最終更新:2026年10月17日
ブランドアセットとは、ブランド名を読まなくても「あのブランドだ」と分かる、色・形・音・キャラクター・書体などの記憶の手がかりのことです。マーケティングの研究ではディスティンクティブ・ブランドアセット(Distinctive Brand Assets、略してDBA)と呼ばれ、アレンバーグ・バス研究所のジェニー・ロマニウクが体系化しました。結論から言うと、ブランドアセットの強さは「どれだけ目立つか」では決まらず、「どれだけ多くの人が、そのブランドだけに結びつけているか」で決まります。ちなみに「Instagram ブランドアセット」のようにSNSや企業のロゴ素材の配布ページを探している人は、Meta公式のInstagramブランドリソースページがその答えです。この記事は、マーケティングの概念としてのブランドアセットを扱います。
買う瞬間に思い出される力そのもの(メンタルアベイラビリティ)と、その入口になる購買状況(CEP)はメンタルアベイラビリティとは?意味とCEP・実務での高め方にまとめました。この記事はその中の「記憶の手がかり」の側に絞り、種類、測り方、育て方、日本での注意点までを書いていきます。
ブランドアセット(DBA)とは?色・形・音・キャラクターの種類一覧
ブランドアセットとは、ブランド名の代わりにブランドを知らせてくれる、名前以外の目印のことです。アレンバーグ・バス研究所は、色やロゴ、キャラクターのように「そのブランドだけを知らせる要素」をディスティンクティブ・アセットと呼び、独自であること(そのブランドしか思い浮かばない)と、知られていること(見た人の多くがそのブランドを思い浮かべる)の両方を条件にしています(アレンバーグ・バス研究所「Brands of Distinction」)。
種類ごとの特徴を一覧にすると、次のようになります。
| 種類 | 中身の例 | 強み | 弱み・注意 |
|---|---|---|---|
| 色 | パッケージや看板の色、色の組み合わせ | 遠くからでも、一瞬で目に入る | 同じカテゴリーで似た色が多いと、独自性が出にくい |
| 形・図形 | ロゴマーク、容器の形、パッケージの帯や模様 | 文字が読めない距離や角度でも見分けられる | 形を少しずつ変えるたびに、記憶がばらける |
| 音 | サウンドロゴ、CMの決まったフレーズや起動音 | 画面を見ていない人にも届く | 毎回流さないと、ただのBGMとして聞き流される |
| キャラクター | マスコット、広告に毎回出てくる登場人物 | 感情を運べる。話題にもなりやすい | キャラクターだけ覚えられて、ブランド名とつながらないことがある |
| 書体 | ロゴや見出しに使う専用の文字デザイン | 文字情報そのものに、ブランドの気配を持たせられる | 単独では弱く、色や形と組み合わせて効く |
| 言葉 | タグライン、決まり文句 | CEP(買う状況)と結びつけやすい | 似た言い回しが出回ると、すぐに独自性を失う |
| 人物 | 長く起用している広告の顔、著名人 | 注目を集めやすい | 本人の評判や他社への出演に左右される |
表を眺めると分かるとおり、どの種類にも「これを選べば必ず強い」と言える正解はありません。色は目立つ反面まねされやすく、音は届く範囲が広い反面、繰り返さないと残りません。ブランドアセットは種類で選ぶものではなく、生活者の頭の中でどれだけそのブランドに結びついているかで評価するものです。言葉のアセットであるタグラインの作り方はタグラインとは?キャッチコピーとの違いと例、作り方を解説に書きました。
出典はロマニウクの研究──独自性×知名度のグリッド
ブランドアセットを測って育てる考え方は、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所のジェニー・ロマニウク(Jenni Romaniuk)が、著書「Building Distinctive Brand Assets」(2018年・Oxford University Press)でまとめたものです。日本語版は「ブランディングの科学 独自のブランド資産構築篇」(朝日新聞出版・2022年)として出ています。
土台にあるのは、同じ研究所のバイロン・シャープ(Byron Sharp)が「ブランディングの科学」(原題 How Brands Grow・2010年)で示した考え方です。ブランドは、思い出されやすさ(メンタルアベイラビリティ)と買いやすさ(フィジカルアベイラビリティ)の両方で成長するとされています。シャープの本では、思い出されやすさをつくる手段のひとつとして独自の資産が扱われていました。ロマニウクの本は、その資産を「どう測るか」「どの種類にどんな長所と短所があるか」「どう守るか」に分けて掘り下げた一冊です。
測り方の中心は、知名度(Fame)と独自性(Uniqueness)の2つの指標です。知名度は、カテゴリーの購入者のうち何割が、そのアセットを見てそのブランドを思い浮かべるか。独自性は、そのアセットから思い浮かべられたブランドのうち、自社がどれだけを占めるかです。この2軸で自社と競合の要素を並べたものが、アレンバーグ・バス研究所のディスティンクティブ・アセット・グリッドです。
