マーケの目

グロースハックとは?AARRRモデルの5段階と実験の回し方、古い説

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最終更新:2026年10月12日

グロースハックとは、データと小さな実験をくり返して、事業が伸びるいちばん効く場所を見つけ、そこを集中的に改善していく手法のことです。2010年にショーン・エリスが自身のブログで「グロースハッカー」という言葉を使ったことから広まりました。結論を先に書くと、グロースハックの本質は奇抜な裏技ではなく、実験の数です。一つの大きな施策に賭けるより、小さく試して外れを早く知る回数を増やすほうが、当たりを引く確率は上がります。この記事では、AARRRモデルの5段階を表で整理し、出典、ABテストやPDCAとの違い、「グロースハックは古い」と言われる理由まで書いていきます。

グロースハックとは?AARRRモデルの5段階一覧

グロースハックとは、生活者が商品と出会ってからお金を払うまでの流れを段階に分け、どの段階で人がいちばん抜け落ちているかをデータで見つけて、そこに実験を集中させる考え方です。段階の分け方として最もよく使われるのが、AARRRモデルです。

AARRRは、5つの段階の英語の頭文字を並べたものです。

段階 意味 見る数字の例 実験の例
Acquisition(獲得) 商品を知り、サイトやアプリに来てもらう 訪問数、流入経路ごとの人数、獲得単価 広告の訴求の軸、検索で読まれる記事のテーマ
Activation(活性化) 最初の体験で「これは良い」と感じてもらう 会員登録率、初回利用の完了率 登録の項目を減らす、最初の画面で価値が伝わる順番に並べ替える
Retention(継続) もう一度、くり返し使ってもらう 継続率、解約率、再訪問の間隔 使い忘れを防ぐ通知、2回目の利用につながる案内
Referral(紹介) 使った人が、ほかの人に勧めてくれる 紹介経由の新規数、共有された回数 勧めやすい場面に共有の入口を置く、紹介した人と受けた人の両方に特典
Revenue(収益) お金を払ってもらう、払う額が増える 購入率、客単価、顧客生涯価値 料金プランの見せ方、有料に切り替わるタイミング

5つを並べると、生活者が商品と出会ってから深く関わっていくまでの一本の流れになります。グロースハックで最初にやることは、この流れのどこで人がいちばん多く抜けているかを数字で確かめることです。抜けがいちばん大きい段階を直せば、同じ手間でも全体の伸びがいちばん大きくなります。反対に、継続の段階に穴が空いたまま獲得に予算を積んでも、入れた人がそのまま抜けていきます。底の抜けたバケツに水を注ぐ状態です。

AARRRは段階の並びが購買ファネルに似ていますが、ファネルが認知から購入までの「買うまで」を中心に見るのに対し、AARRRは継続と紹介という「買ったあと」に段階を割いているところが違います。購買の段階を表す型の全体像はパーチェスファネルとは?段階の例とダブルファネルとの違いにまとめています。

グロースハックの出典──ショーン・エリスとAARRR

グロースハックという考え方の起点は、ショーン・エリス(Sean Ellis)が2010年に自身のブログに書いた「Find a Growth Hacker for Your Startup」という記事です。スタートアップの成長を支援してきた彼が、自分の後任を探すときに「マーケター」という言葉では伝わらないと感じ、成長だけを北極星にする人を「グロースハッカー」と呼んだことが始まりだとされています。

エリスが言いたかったのは、肩書きの新しさではありませんでした。広告を出す、PRをするといった従来のマーケティングの手段にこだわらず、製品そのものの改善も含めて、成長につながることなら何でも試して確かめる人が必要だ、と主張したのです。この考え方は、エリスとモーガン・ブラウン(Morgan Brown)の共著「Hacking Growth」(原書2017年)にまとめられ、日本語版は「Hacking Growth グロースハック完全読本」(日経BP、2018年)として出ています。

この本で紹介されている手法の一つに、製品が本当に必要とされているかを確かめる質問があります。利用者に「この製品が使えなくなったら、どう感じますか」と聞き、「とても残念」と答える人が40%を下回るなら、まだ成長を加速させる段階ではない、とする目安です。グロースハックは「伸ばす技術」と思われがちですが、出発点に置かれているのは、伸ばす前に、伸ばす価値のある製品かを確かめることです。

