最終更新:2026年10月19日
2割特例とは、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をきっかけに免税事業者から課税事業者になった事業者が、消費税の納付税額を売上税額の2割にできる経過措置です。使えるのは2023年10月1日から2026年9月30日までの日を含む課税期間で、個人事業主は2026年(令和8年)分の申告が最後、法人は2026年9月30日を含む事業年度が最後になります。その後、個人事業主だけは2027年分・2028年分に納付税額を売上税額の3割にできる「3割特例」が使え、法人には3割特例がありません。届出は要らず、申告書に適用を受ける旨を書くだけです。この記事は最終更新日時点の制度で、国税庁・財務省・e-Gov法令検索のページで確認できた内容だけを書いています。
2割特例とは?結論から
2割特例は、売上の消費税額さえ分かれば納付税額が決まる、期間限定の計算方法です。要点を表にまとめます。
| 項目 | 内容 | 確認した公式ページ |
|---|---|---|
| 対象 | 免税事業者(課税事業者選択届出書で課税事業者になった免税事業者を含む)が、インボイス発行事業者になった場合 | インボイスQ&A 問114 |
| 計算 | 売上税額から、売上税額の8割(特別控除税額)を引く。結果として納付税額は売上税額の2割 | 問114 |
| 適用できる期間 | 2023年10月1日〜2026年9月30日の日の属する各課税期間 | 問114・国税庁 No.6498 |
| 手続き | 事前の届出は不要。申告書に適用を受ける旨を付記する。継続適用の縛りもない | 問114 |
| 終了後(個人事業主) | 要件を満たせば、2027年分・2028年分は3割特例が使える | 国税庁 令和8年度税制改正特集 |
| 終了後(法人) | 3割特例は使えない。一般課税か簡易課税で申告する | 同上 |
2割特例の「2割」は、税率の話ではありません。納める消費税を、受け取った消費税の2割にしてよいという計算の約束です。仕入れや経費の消費税額を集計しなくても申告できるので、事務の負担が軽くなります。
2割特例の制度・要件──いつまでと3割特例
2割特例の期限は「2026年9月30日の売上まで」ではなく「2026年9月30日を含む課税期間まで」です。課税期間で区切るので、個人事業主と法人では最後の申告がずれます。国税庁の資料と、財務省の令和8年度税制改正の大綱の概要で確認した内容です。
| 立場・決算月(例) | 2割特例が使える最後の課税期間 | その後 |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 2026年分(令和8年1月1日〜12月31日) | 2027年分・2028年分は3割特例が使える |
| 法人・12月決算 | 2026年12月期 | 一般課税か簡易課税 |
| 法人・3月決算 | 2027年3月期(2026年4月1日〜2027年3月31日) | 一般課税か簡易課税 |
| 法人・9月決算 | 2026年9月期(2025年10月1日〜2026年9月30日) | 一般課税か簡易課税 |
個人事業主の2026年分と、法人の12月決算・3月決算の例は、国税庁のQ&Aと令和8年度税制改正特集の図に載っています。9月決算は、2026年9月30日がその事業年度の末日にあたるので、2026年9月期が最後です。国税庁の個人事業者向けのお知らせ(令和8年9月)にも、2割特例は令和8年分の確定申告まで、令和9年分・令和10年分は3割特例が適用可能と書かれています。
3割特例の中身は次のとおりです(インボイスQ&A 問114-2・問115-2)。
| 項目 | 3割特例 |
|---|---|
| 対象 | 個人事業者である免税事業者が、インボイス発行事業者になった場合。法人は対象外 |
| 期間 | 2027年(令和9年)分と2028年(令和10年)分の課税期間 |
| 主な要件 | インボイスの登録を受けている/基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下 |
| 計算 | 売上税額から売上税額の7割を引く。納付税額は売上税額の3割 |
| 手続き | 事前の届出は不要。申告書に適用を受ける旨を付記する |
2割特例の根拠は平成28年改正法附則51条の2、3割特例は同附則51条の3で、国税庁のQ&Aに条文番号が示されています。基準期間・特定期間の判定は消費税法の第9条・第9条の2(e-Gov・2026年10月1日施行の版)が土台です。
2割特例を使えるかの判定フローと計算の比べ方
2割特例を使えるかは、上から順に6つの問いに答えれば判定できます。国税庁の2割特例の適用可否フローチャートと、使えない課税期間を並べたインボイスQ&A 問115を文章のフローにしました。
- インボイスの登録を受けているか:受けていなければ使えません。免税事業者のままなら、そもそも消費税の申告義務がありません。
