マーケの目

リポジショニングとは?意味と成功・失敗事例、リブランディングとの違い

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最終更新:2026年10月17日

リポジショニングとは、生活者の頭の中ですでにできあがっているブランドの位置を、意図して別の位置に置き直すことです。ここで扱うのはマーケティングの意味で、医薬品の分野でいう「ドラッグ・リポジショニング」(既存の薬を別の病気の治療薬として開発し直すこと)の話ではありません。結論から言えば、位置を変えるとは言い方を変えることではなく、比べられる相手を変えることです。そしてこの記事で見る成功例は、どれも元の位置を捨てずに新しい位置を足しています。

ポジショニングそのものの考え方はポジショニングとは?ポジショニングマップの作り方・軸の決め方に任せ、ここでは「すでにある位置を動かす」判断と手順、公式資料で確かめられる成功事例3つと失敗事例1つに絞ります。

リポジショニングとは?意味と4つの型の一覧

リポジショニングとは、商品やブランドの中身を大きく変えずに、生活者がそれを何と比べ、どんな場面で選ぶかを置き直すことです。どこを動かすかで、おおむね次の4つの型に分けられます。

型 動かすもの よくあるきっかけ この記事で見る例
場面を変える いつ・どこで選ばれるか 今の場面の市場が縮んでいる サントリー「角瓶」のハイボール
人を広げる 誰が買うか 今の客層だけでは伸びしろがない ワークマンの一般客向け店舗
意味を変える 何のために買うか 生活者が想定外の使い方を始めている ネスレ日本「キットカット」の受験生応援
競合の位置を置き直す 相手がどう見えるか 空いている位置が見つからない タイレノールとアスピリン

4つの型は入口が違うだけで、起きていることは同じです。動かしているのは商品ではなく、比べられる相手です。ウイスキーが他のウイスキーと比べられているうちは、ウイスキーの棚の中で順位を争うしかありません。でも居酒屋の一杯目としてビールやチューハイと比べられるようになれば、勝負の土俵そのものが変わります。

だからリポジショニングは、新しいキャッチコピーから考え始めると外れやすいと思います。先に決めるのは「これからは、何と比べられたいか」です。言葉はそのあとで選べば足ります。

リポジショニングの出典とリブランディングとの違い

リポジショニングとリブランディングの違いは、変える対象です。リポジショニングは生活者の頭の中の置き場所を変え、リブランディングはブランドの意味を定義し直したうえで、名前やロゴ、言葉、体験までを作り直します。

言葉の出どころは、アル・ライズとジャック・トラウトが1981年にまとめた「ポジショニング戦略」です(原典の話はポジショニングの記事に任せます)。トラウトはその後、スティーヴ・リヴキン(Steve Rivkin)と「Repositioning: Marketing in an Era of Competition, Change and Crisis」(McGraw-Hill、2009年)を書き、競争・変化・危機の3つの場面で位置を動かす話を正面から扱いました。

この言葉には2つの使い方が混ざっています。自分の位置を動かすことと、競合の見え方を置き直して空いた場所に入ることです。トラウト自身も2008年のコラムで、鎮痛薬のタイレノールがアスピリンの胃への負担に触れる広告を打ち、アスピリンの見え方を変えた例を挙げています。この記事で扱うのは主に前者、自分の位置を動かすほうです。

リブランディングとの違いは、表で並べると見えやすくなります。

観点 リポジショニング リブランディング
変えるもの 頭の中の置き場所(何と比べられ、どの場面で選ばれるか) ブランドの意味と、それを伝える名前・ロゴ・言葉・体験
変えないことが多いもの 名前、ロゴ、商品の中身 残すと決めた目印(色・形・名前など)
目に見える変化 小さいことが多い(飲み方の提案、売り場、広告) 大きいことが多い(新しいロゴ、新しい社名)
よくあるきっかけ 比べられる相手や場面の変化、今の棚の縮小 合併、事業の転換、ブランドの意味と中身のずれ
失敗の典型 新しい位置に着く前に、今の客を失う 中身が変わらないまま、見た目だけが変わる
最初の問い これから何と比べられたいか このブランドの中身は、何が変わったのか

リポジショニングはリブランディングの中核になることが多いのですが、位置を動かすたびにリブランディングが要るわけではありません。名前もロゴも変えずに、位置だけを動かすことはできます。後の3つの成功事例も、ブランド名はそのままです。見た目を変えない分は地味ですが、積み上げてきた名前やブランドアセットを手放さずに済みます。リブランディングの種類や進め方はリブランディングとは?意味と種類、成功・失敗事例でわかる進め方にまとめています。

リポジショニングの成功事例3つ──商品より先に「比べられる相手」を変えた

公式資料で確かめられる成功事例を3つ並べると、どれも商品そのものはほとんど変えず、比べられる相手と選ばれる場面を変えています。そして3つとも、元の位置を捨てていません。

