最終更新:2026年10月12日
トリプルメディアとは、企業が使えるメディアを「ペイドメディア(買う媒体)」「オウンドメディア(自社で持つ媒体)」「アーンドメディア(第三者の評判で得る媒体)」の3つに分けて、役割と組み合わせを考えるための枠組みです。英語の頭文字からPOEと呼ばれることもあります。実務での使いどころは一つで、広告で買った露出に頼りすぎて、止めても残る自社の資産が育っていないかを確かめることにあります。この記事では、3つのメディアの違いを一覧表で整理したうえで、出典、PESOモデルとの違い、「古い」と言われる理由、2026年時点での使い方まで書いていきます。
トリプルメディアとは?ペイド・オウンド・アーンドの違い一覧
トリプルメディアは、メディアを「誰がお金を払い、誰がコントロールしているか」で3つに分ける考え方です。3つの違いは、露出の持ち主が誰かを見ると一番はっきりします。
それぞれの違いは、次の表のとおりです。
| 種類 | 意味 | 主な例 | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|---|
| ペイドメディア(Paid) | お金を払って枠を買う媒体 | テレビCM、新聞・雑誌広告、検索広告、SNS広告、交通広告 | 狙った相手に、狙った時期に、確実に届けられる | 出稿を止めた瞬間に露出が消える。信頼は割り引かれて受け取られる |
| オウンドメディア(Owned) | 自社で持ち、自社で中身を決められる媒体 | 公式サイト、ブログ、メールマガジン、アプリ、店舗、商品パッケージ | 中身を自由に決められる。積み上げたものが残る | 見つけてもらうまでに時間がかかる。作っただけでは誰も来ない |
| アーンドメディア(Earned) | 第三者が自発的に取り上げてくれる露出 | 報道、口コミ、レビュー、SNSでの言及や共有 | 第三者の声なので信頼されやすく、広がりやすい | 自社ではコントロールできない。悪い評判も同じ速さで広がる |
表の右二列を見ると、3つは強みと弱みが互いに裏返しになっています。ペイドは早いけれど残らない。オウンドは残るけれど遅い。アーンドは信頼されるけれど操れない。だからどれか一つを選ぶ話にはならず、どの順番で、どの比率で組み合わせるかが本題になります。
たとえば新しい商品を出すとき、ペイドで最初の認知をつくり、興味を持った人を公式サイトやブログといったオウンドに連れてきて、そこで納得した人がレビューやSNSで語ってくれる。その声がアーンドとして次の人を連れてくる。生活者が自分の意思で語る声の扱い方は、UGCとは?マーケティングでの意味と種類、ステマとの違いを解説で書いています。トリプルメディアは、こうした流れを3つの持ち主の違いで見えるようにする地図です。
トリプルメディアの出典──フォレスターの定義と日本での広まり
ペイド・オウンド・アーンドの3分類を定義として広めたのは、米国の調査会社フォレスター・リサーチ(Forrester Research)です。2009年12月16日、アナリストのショーン・コーコラン(Sean Corcoran)が同社のブログ記事「Defining Earned, Owned And Paid Media」で3つの定義を示しました。
コーコランは同じ時期のレポートで、3つのメディアはそれぞれ単独で使うものではなく、組み合わせてこそ働くと論じています。オウンドを長く使える土台として育て、ペイドを短期のきっかけとして使い、アーンドの反響に耳を澄ます、という役割分担です。ブログ記事では、この考え方を早くから実践していた企業としてノキアの名前が挙げられています。誰が最初にこの3分類を口にしたかについては、フォレスター以前から社内で使っていたという話もあり、一人の提唱者に絞れるほどはっきりしていません。
日本では、横山隆治さんの「トリプルメディアマーケティング」(インプレスジャパン・2010年)でこの言葉が広く知られるようになりました。「トリプルメディア」という呼び名は日本で定着したもので、英語圏ではPOE、あるいは「Paid, Owned, Earned」と並べて呼ぶのが一般的です。サジェストに「トリプルメディア 横山」が出てくるのは、この本が日本での入口になったからだと思います。
