最終更新:2026年10月6日
OKRとは、組織やチームが「どこへ向かうのか(Objective=目標)」と「そこに着いたと何で判断するのか(Key Results=主要な成果)」をセットで決める目標管理の方法です。インテルのアンディ・グローブが1970年代に社内で形にし、投資家のジョン・ドーアが1999年にGoogleへ持ち込んだことで世界に広まりました。わかりやすく言えば、OKRは「全部達成できる目標」ではなく「届くかどうか分からない高さの目標」を置き、6〜7割の到達を成功とみなす仕組みです。ここが、達成を約束する数字であるKPIとのいちばん大きな違いです。以下では、ObjectiveとKey Resultsの書き方を一覧表で整理したうえで、グローブからGoogleまでの系譜、KPIとの違い、マーケティングの現場での使い方まで書いていきます。
OKRとは?ObjectiveとKey Resultsの意味一覧
OKRは、定性的な目標であるObjectiveが一つと、その達成度を測る定量的な成果であるKey Resultsが数個で一組になっています。Objectiveが「行き先」、Key Resultsが「着いたかどうかを判定する物差し」です。
それぞれの役割と書き方の条件は次のとおりです。
| 要素 | 意味 | 書き方の条件 | マーケチームでの例 |
|---|---|---|---|
| Objective(目標) | この期間に向かう先。何を成し遂げたいか | 定性的な言葉で、読んだ人の気持ちが動く高さに置く | 「新商品を、比較検討の段階で最初に思い出されるブランドにする」 |
| Key Results(主要な成果) | Objectiveに近づいたかを判定する物差し | 数字で測れて、期末に達成したかどうかを議論なしに判定できる | 「指名検索数を前四半期の1.5倍にする」(例) |
| イニシアチブ(施策) | Key Resultsを動かすために実際にやること | OKRそのものには含めず、別のリストで管理する | 「比較記事を月4本公開する」「店頭POPを刷新する」 |
表の三行目は、OKRの本体ではありません。それでもあえて入れたのは、OKRでいちばん多い失敗が「Key Resultsに施策を書いてしまうこと」だからです。「記事を月4本公開する」は、やれば必ず達成できます。でもそれで生活者の頭の中が変わったかどうかは分かりません。Key Resultsは「やったこと」ではなく「起きたこと」を書く場所です。
OKRの運用面での特徴も、表にしておきます。
| 項目 | OKRでの一般的な運用 |
|---|---|
| 期間 | 四半期(3か月)ごとに設定し、振り返る |
| 数 | Objectiveは3〜5個、各Objectiveに対してKey Resultsは3つ程度(Googleの目標設定ガイドre:Workの目安) |
| 達成率 | 挑戦的なOKRは6〜7割の到達で成功とみなす |
| 公開範囲 | 社内の誰からでも見える状態にする |
| 人事評価との関係 | 評価や報酬とは切り離す |
ドーアは著書の中で、OKRを「私は(Objective)を、(Key Results)によって測る」という一文で書く型を紹介しています。この一文が無理なく言えるかどうかが、OKRになっているかどうかの簡単な検算になります。
OKRの起源──アンディ・グローブからジョン・ドーア、そしてGoogleへ
OKRの源流は、経営学者ピーター・ドラッカーが1954年の著書「現代の経営」(ダイヤモンド社)で示した目標管理(MBO)にあります。それをインテルのアンディ・グローブ(Andrew Grove)が1970年代に作り変え、ジョン・ドーア(John Doerr)がGoogleへ伝えた、三段の系譜です。
| 年 | 人物・出来事 | OKRにとっての意味 |
|---|---|---|
| 1954年 | ドラッカーが「現代の経営」で目標管理(MBO)を提示 | 目標を上から与えるのではなく、本人と合意して決めるという考え方の出発点 |
| 1970年代 | グローブがインテルで、MBOに「Key Results」を組み合わせた仕組みを運用 | 目標に、測れる成果をひもづける形ができる |
| 1975年 | インテルに入社したドーアが、グローブの社内講義でこの仕組みを学ぶ | のちにGoogleへ伝える人物が、原型に触れる |
| 1983年 | グローブが著書「High Output Management」を出版 | インテル流の目標管理が本として世に出る |
| 1999年 | 投資家になっていたドーアが、創業まもないGoogleの経営陣にOKRを紹介 | Googleの成長とともにOKRの名が広まる |
| 2018年 | ドーアが著書「Measure What Matters」を出版 | OKRの考え方と事例が一冊にまとまる |
グローブの本は、日本語版が「HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント」として日経BP社から出ています。ドーアの本は「Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR」(日本経済新聞出版社・2018年)が日本語版です。
