最終更新:2026年10月12日
ファイブフォース分析とは、業界の収益性を決める5つの力(新規参入の脅威・代替品の脅威・買い手の交渉力・売り手の交渉力・業界内の競争)を見て、その市場で利益を残せるかどうかを判断するフレームワークです。経営学者のマイケル・ポーターが1979年にハーバード・ビジネス・レビューで発表しました。ぼくはこれを「何をやるか」を考える道具ではなく、「その市場で、そもそも儲かるのか」を確かめる検算の道具として使っています。この記事では、5つの力の一覧表とやり方の手順、業界ごとの例、2026年の時点で「古い」と言われる理由への答えまで書いていきます。
ファイブフォース分析とは?5つの力の一覧
ファイブフォース分析は、業界に働く5つの圧力が強いほど、その業界で生まれた利益は誰かに持っていかれる、という見方で業界を診断する方法です。5つのうち4つは業界の外側から、残りの1つは業界の内側から利益を削ります。
| 力 | 何が利益を削るのか | 力が強くなる条件の例 | 確かめる問い |
|---|---|---|---|
| 新規参入の脅威 | 新しく入ってきた会社に、顧客と価格を奪われる | 少ない資金で始められる・許認可が要らない・規模やブランドの差が効きにくい | 明日、同じことを始める人をどれだけ止められるか |
| 代替品の脅威 | 別の手段で、同じ用事を済まされる | 別業界の手段のほうが安い・乗り換えに手間がかからない | 生活者は、ほかに何で同じ用事を片づけているか |
| 買い手の交渉力 | 買う側から、値下げや条件の上乗せを迫られる | 買い手が少数で大口・商品の差が小さい・買い手がほかへ移りやすい | 顧客に「よそにします」と言われたとき、困るのはどちらか |
| 売り手の交渉力 | 仕入れ先から、値上げや条件の変更を迫られる | 供給元が少数・代わりのきかない部品や人材・仕入れ先を替えにくい | 仕入れ先に値上げを告げられたとき、断れるか |
| 業界内の競争 | 同業者どうしの値下げや広告合戦で、利益が消える | 同じくらいの規模の競合が多い・市場の伸びが止まっている・撤退しにくい | 同業者が、価格で殴り合っていないか |
ポーターはこの5つを、真ん中に「業界内の競争」を置き、上に新規参入、下に代替品、左に売り手、右に買い手を配置した図で示しました。この図を見ると、競争は同業者のあいだだけで起きているのではないことが分かります。顧客も仕入れ先も、まだ現れていない新規参入者も、別業界の代替品も、同じ利益の取り分を狙っている相手です。
よく誤解されるのが、ファイブフォースを「競合分析」と同じものだと思ってしまうことです。同業の競合は、5つの力のうちの1つにすぎません。競合に勝っていても、仕入れ先と顧客に挟まれて利益が残らない業界は普通にあります。だからファイブフォースで見るのは、自社が勝てるかどうかの前に、この業界の利益がどこへ流れていくのかという「水の流れ」です。
提唱者と原典──ポーターの1979年論文と「競争の戦略」
ファイブフォース分析を提唱したのは、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター(Michael E. Porter)です。1979年にハーバード・ビジネス・レビューに発表した論文「How Competitive Forces Shape Strategy」で5つの力を示し、翌1980年の著書「競争の戦略(Competitive Strategy)」で体系にまとめました。日本語版はダイヤモンド社から出ています。
ポーターはもともと、産業組織論と呼ばれる経済学の分野の出身です。産業組織論には、業界の構造が企業の成果を大きく左右するという考え方があります。ポーターはそれを経営の側にひっくり返して、「業界の構造を読めれば、どこで戦えば利益が残るかが分かる」という実務の道具に仕立てました。
