マーケの目

ノーススターメトリック(NSM)とは?KGIとの違いと決め方・例

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最終更新:2026年10月17日

ノーススターメトリック(North Star Metric、略してNSM)とは、顧客が製品から受け取っている価値を一つの数字で表し、会社のすべてのチームが同じ方向に進むための目印にする指標です。北極星がどこから見ても同じ方角にあるように、どの部署から見ても同じ一つの数字を置く、という発想から名づけられています。KGIとの違いは、KGIが売上や利益のような会社が欲しい結果なのに対し、NSMは顧客が価値を受け取った量で、売上より先に動く点にあります。結論を先に書くと、NSMを決める作業は、追う数字を一つ選ぶ作業である以上に、自社の製品が顧客にどんな価値を渡しているのかを一言で言い切る作業です。提唱者は一人に絞れないこと、有名企業の例として語られるものの多くに公式の出典が見当たらないことも、あわせて書いていきます。

ノーススターメトリックとは?北極星・インプット指標・KGIの関係一覧

ノーススターメトリックは、KGIとその手前の指標のあいだに置く「顧客の価値の数字」です。上には会社が最終的に欲しい結果があり、下にはNSMを動かすいくつかの要素があります。この3層で見ると、NSMの位置がはっきりします。

架空のレシピ動画サービスを例に並べると、次のようになります。以下は説明のための例で、実在のサービスではありません。

層 何を表すか 主に動かす人 例(架空のレシピ動画サービス)
KGI 会社が最終的に欲しい結果 経営 月の売上
ノーススターメトリック 顧客が価値を受け取った量 全チーム その週にレシピを見て1品以上作った会員の数
インプット指標 NSMを動かしている要素 各チーム 新しく使い始めた人の数、1人が週に見るレシピの本数、「作った」記録の割合、公開したレシピの本数

例のNSMは「見た人」ではなく「作った人」を数えています。レシピの動画は、見ただけでは夕飯は出てきません。生活者が受け取っている価値は、料理ができたことのほうにあります。NSMとは、製品の中で顧客が「これは良い」と感じた瞬間を数える数字で、その瞬間をどこに置くかで、会社が何を大切にしているかが表に出ます。

この「NSMと、それを動かすインプット指標」の組み合わせを一つの枠組みにしたのが、製品分析ツールの会社アンプリチュード(Amplitude)がまとめた「ノーススター・フレームワーク」です。同社は、NSMを製品が顧客に渡している価値を表す一つの数字とし、そこに各チームが動かすインプット指標をつなげる形で説明しています(アンプリチュード公式ブログ「North Star Playbook」の紹介)。

ノーススターメトリックの出どころ──提唱者は一人に絞れない

ノーススターメトリックには、「この人が、この本で名づけた」と言える一次出典は見当たりません。2010年代のアメリカのスタートアップとグロースの界隈で、似た考え方が何人かの手で育ち、いまの形になったと見るのが実態に近いと思います。

源流の一つとしてよく挙げられるのが、アリステア・クロール(Alistair Croll)とベンジャミン・ヨスコビッツ(Benjamin Yoskovitz)の「Lean Analytics」(2013年、邦訳「Lean Analytics スタートアップのためのデータ解析と活用法」オライリー・ジャパン、2015年)です。この本は、事業がいま立っている段階にとって最も大切な指標を一つだけ選ぶ「One Metric That Matters(いま一番大切な一つの指標)」という考え方を示しました。ただしこちらは、事業の段階が変われば選ぶ指標も変わる、という短い期間の集中の道具です。

「ノーススターメトリック」という呼び名と強く結びつけて語られるのが、グロースハックの言葉を広めたショーン・エリス(Sean Ellis)です。エリスは2018年のインタビューで、NSMを顧客が製品から受け取る価値を時間をかけて数え続ける、長く使う成功の物差しとして説明し、例としてエアビーアンドビー(Airbnb)の予約された宿泊数や、フェイスブックの日次利用者数を挙げています(インターコム社のブログに掲載されたエリスのインタビュー)。エリスがこの言葉の名づけ親だと紹介する記事も多いのですが、ぼくが確認した範囲では、彼が最初に使ったことを裏づける資料にはたどりつけませんでした。

仕組みとして整えたのは、先ほどのアンプリチュードです。同社は2019年に、製品の伝道者だったジョン・カトラー(John Cutler)らと「North Star Playbook」を公開し、NSMとインプット指標をつなげて全チームの仕事をそろえる方法をまとめました。いまNSMの決め方として語られる内容の多くは、この資料と同社のブログに由来しています。一つの指標に集中する考え方はクロールら、価値を長く数え続ける物差しという位置づけはエリス、チームの仕事とつなぐ枠組みはアンプリチュード、と分けて理解しておくと混乱しにくくなります。

