最終更新:2026年7月18日
パーセプションフロー・モデルとは、生活者の認識(パーセプション)がどう変わっていけば購入や再購入に至るのかを一本の流れとして描き、その変化を起こすための施策とKPIを紐づけたマーケティングの設計図です。P&G出身の音部大輔さんが体系化しました。この記事では、意味とカスタマージャーニーマップとの違い、構成要素、代理店の実務でどう効いてくるのかまで、ぼくの経験を交えてまとめます。
パーセプションフロー・モデルとは?意味をひとことで
パーセプションフロー・モデルとは、生活者の「認識の変化」を軸にして、広告からパッケージ、店頭、使用体験までのマーケティング活動全体を一枚に組み立てる設計図です。「どんな施策を打つか」ではなく、「生活者にどう思ってもらえれば次に進むか」を起点に全体を並べ替えるところに特徴があります。
提唱したのは、P&Gでブランドマネジメントを長く経験し、現在はクー・マーケティング・カンパニー代表を務める音部大輔さんです。著書「The Art of Marketing マーケティングの技法」(宣伝会議、2021年)で、このモデルの考え方が詳しく解説されています。ぼくが博報堂に13年いたあいだ、キャンペーンごとにバラバラに議論されがちだった「認知」「態度変容」「購入」を一本の線でつなぐ発想が、この一冊で腑に落ちました。
カスタマージャーニーマップとの違い
一番の違いは、起点が「行動」か「認識」かです。カスタマージャーニーマップが生活者の行動や接点の流れを描くのに対して、パーセプションフロー・モデルは生活者の頭の中の認識がどう変わるかを描きます。だから、施策を考える前の「問いの立て方」からして変わってきます。
| 観点 | カスタマージャーニーマップ | パーセプションフロー・モデル |
|---|---|---|
| 起点 | 行動・体験(何をするか) | 認識(どう思うか) |
| 主に描くもの | 接点・タッチポイントの流れ | 認識が変わっていく流れ |
| 問いの立て方 | どこで、どう接触してもらうか | 次に進むために、どう思ってもらうか |
| 施策との関係 | 接点ごとに施策を割り当てる | 認識を変えるための刺激として施策を選ぶ |
| 向いている場面 | 体験全体の課題や離脱点の可視化 | キャンペーン全体の設計と一貫性の確保 |
どちらが優れているという話ではありません。ジャーニーマップは「生活者がどこでつまずいているか」を見つけるのに向いていて、パーセプションフロー・モデルは「その認識を変えるために全体をどう組むか」を考えるのに向いています。ぼくの感覚では、課題の発見にジャーニー、打ち手の設計にパーセプションフロー、という使い分けが実務では自然でした。
パーセプションフロー・モデルの構成要素
パーセプションフロー・モデルは、大きく「認識の変化」「その変化を起こす知覚刺激」「変化が起きたかを測るKPI」の三つを一列に並べた構造になっています。認識をひとつ動かすたびに、対応する施策と指標がセットで紐づくところが、この設計図の背骨です。
認識の変化は、たとえば次のような段階として並びます。
- 現状(まだ関心がない、あるいは別の認識を持っている状態)
- 認知(そのブランドやカテゴリの存在を知る)
- 興味(自分に関係あるかもしれないと感じる)
- 購入(試してみようと思って手に取る)
- 使用(実際に使ってみる)
- 満足(思っていたとおり、あるいは期待以上だと感じる)
- 再購入(また選ぼうと思う)
この一段ごとに、「どんな刺激があればこの認識に変わるのか」を考えて広告や店頭施策、パッケージなどを割り当てていきます。そして「その認識に変わったかどうか」を測るKPIを置く。認知の段階なら想起率、満足の段階なら再購入意向、といった具合です。段階の数や言葉はブランドや商材によって変わりますし、実際のモデルはもっと精緻に組まれています。ここでは骨格だけを紹介しているので、各要素の設計思想や書き方の作法は「The Art of Marketing マーケティングの技法」で確認してほしいと思います。
この「欲求の段階ごとに刺激を設計する」という発想は、コピーライティングの世界とも地続きです。人がどんな根源的欲求で動くのかを整理したLF8(ライフフォース8)とは?人間の8つの欲求一覧と使い方とあわせて読むと、認識を動かす「刺激の中身」まで踏み込んで考えられるようになると思います。
代理店から見た「認識起点」の価値──ブリーフが変わる
パーセプションフロー・モデルの一番のありがたさは、ブリーフィングそのものが変わることです。「認知を上げてほしい」ではなく「生活者のこの認識を、こう変えたい」というオーダーになるだけで、クリエイティブもメディアも動きやすくなります。
