マーケの目

端数価格効果とは?980円の心理と左端効果、例と効かない場面

このサイトはアフィリエイト広告(Amazonアソシエイト含む)を掲載しています。

最終更新:2026年10月17日

端数価格効果とは、1,000円ではなく980円のように、きりのいい数字から少しだけ下げた価格をつけると、実際の差以上に安く感じられる心理効果のことです。英語ではオッドプライシング(odd pricing)やチャームプライシング(charm pricing)と呼ばれます。効いている仕組みの中心は、価格をいちばん左の数字で読んでしまう「左端効果(レフトディジット効果)」です。結論を先に書くと、端数価格は値段を下げる技術ではなく、どの桁で読まれるかを選ぶ技術です。だから、左端の数字が変わらない場面や、安さより信頼で選ばれる商品では効きません。この記事では、980円などの例の一覧、確認できた研究、きりのいい価格との違い、効きにくい場面と使い方、2026年の日本で気をつけたい総額表示と二重価格表示まで書いていきます。

端数価格効果とは?980円などの例の一覧と左端効果の仕組み

端数価格効果とは、生活者が価格を左の数字から読み、左端の数字が一つ下がった瞬間に「ひとつ下の価格帯」だと受け取る現象です。980円は1,000円より20円安いだけですが、頭の中では「900円台」と「1,000円台」という別の箱に入ります。

売り場でよく見かける置き方を、左端の数字と、生活者の受け取り方で整理しました。

端数価格の例 比べられる価格 左端で起きていること 生活者の受け取り方
980円 1,000円 桁が4桁から3桁に減る 「1,000円しない」
1,980円 2,000円 左端が2から1に下がる 「2,000円より手前」
9,800円 10,000円 桁が5桁から4桁に減り、「万」に届かない 「1万円を切っている」
29,800円 30,000円 左端が3から2に下がる 「2万円台」
198円 200円 左端が2から1に下がる 「100円台」
1,280円 1,300円 左端の1は変わらない 差は20円のまま。効きは小さい

最後の行が、端数価格のいちばん見落とされやすい点です。1,300円を1,280円にしても、左端の数字は1のままで、桁も変わりません。この場合の20円は、ただの20円の値下げです。端数価格が効くのは、左端の数字か桁数が変わるときだけ、と覚えておくと使い分けがはっきりします。

日本の売り場では、980円や1,980円のように8で終わる価格がよく見られます。米国では99セントや9ドルで終わる価格が多く、研究も9で終わる価格を対象にしたものがほとんどです。日本で8が好まれる理由として「末広がりで縁起がいいから」と語られることがありますが、調べた範囲では、それを確かめた調査や論文は見当たりませんでした。端数価格がいつ、なぜ広まったのかについても、レジの不正を防ぐために始まった、とする話を含めて諸説あり、はっきりしません。

研究で分かっていること──アンダーソンとシメスター、トーマスとモーウィッツ

端数価格効果は、実際の売り場で需要が増えることを示したフィールド実験と、なぜ左端の数字だけで判断が動くのかを示した実験の両方で確かめられています。ここでは、書誌と内容を確認できた研究だけを挙げます。

研究 どこで確かめたか 分かったこと
アンダーソンとシメスター(2003年) 小売業者と組んだ3つのフィールド実験 9ドルで終わる価格は3つの実験すべてで需要を増やした。新商品ほど効き、「セール」の表示と組み合わせると効きが弱まる傾向があった
トーマスとモーウィッツ(2005年) 5つの実験室実験 9で終わる価格が1セント高い価格より安く見えるのは、左端の数字が変わるときだけ。比べる価格どうしが近いほど起きやすい
ラセテラ、ポープ、シドナー(2012年) 米国の中古車の卸売取引2,200万件超 走行距離の左端の数字が変わる1万マイルごとに、取引価格が大きく下がる