| 象限 | 状態 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 使い続けるか、失うか(Use or Lose) | 知名度も独自性も高い | ブランド名の代わりに使えるほど強い。使わずにいると弱っていく |
| 投資する(Invest) | 独自性は高いが、まだ知られていない | 露出を増やし、ブランド名と一緒に出し続けて知名度を育てる |
| 単独では使わない(Avoid) | 知られているが、他社とも結びついている | 競合がまねしやすい。ブランド名や他のアセットと組み合わせて使う |
| 試すか、手放す(Test or ignore) | 新しい、またはまだ効いていない | 手をかけても伸びなければ、大きく作り直すか別の要素に切り替える |
象限の名前と打ち手は、同研究所の「Brands of Distinction」のページに沿って訳しています。数字の感覚をつかむために、考え方を単純にした架空の例を置いておきます。カテゴリーの購入者100人に自社パッケージの色だけを見せ、60人が何かのブランド名を挙げ、そのうち45人が自社の名前だったとします。このとき知名度はおよそ45%、独自性は45÷60でおよそ75%です。知名度が低い色は投資の候補になり、独自性が低い色は単独で使わない候補になります。
同じ研究所に所属する研究者らが学術誌Journal of Brand Managementに出した論文では、マーケターは自社アセットの知名度を高く見積もり、独自性を低く見積もりやすいと報告されています(英国の業界誌マーケティング・ウィークの紹介記事(2025年7月23日))。社内の実感ではなく、カテゴリーの購入者に聞いて確かめる。グリッドの価値は、この順番を強制してくれるところにあります。
ブランドアイデンティティ・トンマナ・ロゴとの違い
ブランドアセットは「作り手が決めた見せ方」ではなく、「生活者の記憶にすでに結びついている目印」です。似た言葉と並べると、この違いがはっきりします。
| 言葉 | 意味 | ブランドアセットとの関係 |
|---|---|---|
| ブランドアイデンティティ | 作り手が「こう見られたい」と定める、ブランドの要素の一式 | アセットの候補を含む設計図。設計しただけではアセットにならない |
| トンマナ | 表現の調子と作法をそろえるルール | アセットを毎回同じ顔で出すための運用ルール |
| ロゴ | ブランド名を図案化したもの | アセットの一種。ただし名前を含むので、名前の代わりにはならない |
| ブランドエクイティ | ブランドが持つ資産価値の総体 | アセットは、エクイティが記憶の中で引き出されるときの取っ手 |
| 第一想起 | カテゴリーで最初に名前が挙がること | アセットは、想起が起きる瞬間にブランドを見つけてもらう手がかり |
いちばん混同されやすいのは、ブランドアイデンティティとの違いです。新しいロゴや色を決めた時点では、それはまだ「アセットの候補」に過ぎません。生活者の多くがそれを見てブランドを思い浮かべるようになったとき、初めてアセットになります。表現をそろえる運用はトンマナとは?トーン&マナーの意味と例、トンマナシートの作り方、ブランドの資産価値の全体像はブランドエクイティとは?アーカーの5要素とケラーのピラミッドで扱っています。見せ方の決めごとを書き出す文書はブランドガイドラインです。
実務での使い方──足すより先に、変えないものを決める
ブランドアセットの実務は、新しい目印を足すことより、すでに結びついている目印を見つけて変えずに使い続けることから始まります。手順にすると、次の5つです。
- 棚卸しする:色、形、音、キャラクター、言葉など、ブランド名以外で使ってきた要素を全部並べる
- 測る:ブランド名を隠した素材をカテゴリーの購入者に見せ、何のブランドを思い浮かべるかを聞く
- グリッドに置く:知名度と独自性で4象限に分け、守るもの・育てるもの・単独で使わないものを決める
- 固定する:守ると決めた要素を、色番号や使い方まで含めてルールに書き、担当が変わっても動かないようにする
- 毎回出す:広告、パッケージ、SNS、営業資料まで、接点のたびに同じアセットを出し続ける
この中で崩れやすいのは、最後の「毎回出す」です。広告会社にいた頃、新しいキャンペーンの企画では、前回と違う見せ方のほうが新鮮に見えて通りやすい空気がありました。作る側は同じ色やキャラクターを何百回も見ているので先に飽きてしまいますが、生活者はそこまで広告を見ていません。作り手の飽きと生活者の記憶のあいだには、大きな時差があります。見た目を変えずに置き場所だけを動かす方法はリポジショニングに書きました。
