最終更新:2026年10月12日
KPIツリーとは、最終目標であるKGIを、掛け算と足し算で中間指標のKPIへ分解し、いちばん下に担当者が自分の手で動かせる行動が来るまで枝分かれさせた構造図です。作り方の要点は一つで、上から式で割っていき、「この枝は誰が、明日何をすれば動くか」が言えるところまで割れたら止めます。逆に言えば、いちばん下の枝が「購入率」や「解約率」のような率のまま止まっているツリーは、まだ途中です。この記事では、業種別の分け方のテンプレートを一覧表で示し、架空の月額サービスを例に作り方を5つの手順で追いかけ、現場が動かせる粒度まで割れているかを検算する方法と、作ったあとに起きやすい失敗まで書いていきます。
KPIツリーとは?業種別の分け方テンプレート一覧
KPIツリーは、KGIを頂点に置き、その数字を成り立たせている要素を式で分けていく図です。ふつうのロジックツリーと違うのは、親と子が必ず計算式でつながっていて、子の数字を入れれば親の数字が計算で出てくることにあります。
頂点を売上に置いたとき、1段目の分け方は事業の形でほぼ決まります。よく使われる型を並べると次のようになります。
| 事業の形 | 1段目の式(例) | 2段目でよく割る枝 | いちばん下に来やすい行動 |
|---|---|---|---|
| EC・通販 | 売上=訪問数×購入率×客単価 | 訪問数を流入元別の足し算に、購入率をカート投入率×購入完了率に | 記事の公開、広告の入稿、商品ページの改修 |
| 店舗 | 売上=来店客数×買上率×買上点数×一品単価 | 来店客数を新規と既存に、買上点数を売り場別に | チラシの配布、声かけ、陳列の変更 |
| 月額サービス(サブスクリプション) | 月の売上=有料会員数×月額単価 | 有料会員数を前月の会員数+新規−解約の足し算に | 無料体験の案内、初月のサポート、解約前の連絡 |
| BtoB(法人営業) | 受注額=リード数×商談化率×受注率×受注単価 | リード数を獲得手段別に、商談化率を検討段階別に | 資料の公開、セミナーの開催、商談後のフォロー |
この表は出発点として使うためのもので、そのまま写すものではありません。同じECでも、リピート購入が売上の大半を占める事業なら「新規の売上+既存の売上」で先に割るほうが、打ち手が見えやすくなります。どの式で割るかは、「どこで勝負が決まっているか」という見立てで変わります。ECの例でKGIからKPIを選ぶまでの流れは、KPIとKGIの違いとは?KAI・OKRも含めた比較表で数字つきで書いたので、この記事では月額サービスを例に、どこまで割るかに絞って書きます。
KPIツリーの出どころ──デュポンの分解式と、はっきりしない呼び名
KPIツリーには、「この人が、この本で名づけた」と言える一次出典は見当たりません。数字を掛け算に分解して管理する発想そのものは古く、原型としてよく挙げられるのが、20世紀初めのアメリカの化学会社デュポンで使われた投資利益率の分解式です。
デュポン社の財務担当だったドナルドソン・ブラウン(Donaldson Brown)が、1910年代に投資利益率を「売上高利益率×資本回転率」という掛け算に分けて、事業ごとの成績を比べたとされています。のちに「デュポン・システム」と呼ばれる考え方で、利益率が悪いのか、資本の回り方が悪いのかを分けて見られるようにしたところが画期的でした。いまの財務分析で自己資本利益率(ROE)を3つの比率に分ける方法も、この流れにあります。
KPIという言葉の源流は、ピーター・ドラッカーの目標管理や、ロバート・キャプランとデビッド・ノートンのバランスト・スコアカードにさかのぼるのが一般的です。その経緯は先ほどのKPIとKGIの記事で書きました。ただ「KPIツリー」という呼び名については、日本のビジネス書や研修のなかで広まった言い方で、ぼくが確認した範囲では最初に使った人を裏づける資料にはたどりつけませんでした。英語圏では「KPI tree」のほかに「driver tree(ドライバーツリー)」「metric tree」と呼ばれることもあり、中身はほぼ同じです。
出どころがはっきりしないことは、道具の価値を下げません。100年以上前の財務の分解式が、いまの広告やサブスクリプションの管理でもそのまま通用している。それは、売上や利益を掛け算に割ると打ち手が見える、という性質が業種を選ばないからだと思います。
KPIツリーとロジックツリー・KPIの違い
KPIツリーは、ロジックツリーのうち「これは何でできているか」を分ける要素分解ツリーを、数字の式で閉じたものです。KPIは一つひとつの指標の名前で、KPIツリーはそれらの指標がどの式でつながっているかを示す地図です。
