | 見た目や使う場面が伝わりやすいもの |
| ECモールへの出店 | 大手のECモールに自社の店舗を出す | 売上は立つが、顧客データはモールの規約しだい | 認知を広げたい段階の商品 |
最後の行は、D2Cに含めるかどうかで意見が分かれるところです。自社で値付けと販売をしている点では直販ですが、顧客との接点とデータの多くはモール側が持っています。「直接」という言葉を、売る行為の直接さで見るか、顧客との関係の直接さで見るか。この記事では後者を重く見て、D2Cの核は関係の直接さにあると考えます。
D2Cの由来──2010年代の米国で広がった言葉
D2Cには、「この人がこの本で提唱した」と言える明確な一次出典はありません。メーカーの直販そのものは昔からある売り方で、D2Cという呼び名が広まったのは、2010年代の米国でネット生まれのブランドが相次いで登場してからです。
よく例に挙がるのが、2010年に創業した眼鏡のワービー・パーカー(Warby Parker)、2011年に始まったひげそりの定期便ダラー・シェーブ・クラブ(Dollar Shave Club)です。ダラー・シェーブ・クラブは2016年に、日用品大手のユニリーバによる買収が発表されました。小さなネット直販のブランドが、世界的な大企業に買われる。この出来事が、D2Cという言葉に勢いを与えた節目の一つだったと思います。定期便のように続けて届ける売り方の種類はサブスクリプションとは?ビジネスモデルの種類と例で整理しています。
同じ頃、紳士服ブランドのボノボス(Bonobos)の創業者アンディ・ダンが、ネットから生まれて製造から販売まで一貫して手がけるブランドを「DNVB(デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド)」と呼んだとされています。D2Cとほぼ重なる言葉として、いまも一緒に語られることがあります。
大企業の側でも動きがありました。ナイキは2017年6月に「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス」という方針を発表し、生活者に直接、個別に応える体制へ組織を組み替えると打ち出しました。D2Cは新興ブランドだけの言葉ではなく、大手メーカーの戦略の言葉にもなっていきます。
D2CとB2C・SPA・ECとの違い
D2CとB2Cの違いは、比べている軸がそもそも違う点にあります。B2Cは「企業が個人に売る」という取引の相手を表す言葉で、D2Cは「間に誰も挟まない」という流通の経路を表す言葉です。D2CはB2Cの中の、ある売り方の一つと考えると整理しやすくなります。
| 言葉 | 何を表しているか | D2Cとの関係 |
|---|---|---|
| B2C(BtoC) | 企業が個人に売る取引全般 | D2Cを含む大きな枠。小売店経由の販売もB2C |
| B2B(BtoB) | 企業が企業に売る取引 | 卸や小売に売る従来型のメーカーは、ここにあたる |
| EC(電子商取引) | ネットで売るという手段 | ECでも他社のサイトで売ればD2Cではない。直営店で売るD2Cもある |
| SPA(製造小売) | 企画から製造・販売までを一社で手がける業態 | 考え方は近い。実店舗中心で発達した言葉で、D2Cはネット起点で語られることが多い |
| サブスクリプション | 継続課金の料金の取り方 | D2Cでよく使われる売り方の一つ。D2Cでないサブスクも多い |
「ECで売っているからD2C」という理解は、よくある取り違えです。ECは手段で、D2Cは経路と関係の話。自社サイトを持っていても、集客をすべて他社の広告やモールに頼り、買ってくれた人に二度と連絡できないなら、関係の直接さという意味でのD2Cにはなっていません。
D2Cの実務──直接だからこそ、データと関係が資産になる
D2Cを実務で判断するときの問いは、「直接売ることで手に入るデータと関係を、資産として育てられるか」です。中間を抜けば利益率は上がって見えます。でも、中間が担っていた仕事は消えず、自分の側に移ってくるだけです。
卸や小売が担っていたのは、主に3つの仕事でした。売り場に人を集めること、在庫を抱えること、そして「このお店が置いているなら安心」という信用を貸すこと。D2Cではこの3つを自分でまかないます。とくに重いのが集客で、店頭に並べてもらえば自然に生まれていた出会いを、広告やSNSで一件ずつ作ることになります。
だからD2Cの採算は、一人を連れてくるのにいくらかかり、その人が長く買い続けてくれるかで決まります。一人の獲得にかかる費用はCAC(顧客獲得コスト)、一人が生涯にもたらす利益はLTV(顧客生涯価値)と呼ばれ、この二つの比べ方がD2Cの事業計画の背骨になります。
判断の手順にすると、次の4つです。
- 買ってくれた人に、自分たちから連絡できる手段(メールアドレスや会員登録)が残る設計になっているか確かめる
- 2回目の購入が起きるまでの流れを、1回目より先に設計する
- 離れた人がなぜ離れたのかを、聞ける仕組みを用意する
- 集めたデータで、次の商品や売り方の何を変えるかを決めてから集める
