最終更新:2026年10月17日
No.1表示とは、広告で「売上No.1」「顧客満足度No.1」「地域で第1位」のように、自社の商品やサービスが一番であると強調する表示のことです。景品表示法はNo.1表示そのものを禁じていませんが、合理的な根拠がなく事実と違う場合は、優良誤認や有利誤認の不当表示になります。消費者庁が2024年9月26日に公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」は、満足度のような主観的な評価のNo.1が根拠ありと認められるための条件を4つに整理しました。結論から言えば、No.1表示のルールが問うのは「一番かどうか」より「一番だと言える調査をしたかどうか」です。一番であることより、一番だと言える根拠のほうが難しい。この記事では、根拠の4条件、2008年と2024年の2つの報告書、第三者の主観評価型No.1が問題になる理由、措置命令と課徴金の事例、出す前のチェックリストまでを書いていきます。
根拠のある約束とない約束の違いは、RTB(Reason to Believe)とは?意味と種類、例をマーケティングで解説の中で一段落だけ触れました。この記事はその深掘りとして、No.1表示の判定の基準に絞っています。
No.1表示とは?景品表示法上の考え方と合理的な根拠の4条件一覧
No.1表示が景品表示法上の問題にならないためには、その表示を裏づける調査が「合理的な根拠」と認められる必要があります。2024年の報告書は、顧客満足度のような主観的評価によるNo.1表示について、少なくとも次の4つを満たす必要があるとしています。
| 条件 | 中身 | 報告書が挙げている問題になる例 |
|---|---|---|
| ①比較する商品等が適切に選定されている | 「No.1」と言う以上、原則として市場の主要な競合を比較の対象に含める | 主要なサービスの一部または全部を比較対象に入れずに「○○サービス満足度No.1」とする。検索結果の上位に出た会社だけを比べる |
| ②調査対象者が適切に選定されている | 無作為に選び、表示が示す属性(実際に使った人など)の人に聞く | 自社の商品を継続して買っている顧客や、自社の社員・関係者だけに聞く。利用経験を確かめずに「顧客満足度」を調べる |
| ③調査が公平な方法で実施されている | 回答を誘導せず、結論ありきの調査にしない | 自社の商品を選択肢の最上位に固定する。1位になるまで調査を繰り返す、1位になった時点で調査をやめる |
| ④表示内容と調査結果が適切に対応している | 表示の言葉が、実際に調べた中身とずれていない | ウェブサイトの印象を聞いただけの調査を根拠に「顧客満足度No.1」と表示する |
報告書は一般論として、合理的な根拠と言えるには、調査が学術界や産業界で一般的に認められた方法か、社会通念上妥当な方法で行われていること、そして表示の内容がその調査結果と適切に対応していることの2つが必要だと書いています。上の①から③は前者を主観的評価の調査に当てはめたもので、④が後者です。
この4条件を眺めると、問われているのは調査の「結果」ではなく「設計」だと分かります。1位という結果がどれだけ出ていても、比べた相手、聞いた相手、聞き方のどこかが表示とずれていれば、根拠にはなりません。
No.1表示のガイドラインはどこにある?景表法の条文と2つの報告書
No.1表示だけを定めた条文はなく、実務の物差しになっているのは景品表示法の条文と、公正取引委員会(2008年)と消費者庁(2024年)がそれぞれ公表した実態調査の報告書です。ガイドラインという名前の文書を探すより、この4つをセットで読むほうが早いと思います。
| 資料 | 公表・施行 | No.1表示に関わる中身 |
|---|---|---|
| 景品表示法 第5条第1号・第2号 | 現行法 | 品質などを実際より著しく優良と示す表示(優良誤認)と、価格などの取引条件を著しく有利と誤認させる表示(有利誤認)の禁止 |
| 景品表示法 第7条第2項(不実証広告規制) | 現行法 | 消費者庁が期間を定めて根拠資料の提出を求め、出せなければ措置命令との関係で不当表示とみなす |
| 公正取引委員会「No.1表示に関する実態調査について(概要)」 | 2008年6月13日 | 望ましい表示として、対象となる商品の範囲・地理的範囲・調査の期間や時点・出典を明りょうに書くこと |
| 消費者庁「No.1表示に関する実態調査報告書」 | 2024年9月26日 | 主観的評価によるNo.1と「医師の90%が推奨」のような高評価%表示について、合理的な根拠の考え方と典型的な問題例 |
第7条第2項の不実証広告規制は、No.1表示にとっていちばん重い条文です。消費者庁の解説ページによると、求められた資料を期間内に出さない場合や、出した資料が合理的な根拠と認められない場合、その表示は措置命令との関係では不当表示とみなされ、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されます(第8条第3項)。つまりNo.1表示は、一番であることを相手が崩すのではなく、こちらが示せなければ違反になる構造です。