PESOモデルとの違い──シェアードメディアを足した4分類
PESOモデルは、トリプルメディアにシェアードメディア(Shared)を加えて4つに分けた枠組みです。SNS上で生活者と企業がやりとりし、共有し合う場を、アーンドから切り出して独立させたところが違います。
| 枠組み | 分け方 | SNSの扱い | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| トリプルメディア(POE) | ペイド・オウンド・アーンドの3分類 | 公式アカウントはオウンド寄り、他人の言及はアーンド | 広告とそれ以外の配分を大づかみに見たいとき |
| PESOモデル | ペイド・アーンド・シェアード・オウンドの4分類 | SNSでの共有や対話をシェアードとして独立させる | 広報とSNS運用を含めて、接点を細かく設計したいとき |
PESOモデルを名前つきで広めたのは、米国の広報コンサルタントのジニ・ディートリッヒ(Gini Dietrich)で、2014年の著書「スピン・サックス」(Spin Sucks)が公式な出発点とされています。もともと広報の世界から出てきた枠組みなので、報道対応やSNSでの対話といった広報の仕事を、広告と同じ地図の上に載せられるのが強みです。
実務で迷ったら、3分類で配分を見て、SNSの比重が大きい事業だけ4分類に開く、という使い分けで十分だと思います。分類を細かくすること自体には意味がありません。大事なのは、それぞれの接点で生活者が何をしているかです。接点を一つずつ洗い出す方法はタッチポイントとは?顧客接点の種類一覧と設計のやり方に、広告の出稿量を競合と比べる見方はシェア・オブ・ボイス(SOV)とは?意味・計算式・実務での使い方にまとめています。トリプルメディアは、その手前で「どの種類の露出に頼っているか」を見るための一段粗い地図です。
実務での使い方──買った露出に頼りすぎていないかを検算する
トリプルメディアの実務での使い道は、戦略を考えることよりも、いまの配分が偏っていないかを確かめる検算にあります。特に見るべきなのは、ペイドに頼りすぎて、止めても残るオウンドが育っていない状態です。
この偏りは、売上が順調なときほど気づきにくいものです。広告を出せば数字が立つので、来期もその次も同じ予算を広告に積みます。でも、広告で連れてきた人が着地するページは毎回キャンペーン用の使い捨てで、メールの登録も、読み返される記事も、指名で検索される理由も残っていない。広告費を止めた月に、何も残っていなかったことが初めて分かります。
自分で売る側になってから、ぼくはこの怖さを肌で感じるようになりました。このブログもnoteも、ぼくにとってはオウンドメディアです。書いた記事は、広告のように明日消えたりはしない代わりに、すぐには誰にも読まれません。それでも、検索から一本ずつ読まれる記事が積み上がっていくと、広告を一円も払っていない日にも誰かが訪ねてきてくれる。ペイドは借りる露出、オウンドは貯まる露出だと実感したのは、この時期です。
検算の手順は、次の3つの問いで足ります。
- 広告を来月ゼロにしたら、何が残るか(残るものがオウンドとアーンドの実力)
- 広告で連れてきた人を、使い捨てのページではなく、また戻ってこられる場所に着地させているか
- 第三者が語りたくなる材料(体験、数字、言いたくなる一言)を、オウンドの中に置いているか
一つめの問いに「ほとんど何も残らない」と答えるなら、予算の一部をオウンドを育てることに回す時期です。アーンドは直接お金で買えませんが、語られる材料をオウンドに置くことで、生まれやすさは変えられます。語られる材料をオウンドに積み上げていく考え方は、コンテンツマーケティングとは?種類と例、SEOとの違いを簡単に解説にまとめています。逆に、オウンドだけで頑張って誰にも見つからないなら、育った記事やページにペイドで最初の人を連れてくる、という使い方が効きます。3つは奪い合う関係ではなく、順番に受け渡す関係です。
トリプルメディアは古い?2026年時点での注意点
トリプルメディアが「古い」と言われるのは、2009年当時の3分類では、いまのSNSや検索の実態をきれいに分けきれなくなったからです。ただ、配分を確かめる道具としての価値は、2026年のいまも変わっていません。
