最終更新:2026年10月17日
THE MODELとは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス(営業)、カスタマーサクセスの4つの部門が、見込み客を順に受け渡しながら売上をつくる流れの設計図です。福田康隆さんの著書「THE MODEL」(翔泳社・2019年)で日本に広まりました。インサイドセールスが一つの職種・持ち場の名前なのに対して、THE MODELはマーケティングから契約後までの流れ全体を指します。分業の型として知られていますが、本の副題は「共業プロセス」で、本の中には「分業の副作用」を扱う章もあります。この記事では、4部門の受け渡しの一覧表、本の構成、分業との違い、サジェストに並ぶ「批判・弊害」への答え、例の数字を使った詰まりの探し方までを書いていきます。
THE MODELとは?4つの部門と受け渡しの一覧
THE MODELの中身は、見込み客が顧客になり、使い続けてくれるまでの道のりを4つの段階に分け、それぞれの段階に担当と数字を置くことです。肝心なのは部門の名前ではなく、部門と部門のあいだで何を渡すかを決めておく点にあります。
| 部門 | 担当する段階 | 主な数字の例 | 次の部門へ渡すもの |
|---|---|---|---|
| マーケティング | 見込み客を集め、関心を確かめる | リード数、商談候補として渡した数 | 関心が確かめられた見込み客と、その行動の記録 |
| インサイドセールス | 見込み客と話し、商談にするかを決める | 接触率、商談化率、営業の受け入れ率 | 困りごと・時期・決め方が聞けた商談 |
| フィールドセールス | 提案し、条件を詰めて契約する | 受注率、受注金額、商談の期間 | 契約の理由と、顧客が期待している成果 |
| カスタマーサクセス | 使いこなしてもらい、続けてもらう | 継続率、解約率、追加契約の金額 | (流れの最初へ)解約や追加契約の理由、紹介 |
表の右端の列が、この考え方の本体だと思っています。部門を分けるだけなら、どの会社でもできます。でも、渡すものの中身を決めていなければ、受け取った側は毎回ゼロから聞き直すことになります。カスタマーサクセスの行が流れの最初に戻っているのも大事なところで、契約後に分かった「なぜ続いたか、なぜやめたか」が、次にどんな見込み客を集めるかを決め直す材料になります。
本の出典──福田康隆「THE MODEL」(翔泳社・2019年)の構成
THE MODELの出典は、福田康隆さんの「THE MODEL(MarkeZine BOOKS)マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス」です。翔泳社から2019年1月に出た328ページの本で、紀伊國屋書店の書誌ページでは、日米のオラクルとセールスフォース・ドットコムで成長の現場に立ち会い、マルケトの日本法人を立ち上げた著者がビジネスの核心を明かす本と紹介されています(紀伊國屋書店の書誌ページ)。
同じページに載っている目次の大きな構成は、次の5部です。
| 部 | 題 | 目次に見える主な章 |
|---|---|---|
| 第1部 | アメリカで見た新しい営業のスタイル | マーク・ベニオフとの出会い、営業のプロセス管理 ほか |
| 第2部 | 分業から共業へ | 2つの変化、分業の副作用 ほか |
| 第3部 | プロセス | マーケティング、インサイドセールス ほか |
| 第4部 | 3つの基本戦略 | 市場戦略、リソースマネジメント ほか |
| 第5部 | 人材・組織・リーダーシップ | 人材と組織、リーダーシップ |
目次を見ると、4部門の流れを説明する第3部の前に、第2部「分業から共業へ」が置かれています。4つの部門の図だけが広まりましたが、本は分けることの副作用を先に扱い、分けたあとにどうつなぐかを本題にしています。第4部が市場戦略や人の配り方を扱っているのも、部門の図だけでは売上がつくれないからだと読めます。
営業を役割ごとに分ける発想そのものは、日本の本が最初ではありません。アーロン・ロス(Aaron Ross)とマリールー・タイラー(Marylou Tyler)が2011年に出した「プレディクタブル・レベニュー(Predictable Revenue)」は、セールスフォース・ドットコムでの営業の専門分業の仕組みを紹介した本です(米国の書店ポーチライトの書誌ページ)。THE MODELは、こうした米国の型を日本の会社で動かした経験から書かれた本で、4部門の名前より、部門をまたぐ運営の話に厚みがあります。