2008年の公正取引委員会の資料は、主に売上や販売数のような数えられる指標のNo.1を念頭に、書き方の作法を4つ示しています。明りょうでない例として「地域No.1の合格実績」(どの地域か分からない)や、何年何月号の雑誌によるのかだけを書いて調査期間が分からない表示が挙がっています。出典は調査会社名と調査の名称まで書き、調査方法や結果をホームページのアドレスなどで確認できるようにするのも一つの方法だとしています。
「第三者の主観評価型No.1」は何が問題か──イメージ調査と措置命令の事例
いま問題の中心にあるのは、商品を使ったことがない人にウェブサイトの印象を聞いた調査(イメージ調査)を根拠に、「顧客満足度No.1」と表示するケースです。生活者はそれを「実際に使った人が選んだ一番」と受け取るので、表示と調査の中身が食い違います。
No.1表示は、根拠の種類で大きく3つに分けると整理しやすくなります。
| 種類 | 例 | 根拠の取り方 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 客観的な指標のNo.1 | 売上No.1、販売数第1位、施工棟数No.1 | 売上額や販売数など、数えられる数字 | 対象の範囲・地域・期間・出典の書き漏れ(2008年の資料) |
| 主観的評価のNo.1 | 顧客満足度No.1、おすすめしたいNo.1、コスパが良いと思うNo.1 | アンケート調査 | 比較対象・調査対象者・調査方法・表示との対応(2024年の4条件) |
| 高評価%表示 | 医師の90%が推奨、悩む方の90%が支持 | 専門家や同じ悩みを持つ人へのアンケート | 医師かどうかを自己申告だけで確かめている、医師の専門分野が商品の評価に必要な知見と合っていない |
報告書の概要資料によると、令和5年度に消費者庁が出した措置命令44件のうち13件がNo.1表示に関するもので、いずれもイメージ調査を根拠に「顧客満足度No.1」などと表示していました。消費者庁は実際の広告から368件のNo.1表示などを集め、消費者1,000人へのウェブアンケートも行っています。No.1表示が新しい商品を買うときの判断に「かなり影響する」「やや影響する」と答えた人は約5割で、「顧客満足度No.1」の表示例を見て「実際の利用者に調査をしていると思う」と答えた人は56.8%でした。
報告書は、「〜したい」「〜と思う」という言い方なら利用者調査を示す表示に当たらない、という事業者側の考え方にも答えています。消費者の意識調査では「利用したい」「コスパが良いと思う」の表示でも約半数が実際の利用者に聞いたと受け取っており、言い方を変えても利用者調査に見える場合があるとしました。「サイトイメージ調査」「本ブランドの利用有無は聴取していません」といった注記を添えていても、表示と調査が対応していないことに変わりはないとも書いています。
具体的な事例として、消費者庁は2024年2月29日、飯田グループホールディングス株式会社ほか4社に対し、景品表示法に基づく措置命令を行いました(同年3月1日公表)。注文住宅の建築請負について「満足度No.1を獲得」などと表示していましたが、根拠の調査は、回答者が実際に利用したことがある人か、知見を持つ人かを確かめず、特定の9事業者だけを任意に選んで各社のウェブサイトの印象を問うもので、客観的な調査ではなかったと認定されています。
ヒアリングからは、背景も見えてきます。No.1表示をした理由は「競合他社がNo.1表示を行っているため」という回答が多く、調査会社から1フレーズ10万円から数十万円で勧誘されたことをきっかけに挙げる広告主が多かったそうです。そして多くの広告主は、根拠にした調査の質問項目や比較対象を把握していませんでした。ほかの人が選んでいることを根拠にする説得の効き方は社会的証明の原理とは?例と実験、バンドワゴン効果との違いを解説に書きましたが、その効き目が強いぶん、中身のない一番が出回りやすかったのだと思います。
実務でどう使うか──No.1表示を出す前のチェックリスト
実務でNo.1表示を使うときは、書く前に「この一番は、何について、何と比べて、誰に、どう聞いた結果なのか」を自分の言葉で説明できるかを確かめます。説明できなければ、No.1を外すのがいちばん安全です。
| 確認すること | 見るポイント | よりどころ |
|---|---|---|
| 何の一番か | 売上なのか満足度なのか、指標が表示の言葉と一致しているか | 2024年報告書の④ |
| 何と比べたか | 市場の主要な競合が入っているか。比較対象の選び方を説明できるか | 2024年報告書の① |
| 誰に聞いたか | 無作為に選んだか。「顧客満足度」なら実際の利用者か。「20代」などの限定があれば、その人たちに聞いたか | 2024年報告書の② |
| どう聞いたか | 選択肢の順番を固定していないか。1位になったところで打ち切っていないか | 2024年報告書の③ |
| 範囲・地域・期間を書いたか | 対象の商品の範囲、調査した地域、調査の期間や時点を表示に明記しているか。直近の調査か | 2008年の資料 |
| 出典を書いたか | 調査会社名と調査の名称。方法の概要をURLやQRコードで確かめられるようにしているか | 2008年の資料・2024年報告書 |
| 資料をすぐ出せるか | 質問票、回答者の条件、集計結果を手元に保管し、求められたら出せるか | 景品表示法第7条第2項・第22条 |