アンダーソンとシメスターの研究は、エリック・アンダーソン(Eric T. Anderson)とダンカン・シメスター(Duncan Simester)が学術誌(Quantitative Marketing and Economics)の創刊号に発表した論文「9ドルで終わる価格が小売の売上に与える効果──フィールド実験からの証拠」です。実際に商品を売りながら、価格の末尾だけを変えて需要を比べました。9で終わる価格は3つの実験のすべてで需要を増やし、その効き方は、小売業者が前の年から売っていた商品より新しく出した商品のほうが大きかった。論文は、買い手が価格の情報を十分に持っていないときほど9で終わる価格は効きやすい、と考察しています。この記事では、需要が何%増えたかの数字は書きません。原典の本文で確かめられなかったからです。

トーマスとモーウィッツの研究は、マノージ・トーマス(Manoj Thomas)とヴィッキー・モーウィッツ(Vicki G. Morwitz)が2005年に学術誌「ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ」に発表した論文「一円にさとく、百円に疎い──価格の認知における左端効果(Penny Wise and Pound Foolish: The Left-Digit Effect in Price Cognition)」です。2.99ドルと3.00ドルのように左端の数字が変わる組み合わせでは安く見えるのに、左端が同じ組み合わせでは差が出ない。この結果は、端数価格が「末尾の9」ではなく「左端の数字」で効いていることを示しています。論文は、価格以外の数字にも同じ傾向が出ることを報告しています。

価格以外の数字の例として分かりやすいのが、ニコラ・ラセテラ(Nicola Lacetera)、デヴィン・ポープ(Devin G. Pope)、ジャスティン・シドナー(Justin R. Sydnor)が2012年に経済学誌「アメリカン・エコノミック・レビュー」に発表した中古車市場の研究です。全米経済研究所(NBER)の研究紹介によると、走行距離が7万9,900〜7万9,999マイルの車は、8万〜8万100マイルの車よりおよそ210ドル高く売れていました。ところが、7万9,800〜7万9,899マイルの車と比べると、差はおよそ10ドルしかありません。走った距離の差はほとんど同じなのに、左端の数字が7から8に変わるところでだけ、値段が大きく動いていたわけです。買い手が左端の数字で判断していることが、取引のデータにそのまま出ていました。

端数価格ときりのいい価格・アンカリングとの違い

端数価格の反対側にあるのが、1,000円や3万円のような、きりのいい価格です。端数価格が「安さ」を伝えやすいのに対して、きりのいい価格は「品質」や「気持ちよさ」を伝えやすいことが、別の研究で報告されています。

考え方 何で判断を動かすか 伝わりやすいこと 向いている場面
端数価格 左端の数字を一つ手前にする お得さ、手の届きやすさ 日用品、食品、安さで比べられる商品
きりのいい価格 端数をなくして数字を丸める 品質への自信、迷いのなさ 高級品、ギフト、気分で選ぶ買い物
アンカリング 先に見せる基準の数字 基準より安いという感覚 通常価格との比較、上位プランを先に見せる料金表
松竹梅(極端回避性) 両端の選択肢 真ん中なら無難という安心 3段の料金表、コースメニュー

きりのいい価格については、マーク・スタイヴィング(Mark Stiving)が2000年に学術誌「マネジメント・サイエンス」に発表した論文「価格が品質を示すときの価格の末尾(Price-Endings When Prices Signal Quality)」があります。高い価格で品質を示そうとする企業はきりのいい価格を選びやすく、買う前に品質を判断しにくい商品ほどその傾向が強い、と報告されました。モニカ・ワドワ(Monica Wadhwa)とクアンジエ・ジャン(Kuangjie Zhang)が2015年に「ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ」に発表した研究では、きりのいい価格は気持ちで選ぶ買い物と、細かい端数の価格は理屈で選ぶ買い物と相性がよいことが示されています。家族旅行のためのカメラと、授業の制作に使うカメラでは、合う価格の形が違ったわけです。