| 観点 | ロジックツリー | KPIツリー | KPI |
|---|---|---|---|
| 中身 | 問いを小さな問いに分けた図 | KGIを式で分けた数字の図 | ツリーの中から選んだ、追いかける指標 |
| 親と子のつながり | 意味でつながる(なぜ・どうやって) | 計算式でつながる(×と+) | 単独の数字 |
| 検算できるか | できない(妥当かどうかは議論で決める) | できる(子の数字から親が計算で出る) | ツリーがあれば、KGIへの効き方を計算できる |
| 主な使い道 | 原因の特定、打ち手の洗い出し | どの枝を動かすのが安いかの比較 | 日々の進み具合の確認 |
ロジックツリーの3つの種類と分け方の手順はロジックツリーとは?3つの種類と作り方・例で、枝を漏れなくダブりなく分ける考え方はMECEとは?意味と例、切り口の型と失敗で書いています。KPIツリーで迷ったら、まずロジックツリーで「何でできているか」を言葉で分け、それぞれに数字と式を与える、という順番で考えると手が動きやすいと思います。
KPIツリーの作り方──現場が動かせる粒度まで割る5つの手順
KPIツリーの作り方は、KGIを一つ決め、式で割り、率を行動に置き換え、枝ごとに担当者の名前を書き、効きの大きい枝を選ぶ、の5つの手順です。いちばん大切なのは3つ目で、ここを飛ばすと「目標は配られたけれど、何をすればいいかは誰も分からない」ツリーになります。
架空の月額サービスで流してみます。以下はすべて説明のための例で、実在のサービスや数字ではありません。
手順1:KGIを一つだけ決める。例では「月の売上300万円」とします。売上と会員満足度のように性格の違うゴールを同じツリーに入れると、式でつながらない枝が混ざります。
手順2:式で割る。月の売上を「有料会員数×月額単価」に割り、有料会員数を「前月の会員数+新規の有料会員−解約した会員」に割ります。新規の有料会員は「無料体験の開始数×有料への転換率」、解約した会員は「前月の会員数×解約率」です。ここまでを木の形で書くと次のようになります。
- 月の売上 300万円 = 有料会員数 × 月額単価
- 月額単価 1,500円
- 有料会員数 2,000人 = 前月の会員数 + 新規の有料会員 − 解約した会員
- 前月の会員数 1,960人
- 新規の有料会員 140人 = 無料体験の開始数 700人 × 有料への転換率 20%
- 解約した会員 100人 = 前月の会員数 1,960人 × 解約率 約5.1%
子の数字を入れると、親の数字が計算で出ることを確かめておきます。1,960+140−100で2,000人、2,000人×1,500円で300万円。この検算が通らないツリーは、どこかの枝が抜けているか、ダブっています。
手順3:率を行動に置き換える。ここが作り方の核心です。「有料への転換率」や「解約率」は結果として動く数字で、担当者が明日の朝に直接いじれるものではありません。率の手前に、それを動かしている行動を一段足します。購入率のような率そのものの計算方法と目安はCVRとは?計算方法と平均、CTRとの関係で整理しています。
| いまの葉(率) | 誰が直接動かせるか | もう一段割った行動の例 | 割り終わりの判定 |
|---|---|---|---|
| 無料体験の開始数 | まだ決まらない | 案内記事の公開本数、広告の入稿本数、既存会員からの紹介の案内回数 | 本数や回数なので、担当者が自分で増やせる |
| 有料への転換率 | 誰も直接は動かせない | 体験中の初回ログインまでの日数、体験3日目の使い方メールの送信、体験中の個別相談の枠数 | どの行動を変えるかが言えれば割り終わり |
| 解約率 | 誰も直接は動かせない | 解約理由の上位への対応(例:「使い方が分からない」なら初月のサポート回数)、支払い失敗時の再案内 | 解約理由を見ないと割れないので、先に理由を集める |
| 月額単価 | 価格を決める人だけ | 年額プランの案内、上位プランの案内回数 | 値上げは判断であって日々の行動ではないので、別に扱う |
手順4:葉に担当者の名前を書く。いちばん下の枝それぞれに、動かす人の名前を一人だけ書きます。名前が書けない枝は、まだ割り足りないか、誰の仕事にもなっていない枝です。二人の名前が並ぶ枝は、どちらも動かさなくなりがちです。
手順5:効きの大きい枝を選ぶ。すべての枝を追いかけると、何を優先するかが分からなくなります。各枝を同じ割合だけ動かしたとき、KGIがいくら動くかを並べてみます。例のツリーで、無料体験の開始数を1割増やすと新規の有料会員は14人増え、売上は月2万1,000円増えます。解約率を1割下げても解約は約10人減るだけなので、増え方は約1万5,000円です。この例なら、まず体験の入口を動かすほうが効きます。ただし解約の減少は翌月以降も積み上がっていくので、1か月だけで比べないことも覚えておきたいところです。