THE MODELと分業・営業プロセスの違い──「分ける」ではなく「渡す」
THE MODELと単なる分業の違いは、部門ごとの数字を見るか、部門と部門のあいだの数字を見るかにあります。分業は仕事を切り分けて効率を上げる考え方で、THE MODELは切り分けた仕事を一本の流れとして測り直す考え方です。
| 観点 | 分業として入れた場合 | THE MODELの考え方 |
|---|---|---|
| 見る数字 | 各部門が自分の数字だけを見る | 部門をまたぐ割合(渡した数のうち進んだ数)も見る |
| 目標の置き方 | マーケはリード数、営業は受注、と別々 | 売上と継続を共通の目標にし、途中の数字をそこから割る |
| 受け渡しの基準 | 口頭や慣習で、部門ごとに解釈が違う | 文章にして合意し、結果を見て書き直す |
| 失注・解約のとき | 原因を前か後ろの部門に探す | 流れのどこで詰まったかを一緒に探す |
| 組織の形 | 4部門をそろえることが目的になる | 会社の規模や商材に合わせて、兼任もあり得る |
売上を途中の数字に割っていく考え方は、KPIツリーとは?作り方5つの手順と業種別の例・テンプレートとよく似ています。THE MODELは、そのツリーを時間の順に並べ、枝ごとに担当の部門を決めたもの、と見ることもできます。マーケティングと営業の対立そのものと、共通の数字の置き方はマーケティングと営業の違いとは?部署・職種の役割と仲が悪い理由で書いたので、ここでは4部門に広げたときに起きることを見ていきます。
THE MODELの批判・弊害──分業の摩擦と、数字の押し付け合い
THE MODELへの批判の多くは、考え方そのものより、図だけを取り入れたときに起きる弊害に向けられています。部門を4つに分けると数字も4つになり、それぞれが自分の数字を守り始めると、顧客の流れは途中で何度も切れます。
福田さん自身も、マーケティングやインサイドセールス、営業といった部門について、インタビューで「実は隣の部門が何をしているのか知らないというケースがありがち」と話しています(HRMOSのインタビュー記事「THE MODEL」著者 福田氏に聞く 成長する企業の特徴・共通点(前編)・2021年5月11日)。よく挙がる弊害と、その手当てを表にしました。
| 弊害 | 起きること | 原因 | 手当て |
|---|---|---|---|
| 部分最適 | マーケはリードの数を、インサイドセールスはアポの数を増やし、受注は増えない | 部門の評価が自分の数字だけ | 渡した数のうち次の段階で進んだ割合を、渡した側の評価にも入れる |
| 数字の押し付け合い | 失注の原因を、リードの質・見極め・提案力のどれかに押し付け合う | 詰まった場所を測る数字がない | 段階ごとの割合を毎月並べ、落ちた段階を一緒に見る |
| 顧客から見た分断 | 担当が替わるたびに、同じ説明を何度もさせられる | 渡すものの中身が決まっていない | 引き継ぎで渡す項目を決め、次の担当は聞いた前提で話す |
| 小さい会社での過剰な分業 | 数人の会社が4部門に分かれ、受け渡しの手間のほうが大きくなる | 図を組織図として入れた | 部門ではなく役割として分け、一人が二つを兼ねてよいことにする |
| 全体を見る人が育たない | 一つの段階しか経験しない人ばかりになる | 持ち場の固定 | 部門をまたぐ異動や、振り返りの場への同席を仕組みにする |
BtoBの現場で何度も見たのは、二つ目の押し付け合いでした。受注が足りない月の会議で、営業は「渡される商談が弱い」と言い、渡す側は「渡したのに追いかけてもらえていない」と言う。どちらも自分の数字の上では正しく、だから話がまとまりません。押し付け合いは誰かの性格の問題ではなく、詰まりの場所を測る数字がないときに必ず起きる現象だと思っています。
こうして並べると、弊害の多くは本の第2部が「分業の副作用」として先に扱っている話と重なります。批判されているのはTHE MODELの考え方というより、「4つに分ける」だけを持ち帰った入れ方のほうです。
実務でどう使うか──例の数字で詰まりを探し、2026年の「古い」論に答える
THE MODELを実務で使うときは、組織図を描く前に、いまの売上の流れを段階ごとの割合で並べてみることから始めます。割合を並べると、どの部門の頑張りが足りないかではなく、流れのどこが細いかが見えます。数字はすべて架空の例です。