アンカリング効果とは、手を入れる場所が違います。アンカリングは「何と比べさせるか」で、端数価格は「その数字をどの桁で読ませるか」です。実際の値札では、通常価格を横に置いて、今の価格を980円にする形で、二つが重ねて使われます。アンカリングの原典の実験と価格表示の注意点はアンカリング効果とは?例の一覧と原典の実験、価格表示での使い方に、3段の料金表で真ん中が選ばれる仕組みは松竹梅の法則とは?別名の極端回避性と割合の真偽、価格3段の事例に、段の刻み方はプライスライニングに書いています。

端数価格が効きにくい場面と、使い方の手順

端数価格が効きにくいのは、左端の数字が変わらないとき、安さより品質や信頼で選ばれる商品のとき、買い手が相場をよく知っているとき、そして「セール」などほかの安さの合図がすでに出ているときです。どれも、研究で分かっている仕組みから素直に導けます。

自分で有料の記事やサービスの値段を決める側になってから、末尾をきりよくするか、少し手前に置くかで、毎回手が止まるようになりました。迷う理由ははっきりしていて、端数は「お得です」と、きりのいい数字は「この値段で自信があります」と、それぞれ別のことを語ってしまうからです。どちらが正しいかではなく、その商品にどちらを語らせたいかで決めるしかありません。

手順にすると、次のようになります。

  • その商品が「安さで比べられる商品」か「品質や信頼で選ばれる商品」かを先に決める(後者なら、きりのいい価格を第一候補にする)
  • 税込みの価格で、左端の数字か桁数が変わる境目を書き出す(1,000円、2,000円、1万円など)
  • いまの価格が境目のすぐ上にあるなら、境目の手前に置けるかを利益の側から確かめる
  • 境目から遠い価格なら、端数にしても効きは小さいので、きりのいい価格との差で決めない
  • 「セール」や「通常価格」の表示と重ねるときは、安さの合図が重なりすぎていないかを確かめる
  • 可能なら、末尾だけを変えた二つの価格で売れ方を比べる

三つ目の「利益の側から確かめる」は、とくに大事な手順です。1,000円を980円にすると、売上の2%を手放すことになります。その2%が利益の何割にあたるかは商品の原価で大きく変わるので、端数で増える販売数が、それを取り返せるかを見ておく必要があります。六つ目の比べ方は、ABテストとは?やり方の手順と有意差の考え方、一か所だけ変える理由で書いた、一か所だけ変えて比べる考え方がそのまま使えます。

高級品で端数価格が逆効果になりやすいのは、端数そのものが「安く見せたい商品」の合図として読まれるからです。ブランドの価値で選ばれる商品に29,800円をつけると、買い手は2万円台に見えて得をした気分になるより先に、値段を気にする商品なのだと受け取るかもしれません。端数価格は、その商品が何として選ばれたいかとセットで決めるものです。

日本での注意点──総額表示、税率の変更、二重価格表示

日本で端数価格を使うときは、生活者が目にする税込みの数字で設計すること、2027年4月から予定されている飲食料品の消費税率の引き下げで末尾が崩れること、そして比較の価格と並べるときの二重価格表示のルールの3つに気をつける必要があります。

一つ目は総額表示です。生活者にあらかじめ価格を示すときは、消費税を含めた税込価格を表示することが義務になっています(国税庁「総額表示」の義務付け)。税抜きで980円にしても、生活者の目に入る税込みの価格は1,000円を超えてしまいます。左端効果は目に入る数字で起きるので、端数を合わせるのは税込みの側です。

二つ目は税率の変更です。国税庁の消費税率引下げ特設サイトによると、2026年9月15日に閣議決定された大綱では、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる案が示されています。法案が国会で成立した場合の内容です。計算例として、税抜き908円で税込み980円(8%・1円未満切り捨て)の食品は、税抜きを据え置くと税込み917円になります。安くなったのに、末尾の「80」は消えます。端数処理のやり方は事業者によって違いますが、食品を扱う売り場では、税込みの末尾を守るのか、税抜きを守るのかを、引き下げの前に決めておくことになりそうです。

