結論から書きます。Setlogが流行っているのは、BeRealが証明した習慣化の原理に、「1日を編む」という新しい喜びを足したからです。手軽さで人を掴む構造はBeRealゆずりですが、Setlogにはもう一段、独自の発明があります。そこを見ていきます。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、生活者の行動を見てきました。以前、BeRealはなぜ流行ったのかという記事を書きました。今回のSetlogは、その続きにあたる現象です。BeRealで働いていた原理が、形を変えて、また効いています。
Setlogとは何か
Setlogは、韓国発のブイログアプリです。ブイログとは、動画で綴る日記のことです。使い方は、1時間ごとに2秒だけ動画を撮る。ただそれだけです。撮った2秒が時系列に自動で並び、編集をしなくても、1日分のブイログができあがります。
もうひとつの特徴が、共同での記録です。最大12人まで、同じログを一緒に作れます。別々の場所で撮った2秒が、パズルのように組み合わさって、1本の動画になる。招待コードで参加する仕組みで、離れていても同じ1日を共有できます。エスパなどのアーティストが使ったことで注目を集め、Z世代を中心に広がりました。
まず、BeRealと同じ仕組みが働いている
Setlogの土台には、BeRealと共通する習慣化の仕組みがあります。三つ確認しておきます。
ひとつめは、参加の負荷が極端に小さいことです。2秒撮るだけなら、身構える必要がありません。作り込むブイログは準備が要りますが、2秒なら、思いついた瞬間に終わります。始めるハードルを下げきることが、習慣化の第一歩です。
ふたつめは、加工も編集もしないことです。盛ることに疲れた人たちに、BeRealが「盛らなくていい」を差し出したのと同じ構造です。Setlogは、そこからさらに踏み込んで、「編集すらしなくていい」を提供しました。撮れば、あとはアプリが勝手に1日にまとめてくれます。
みっつめは、続けた記録が積み上がることです。1日、また1日と編まれていくと、途切れさせるのが惜しくなります。ここまで撮ったのだから、という気持ちが、次の2秒を撮らせます。これは、続けたものを手放したくないという心理です。
Setlog固有の発明は、「時間を編む」ことだった
ここからが、BeRealとの違いです。Setlogには、独自の発明が二つあります。
ひとつめは、バラバラの瞬間が、1本の作品になることです。BeRealは、その一瞬を切り取るものでした。Setlogは、点で終わらず、2秒を積み重ねて1日という線を作ります。気づけば、自分の1日が、短い映画のように編まれている。この完成の快感が、次の日も撮ろうという気持ちを生みます。ただ記録するのではなく、記録が作品に変わる。ここに、BeRealにはなかった喜びがあります。
ふたつめは、誰かと一緒に作ることです。12人で同じログを編むと、それは自分ひとりの日記ではなく、関係性のコンテンツになります。離れた友人の2秒が、自分の1日に差し込まれてくる。これが効くのは、一人の習慣は途切れやすくても、誰かと一緒の習慣は途切れにくいからです。仲間が撮っていると、自分も撮らなければ、という気持ちが働きます。ひとりで続ける仕組みに、みんなで続ける仕組みを重ねている。ここがSetlogのうまさです。
火をつけたのは、アーティストだった
もうひとつ見逃せないのが、流行の起点です。Setlogは、企業広告ではなく、エスパのようなアーティストが自分で使ったことから広がりました。
これは、モブマーケティングの記事で書いた、群衆が自ら動く構造と同じです。推しが楽しそうに使っているものを、ファンが真似したくなる。広告として押し付けられたのではなく、好きな人の日常の中に自然に現れたから、抵抗なく受け入れられました。これは、広告は何に乗るかの時代へという記事で書いた、コンテンツに溶け込む届き方の、いちばん理想的な形でもあります。仕掛けた感じがないこと自体が、最大の仕掛けになっていました。
BeRealの二の舞になるのか
正直な懸念も書いておきます。BeRealは、流行の理由が、そのまま飽きの理由に転じて失速しました。Setlogも、同じ道をたどる危うさを抱えています。
1時間ごとという高い頻度は、続ける力であると同時に、疲れる原因にもなり得ます。手軽さも、真似された瞬間に独自性を失います。一点で流行ったものは、その一点を模倣されると弱い。これは繰り返し起きるパターンです。
ただ、Setlogには、BeRealより粘れる可能性もあります。時間を編む喜びと、誰かと一緒に作る関係性。この二層があるぶん、単なる瞬間共有より、やめにくい構造になっています。ひとりで飽きても、一緒に編んでいる相手がいれば、続く理由が残ります。流行が続くかどうかは、この関係性を、どこまで深く設計に埋め込めるかにかかっています。
よくある質問
Setlogとは何ですか
韓国発のブイログアプリです。1時間ごとに2秒の動画を撮ると、それが時系列に自動で並び、編集しなくても1日分のブイログができあがります。最大12人まで同じログを一緒に作れるのも特徴で、エスパなどのアーティストが使ったことで、Z世代を中心に広がりました。
SetlogとBeRealは何が違いますか
手軽さで習慣を作る土台は共通しています。違いは二つあります。BeRealが一瞬を切り取るのに対し、Setlogは2秒を積み重ねて1日を1本の作品として編みます。さらに、最大12人で同じログを共同制作できる点も、Setlog固有の要素です。記録が作品になり、しかも誰かと一緒に作れる、というのが違いです。
Setlogはなぜ流行っているのですか
参加の負荷が小さく、編集もいらない手軽さに加え、バラバラの瞬間が1日という作品に編まれる喜びがあるためです。さらに、企業広告ではなくアーティストが自ら使ったことで、ファンが自然に真似する形で広がりました。押し付けられた感じがないことが、受け入れられた大きな理由です。
Setlogのブームは続きますか
楽観はできません。1時間ごとという頻度は疲れの原因になり得ますし、手軽さは模倣されると独自性を失います。ただ、時間を編む喜びと、誰かと一緒に作る関係性という二層があるぶん、単なる瞬間共有のアプリより粘れる可能性はあります。関係性をどれだけ深く設計に組み込めるかが分かれ目です。
まとめ
Setlogが流行っているのは、BeRealが証明した手軽さの習慣化に、「1日を編む」喜びと「誰かと一緒に作る」関係性を重ねたからです。そして、アーティストが自ら火をつけたことで、押し付けのない形で広がりました。
流行のアプリは、いずれ通り過ぎるかもしれません。でも、そこで働いている原理は残ります。負荷を下げ、続けた記録を作品に変え、誰かと一緒にする。この設計は、Setlogが去ったあとも、人の習慣を作るための道具として使えます。大事なのは、次に何が来るかではなく、なぜそれが人を動かしたのか、という仕組みのほうです。
人が何に夢中になり、なぜ続けてしまうのか。その構造はファンエコノミーの記事にもまとめています。あわせて読んでもらえたらと思います。