AARRRのほうは、別の人の発案です。投資家のデイヴ・マクルーア(Dave McClure)が2007年の講演で示した「Startup Metrics for Pirates」が出典とされています。5つの頭文字を続けて読むと、海賊の掛け声のように聞こえることから「海賊指標」とも呼ばれます。講演の正確な題名は資料によって表記が少し違い、ぼくが確かめた範囲でも一つに定まりませんでした。エリスの「実験で成長の急所を探す」という考え方と、マクルーアの「段階に分けて一つずつ数字を見る」という型が合わさって、いまのグロースハックの形になっています。

マーケティング・ABテスト・PDCAとの違い

グロースハックは、ABテストやPDCAと別の手法というより、それらを道具として使いながら「成長のどこを直すか」を選び続ける考え方です。違いは、扱う範囲と、何を単位に回すかにあります。

言葉 扱う範囲 回す単位 グロースハックとの関係
グロースハック 獲得から収益まで、製品の改善も含めた事業の成長全体 小さな実験をたくさん、速く ―
従来のマーケティング 主に認知と購入。広告・PR・販促など キャンペーンごと 手段の一部として使う。製品そのものの改善までは含まないことが多い
ABテスト 一か所の変更の効果 一つの比較実験 実験を確かめるための代表的な道具
PDCA 業務や施策の改善全般 計画から改善までの一周 実験を回す骨組みとしては同じ。グロースハックは回す速さと数を重く見る

ABテストは、グロースハックの実験を「本当に効いたのか」確かめるための道具です。一度に変えるのは一か所、人数と終了日を先に決める、といった設計の決まりはABテストとは?やり方の手順と有意差の考え方、一か所だけ変える理由に書いたとおりで、グロースハックでもそのまま守る必要があります。実験の数を増やすほど、一つひとつの判定が雑になりやすいからです。

PDCAとの違いは、回す速さと一周の大きさです。四半期に一度、大きな計画を立てて回すPDCAに対して、グロースハックは週単位で小さな実験を同時にいくつも回すことを前提にしています。PDCAが「古い」と言われる論点と、OODAとの違いはPDCAサイクルとは?古いと言われる理由とOODAとの違いで整理しました。

実務での使い方──小さな実験の数が勝率を上げる

グロースハックを実務で回すとき、いちばん効くのは、一回で当てようとしないことです。どの施策が効くかは、試すまで誰にも分かりません。だから、小さく安く試せる実験をたくさん用意し、外れをできるだけ早く知る。その回数が、当たりを引く確率を上げていきます。

実験は、次の4つの手順をくり返して回します。

手順 やること つまずきやすい点
1. 急所を決める AARRRのどの段階で人がいちばん抜けているかを数字で確かめ、今期に動かす指標を一つ選ぶ 全段階を同時に直そうとして、どれも中途半端になる
2. 実験のアイデアを出す その指標を動かしそうな打ち手を、質より数で書き出す 声の大きい人のアイデアだけが残る
3. 優先順位をつける 効果の大きさ・当たる自信・試しやすさの3つで点数をつけ、上から試す 大きくて重い施策から始めて、一つ目の結果が出るまでに数か月かかる
4. 試して記録する 結果と、なぜそうなったかの解釈を台帳に残し、次のアイデアに戻す 外れた実験を記録せず、同じ外れをくり返す

手順3の3つの物差しは、「Hacking Growth」ではImpact(効果)・Confidence(自信)・Ease(容易さ)の頭文字でICEスコアと呼ばれています。大事なのは点数の精度ではなく、試しやすいものから先に回す順番のほうです。試しやすい実験から始めれば、最初の結果が早く出て、そこから次のアイデアの精度が上がっていきます。

この手順で、ぼくが最も効くと思っているのは手順4の「外れの記録」です。自分で売る側に立つと、思いつきで手を入れたまま、効いたかどうかを確かめずに次へ移ってしまうことが起きやすくなります。結果を残していないと、半年後に同じことを試して、同じように外します。外れた実験は失敗ではなく、「この段階では、この打ち手では動かない」と教えてくれる情報です。台帳に書いた瞬間に、それは次の実験の材料に変わります。

急所を見つけるときは、ある時期に始めた人たちがその後どう残っていったかを見るのが役に立ちます。登録した月ごとに継続率を並べると、どの時期のどの段階で抜けが大きいかが見えてきます。この読み方はコホート分析とは?意味とコホート表の見方に、継続の段階で見る解約率の計算はチャーンレートとは?解約率の計算方法と目安にまとめました。一つの指標を選ぶときは、それが最終的な目標につながっているかをKPIツリーの作り方で確かめておくと、実験が的外れになりにくくなります。