| 段階(例) | 担当 | 件数(例) | 前の段階からの割合(例) |
|---|---|---|---|
| リード | マーケティング | 1,000件 | ─ |
| 商談候補として渡した | マーケティング | 300件 | 30% |
| 商談になった | インサイドセールス | 60件 | 20% |
| 受注 | フィールドセールス | 15社 | 25% |
| 1年後も契約が続いている | カスタマーサクセス | 9社 | 60% |
この例で、受注を15社から増やしたいと考えると、多くの会社はまずリードを増やそうとします。でも表の最後の行を見ると、受注した15社のうち1年で6社が離れています。新しく取る努力より、離れる6社の理由を確かめるほうが先かもしれません。解約の数え方はチャーンレートとは?解約率の計算方法と目安、顧客・収益チャーンの違いに書きました。このように、割合を一本に並べると、どの部門の数字を責めるかではなく、どの段階に手を入れるかの話になります。
使い方の手順は次の4つです。
- 段階を4つ前後に分ける。部門がなくても、段階は分けられます。一人で全部を担当していても同じです
- 段階と段階のあいだで渡すものを文章にする。「商談にしてよい相手」「契約後に引き継ぐ情報」を言葉にして合意します
- 割合を毎月並べる。件数ではなく割合を見ると、どこが細くなったかが分かります
- 細い段階を全員で見る。担当の部門だけに直させず、前後の部門も理由を一緒に探します
サジェストには「THE MODEL 古い」も並びます。2026年の日本では、無料で試してから買うサービスが増え、顧客は営業に会う前に生成AIや比較サイトで候補を絞るようになりました。営業に会わずに契約まで進む流れもあるので、4部門をそのまま置く形は、商材によっては合わなくなっています。でも、段階を分けて、受け渡しを測り、細いところを直すという考え方は古くなっていません。古くなったのは部門の並べ方で、流れを測る考え方のほうは、むしろ担当が人からサービスの画面やAIに替わった段階ほど必要になります。人が渡していた情報を、どこで誰が受け取るのかが見えにくくなるからです。
THE MODELに関するよくある質問
THE MODELは古いのですか?
4つの部門をそのまま並べる形は、営業に会わずに契約が進む商材では合わなくなってきています。ただ、売上の流れを段階に分け、段階のあいだの受け渡しを測って細いところを直す考え方は古くなっていません。部門の並べ方と、流れを測る考え方は分けて判断するのがよいと思います。
THE MODELの本を要約すると何が書いてありますか?
マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスが見込み客を順に受け渡して売上をつくる流れと、その運営の方法です。目次では、4部門の流れを説明する部の前に「分業から共業へ」という部があり、分業の副作用も扱っています。市場戦略や人と組織の話まで含む、会社全体の運営の本です。
THE MODEL型の営業組織とは何ですか?
THE MODELの4つの段階に合わせて、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの担当を分けた組織のことです。形をまねるだけでは部分最適や押し付け合いが起きやすいので、段階のあいだで何を渡すかと、共通の目標を先に決めておく必要があります。
小さな会社や一人の事業でもTHE MODELは使えますか?
使えます。部門を分ける必要はなく、自分の仕事を段階に分けて、段階ごとの割合を毎月並べるだけでも効果があります。人数が少ないうちは、部門ではなく役割として分け、一人が複数の段階を兼ねる形のほうが受け渡しの手間がかかりません。
おわりに──分けたから摩擦が起きたのではない
THE MODELを突き詰めると、売上を部門ごとの頑張りではなく、一本の流れの太さとして測り直す考え方に行き着きます。批判や弊害として語られることの多くは、4つに分けた図だけを持ち帰り、つなぐための数字を置かなかったときに起きています。
分けたから摩擦が起きたのではない。分けたのに、渡すものを決めなかっただけ。
部門どうしの会議が押し付け合いになっていると感じたら、誰が悪いかを探す前に、段階ごとの割合を一枚に並べてみてほしいと思います。細いところが見えたとき、その会議は責める場から、直す場所を一緒に選ぶ場に変わります。