ぼくが博報堂でメディアプランニングやインサイト探索をやっていたころ、一番困ったのは「何をすればいいか」だけが決まっていて「なぜそれをするのか」が曖昧なブリーフでした。「若年層の認知を上げたい」と言われても、認知の先にどんな認識を持ってほしいのかが抜けていると、施策は打ち上げ花火になりがちです。数字は動いても、その先の購入や態度変容につながらない。
認識を起点に置くと、この断絶が埋まります。「今この生活者はこう思っている。だから次はこう思ってもらいたい。そのためにこの刺激を出す」という因果が一本の線でつながるからです。クリエイティブの人は「どんな認識を作る一枚か」を考えられるし、メディアの人は「その認識を作るのに最適な接点はどこか」を考えられる。バラバラだった専門領域が、同じ設計図の上で会話できるようになります。ぼくが独立してtiny合同会社でBtoBの支援をするようになってからも、この「認識で握る」やり方は、社内外の関係者の目線を揃える道具として効いています。
パーセプションフロー・モデルを導入する最初のステップ
最初にやるべきことは、いきなり完璧なモデルを描こうとせず、「今、生活者はこのブランドをどう認識しているか」と「最終的にどう認識してほしいか」の二点だけを言葉にすることです。始点と終点さえ決まれば、あいだの段階は後から埋められます。
ぼくが実務で見てきた失敗のほとんどは、途中の施策から考え始めてしまうケースでした。「動画を出そう」「SNSを強化しよう」という手段の議論から入ると、認識の設計が置き去りになります。順番を逆にして、始点と終点の認識を決め、そのあいだをどんな認識の階段で登ってもらうかを描く。階段が見えてから、各段に必要な刺激として施策を当てはめていく。この順番を守るだけで、施策の一貫性はかなり上がります。
始点と終点を言葉にする段階では、認識を動かす「言い方」の設計も避けて通れません。どんな順番で、どんな言葉を置けば人の気持ちが動くのかは、売れる文章の構造──プロのコピーライターが使うフレームワークにまとめているので、認識の階段を言語化するときの下敷きにしてもらえればと思います。そして全体像をきちんと組みたくなったら、「The Art of Marketing マーケティングの技法」を手元に置くのがおすすめです。500ページを超える厚い本ですが、モデルの思想がていねいに書かれています。
パーセプションフロー・モデルに関するよくある質問
カスタマージャーニーマップとの違いは何ですか?
起点が違います。カスタマージャーニーマップは生活者の行動や接点の流れを描くのに対して、パーセプションフロー・モデルは生活者の認識がどう変わるかを描きます。ジャーニーは課題や離脱点の発見に向いていて、パーセプションフロー・モデルはキャンペーン全体の設計と一貫性の確保に向いています。両方を使い分けると、課題発見から打ち手の設計までがつながります。
パーセプションフロー・モデルはBtoBでも使えますか?
使えます。BtoBの購買も、最後は担当者や決裁者という人の認識が動いて決まるからです。むしろBtoBは検討期間が長く、関与する人も多いので、「誰の、どの認識を、どう変えるか」を設計図で共有できる効果は大きいと感じています。ぼくが独立後にBtoB支援で使ってみても、部署をまたいだ関係者の目線を揃える道具として機能しました。
小さい組織でも作れますか?
作れます。むしろ人数が少ないほど、始点と終点の認識を紙一枚で共有できる価値は大きいと思います。最初から精緻なモデルを目指す必要はありません。「今どう思われているか」と「どう思われたいか」の二点を言葉にして、あいだの認識の段階をいくつか置くだけでも、施策の議論はぶれにくくなります。慣れてきたらKPIを紐づけていけば十分です。
どの本を読めばいいですか?
提唱者である音部大輔さんの「The Art of Marketing マーケティングの技法」(宣伝会議、2021年)がおすすめです。パーセプションフロー・モデルの構造と、その背後にある考え方が本人の言葉で解説されています。この記事では骨格だけを紹介しているので、実際に自分のブランドで組んでみたくなったら、原典で作法を確認するのが確実だと思います。
おわりに──手段の前に、認識を置く
パーセプションフロー・モデルは、「何をするか」の前に「どう思ってもらうか」を置き直すための設計図です。派手な施策を並べる前に、生活者の認識をどこからどこへ動かしたいのかを決める。順番をひとつ変えるだけで、チームの会話も、クライアントとの握りも、驚くほど揃っていきます。
ぼくがこの考え方を大事にしているのは、マーケティングを「思いつきの手段の集まり」から「意図を持った設計」に変えてくれるからです。認識の変化という共通言語があると、専門の違う人同士でも同じ絵を見て議論できます。もし導入で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で一緒に考えたいと思います。