- 対象の課税期間か:2026年9月30日を含む課税期間までなら2割特例の判定に進みます。それより後は、個人事業主なら2027年分・2028年分の3割特例、法人なら一般課税か簡易課税です。
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下か:個人事業主は2年前、法人は原則として2事業年度前の数字です。超えていれば、インボイスと関係なく課税事業者なので使えません。
- 特定期間の課税売上高が1,000万円以下か:個人事業主は前年1〜6月、法人は原則として前事業年度開始の日以後6か月です。課税売上高に代えて給与等支払額で判定することもできます。
- 法人の設立直後の特例に当たらないか:設立1・2期目で期首の資本金が1,000万円以上の新設法人や、特定新規設立法人の課税期間は使えません(問115の⑤)。
- そのほかの制限がないか:課税期間を1か月・3か月に短縮していない、高額な資産を仕入れたことで課税事業者になっていない、相続・合併・分割の特例で課税事業者になっていない、恒久的施設を持たない国外事業者ではない、のすべてに当てはまれば使えます。
6つすべてを通ったら、申告書の所定欄に適用を受ける旨を書くだけです。3割特例も、法人が対象外であることと、期間が2027年分・2028年分であることを除けば、ほぼ同じ順番で判定します。
次に、申告方法ごとの納付税額を架空の例で比べます。
| 例(架空):個人事業主・サービス業、課税売上800万円(税抜)、売上の消費税額80万円、経費の消費税額10万円 | 計算 | 納付税額 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 80万円−10万円 | 70万円 |
| 簡易課税(第5種事業・みなし仕入率50%) | 80万円−80万円×50% | 40万円 |
| 2割特例(2026年分まで) | 80万円−80万円×80% | 16万円 |
| 3割特例(2027年分・2028年分) | 80万円−80万円×70% | 24万円 |
検算します。2割特例は80万円×20%=16万円、3割特例は80万円×30%=24万円で、表の結果と一致します。ここでは国税と地方消費税を合わせた概算で示しています。実際は国税の部分(この例なら800万円×7.8%=62万4千円)で計算し、地方消費税はその22/78です。2割特例なら62万4千円×20%=12万4,800円、地方消費税は3万5,200円で、合計は16万円になります。端数処理があるので、数字は比べ方をつかむための目安です。
この例のように経費の少ないサービス業では、2割特例がいちばん軽くなります。ただし業種によっては逆転します。国税庁のQ&A(問117-2)は、卸売業ならみなし仕入率90%の簡易課税のほうが納付税額が少なくなると考えられるとしています。設備投資が多くて仕入れの消費税額が売上の消費税額を上回る年は、一般課税なら還付が出ますが、2割特例や簡易課税では通常は還付が出ません。
一人法人・個人事業主の判断ポイント
2割特例の終わり方は、法人と個人事業主で違います。個人事業主には3割特例という次の段があり、法人にはありません。違いを表で分けます。
| 論点 | 一人法人 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 2割特例の最後 | 2026年9月30日を含む事業年度 | 2026年分 |
| 3割特例 | 使えない | 2027年分・2028年分に使える |
| 基準期間 | 原則として前々事業年度 | 前々年 |
| 特定期間 | 原則として前事業年度開始の日以後6か月 | 前年の1月1日〜6月30日 |
| 設立・開業直後 | 期首の資本金1,000万円以上の新設法人の課税期間は使えない | この制限はない |
| 簡易課税に移るときの届出期限(特例) | 2割特例を使った翌事業年度の申告期限まで(例:3月決算で2027年3月期に2割特例なら2028年5月31日まで) | 2割特例・3割特例を使った翌年分の申告期限まで(例:2026年分に2割特例なら2028年3月31日まで) |
簡易課税は本来、適用を受けたい課税期間が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要があります。2割特例や3割特例を使った翌課税期間だけは、その課税期間の申告期限までに出せばその課税期間から適用できます(インボイスQ&A 問117)。翌課税期間が2026年9月30日以前に終わる場合は、期限が申告期限ではなくその課税期間中になる点に注意してください。
2割特例と簡易課税の違いも並べておきます。
| 比べる点 | 2割特例・3割特例 | 簡易課税 |
|---|---|---|