ポーターは2008年に、同じハーバード・ビジネス・レビューで改訂版の論文「The Five Competitive Forces That Shape Strategy」を書いています。そこで彼は、市場の成長率・技術とイノベーション・政府の規制・補完的な製品やサービスは「6つ目の力」ではなく、5つの力を通じて収益性に効いてくる「要因」として扱うべきだと整理しました。5つの力の外に新しい箱を足すのではなく、5つのどれに効いているかを考える、という読み方です。
ファイブフォースで業界を読んだあとに何をするかについて、ポーターは同じ「競争の戦略」で、コストで勝つ・違いで勝つ・狭い市場に集中する、という3つの基本戦略を示しています。業界の構造を読むのがファイブフォース、その構造の中でどの立ち位置を取るかを決めるのが基本戦略、という順番です。
3C分析・SWOT分析・PEST分析との違いと使い分け
ファイブフォースは「業界」という単位で利益の流れを見る道具で、3Cは自社・顧客・競合の関係、SWOTは自社の内と外の整理、PESTは業界の外にある社会の変化を見る道具です。見ている範囲が違うので、どれか一つを選ぶのではなく、順番に重ねて使います。
| フレームワーク | 見る範囲 | 答える問い | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| PEST分析 | 社会全体(政治・経済・社会・技術) | 世の中の変化が、この業界にどう効くか | 中長期の前提をそろえるとき |
| ファイブフォース分析 | 業界の構造 | この業界で、そもそも利益が残るか | 参入・撤退・事業の見直しを判断するとき |
| 3C分析 | 自社・顧客・競合の関係 | その中で、自社はどこで選ばれるか | 戦い方の方向を決めるとき |
| SWOT分析 | 自社の内(強み・弱み)と外(機会・脅威) | 集めた材料を、打ち手にどうつなぐか | 分析の結果を一枚に整理するとき |
大きい範囲から小さい範囲へ、という順番で並べると、PEST→ファイブフォース→3C→SWOTになります。ファイブフォースはこの流れの中で「この場所で戦う価値があるか」を決める関所の役割です。ここで「利益が残りにくい」と出たら、3Cで勝ち方を考える前に、戦う場所そのものを考え直したほうがいい場合があります。
5つの力の中でいちばん見落とされやすいのが、代替品の脅威です。同業者は目に入りやすいけれど、生活者が別の手段で同じ用事を片づけている場合、その相手は業界の外にいるので見えません。代替品を見つけるには、商品のカテゴリではなく、生活者が「何の用事のためにそれを雇っているか」から考えるのが近道です。この見方はジョブ理論とは?要約と事例でわかるJTBDで詳しく書いていますが、朝の通勤中に飲むミルクシェイクの競合がバナナやベーグルになる、という話はそのまま代替品の脅威の説明になっています。
業界内の競争が激しいと分かったときに、小さな会社がどこで戦うかを考える道具としては、ランチェスター戦略の弱者の戦略5原則が相性のいい組み合わせです。ファイブフォースで「この業界は殴り合いになっている」と分かり、ランチェスターで「では殴り合いにならない局地を探す」と続けると、分析が打ち手までつながります。
ファイブフォース分析のやり方──「そもそも儲かるか」を検算する手順
ファイブフォース分析の実務での役割は、新しい市場に入る前や、いまの事業を見直すときに「この業界で、そもそも利益を残せるのか」を検算することです。打ち手を考える道具として使うと手が止まりますが、検算の道具として使うと、短い時間で判断の材料がそろいます。利益が残る業界だと分かったら、次は自社のどの工程で稼ぐかをバリューチェーンで確かめると、判断が具体的になります。
ぼくが使っている手順は、次の5つです。
- 業界の範囲を一文で決める:「飲食業」では広すぎ、「駅前の自家焙煎カフェ」くらいまで絞ると、5つの力の相手が具体的に見えてきます