一つ目は、サントリーのウイスキー「角瓶」です。サントリーの採用サイトに載っている角瓶のブランド担当者のインタビューによると、国内のウイスキー市場は1983年をピークに縮み、2007年には販売量ベースで6分の1まで落ち込んでいました。中高年がグラスを片手に飲むという古いイメージが、若い世代を遠ざけていたといいます。そこで2008年に始めたのが、ハイボールの復活プロジェクトでした。ジョッキに注いでビール感覚で飲む提案をし、居酒屋向けに作り方の手引きやサーバーを用意しました。記事では、2008年末に1万5千店ほどだったハイボールの取り扱い店が2009年に6万店まで増え、角瓶は150万ケースから300万ケースに倍増したと語られています。

中身は同じ角瓶です。変わったのは、居酒屋の一杯目としてビールやチューハイと比べられるようになったことでした。少しずつ出る店を数多くつくるより、一杯目にハイボールがたくさん出る店をまず1軒つくり、そのモデルの店から広げていった点も、手順として参考になります。

二つ目は、ワークマンです。同社の第45期有価証券報告書の沿革によれば、1982年に作業服と作業用品の専門小売業として設立され、2018年9月にららぽーと立川立飛へ「ワークマンプラス」の1号店を、2020年10月に「#ワークマン女子」の1号店を開いています。経営戦略の欄には、主要顧客であるプロ職人に加えて一般のお客様にも満足してもらえる店で、客層を広げるとあります。

ここで効いているのは「加えて」の部分だと思います。機能と価格という同じ強みを、職人の作業服の棚から、アウトドアウエアや普段着の棚へ持ち込みました。でも職人の棚を出たわけではありません。新しい棚に入口を一つ足した、という形です。

三つ目は、ネスレ日本の「キットカット」です。ネスレ日本の2026年1月15日の発表によれば、九州の方言「きっと勝つとぉ」が商品名と似ていることから、1990年代後半以降に自然発生的に受験生のお守りとして広まり始めました。2003年以降は「キット、サクラサクよ。」を合言葉に、ホテルや鉄道、郵便局、神社などと組んで受験生を応援してきたとあり、同社自身がその結果を「応援するブランド」という位置づけの確立と表現しています。日本郵便とネスレ日本の2014年の共同発表には、応援の言葉を書いて郵送できる「キットメール」を2009年から販売してきたとあります。

キットカットの例が面白いのは、新しい位置を会社ではなく生活者が先に見つけていた点です。会社はそれに気づいて、育てる側に回りました。生活者の想定外の使い方を見つける視点はインサイトとは?マーケティングでの意味とニーズとの違い・見つけ方にも通じます。

事例 元の棚 新しく足した棚 残したもの
角瓶(サントリー) 中高年がグラスで味わうウイスキー 居酒屋の一杯目(ビール・チューハイと比べられる) 商品の中身と名前
ワークマン 職人の作業服・作業用品 アウトドアウエア・普段着 職人という主要顧客と、機能と価格の強み
キットカット(ネスレ日本) おやつのチョコレート菓子 受験生への贈り物・お守り お菓子としての商品と名前

リポジショニングの失敗事例──JCペニーが先に手放した「買う理由」

リポジショニングの失敗でいちばん怖いのは、新しい位置に着く前に、今の位置を支えていた客を失うことです。米国の百貨店チェーン、JCペニー(J.C. Penney)の2012年の変革は、その経緯と数字が同社の年次報告書に残っています。

2012年度の年次報告書(Form 10-K)によると、同社は2011年11月にアップルの小売部門出身の経営者を最高経営責任者に迎え、2012年初めに専門店のような体験を持つ百貨店への変革を発表しました。毎日の低価格を軸にして従来の販促をやめ、売り場をブランドごとのショップに組み替える計画です。結果として、2012年度の売上高は129億8,500万ドルと、前年の172億6,000万ドルから24.8%減りました。既存店の売上高は25.2%減、純損失は9億8,500万ドルです。

翌年の2013年度の年次報告書では、毎日の低価格と販促の大幅な削減、ショップ型の売り場という前の戦略が顧客に響かなかったと認め、2013年の初めから事業の大半を販促型に戻したと記しています。2013年4月には、前任の最高経営責任者が復帰しました。

この事例から読めるのは、セールやクーポンが単なる値引きの手段ではなかったことです。それは今の客にとって「JCペニーで買う理由」そのものでした。位置を動かす最初の一手で、その理由を捨ててしまった。新しい客が来る前に、古い客の理由が消えたわけです。

失敗の原因を価格だけに絞るのは乱暴で、報告書も品ぞろえやショップの組み立てを合わせて挙げています。それでも成功事例と並べると違いははっきりしています。3つの成功事例は新しい棚を足し、JCペニーは棚を入れ替えようとしました。

リポジショニングの進め方──位置を変える判断と6つの手順

リポジショニングを始める前に確かめたいのは、動く理由が生活者の側にあるかどうかです。社内の飽きや、新しい担当者の「変えたい」という気持ちだけが理由なら、まだ動く段階ではありません。