アレンバーグ・バス研究所の「Brands of Distinction」も、変化は生活者にとって優しくないと書き、パッケージの刷新が裏目に出た例としてトロピカーナを挙げています。そのうえで、生活者が実際に目にしているものを点検し、ぶれを取り除き、主要なアセットを制作上の譲れない条件にするよう勧めています。小さな会社でも同じで、予算が少ないほど、目印を一つに絞って同じ形で出し続けるほうが記憶に残ります。
もう一つの注意は、アセットとブランド名を最初は必ず一緒に出すことです。キャラクターや音が人気になっても、ブランド名と結びついていなければ、知名度は上がっても自社の売上にはつながりません。グリッドの「投資する」象限にある要素は、ブランド名と並べて出す期間を長めに取る。結びつきができてから、名前を外しても伝わるかを測り直します。
日本市場・2026年時点での注意点──色と音は商標になる
日本では2015年4月1日から、色彩のみからなる商標や音商標などが登録できるようになりました。特許庁によると、このとき新たに加わったのは、動き・ホログラム・色彩のみ・音・位置の5タイプです(特許庁「新しいタイプの商標の保護制度」)。ブランドアセットは、法律で守れる資産にもなったわけです。
ただし、色だけで登録するハードルは高いままです。特許庁の広報誌によると、色彩のみからなる商標は約560件の出願に対して登録は9件(2022年6月時点)で、日清食品のチキンラーメンのパッケージの配色が2022年3月に登録されています。ほかにもトンボ鉛筆のMONO消しゴムのケースの青・白・黒、セブン-イレブンの看板の白・オレンジ・緑・赤の配色が登録例として紹介されています(特許庁 広報誌「とっきょ」2022年8月1日発行号)。
登録が難しい理由は、使い続けた結果として色だけで見分けられるようになったこと(使用による識別性)を、出願する側が証拠で示す必要があるからです。同じ記事では、使用の歴史やシェア、広告宣伝、認知度のアンケートなどの膨大な証拠が必要になると説明されています。ロマニウクの言葉に置き換えれば、審査は、知名度と独自性の両方を数字で示せと言っているのと同じです。マーケティングの理論と商標の審査が、同じことを問うている点はおもしろいところです。
音商標では、特許庁が2017年9月26日に、音楽的要素のみからなる音商標の初めての登録を認めたと発表しています。対象は大幸薬品、インテル、BMWの3件でした(特許庁「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」)。
2026年時点でもう一つ気をつけたいのは、生成AIで広告素材を大量につくる場面です。素材の数が増えるほど、色味や書体、キャラクターの描かれ方が少しずつずれていきます。一本ずつ見れば問題がなくても、合計すると目印がぼやける。量産するほど、守るアセットをルールとして先に決めておく意味が大きくなります。
ブランドアセットに関するよくある質問
DBA(ディスティンクティブ・ブランドアセット)とブランドアセットは同じ意味ですか?
マーケティングの文脈では、ほぼ同じ意味で使われています。ディスティンクティブ・ブランドアセットは、アレンバーグ・バス研究所のジェニー・ロマニウクが使っている呼び方で、ブランド名以外でブランドを知らせる色・形・音・キャラクターなどを指します。単に「ブランドアセット」と言う場合は、ロゴ素材の配布ページを指すこともあり、どちらの意味かは文脈で決まります。
Instagramのブランドアセットとは何ですか?
Instagramのロゴやアイコンを、第三者が正しく使うための公式素材と利用ルールのことです。Metaのブランドリソースのページで、ロゴ素材の配布と、提携を装わない、名称を加工しないといった使い方の決まりが案内されています。マーケティングでいうブランドアセット(DBA)とは、名前が同じだけの別の話です。
ブランドアセットの強さはどうやって測りますか?
ブランド名を隠した色やキャラクターなどをカテゴリーの購入者に見せ、何のブランドを思い浮かべるかを聞きます。自社を挙げた人の割合が知名度、思い浮かべられたブランド全体のうち自社が占める割合が独自性です。この2つで要素を4象限に分けると、守るもの、育てるもの、単独で使わないものが見えてきます。
小さな会社や個人でもブランドアセットはつくれますか?
つくれます。予算が少ないほど、目印を一つか二つに絞り、すべての接点で同じ形で出し続けるほうが効きます。最初はブランド名と必ず一緒に出し、名前を隠しても伝わるかを身近な購入者に聞いて確かめていけば、大がかりな調査がなくても育て方の判断はできます。
おわりに──目印は、変えなかった時間でできている
ブランドアセットの話をすると、どうしても「どんな色にするか」「どんなキャラクターをつくるか」のように、作る話に寄っていきます。でも、グリッドや商標の審査が問うているのは、作った目印がどれだけ長く同じ姿で出続けたかです。チキンラーメンの配色が色彩商標として認められた背景にも、発売当時から使われてきた時間があります。
目立つから覚えられるのではありません。変えなかったから、覚えられているのです。新しい目印を探す前に、すでに覚えられている目印を手放していないかを確かめる。ブランドアセットを育てるとは、その地味な確認を続けることだと思います。