- 5つの力ごとに、利益を持っていく相手を具体名で書く:「仕入れ先」ではなく「生豆を仕入れている商社」、「代替品」ではなく「コンビニのコーヒー」のように書きます
- 力の強さを強・中・弱で評価し、理由を一行で添える:理由が書けない評価は、思い込みの可能性が高いです
- いちばん強い力を一つ選ぶ:その力を弱める手があるか、その力が届かない場所に移れるかを考えます
- 結論を一文にする:「この市場は◯◯に利益を持っていかれる構造なので、△△の範囲でしか戦わない」という形で書くと、そのまま意思決定に使えます
手順の例として、ぼくの見立てで3つの業界を並べると、次のようになります。数字の裏づけのある評価ではなく、手順を説明するための一般的な見立てです。
| 力 | 駅前の個人経営カフェ | 月額課金の業務ソフト(BtoB) | 個人のアフィリエイトブログ |
|---|---|---|---|
| 新規参入の脅威 | 中(物件と設備に資金は要るが、許認可の壁は高くない) | 中(作るのは簡単になったが、信頼を得るまでに時間がかかる) | 強(明日からでも始められる) |
| 代替品の脅威 | 強(コンビニのコーヒー、自宅のコーヒーメーカー) | 中(表計算ソフトと手作業でも、いちおう回せてしまう) | 強(生活者がAI検索の回答だけで用事を済ませる) |
| 買い手の交渉力 | 弱〜中(一人ひとりは小口だが、店を替えるのは簡単) | 中(一度導入するとデータ移行が面倒で、乗り換えにくい) | 弱(読者は値下げを迫らない) |
| 売り手の交渉力 | 中(豆の価格や家賃は自分では決められない) | 中(使っているクラウドや外部の仕組みに左右される) | 強(報酬の条件は広告主とASPが決め、予告なく変わることがある) |
| 業界内の競争 | 強(チェーン店と個人店が同じ駅前に並ぶ) | 中(分野ごとに競合の数が違う) | 強(同じキーワードを狙う記事が大量にある) |
アフィリエイトブログは、ぼくが自分で運営している事業の一つです。5つの力で並べてみると、入るのは簡単で、仕入れ先にあたる広告主の力が強く、代替品にあたるAI検索の回答もある、という構造がはっきり見えます。始めやすい市場ほど、利益は残りにくい。ファイブフォースを一度通すと、この当たり前のことを感覚ではなく構造として説明できるようになります。逆に月額の業務ソフトは、乗り換えの面倒さが買い手の力を弱める方向に働くので、一度選ばれれば続きやすい構造をしています。月額で続く事業の価値をどう測るかはLTVとは?計算式3種とCACとの関係で書いています。
失敗しやすい点も3つ書いておきます。一つ目は、自社に都合よく評価してしまうこと。参入を考えている市場ほど、新規参入の脅威を「弱」と書きたくなります。自分も明日始められるなら、他の人も明日始められます。二つ目は、業界の範囲が会議の途中で動くこと。誰かは「カフェ」の話をし、誰かは「飲食店」の話をしていると、評価がかみ合いません。三つ目は、5つの箱を埋めたところで満足してしまうことです。ファイブフォースの出口は、表ではなく「ここで戦うか、戦わないか」の一文です。
広告会社にいた頃は、どの市場で戦うかはすでに決まっていて、「どう売るか」から仕事が始まることがほとんどでした。ファイブフォースの出番は、あまりありませんでした。この道具の重みが分かったのは、自分でお金を出して事業を選ぶ側になってからです。売り方は後からいくらでも直せますが、選んだ市場の構造は、自分の努力ではほとんど変わりません。
2026年の注意点──ファイブフォース分析は古いのか
ファイブフォース分析が「古い」と言われる理由は、主に3つあります。業界の一時点しか写せないこと、業界の境界がぼやけてきたこと、競争だけを見て協力の関係を見ないことです。ただ、どれも道具の欠陥というより、使い方の問題として答えられます。