動く理由になりやすいのは、3つの兆しです。今いる棚そのものが縮んでいる(角瓶のウイスキー市場)。生活者が想定外の使い方を始めている(キットカットの受験生)。今の強みが別の棚でも通用する(ワークマンの機能と価格)。反対に、売れない原因が商品や価格、届け方にあるなら、位置を動かしても解決しません。先に直すのはそちらです。

動くと決めたら、次の順番で進めると迷いにくくなります。

手順 やること 検算の問い
1. 今の位置を測る 生活者に「何と比べたか」「どんなときに選んだか」を聞く 社内の思い込みで書いていないか
2. 動く理由を確かめる 棚の縮み、新しい使われ方、別の棚での強みの通用度を見る 理由が社内の都合だけになっていないか
3. 行き先の棚を決める 新しく比べられたい相手と場面を一つに絞る その棚で「何の一番か」を一言で言えるか
4. 残すものを決める 名前、中身、今の客の買う理由のうち、手放さないものを書き出す 今の客の買う理由を消していないか
5. 新しい入口をつくる 新しい棚で手に取られる場所、飲み方、売り場を先に用意する 広告より先に、体験の側がそろっているか
6. 小さく確かめる モデル店、一部の地域、一部の商品で試してから広げる 戻れる範囲で試しているか

いちばん飛ばされやすいのは手順4です。広告会社にいた頃、ブランドキャンペーンのオリエンで「若い人にも買ってほしい」という依頼はめずらしくありませんでした。新しい層に届く表現は、いくらでも案が出ます。でも、いま買ってくれている人に「自分のためのブランドではなくなった」と感じさせない設計は、議論が手薄になりがちでした。売上を支えているのは、まだ来ていない新しい客ではなく、今いる客です。

手順5の「入口」は、場面ごとに思い出してもらう手がかりです。居酒屋の一杯目、受験の前日、週末のキャンプ。その場面で思い出されなければ、新しい棚に置かれたことになりません。場面と想起の関係はメンタルアベイラビリティとは?意味とCEP・実務での高め方で詳しく書いています。

2026年の時点で付け加えるなら、位置は検索結果の並びでも決まるようになりました。AI検索や比較サイトで「◯◯ おすすめ」と尋ねたとき、どの棚の候補として出てくるかは過去の記事やレビューの積み重ねで決まり、位置を動かしてもしばらくは古い棚のまま残ります。新しい棚の言葉で語られる場面を、自社のページだけでなく第三者の言葉としても少しずつ増やすことになります。

元の棚が消えかけていて、本当に引っ越すしかないこともあります。そのときでも、古い客が新しい棚まで歩いてこられる道は残しておく。重なる期間を長めにとるほうが、結果として早く着くと思います。

リポジショニングに関するよくある質問

リポジショニングとは簡単に言うと何ですか?

生活者の頭の中にあるブランドの位置を、意図して別の位置に置き直すことです。商品の中身を大きく変えるのではなく、何と比べられ、どんな場面で選ばれるかを変えます。言葉の出どころは、アル・ライズとジャック・トラウトの1981年の「ポジショニング戦略」です。

リポジショニングとリブランディングの違いは何ですか?

リポジショニングは頭の中の置き場所を変えることで、名前やロゴは変えないことも多いです。リブランディングは、ブランドの意味を定義し直したうえで、名前・ロゴ・言葉・体験まで作り直すことです。リポジショニングはリブランディングの中核になることが多いですが、位置だけを動かすこともできます。

医薬品のリポジショニングとは違うのですか?

別のものです。医薬品の分野でいうリポジショニングは「ドラッグ・リポジショニング」とも呼ばれ、既存の薬を別の病気の治療薬として開発し直す研究開発の手法を指します。マーケティングのリポジショニングは、ブランドが生活者の頭の中で置かれる位置を変えることです。

リポジショニングが失敗する原因は何ですか?

多いのは、新しい位置に着く前に、今の客の「買う理由」を手放してしまうことです。米国のJCペニーは2012年に販促をやめて毎日の低価格へ切り替え、年次報告書によれば売上高が前年から24.8%減り、翌年に販促型へ戻しました。新しい棚は足すもので、入れ替えるものではないと考えると事故が減ります。

おわりに──引っ越しではなく、玄関を足す

リポジショニングというと、古い場所を出て、新しい場所に旗を立て直す作業を思い浮かべがちです。でも今回見た3つの成功事例は、どれも元の家を出ていません。角瓶はウイスキーのまま居酒屋の一杯目に入り、ワークマンは職人の店のまま普段着の客を迎え、キットカットはお菓子のまま受験生のお守りになりました。新しい家に移ろうとして、先に古い家の鍵を捨てたのがJCペニーでした。

リポジショニングとは、引っ越すことではありません。今の家に、新しい玄関をつけることです。

位置を変えたくなったら、新しい客の顔より先に、いまの客がなぜ買ってくれているのかを一行書き出してみる。その一行を残したまま開けられる玄関を探すだけで、動かし方はかなり変わってくると思います。もし位置の動かし方で迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で一緒に考えようと思います。

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