最終更新:2026年10月17日
松竹梅の法則とは、価格や内容の違う選択肢を3つ並べると、生活者が両端を避けて真ん中の「竹」を選びやすくなる傾向のことです。行動経済学では別名で「極端回避性」と呼ばれ、真ん中が選ばれる現象そのものは「妥協効果」として、1989年にイタマール・シモンソンが論文で示しました。よく似た「おとり効果」は本命より明らかに見劣りする選択肢を足して本命を引き立てる現象で、両端を置いて真ん中を選ばせる松竹梅の法則とは、仕掛けを置く場所が違います。結論を先に書くと、松竹梅の法則を使うとは「真ん中に売りたいものを置くこと」ではなく、「真ん中を選ぶ理由を生活者に渡すこと」です。この記事では、価格3段構成の一覧と事例、原典の実験と再現性、よく語られる「割合」の真偽、実務での組み立て方、景品表示法との線引きまで書いていきます。
松竹梅の法則とは?別名と価格3段構成の一覧
松竹梅の法則とは、3つの選択肢のうち、いちばん高いものといちばん安いものが「比べる物差し」になり、その間にある選択肢が無難で失敗の少ない答えに見えてくる現象です。名前は、品物の等級を松・竹・梅で呼び分けてきた日本の慣習から来ていて、学術用語ではありません。
3段それぞれが料金表の中で担っている役割を整理すると、次のようになります。
| 段 | 役割 | 生活者の頭の中 | 作るときの確認点 |
|---|---|---|---|
| 松(上位) | 上限と基準を見せる | 「いちばん良いのはこれ。でも自分には多すぎるかも」 | 実際に売っていて、選んだ人が満足できる中身か |
| 竹(中位) | 本命 | 「真ん中なら大きく外さない」「人にも説明しやすい」 | 選ぶ理由を一言で言えるか |
| 梅(下位) | 入口と安心を見せる | 「最低限はこれで足りる。でも少し物足りないかも」 | 安さで選んだ人が損をしない中身か |
身近な場面に当てはめると、次のような並びがよく見られます。どの段がどれだけ売れたかの数字ではなく、3段の置き方の事例として見てください。
| 場面 | 松 | 竹 | 梅 |
|---|---|---|---|
| 寿司・うなぎ・定食のメニュー | 特上 | 上 | 並 |
| コース料理・宴会プラン | 品数と飲み放題の時間が多いコース | 標準のコース | 品数を絞ったコース |
| オンラインサービスの料金表 | 法人向けの上位プラン | 標準プラン | 個人向けの入門プラン |
| 講座・有料コンテンツ | 個別相談つきの上位版 | 本編と特典のセット | 本編のみ |
共通しているのは、生活者が「どれが自分に合うか」をそれだけでは判断できないことです。だから両端を見て、自分の位置を真ん中に置く。松竹梅の法則は、選ぶ人が自分の好みや必要な量に自信を持てないときほど強く出る、と考えると使いどころが分かりやすくなります。
原典はシモンソンの1989年の論文──カメラの実験と「割合」の真偽
松竹梅の法則の原典は、マーケティング研究者のイタマール・シモンソン(Itamar Simonson)が1989年に学術誌「ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ」に発表した論文「理由に基づく選択──アトラクション効果と妥協効果(Choice Based on Reasons: The Case of Attraction and Compromise Effects)」です。選択肢が真ん中の位置に来るとシェアが伸びる「妥協効果」を予測し、実験で確かめました。
シモンソンの説明の核は、「人は、いちばん良い理由で説明できる選択肢を選ぶ」とする考え方です。自分の好みがはっきりしないとき、真ん中は「極端ではない」という分かりやすい理由を最初から持っています。論文では、選んだ理由を他人に説明する必要があると伝えられた人ほど、妥協効果とおとり効果が強く出ることも報告されています。