「達成率60〜70%でよい」という有名な話も、出どころはここにあります。ドーアの著書の巻末には、Google社内のOKR運用の手引きが収録されています。そこではOKRが二種類に分けられていて、必ずやり切る「コミットするOKR」は1.0(100%)での達成が前提、まだ道筋が見えていない「野心的なOKR」は平均0.7程度の到達が想定されています。Googleが公開している目標設定ガイドre:Work「Set goals with OKRs」でも、採点のちょうどいい範囲は60〜70%とされています。いつも100%に届くなら、目標の置き方が低すぎると考えます。
ここで押さえておきたいのは、「6〜7割でいい」は手を抜いていいという意味ではないことです。最初から7割しか届かない高さに置くから、7割で成功になる。順番が逆になると、ただの未達の言い訳になってしまいます。
OKRとKPI・MBOの違い
OKRとKPIのいちばんの違いは、目標の高さと、未達の扱いです。KPIは「この数字を守れば計画どおりに進む」という管理のための指標で、100%の達成が前提になります。OKRは「ここまで届けば世界が変わる」という挑戦のための目標で、届かないことを織り込んで置きます。
| 観点 | OKR | KPI | MBO(目標管理) |
|---|---|---|---|
| 目的 | 大きく伸ばす方向にチームをそろえる | 計画どおりに進んでいるかを監視する | 個人の目標を決めて評価する |
| 目標の高さ | 届かないかもしれない高さ | 達成できる現実的な水準 | 本人と上司で合意した水準 |
| 成功の基準 | 6〜7割の到達で成功(挑戦的なOKRの場合) | 100%の達成 | 100%の達成 |
| 見直しの頻度 | 四半期ごと | 通年で追い続けることが多い | 半期・年度ごと |
| 評価・報酬との関係 | 切り離す | 結びつけることが多い | 結びつける |
| 公開範囲 | 全社に公開 | 部門や担当者の中 | 本人と上司の間 |
KPIとOKRは、どちらかを選ぶものではありません。KPIは健康診断の数値に近く、異常がないかを見張り続けるものです。OKRは、次の四半期にどこまで跳ぶかを決めるものです。たとえばECサイトなら、購入完了率や問い合わせ対応時間はKPIとして毎週見張り、OKRでは「初めての人が迷わず買えるサイトにする」のような跳び方を決める。守る数字と、伸ばす数字の役割を分けておくと、両方が噛み合います。KPIの上に置く最終ゴールのKGIまで含めた関係は、KPIとKGIの違い(KAI・OKRも含めた比較表)で整理しました。
MBOとの違いは、評価との距離です。MBOは個人の目標を人事評価に直結させるので、人はどうしても達成できる目標を書きます。OKRはそこを切り離すことで、高い目標を書いても損をしない状態を作ろうとした仕組みだと言えます。
マーケティングの現場でOKRをどう使うか
マーケティングでOKRを使うときの手順は、Objectiveを生活者の変化で書き、Key Resultsを結果指標で書き、施策は別に持つ、の三つに尽きます。数字から先に決めると、OKRはすぐに「KPIの言い換え」になってしまいます。
ぼくが判断の手順として意識しているのは、次の四つです。
- Objectiveは「誰の、何が、どう変わるか」で書く。「売上を伸ばす」ではなく「迷っている人が最初に思い出す存在になる」のように、生活者の側の変化を言葉にする
- Key Resultsは、Objectiveが達成されたら必ず動くはずの数字を3つ程度選ぶ。施策の実施数ではなく、施策の結果として起きる変化を測る
- Key Resultsのうち一つは、量ではなく質を測る数字にする。量だけ並べると、質を落としてでも数を稼ぐ動きが出やすくなる
- 週に一度、進み具合を短く確かめ、四半期の終わりに0.0〜1.0で採点して振り返る。採点は責めるためではなく、次の目標の高さを決めるために使う
たとえばブランドの想起を伸ばしたいなら、Objectiveは「買おうと思った瞬間に思い出されるブランドになる」、Key Resultsには指名検索数や、調査で測る想起率の変化を置くことになります。この「思い出される状態」についてはメンタルアベイラビリティとは?意味とCEP・実務での高め方で詳しく書いていますが、OKRのObjectiveとかなり相性のいい考え方です。
ぼくはアクセンチュアでCreative Division Managerという管理職をしていて、その前の博報堂でもずっとチームで仕事をしてきました。管理職としてチームの目標を立てる側に回ると、まず迷うのは「数字で渡すか、方向で渡すか」だと思います。数字だけを渡すと、人は数字を守りにいきます。方向だけを渡すと、何をすれば前に進んだことになるのかが分からない。OKRは、この二つを一枚に並べることで迷いを解こうとした道具だと、今は思っています。代理店とコンサルでそれぞれ身についた考え方の違いは博報堂13年、アクセンチュア5年で学んだことにも書きました。