ノーススターメトリックとKGI・KPI・OKRの違い

ノーススターメトリックとKGIのいちばん大きな違いは、誰の得を数えているかです。KGIは会社が得たものを数え、NSMは顧客が得たものを数えます。KPIとOKRは、その手前で進み具合を測ったり、挑戦の目標を決めたりするための道具で、NSMとは役割が違います。

観点 ノーススターメトリック KGI KPI OKR
何を表すか 顧客が受け取った価値の量 会社が最終的に欲しい結果 ゴールへ向かう工程の進み具合 挑戦する目標と、その達成を測る成果
誰の得か 顧客 会社 会社(工程ごと) 会社とチーム
数 会社全体で一つ 一つか、ごく少数 工程ごとに複数 目標ごとに成果が数個
時間の向き 売上より先に動く(先行) 結果としてあとから動く(遅行) 工程によって先行も遅行もある 四半期などの区切りで見直す
変える頻度 戦略が変わるまで変えない 事業計画ごと 施策ごとに入れ替えてよい 区切りごとに書き直す

KGIとKPIの関係はKPIとKGIの違いとは?KAI・OKRも含めた比較表で、OKRの書き方と達成率の考え方はOKRとは?Googleの達成率60〜70%とKPIとの違いで書きました。実務でよくある組み合わせは、NSMを会社全体の北極星として固定し、四半期ごとのOKRで「どのインプット指標を、どこまで動かすか」を決める形です。NSMが方角で、OKRはその方角へ今期どれだけ進むかの目標にあたります。

ノーススターメトリックの決め方──3つの条件と5つの手順

ノーススターメトリックの決め方は、まず3つの条件を満たす候補を探し、次に5つの手順で一つに絞ることです。3つの条件とは、顧客の価値を表していること、売上の先行指標であること、チームの打ち手で動かせることです。

条件 確かめる問い この条件で落ちやすい候補
顧客の価値を表している この数字が増えたとき、顧客は本当に得をしているか 登録者数、ページビュー、アプリのダウンロード数
売上の先行指標である この数字が増えると、数か月後に売上が増えるか 月の売上、客単価(結果としてあとから動く数字)
チームの打ち手で動かせる 製品やマーケティングの仕事で、この数字は動くか 景気や季節に大きく左右される数字

アンプリチュードのブログも、良いNSMの条件として、顧客の価値に沿っていること、製品の戦略を表していること、成功の先行指標であることの3つを挙げ、登録ユーザー数や日次利用者数は顧客が何を価値と感じているかを語らないので向かない、と書いています(アンプリチュード公式ブログ)。

手順1:自社がどの「ゲーム」をしているかを決める。アンプリチュードは、製品と顧客の関わり方を3つのゲームに分けています。顧客がどれだけ時間を使うかを競う「注目のゲーム」、どれだけ取引するかを競う「取引のゲーム」、どれだけ効率よく仕事を片づけられるかを競う「生産性のゲーム」です。どれも大事に見えますが、一つに決めないとNSMは決まりません。

手順2:顧客が価値を受け取った瞬間の行動を書く。「見た」「登録した」ではなく、「作った」「予約した」「共有した」のように、価値が届いたことが分かる行動を一文で書きます。

手順3:期間と頻度を入れる。「その週に1品以上作った会員の数」のように、いつの、どれくらいの頻度の行動かを入れます。期間のない累計の数字は、何もしなくても増え続けるので北極星になりません。

手順4:売上との関係を過去の数字で確かめる。候補の数字が多い月のあとに、売上や継続が実際に伸びているかを見ます。アンプリチュードは、自社のNSMを「毎週、分析の画面を使った人の数」から「毎週、分析から得た学びを共有し、それが7日以内にほかの2人以上に見られた人の数」に変えました。契約のデータと照らし合わせ、価値と売上の両方をよく表す定義を探した結果だと、同社の当時の最高製品責任者が公式ブログで書いています(アンプリチュード公式ブログ・2019年2月)。

手順5:インプット指標に割る。NSMを、各チームが動かせる3〜5個の要素に分けます。分け方はKPIツリーとは?作り方5つの手順と業種別の例と同じで、いちばん下に担当者の行動が来るまで割ります。インプット指標を段階ごとに探すなら、AARRRモデルの5段階が手がかりになります。

よく見る失敗の型は4つあります。

  • 売上をNSMにする。売上は結果としてあとから動く数字なので、今週の仕事がそれに効いたかどうかが分かりません。会社が得たものを数えると、顧客が得たものが見えなくなります
  • 見栄えのいい数字を選ぶ。登録者数や累計ダウンロード数は、増えていても顧客が価値を受け取ったとは限りません
  • 部署ごとに別のNSMを置く。広告会社にいた頃、一つのキャンペーンに関係者ごとの評価指標がいくつも並ぶ場面をよく見ました。北極星が部署の数だけあると、それぞれが正しく進んで、全体は散らばります
  • 時間を奪う数字を追いすぎる。注目のゲームで利用時間をNSMにすると、生活者の時間をできるだけ長く引き止める方向に打ち手が寄っていきます。数字は伸びても、顧客が得をしているかどうかは別の話です