1992年には、シモンソンと心理学者のエイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)が「ジャーナル・オブ・マーケティング・リサーチ」に論文「文脈の中の選択──トレードオフの対比と極端回避(Choice in Context: Tradeoff Contrast and Extremeness Aversion)」を発表しました。選択肢は真ん中にあると魅力が増し、端にあると魅力が減る。この傾向に「極端回避性」という名前を付けたのがこの論文で、松竹梅の法則の別名として極端回避性が挙がるのはここが出どころです。
この論文でよく引かれるのが、ミノルタの一眼レフカメラを使った実験です。数字は論文の表のとおりに書きます。
| カメラ | 価格 | 2台だけで選んだとき(106人) | 上位機を足して選んだとき(115人) |
|---|---|---|---|
| X-370(下位機) | 169.99ドル | 50% | 22% |
| マクサム3000i(中位機) | 239.99ドル | 50% | 57% |
| マクサム7000i(上位機) | 469.99ドル | なし | 21% |
2台だけのときは半々だった中位機が、もっと高い上位機を足しただけで最も選ばれる機種になりました。中位機と下位機の2台の間だけで比べ直すと、中位機の取り分は50%から72%に伸びています。高い選択肢はそれ自体があまり売れなくても、真ん中の見え方を変えたわけです。
再現性については、2016年に学術誌「ジャーナル・オブ・コンシューマー・サイコロジー」に載ったノイマン、ベッケンホルト、シンハのメタ分析が参考になります。142の実験結果をまとめたところ、真ん中の選択肢が選ばれやすい傾向は安定して確認されましたが、効果の大きさは研究の設計によって平均の3倍ほどまで変わりました。価格と品質だけのトレードオフでは弱まり、比べる軸が多いときや数字で表せない属性があるときには強まる傾向も報告されています。効果はある。でも、どれくらい効くかは並べ方しだい。それが現時点の読み方だと思います。
検索でよく調べられている「割合」についても書いておきます。ネット上では「松2・竹5・梅3」のような比率が松竹梅の法則の目安として語られることが多いのですが、調べた範囲では、この比率の一次出典になる調査や論文は見当たりませんでした。出典のある数字として挙げられるのは、上のカメラの実験のように、特定の商品と条件で測った結果だけです。自社の料金表で真ん中が何割になるかは商品と見せ方で変わるので、借りてきた比率ではなく自社の販売データで確かめるのが安全です。
おとり効果・アンカリング効果との違い
松竹梅の法則とおとり効果の違いは、真ん中を選ばせるのか、見劣りする選択肢の隣にいる本命を選ばせるのかにあります。どちらも「3つ目の選択肢を足すと選ばれ方が変わる」現象で、シモンソンの1989年の論文も両方を同じ枠組みで説明していますが、足す選択肢の性質がまったく違います。選択肢の数が多すぎて選べなくなる現象は決定回避の法則で、こちらは並べ方ではなく数の効果です。
| 効果 | 置く・足す選択肢 | 選ばれやすくなるもの | 手を入れる場所 |
|---|---|---|---|
| 松竹梅の法則(妥協効果) | 両端の選択肢(より高い松と、より安い梅) | 真ん中の竹 | 選択肢の並びと幅 |
| おとり効果 | 本命より明らかに見劣りする選択肢 | 見劣りする選択肢に勝っている本命 | 本命のすぐ隣の比較対象 |
| アンカリング効果 | 先に見せる数字や情報 | 基準より安く見えるもの | 何を先に見せるか |
| プライスライニング | 価格帯をいくつかに絞った品揃え | 生活者が選びやすい価格帯 | 品揃え全体の価格の刻み方 |