失敗しやすい点も三つ挙げておきます。一つ目は、先ほど書いたKey Resultsのタスクリスト化です。二つ目は、全部のOKRを挑戦的にしてしまうことです。広告の入稿や納期のように落とせないものは「コミットするOKR」かKPIとして別に持たないと、守るべきものまで7割でいいことになってしまいます。三つ目は、OKRを決めたまま四半期のあいだ誰も見ないことです。週に一度、5分でも眺める習慣がないと、期末の採点はただの答え合わせになります。
日本企業でOKRがうまくいかない理由と、2026年時点の注意点
日本企業でOKRがつまずく原因の多くは、仕組みそのものではなく、人事評価と結びつけてしまうことにあります。評価に響くと分かった瞬間に、人は7割しか届かない目標を書かなくなるからです。
ドーアの著書もGoogleのre:Workも、OKRを報酬や評価と切り離すことをはっきり求めています。ドーアは評価の代わりに、対話(Conversations)・フィードバック(Feedback)・承認(Recognition)を継続的に回すCFRという考え方をセットで紹介しています。ところが、半期ごとの目標管理シートの欄を「OKR」に書き換えただけの導入をすると、中身はMBOのままで名前だけが新しくなります。
もう一つは、7割の達成を「未達」と受け取る文化の問題です。100%に届かなかった報告を、謝罪から始めてしまう。これが続くと、翌期には誰も高い目標を書かなくなります。OKRを入れるなら、採点の場で「0.7なら成功」と最初に言い切る役が必要です。管理職の仕事は、目標を割り振ることより、届かなかった3割を責めない空気を先に作ることなのかもしれません。その空気の正体は、心理的安全性の意味とぬるい職場との違いで書いたものにかなり近いと思っています。
2026年時点で付け加えるなら、OKRは大きな会社だけの道具ではなくなっています。チームの規模が小さいほど、目標を全員で共有するのは簡単です。ぼく自身は2019年に独立して一人法人を回していますが、一人だと誰も目標を決めてくれないので、向かう先を自分で言葉にする必要に迫られます。会社員と独立の働き方の違いについては会社員マーケターと独立マーケターの決定的な違いで書きましたが、目標を自分で置けるかどうかは、その違いの大きな一つです。
逆に、OKRを階層ごとに細かく分解して全員に割り当てる運用には注意が必要です。上から下へ順番に降ろしていくと、決まるまでに時間がかかり、四半期の半分が過ぎてしまうこともあります。全社のOKRは少数にして、チームが自分たちで「それに貢献するには何を測るか」を考えるほうが、OKR本来の身軽さが残ります。
OKRに関するよくある質問
OKRとは、簡単に言うと何ですか?
「どこへ向かうか」を表す定性的な目標(Objective)と、「着いたかどうかを何で判断するか」を表す数字(Key Results)をセットで決める目標管理の方法です。四半期ごとに設定して全社に公開し、届くかどうか分からない高さに目標を置くのが特徴です。インテルで生まれ、Googleが使ったことで広まりました。
OKRとKPIの違いは何ですか?
KPIは計画どおりに進んでいるかを見張るための指標で、100%の達成が前提です。OKRは大きく伸ばす方向を決めるための目標で、挑戦的なものは6〜7割の到達で成功とみなします。KPIは守る数字、OKRは伸ばす目標と役割を分けて、併用するのが一般的です。
GoogleのOKRでは、なぜ達成率60〜70%でよいのですか?
最初から全部は届かない高さに目標を置いているからです。ドーアの著書に収録されたGoogleの運用の手引きでは、挑戦的なOKRは平均0.7程度の到達が想定され、Googleのre:Workでも60〜70%がちょうどいい範囲とされています。いつも100%に届くなら、目標が低すぎると考えます。ただし、必ずやり切ると約束したOKRは100%が前提です。
OKRは人事評価に使ってもいいですか?
おすすめしません。ドーアの著書もGoogleのre:Workも、OKRを評価や報酬と切り離すことを求めています。評価に直結させると、人は確実に達成できる低い目標を書くようになり、OKRの意味がなくなります。評価は、日々の対話やフィードバックを通じて別に行うほうがうまく回ります。
おわりに──届かなかった3割が、本気の証拠
OKRは、目標を数字で管理するための仕組みに見えて、実際には「どこまで本気で跳ぶか」をチームで決める仕組みです。Objectiveで行き先を言葉にし、Key Resultsで着いたかどうかを測り、届かなかった距離を責めずに次の高さを決める。その繰り返しのなかで、目標はだんだん正直になっていきます。
達成できなかったOKRは、失敗ではありません。全部達成できたOKRのほうが、挑戦を忘れているのです。
目標を立てるたびに「これなら届く」と安心していたら、一度だけ、届かないかもしれない一行を書いてみてほしいと思います。もし書き方で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。