| 使える人 | インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった人(3割特例は個人事業者だけ) | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、届出書を出した課税事業者 |
| 納付税額 | 売上税額の2割(3割) | 売上税額×(1−みなし仕入率)。第5種(サービス業等)なら売上税額の5割 |
| 届出 | 不要(申告書に付記) | 必要 |
| 継続の縛り | なし。課税期間ごとに選べる | 原則として2年間は継続適用 |
| 期限 | 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間まで、3割特例は2028年分まで | 期限のある特例ではない |
みなし仕入率は、第1種(卸売業)90%から第6種(不動産業)40%まで6段階あります(国税庁 No.6505)。自分の事業がどの区分に入るかは、国税庁の事業区分で確かめてから比べてください。
ぼくは一人で合同会社を作った話に書いたとおり、日々の会計はfreee会計に任せ、判断が必要な税務は税理士に聞く形にしています。一人法人の作り方でも、法人の決算申告は法人税・消費税・地方税を別々に申告するので税理士はほぼ必須だと書きました。2割特例が終わる法人は、次の課税期間を一般課税にするか簡易課税にするかを決めることになります。その判断は、決算の打ち合わせのついでに税理士と一度試算しておくと、届出の期限に追われずに済みます。
よくある間違いと注意点
いちばん多い間違いは、3割特例を法人も使えると思い込むことです。3割特例は個人事業者だけの措置で、法人は2割特例が終わると一般課税か簡易課税に移ります。ほかの注意点も並べます。
- 期限を日付で切ってしまう:2割特例は課税期間単位です。3月決算の法人なら、2026年10月以後の売上を含む2027年3月期まで使えます。
- 届出が必要だと思う:2割特例・3割特例とも事前の届出は不要で、申告書に付記すれば適用できます。届出が必要なのは簡易課税のほうです。
- どの年も使えると思う:基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間は使えません。売上が伸びた年の2年後は特に確認が必要です。
- 還付の年にも2割特例を選ぶ:仕入れの消費税額が売上の消費税額より多い年は、一般課税なら還付を受けられます。2割特例は継続の縛りがないので、課税期間ごとに比べて選べます。
- 簡易課税の2年縛りを忘れる:2割特例の後に簡易課税へ移ると、原則として2年間は続ける必要があります。
- 2割特例の終わりと仕入れの経過措置を混同する:免税事業者から仕入れたときに一部を控除できる経過措置は別の制度で、2026年10月1日からは70%です。
この記事は、最終更新日時点の制度で書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。相談先の選び方はいい税理士とは何かにまとめています。
2割特例に関するよくある質問
2割特例について、一緒に検索されている「いつまで」「要件」「フローチャート」「法人」の疑問に答えます。回答は、最終更新日時点で国税庁と法令のページで確認できた内容です。
2割特例はいつまで使えますか?
2023年10月1日から2026年9月30日までの日を含む課税期間までです。個人事業主は2026年分の申告が最後で、法人は2026年9月30日を含む事業年度が最後です。3月決算の法人なら2027年3月期まで使えます。
法人は2割特例の後に3割特例を使えますか?
使えません。3割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった個人事業者の、2027年分と2028年分だけが対象です。法人は2割特例の終了後、一般課税か簡易課税で申告します。
2割特例を使うのに届出は必要ですか?
必要ありません。確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記するだけで適用できます。簡易課税のような事前の届出や、継続して適用しなければならない制限もありません。
2割特例と簡易課税はどちらが得ですか?
業種と仕入れの額で変わります。サービス業(第5種・みなし仕入率50%)なら、2割特例も3割特例も簡易課税より納付税額が少なくなります。卸売業(90%)は2割特例より簡易課税のほうが少なく、小売業(80%)は2割特例と同じ水準で、3割特例と比べると卸売業・小売業とも簡易課税のほうが少なくなります。仕入れの消費税額が多い年は一般課税で還付が出ることもあるので、課税期間ごとに比べてください。
おわりに──2割特例は、ゴールではなく選び直すまでの猶予
2割特例は、消費税を軽くする制度に見えて、実際にはインボイス登録をした人が申告に慣れるまでの猶予でした。個人事業主には3割特例でもう2年の猶予が足され、法人はこの秋から順に猶予が切れていきます。決めることは、2割特例をいつまで使えるかではなく、猶予が切れた翌期にどの計算方法で申告するかです。