アンカリング効果とは重なって見える部分があります。上位の松を先に見せると、その価格が基準になって竹が手頃に見えるからです。ただ、アンカリングは基準の数字に判断が引っ張られる現象で、松竹梅は端を避けたい心理なので、効いている仕組みは別です。上のカメラの実験でも、上位機を足したときに取り分を大きく減らしたのは下位機で、中位機は逆に伸びました。論文はこの動きを、中位機が端から外れて「真ん中」になったことで説明しています。アンカリングの原典の実験と価格表示の注意点はアンカリング効果とは?例の一覧と原典の実験、価格表示での使い方で書いています。
もう一つ、松竹梅の法則はアップセルの設計とも近い位置にあります。上位の選択肢を見せて単価を上げるという点では同じですが、アップセルは「いま選ぼうとしている人に一段上をすすめる」動きで、松竹梅は「最初から3段で見せて真ん中に着地してもらう」配置です。動きと配置の違いはクロスセルとアップセルの違いとは?ダウンセルも含めた一覧表と使い方にまとめています。
実務でどう使うか──竹を選ぶ理由を一言で渡せるかを検算する
松竹梅の法則を実務で使うときの検算は、「竹を選んだ人が、その理由を一言で言えるか」を確かめることです。シモンソンの論文が示したとおり真ん中が選ばれるのは真ん中が説明しやすいからなので、竹に説明しやすい理由がなければ、並べ方をいくら工夫しても効きは弱くなります。
広告や販促の企画に関わっていると、料金表の相談では「真ん中を売りたい」という話がほぼ必ず出ます。でも、そこで先に決まっているのは竹の価格だけで、竹を選ぶ理由はまだ言葉になっていないことが少なくありません。価格から決めて理由を後付けするより、理由から組み立てたほうが、料金表は崩れにくいと思います。
手順にすると、次のようになります。
- 竹を先に決める(売りたいものではなく、いちばん多くの人に合い、選ばれて満足される中身と価格)
- 竹を選ぶ理由を一言にする(「迷ったらこれ」で終わらせず、誰のどんな用事に足りるのかまで書く)
- 松は実際に売る気で作る(上位を必要とする人が本当に選んで満足できる中身にする。見せるためだけの松は作らない)
- 梅は「最低限で困らない」中身にする(安さで選んだ人が後悔する梅は、ブランド全体の信頼を下げる)
- 段の差を価格以外の軸でも付ける(サポート、回数、期間、人数など、比べる軸を2つ以上にする)
- 実際の構成比を自社のデータで見る(竹の比率が想定より低ければ、理由の言葉か差の付け方を見直す)
5つ目の「価格以外の軸」は、先のメタ分析の結果とも合っています。価格と品質の二つだけで差を付けた並びでは効果が弱まりやすく、比べる軸が多いほうが真ん中は選ばれやすい。値段の刻みだけで3段を作ると、生活者は単純に「いちばん安い梅で足りるか」を考え始めます。
竹の理由を言葉にする作業は、そのまま価値提案を考える作業でもあります。誰のどんな用事を、どの段がいちばんよく片づけるのか。その整理の仕方はバリュープロポジションとは?意味と例、USP・キャンバスとの違いで書いた考え方がそのまま使えます。3段のうちどれが選ばれているかを数字で確かめるときは、ABテストとは?やり方の手順と有意差の考え方、一か所だけ変える理由で書いたように、並べ方を一か所ずつ変えて比べるのが基本です。
日本での注意点──見せるためだけの松と、売る気のない梅は線を越える
日本で松竹梅の法則を使うときに気をつけたいのは、3段のどれかが「実際には買えない」「買わせる気がない」状態になることです。景品表示法にもとづく「おとり広告に関する表示」の告示は、実際には取引に応じられない商品の広告を不当表示としていて、松竹梅の並べ方もこの線を越えることがあります。
消費者庁の「おとり広告に関する表示」のページでは、取引を行う準備がされていない商品の表示、供給量や期間の限定を明りょうに書いていない表示、合理的な理由なく取引の成立を妨げる表示などが、告示の対象として挙げられています。その運用基準(消費者庁)では、取引の成立を妨げる行為の例として、広告した商品の難点をことさら指摘する場合や、別の商品をすすめて断られたのに重ねてすすめる場合が示されています。