広告会社で企画を考える側にいると、No.1は表現がほぼ固まったあとに「もう一つ強い言葉を」と足されやすい言葉に見えました。報告書のヒアリングで、動機の多くが「競合がやっているから」だったのも分かる気がします。でも最後に足した言葉ほど、根拠の確認が薄くなります。一番であることより、一番だと言える根拠のほうが難しい。だからNo.1は、表現の仕上げではなく、調査の設計から始める言葉だと考えています。
自分でブログやnoteを書く側に立つと、比較記事で「人気No.1」と書きたくなる場面はあります。そのとき確かめるのは、その一番が誰の調査で、何を比べた結果なのかです。答えが見つからなければ、「人気」ではなく「ぼくが選んだ理由」を書くほうが、読む人にとっても正直な情報になると思います。
日本市場・2026年時点での注意点──課徴金と直罰、そして法的助言ではないこと
2026年の時点で押さえておきたいのは、No.1表示の違反が措置命令で終わらず課徴金納付命令まで続いていることと、2024年10月1日に施行された改正景品表示法で罰則と課徴金が強まったことです。
課徴金は景品表示法第8条にもとづき、違反した期間の対象商品の売上額に3%を掛けて計算します。額が150万円未満のときや、表示が不当だと知らず、知らないことに相当の注意を怠っていなかったと認められるときは命じられません。消費者庁は2025年6月5日、蓄電池を含む太陽光発電システムの「No.1」表示について株式会社新日本エネックスに9,989万円の課徴金納付命令を出しました。2026年3月12日には、「イモトのWiFi」の「お客様満足度 No.1」などの表示についてエクスコムグローバル株式会社に1億7,262万円の課徴金納付命令を出しています。どちらも、根拠とした調査が客観的か、調査結果と表示が対応しているかを十分に検証しなかったことが、ただし書に当たらない理由とされました。調査会社に頼んだことは、確認しなくてよい理由にはならないということです。2024年の報告書も、第三者が調査をしていても不当なNo.1表示の責任は広告主にあると書いています。
改正法(令和5年法律第29号)の主な中身は、消費者庁の景品表示法のページにまとめられています。優良誤認・有利誤認に対する直罰(100万円以下の罰金・第48条)が新しくでき、過去10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者には課徴金を1.5倍に加算する規定も入りました。違反の疑いがある事業者が是正の計画を出して認定を受ける確約手続も始まっています。あわせて第22条は、表示を適正に管理する体制の整備を事業者に義務づけており、その指針には表示の根拠となる情報の確認や、事後に確かめられるようにする保管も含まれています。
この記事を書いた2026年10月17日時点で、2024年の報告書のあとにNo.1表示だけを対象とした新しいガイドラインは、消費者庁のページでは見当たりませんでした。今後の改定や新しい事例は、消費者庁の報道発表で確かめてください。
この記事は景品表示法の一般的な解説であって、個別の表示についての法的助言ではありません。自社の表示が問題にならないかの判断は、消費者庁の景品表示法の相談・情報提供の窓口や、広告表示にくわしい弁護士に確認してください。
No.1表示に関するよくある質問
No.1表示は景品表示法で禁止されていますか?
No.1表示そのものは禁止されていません。合理的な根拠にもとづかず事実と違う場合に、実際や競合より著しく優良または有利だと誤認させる不当表示として問題になります。根拠の資料を求められて出せなければ、不当表示とみなされる点に注意が必要です。
「顧客満足度No.1」を表示するにはどんな調査が必要ですか?
消費者庁の2024年の報告書は、主要な競合を比較対象に含めること、実際の利用者を無作為に選んで聞くこと、回答を誘導しない公平な方法で行うこと、表示の言葉と調査の中身を対応させることの4つを挙げています。サイトの印象を聞いただけのイメージ調査は、顧客満足度の根拠になりません。調査の範囲・期間・出典も表示に明記します。
調査会社のNo.1調査を使えば問題ありませんか?
調査会社が調べたことは、それだけでは根拠の証明になりません。報告書は、第三者が調査をしていても不当なNo.1表示の責任は広告主にあるとし、課徴金の事例でも、広告主が調査の中身を十分に検証しなかったことが理由に挙がっています。質問項目、比較対象、回答者の条件を自分で確かめてから使います。
No.1表示に注記を入れれば大丈夫ですか?
注記で調査方法を書いても、表示と調査の中身がずれていれば問題は解消しません。報告書は「サイトイメージ調査」などの注記があっても、「顧客満足度No.1」という表示と調査結果が対応していないことに変わりはないとしています。注記は根拠を補う情報であって、根拠の代わりにはなりません。
おわりに──No.1は、表現ではなく調査の名前
No.1という言葉は、広告の中でいちばん短くて、いちばん強い言葉の一つです。だからこそ、最後にひと押し足したくなる。でも景品表示法が見ているのは、その言葉の強さではなく、その言葉の後ろにある調査の中身です。
一番ではないから違反になるのではない。一番だと示せないから違反になる。
No.1と書きたくなったら、その横に「何を、何と比べて、誰に、どう聞いたか」を一行で書けるかを試してみてほしいと思います。書けたなら、それはもう表現ではなく、信じてもらえる事実になっています。