グロースハックは古い?2026年時点での注意点

「グロースハックは古い」と言われるのは、言葉が流行語として消費され、裏技やバズの小技を指すように誤解されたからです。小さな実験をくり返して成長の急所を探すという中身は、いまも事業を伸ばす基本の考え方として残っています。

2010年代の半ば、「グロースハック」は一種のブームになりました。その中で、短期間で数字を伸ばす小技や、紹介を半ば強制する仕掛けまでがこの名前で語られるようになり、言葉そのものが軽く見られるようになりました。いまは同じ考え方が、製品の体験そのもので成長させる「プロダクト主導の成長」や、部署をまたいで成長を担う「グロースチーム」といった言葉で語られることが増えています。呼び名は変わっても、データで急所を探し、実験で確かめる骨組みは同じです。

2026年時点で実務上気をつけたい点は3つあります。

一つめは、段階の順番です。AARRRは獲得から並んでいますが、継続が弱いまま獲得を増やしても伸びません。継続を先に固めてから獲得に進むという意味で、段階をRetentionから並べ直した「RARRA」という考え方も使われています。どちらの並びでも、急所は数字で決める原則は変わりません。

二つめは、実験が人をだます方向に寄らないことです。解約の手続きを見つけにくくする、紹介しないと使えない機能を置く、といった打ち手は、短期の数字をほぼ確実に動かします。でも、それはグロースではなく、信頼を前借りして削っているだけです。紹介の仕掛けに報酬が絡む場合は、紹介した人の投稿が広告として扱われうるので、表示のルールも確かめておく必要があります。

三つめは、規模の小さい事業ほど、数字だけで実験を判定しにくいことです。訪問者が少ないと、統計的に差を確かめるだけの人数がなかなか集まりません。その場合は、数人に実際に使ってもらってどこで手が止まるかを見るなど、目で見る方法を実験に混ぜます。実験の数を増やす考え方は、規模が小さくてもそのまま使えます。数字で判定できないときは、観察で外れを早く知ればいいだけです。

グロースハックに関するよくある質問

グロースハッカーとは何をする人ですか?

事業の成長だけを目標にして、データで伸び悩んでいる場所を見つけ、小さな実験をくり返して改善していく人のことです。ショーン・エリスが2010年にこの呼び名を使いました。広告やPRといった従来のマーケティングの手段に限らず、製品の改善も含めて、成長につながることなら何でも試して確かめるのが特徴です。

AARRRとRARRAの違いは何ですか?

扱う5つの段階は同じで、並べる順番が違います。AARRRは獲得から始まり、RARRAは継続から始まります。継続が弱いまま獲得を増やしても人が抜けていくだけなので、まず使い続けてもらえる状態をつくってから獲得に進む、という考え方を順番で表したのがRARRAです。

グロースハックは古いのですか?

言葉の流行は過ぎましたが、中身は古くなっていません。一時期、裏技や小技を指す言葉として誤解されたために古く見えるだけで、データで急所を探して小さな実験で確かめるという考え方は、いまもプロダクト主導の成長やグロースチームといった形で使われ続けています。

小さな事業でもグロースハックはできますか?

できます。大事なのは予算ではなく、小さく試して結果を記録する回数です。ただ、訪問者が少ないと統計的な判定が難しいので、実際に使ってもらう様子を観察するなど、数字以外の確かめ方を組み合わせます。急所を一つに絞り、試しやすい実験から順に回すという手順は、規模にかかわらず同じです。

おわりに──当たりを探すより、外れを早く数える

グロースハックという言葉を聞くと、誰も思いつかなかった一手で数字が跳ねる話を思い浮かべがちです。でも、そうした一手の裏には、たいてい表に出てこない大量の外れた実験があります。当たりだけが語られるので、ひらめきの話に見えているだけです。

だから、成長に必要なのは、すごいアイデアを一つ待つことではなく、小さな実験を回す仕組みを先につくることです。急所を一つに絞り、試しやすいものから試し、外れを台帳に残す。その回数が、そのまま勝率になります。

アイデアが足りないのではない。試した数が足りないだけ。

次の施策を考えるときは、いちばん良い案を一つ選ぶ前に、今週のうちに試せる小さな案をいくつ並べられるかを数えてみる。そこから、成長の急所が少しずつ見えてくると思います。

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