松竹梅に置き換えると、安い梅を広告で打ち出して人を集め、問い合わせてきた人に梅の欠点ばかりを話して竹へ誘導する流れは、この例に近づきます。見せるためだけに置いた松に、実際には在庫も提供の体制もない場合も同じです。3段とも、選ばれたらきちんと売れる状態にしておくことが前提になります。
竹に付ける「いちばん人気」「おすすめNo.1」の表示にも注意が要ります。販売実績などの根拠がないまま人気を表示すると、No.1表示の問題になるおそれがあります。根拠に求められる条件はNo.1表示のルールとは?景品表示法の根拠4条件と措置命令の事例で、価格や取引条件を実際より有利に見せる表示の考え方は優良誤認と有利誤認の違いとは?景品表示法の事例と課徴金を解説で書いています。
2026年の時点では、生活者のほうも料金表の並べ方に慣れてきています。極端に高いだけの松や、明らかに使いものにならない梅を見ると、情報感度の高い人ほど「真ん中を買わせたいのだな」と気づきます。気づかれた並びは、竹の価値まで疑わせてしまう。3段とも本気で作った料金表が、結局いちばん長く効くと思います。
松竹梅の法則に関するよくある質問
松竹梅の法則の別名や、英語での呼び方は何ですか?
行動経済学では「極端回避性」と呼ばれ、英語ではエクストリームネス・アバージョン(extremeness aversion)や、真ん中が選ばれる現象を指すコンプロマイズ・エフェクト(compromise effect=妥協効果)と表されます。「松竹梅の法則」は日本で広まった呼び名で、海外の論文に出てくる言葉ではありません。原典を調べるときは、シモンソンの1989年の論文と、シモンソンとトヴェルスキーの1992年の論文から読むのが近道です。
松竹梅の法則の割合は「2:5:3」が正しいのですか?
「松2・竹5・梅3」のような比率がよく語られますが、調べた範囲では、一次出典になる調査や論文は見当たりませんでした。論文で確認できるのは、1992年のカメラの実験で上位機を足すと中位機が57%選ばれたように、特定の商品と条件で測った結果だけです。自社の構成比は、自社の販売データで確かめるのが確実です。
松竹梅はどれがいちばん上ですか?読み方も教えてください。
読み方は「しょうちくばい」です。国語辞典にも、品物を三つの等級に分けるときに使う言葉で、ふつうは松を最上級とすると載っています。もともとは寒さに耐える三つの植物をめでたいものとして並べた言葉なので、店によっては順番が分かりにくいこともあります。料金表では、名前だけに頼らず価格と中身を並べて見せるのが親切です。
営業で松竹梅の法則を使うときのコツはありますか?
提案の段階で3つの案を出し、真ん中を本命にする使い方が一般的です。コツは、3案とも実際に引き受けられる案にして、真ん中の案を選ぶ理由を相手の社内で説明できる言葉で添えることです。シモンソンの論文では、選んだ理由を他人に説明する必要がある人ほど真ん中を選びやすいことが報告されていて、社内の稟議を通す担当者はまさにその立場にいます。
おわりに──真ん中が売れるのではない。真ん中を選ぶ理由が売れている
松竹梅の法則は、3つ並べれば真ん中が売れる、という便利な法則のように語られがちです。でも、原典の論文が示したのは、人は自分の好みに自信がないとき、いちばん説明しやすい選択肢を選ぶということでした。真ん中は、たまたまその説明がいちばん簡単な場所にあるだけです。
だから料金表を作るときに考えたいのは、どの段に何円を置くかより、竹を選んだ人が家族や上司に何と説明するか、のほうかもしれません。その一言が用意できていれば、松と梅は無理に飾らなくても、竹の理由を両側から支えてくれます。
真ん中が売れるのではない。真ん中を選ぶ理由が売れている。松竹梅の法則を使うとは、3つの値段を決めることではなく、真ん中を選ぶ理由を生活者に渡すことだと思います。