三つ目は二重価格表示です。「通常1,280円のところ980円」のように比較の価格と並べるときは、景品表示法の不当表示にあたらないように気をつける必要があります。消費者庁の二重価格表示のページでは、同じ商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」と比べる場合は不当表示にあたるおそれはないとされています。反対に、同じではない商品の価格と比べる場合や、比較の価格について実際と違う表示やあいまいな表示をする場合は、不当表示にあたるおそれがあるとされています。販売価格の安さを強調する表示も、同じページで価格表示ガイドラインの対象として挙げられています。取引条件を実際より有利に見せる表示の考え方と事例は優良誤認と有利誤認の違いとは?景品表示法の事例と課徴金を解説に任せます。

この記事は表示のルールの考え方を紹介するもので、法的助言ではありません。個別の表示が問題ないかは、消費者庁のガイドラインを確かめたうえで、必要に応じて専門家に相談してください。

端数価格効果に関するよくある質問

端数価格効果の身近な例にはどんなものがありますか?

980円、1,980円、9,800円、29,800円のように、きりのいい数字の少し手前に置かれた価格がそうです。980円は「1,000円しない」、9,800円は「1万円を切っている」と受け取られます。どの例も、左端の数字か桁数が一つ下がっているのが共通点です。

日本ではなぜ980円のように8で終わる価格が多いのですか?

米国では9で終わる価格が多く、研究もほとんどが9の末尾を対象にしています。日本で8が多い理由は「末広がりで縁起がいいから」などと語られますが、調べた範囲では、それを確かめた調査や論文は見当たりませんでした。端数価格の効きの中心は末尾の数字ではなく左端の数字なので、8でも9でも、左端が一つ下がっていれば仕組みは同じです。

左端効果とは何ですか?

左端効果は、複数の桁がある数字を、いちばん左の数字に引っ張られて判断してしまう傾向のことで、レフトディジット効果とも呼ばれます。トーマスとモーウィッツの2005年の論文では、2.99ドルと3.00ドルのように左端の数字が変わるときにだけ、9で終わる価格が安く見えることが示されました。中古車の走行距離のように、価格以外の数字でも同じ傾向が確かめられています。

端数価格が逆効果になることはありますか?

あります。高級品やギフト、ブランドの価値で選ばれる商品では、端数が「安く見せたい商品」の合図として読まれ、品質への信頼を下げることがあります。研究でも、高い価格で品質を示したい企業はきりのいい価格を選びやすいことや、気持ちで選ぶ買い物ではきりのいい価格が好まれることが報告されています。

おわりに──安くしたのではない。左端の数字を一つ手前にしただけ

端数価格効果は、980円が1,000円より安く見えるという、誰もが知っている話です。でも、研究を順に読んでいくと、効いているのは末尾の8や9ではなく、いちばん左の数字のほうでした。左端が変わらなければ、20円はただの20円です。

だから端数価格を考えるときに見るべきなのは、何円下げるかより、その価格がどの桁で読まれるか、そしてその商品に「お得さ」と「自信」のどちらを語らせたいか、のほうだと思います。安さで選ばれる商品なら境目の手前に置き、信頼で選ばれる商品なら、あえてきりのいい数字で言い切る。

安くしたのではない。左端の数字を一つ手前にしただけ。端数価格とは、値段を下げる技術ではなく、どの桁で読まれるかを選ぶ技術です。

マーケ・企画で使える「図解の型100」を、LINEオープンチャットで無料配布しています(匿名で参加できます)。→ 受け取る
MARKETER CAREER TYPE キャリアタイプ診断 10の質問で、いまのあなたの「次の一手」がわかります。登録不要・約2分。 診断してみる →