2つ目が抜けやすいところです。D2Cの立ち上げでは、初回購入を増やす広告に予算が集中しがちです。でも、初回で終わる人ばかりなら、毎月ゼロから人を連れてくる商売になり、広告費が上がった瞬間に崩れます。初回から2回目への移り方はF2転換率、定期便の離れ方はチャーンレートの記事で計算の仕方を整理しています。
自分で月額のサービスや有料記事を売る側になってから、ぼくがいちばん実感しているのは、解約や離脱の理由が直接届くことの重さです。卸を通していたら、たぶん聞こえてこなかった声です。耳の痛い一言ほど、次に直すべき場所をはっきり教えてくれる。D2Cの資産とは、売上の数字よりも、この「理由が届く距離」のことだと思っています。
2026年時点のD2Cの論点──「D2Cは終わった」は本当か
2026年のいま、「D2Cブームは終わった」という声も聞こえます。半分は当たっていて、半分は外れていると思います。終わったのは「直販だけで大きく伸びる」という期待で、「顧客との直接の関係を持つ」という考え方は、むしろ必要性が増しています。
期待がしぼんだ理由として大きいのは、ネット広告で新しい顧客を連れてくる費用の上昇と、競合ブランドの急増です。直販一本で伸びるはずだったブランドが、結局は卸や小売、モールにも売り場を広げる動きが目立つようになりました。先に挙げたナイキも、2024年に就任したエリオット・ヒルCEOのもとで、卸売りの取引先との関係を立て直す方針を決算説明の場で示しています。直販か卸かの二択ではなく、直接の関係を軸にしながら売り場を組み合わせる形に落ち着きつつある、というのが2026年時点の実態に近いと思います。
一方で、直接の関係の価値は上がっています。プライバシー保護の流れで、ほかの会社が集めたデータを使って広告を当てる手法は以前より使いにくくなりました。自分で集め、本人の同意をとって使えるデータを持っていること自体が、競争力になっています。自社で集めるデータの種類と集め方はファーストパーティデータとは?ゼロ・サードパーティとの違いと集め方にまとめました。追いかけ型の広告とデータ規制の関係はリターゲティング広告とはの記事で触れています。
市場の大きさで見ると、経済産業省の電子商取引に関する市場調査では、2024年の国内のBtoC-EC市場規模は26兆1,225億円、物販系分野のEC化率は9.78%でした。ネットで買うことは当たり前になった一方、物販の9割以上はまだネットの外で動いています。D2Cが実店舗やポップアップに戻ってきているのは、この数字とも重なります。
日本で直販をするなら、法律の線引きも外せません。定期購入については、特定商取引法の改正が2022年6月に施行され、通販の申込みの最終確認画面で、分量や支払う金額、契約期間などをはっきり表示することが義務になりました(消費者庁・特定商取引法ガイド)。2023年10月からは、広告であることを隠した宣伝、いわゆるステマも景品表示法の規制対象になっています。SNSで生活者と近い距離で売るD2Cほど、関係の近さが誤解の近さにならないよう気をつける必要があります。
D2Cに関するよくある質問
D2Cの読み方と、DtoCとの違いは何ですか?
D2Cは「ディートゥーシー」と読みます。Direct to Consumerの略で、toを数字の2に置き換えたのがD2C、そのまま書いたのがDtoCです。意味に違いはなく、どちらも同じビジネスモデルを指しています。
D2CとB2Cの違いは何ですか?
B2Cは企業が個人に売る取引全般を指し、D2Cはその中で卸や小売を通さずに直接売る経路を指します。スーパーに並んだ商品を買うのもB2Cですが、それはD2Cではありません。D2CはB2Cの一部と考えると分かりやすいと思います。
D2Cのメリットとデメリットは何ですか?
メリットは、中間の手数料がかからず価格や見せ方を自分で決められること、そして購入データや顧客の声が直接手に入ることです。デメリットは、卸や小売が担っていた集客・在庫・信用を自分で引き受けることになる点です。とくに集客の広告費が重く、2回目以降の購入が続かないと採算が合わなくなります。
AmazonやモールでのEC販売はD2Cに入りますか?
自社で値付けして販売している点では直販ですが、顧客の連絡先や購入データの多くはモール側が持つため、関係の直接さという点ではD2Cの条件を満たしにくい売り方です。認知を広げる入口としてモールを使い、関係を深める場所として自社サイトや会員の仕組みを持つ、という組み合わせがよく見られます。
おわりに──中間を抜くのではなく、記憶を持つこと
D2Cという言葉は、「中間を抜いて安く売る」話として紹介されることが多いです。でも、中間を抜いた分だけ、集客も在庫も信用も自分の仕事になります。利益率だけを見て始めると、たいていはそこでつまずきます。
それでもD2Cを選ぶ意味があるとすれば、それは誰が買い、なぜ続け、なぜ離れたのかを、自分の耳で聞けることです。卸や小売に任せていたあいだ、その記憶は相手の側に積もっていました。D2Cは、それを自分の側に積み直す選択です。
D2Cとは、中間を抜くことではない。顧客の記憶を、自分で持つことです。