有名企業のノーススターメトリックの例と、2026年時点の注意点

有名企業のノーススターメトリックとして紹介される例のうち、企業自身が公式に「これが私たちのNSMだ」と発表しているものは、ぼくが確認した範囲ではごく一部でした。多くは、関係者の講演や第三者の解説記事で広まったものです。

企業 よく紹介される数字 公式の出典の状況
アンプリチュード 毎週、学びを共有し、ほかの2人以上に見られた利用者の数 同社の最高製品責任者が2019年に公式ブログで公表。自社のNSMを公式に明かしている数少ない例
エアビーアンドビー 予約された宿泊数 上場時の届出書(2020年・米国証券取引委員会への提出資料)で、宿泊と体験の予約数を「主要な事業指標」として開示。ただし同社はこれをNSMとは呼んでいない
フェイスブック(現メタ) 日次利用者数、「10日で7人の友達」 日次利用者数は決算で開示されてきた指標だが、NSMとしての公式発表は見当たらない。「10日で7人」はよく紹介されるが、公式の一次出典は見当たらない
アマゾン プライム会員の数 アンプリチュードのブログでさえ「おそらく」と推測の形で書いている。公式の一次出典は見当たらない

このほか、音楽配信サービスの再生時間や、ビジネスチャットの送信メッセージ数などもNSMの例としてよく紹介されますが、公式の一次出典は見当たりませんでした。例を社内の説明に使うときは、「その会社が公式にNSMと呼んでいるのか」「誰かがそう解説しているだけなのか」を分けておくと安全です。

2026年時点で気をつけたい点は2つあります。

一つめは、価値の数え方が変わってきたことです。AIを組み込んだ製品では、顧客が長く使うほど価値が高いとは限りません。頼んだ仕事が早く片づくほど、使う時間はむしろ短くなります。注目のゲームの数字をそのまま当てはめると、価値が増えているのに数字が下がって見えることが起こりえます。そういう製品では、「片づいた仕事の数」のように、生産性のゲームの側で数え直すほうが実態に合うと思います。

二つめは、NSMは変えてよいことです。アンプリチュード自身が、分析の画面を使った人の数から、学びを共有した人の数へと定義を変えています。「North Star Playbook」にも、NSMを変える時期を扱う章があります。戦略が変わったのにNSMだけが残っていると、北極星は昔の方角を指したままになります。

ノーススターメトリックに関するよくある質問

ノーススターメトリックとKGIの違いは何ですか?

KGIは売上や利益のように会社が最終的に欲しい結果を数え、ノーススターメトリックは顧客が製品から受け取った価値の量を数えます。KGIは結果としてあとから動く数字なのに対し、NSMは売上より先に動く先行指標として選びます。NSMを伸ばした結果として、KGIがあとからついてくる関係です。

ノーススターメトリックの例にはどんなものがありますか?

公式に確かめられる例としては、アンプリチュードが公式ブログで公表した「毎週、学びを共有し、ほかの2人以上に見られた利用者の数」があります。エアビーアンドビーの予約された宿泊数もよく紹介され、同社は上場時の資料でこれを主要な事業指標として開示していますが、NSMとは呼んでいません。ほかの有名企業の例には、公式の一次出典が見当たらないものが多くあります。

ノーススターメトリックを学べる本はありますか?

NSMだけを一冊で扱った日本語の定番書は、ぼくが確認した範囲では見当たりませんでした。近い考え方を学べるのは、一つの指標に集中する方法を示したクロールとヨスコビッツの「Lean Analytics」(オライリー・ジャパン)です。決め方の手順は、アンプリチュードが英語で無料公開している「North Star Playbook」が最もまとまっています。

ノーススターメトリックはいくつ決めて、途中で変えてもいいですか?

会社全体で一つに決めます。複数置くと、部署ごとに違う方角を目指すことになり、北極星の意味がなくなります。途中で変えることはできますが、施策ごとに変えるものではなく、戦略や製品の価値の届け方が変わったときに見直すものです。

おわりに──売上は北極星ではなく、船のうしろに残る航跡

ノーススターメトリックを決めようとすると、まず売上や利益が候補に挙がります。会社にとっていちばん大事な数字だからです。でも、売上をいくら見つめても、今週の仕事が顧客の役に立ったかどうかは分かりません。

売上は、北極星ではありません。北極星を目指して進んだ船のうしろに残る、航跡です。

自社のNSMの候補が浮かんだら、「この数字が増えたとき、顧客は本当に得をしているか」と一度だけ問いかけてみてほしいと思います。その問いに迷わず答えられる数字が見つかったとき、チームが見上げる方角は一つにそろっていくはずです。

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