解約の側をもう少し丁寧に割りたいときは、2回目の購入に進んだ人の割合で見るF2転換率とは?計算方法と平均・目安の考え方や、一人の顧客がもたらす利益で見るLTVとは?計算式3種とCACとの関係も、ツリーの枝の候補になります。
KPIツリーでよくある失敗と、2026年時点の注意点
KPIツリーの失敗のほとんどは、作るときではなく使い始めてから表に出ます。式は正しいのに現場が動かない、数字は動いているのにKGIが動かない、のどちらかです。
よく見る失敗は4つあります。
- 率を足し算している。「全体の購入率=検索からの購入率+SNSからの購入率」のように率どうしを足すと、式が成り立ちません。率は件数に戻してから足し、最後に割り直します
- 葉が率のまま止まっている。「転換率を上げる」がいちばん下にあるツリーは、目標を配っただけで、仕事は配っていません。手順3で行動に置き換えるまで割ります
- 枝が部署の境目で切れている。BtoBの現場では、リード数まではマーケティング部、商談化率からは営業部、とツリーが部署で二つに分かれていることがよくあります。マーケティング部はリード数を達成し、営業部は「質が悪い」と言う。商談化率の枝に両方の名前が並んだまま、誰も持っていない状態です。境目の枝こそ、担当者を一人に決めておきます
- 時間差を無視している。記事の公開本数を増やしても、検索から人が来るまでには時間がかかります。行動を変えた月と、KGIが動く月がずれる枝には、いつ結果を見るかも一緒に書いておきます
2026年時点で見直しておきたいのは、「訪問数」の枝です。AI検索が広がり、検索結果の画面の中で答えを読み終えてサイトまで来ない場面が増えると、訪問数を1段目に置いたツリーは式どおりに動かなくなるかもしれません。サイトには来ないけれど商品名で検索してから直接買いに来る、という経路が増えれば、訪問数が減ってもKGIは減らないことが起こりえます。そのときは、訪問数の手前に「商品名での検索数」のような枝を足すなど、式そのものを描き直します。KPIツリーは一度作ったら飾っておく図ではなく、生活者の行動が変わるたびに描き直す図です。描き直しを毎月の振り返りに組み込むなら、PDCAサイクルとは?古いと言われる理由とOODAとの違いで書いた回し方と合わせて考えると続けやすくなります。
KPIツリーに関するよくある質問
KPIツリーとロジックツリーの違いは何ですか?
KPIツリーは、ロジックツリーのうち要素分解ツリーを、数字の計算式で閉じたものです。ロジックツリーは親と子が意味でつながるのに対し、KPIツリーは掛け算と足し算でつながるので、子の数字から親の数字を計算で確かめられます。そのため「どの枝を動かすとKGIがいくら動くか」を比べられるのがKPIツリーの強みです。
KPIツリーはどこまで分解すればいいですか?
いちばん下の枝に、担当者が自分の手で増やせる行動が来るまで分解します。「購入率」や「解約率」のような率は結果として動く数字なので、その手前の行動まで割ります。枝ごとに動かす人の名前を一人書けるかどうかが、割り終わりの目安です。
KPIツリーのテンプレートやツールは何を使えばいいですか?
専用のツールがなくても、エクセルやスプレッドシートで十分に作れます。表計算で作ると、葉の数字を変えたときにKGIがどう動くかをその場で計算できるので、会議で枝を比べやすくなります。パワーポイントは完成した図を共有するのに向いていますが、計算はできないので、数字は表計算で持っておくのがおすすめです。
売上以外のKGIでもKPIツリーは作れますか?
作れます。会員数、問い合わせ件数、利益など、式で分けられる数字ならKGIにできます。ただしブランドの好意度のように式で分けにくい目標は、無理にツリーにすると根拠のない枝が混ざるので、調査で測る指標として別に追いかけるほうが安全です。
おわりに──KPIツリーは、数字を割る図ではなく、仕事を配る図
KPIツリーは、作るだけならそれほど難しくありません。売上を掛け算に割り、それぞれをもう一段割れば、見た目の整ったツリーはすぐにできます。難しいのは、いちばん下の枝を前にして「で、明日これを誰がやるのか」と問うところです。
KPIツリーは、数字を割る図ではありません。仕事を配る図です。
率のまま止まっている枝を見つけたら、その手前にもう一段、人の名前が書ける行動を足してみてほしいと思います。もしツリーの割り方で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。