一つ目の「一時点しか写せない」は、その通りです。ファイブフォースは業界の写真であって、動画ではありません。だから、一度描いて棚にしまうのではなく、市場が動いたと感じたら撮り直す使い方をします。2026年でいえば、生成AIが多くの業界で「新規参入の脅威」と「代替品の脅威」を同時に強めています。作る手間が下がれば参入は増え、AIの回答で用事が済めば代替品が増えます。数年前に描いた5つの力の図は、いま見直すと評価が変わっている可能性が高いです。
二つ目の「業界の境界がぼやけた」は、プラットフォームやサブスクの広がりで、どこまでを一つの業界と呼ぶかが難しくなったという指摘です。これは手順の1番目、業界の範囲を一文で決めるところで対応できます。境界がはっきりしないからこそ、分析する側が範囲を決めて書く必要があります。
三つ目の「協力の関係を見ない」に対しては、アダム・ブランデンバーガー(Adam Brandenburger)とバリー・ネイルバフ(Barry Nalebuff)が1996年の「Co-opetition」で、補完的な製品やサービスを提供する「補完的生産者」を加えた見方を示しています。ゲーム機とソフト、スマートフォンとアプリのように、相手が売れるほど自分も売れる関係です。ポーター自身は先に書いたとおり、補完財を6つ目の力ではなく、5つの力に効く要因として扱いました。どちらの立場でも、補完の関係を表の欄外に書き足しておくと実態に近づきます。
もう一つ、日本の会社で使うときに気をつけたいのは、ファイブフォースが「参入しない理由」を集める道具になってしまうことです。5つの力が全部弱い業界はほとんどないので、探せば必ず脅威は見つかります。大事なのは脅威の数ではなく、いちばん強い力をかわせる場所があるかどうかです。
ファイブフォース分析に関するよくある質問
ファイブフォース分析は何のためにやるのですか?
その業界で、そもそも利益を残せるかどうかを判断するためです。競合に勝てるかどうかではなく、顧客・仕入れ先・新規参入者・代替品も含めて、業界の利益がどこへ流れていくかを見ます。新しい市場に入る前や、いまの事業を続けるかを見直すときの検算として使うと役に立ちます。
5つの力の覚え方はありますか?
図の配置で覚えるのがいちばん確実です。真ん中に「業界内の競争」、上に「新規参入」、下に「代替品」、左に「売り手」、右に「買い手」を置きます。左から右へ「仕入れ先→自社の業界→顧客」とモノが流れ、上下から「新しく入ってくる相手」と「別の手段」が押してくる、と流れで覚えると忘れにくいと思います。
3C分析やSWOT分析とどちらを先にやるべきですか?
範囲の大きいほうから順に使うと流れがつながります。業界の構造を見るファイブフォースで戦う価値があるかを確かめ、3Cで自社がどこで選ばれるかを考え、SWOTで打ち手に整理する、という順番です。ファイブフォースで利益が残りにくいと出たら、勝ち方より先に戦う場所を見直します。
個人や小さな会社でもファイブフォース分析は使えますか?
使えます。むしろ資金や人に余裕のない小さな事業ほど、利益が残りにくい市場を最初に避ける意味が大きいです。業界の範囲を「駅前のカフェ」「個人のアフィリエイトブログ」くらいまで絞り、5つの力ごとに利益を持っていく相手を具体名で書くと、一人でも短い時間で判断の材料がそろいます。
おわりに──勝っても儲からない場所を、先に知る
ファイブフォース分析は、どう勝つかを教えてくれる道具ではありません。勝っても儲からない場所を、先に教えてくれる道具です。
マーケティングの仕事をしていると、どうしても「どう売るか」から考えたくなります。ぼくもそうでした。でも、売り方の工夫で取り返せるのは、市場の構造が許してくれる範囲までです。仕入れ先に利益を取られる市場では、どれだけ広告がうまくても手元に残るものは少ない。だから、走り出す前に一度だけ立ち止まって、5つの力で検算しておく。その数十分が、あとから一番効いてくると思います。もし自分の市場を5つの力で見たときに迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。