古く見える理由は、主に3つあります。
| 論点 | 何が起きているか | どう読み替えるか |
|---|---|---|
| SNSの公式アカウントはオウンドか | 中身は自社で決められるが、表示されるかはプラットフォームの仕組みしだい | 「借りた土地に建てたオウンド」として扱い、自社サイトやメールなど本当に持っている場所と分けて考える |
| アーンドがお金で買われ始めた | インフルエンサーへの依頼や投稿キャンペーンで、第三者の声に対価が絡む | 対価が絡んだ声はペイドとして扱う。広告であることを明示しないと、2023年10月からのステマ規制に触れる |
| AI検索で露出の形が変わった | 検索結果にAIの要約が出て、記事がクリックされずに読まれる場面が増えた | 自社記事が引用されればオウンド、第三者の言及が引用されればアーンド。AIは誰に語られているかを見ている |
二つめの論点は、特に注意が要ります。消費者庁のページ「ステルスマーケティングに関する景品表示法違反」のとおり、2023年10月1日から、広告であることを隠した表示は景品表示法違反になりました。規制の対象は依頼した側の事業者です。「アーンドを買う」発想で第三者の声を仕込むと、表面上はアーンドに見えても、中身はペイドであり、明示しなければ違反になります。
三つめの論点は、トリプルメディアの考え方をむしろ強めています。SEOツール会社のAhrefsが7.5万ブランドを調べた研究では、AI検索での見えやすさと強く結びついていたのは、被リンクよりもWeb上での第三者の言及でした。AIは、企業が自分で言っていることより、第三者がどう語っているかを手がかりにしています。オウンドで語られる材料を出し、アーンドで語ってもらう。この受け渡しの重さは、2009年より増していると思います。広告を出す場所より、何に乗って届くかを考える流れについては広告は「どこに出すか」ではなく「何に乗るか」の時代へにも書きました。
トリプルメディアに関するよくある質問
トリプルメディアを簡単に言うと何ですか?
企業が使えるメディアを、お金で買う「ペイド」、自社で持つ「オウンド」、第三者の評判で得る「アーンド」の3つに分けて考える枠組みです。露出を借りるか、貯めるか、もらうかの違いと言い換えると分かりやすいと思います。3つは強みと弱みが裏返しなので、組み合わせ方を考えるために使います。
トリプルメディアは誰が提唱したのですか?
3分類を定義として広めたのは米国のフォレスター・リサーチで、2009年12月にアナリストのショーン・コーコランがブログ記事で定義を示しました。ただ、それ以前から社内で使っていた企業もあり、一人の提唱者には絞れません。日本では横山隆治さんの「トリプルメディアマーケティング」(インプレスジャパン・2010年)で広まりました。
トリプルメディアとPESOモデルの違いは何ですか?
PESOモデルは、トリプルメディアにシェアードメディア(SNSでの共有や対話)を足した4分類です。ジニ・ディートリッヒが2014年の著書で名前をつけて広めました。広告とそれ以外の配分を大づかみに見るならトリプルメディア、SNSや広報まで細かく設計するならPESOと使い分けると迷いません。
トリプルメディアは古いのですか?
SNSの公式アカウントやインフルエンサー施策を3つにきれいに分けにくくなった点では、古くなった部分があります。でも、買った露出に頼りすぎていないかを確かめる道具としては、いまも十分に使えます。AI検索が第三者の言及を手がかりにするようになった分、オウンドとアーンドの重みはむしろ増しています。
おわりに──露出を「借りる」か「貯める」か
トリプルメディアを、メディアを3つに分ける分類表として覚えると、この枠組みはすぐに古くなります。SNSも検索も、分類の境目をどんどん溶かしていくからです。
でも、問いとして持っておくと、この枠組みは2026年でも働きます。いま流している露出は、借りているのか、貯まっているのか、もらえているのか。広告を止めた翌月に何が残るかを想像するだけで、来期の予算の置き場所は少し変わるはずです。
トリプルメディアは、メディアの分類ではありません。露出を「借りる」か「貯める」か「もらう」かの、配分の検算表です。