最終更新:2026年10月20日
フリーランス新法とは、2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)の呼び名で、従業員を使わずに一人で仕事を受ける個人や一人法人を守るために、発注する事業者へ取引条件の明示や60日以内の支払期日などを義務づけた法律です。代表者のほかに役員がおらず、従業員もいない一人法人も保護の対象に入ります。この記事では、公正取引委員会・厚生労働省・e-Gov法令検索で確認できた範囲で、適用対象、発注者の義務と禁止行為、違反があったときの動き方を、受注側と発注側の両方の立場から整理します。最終更新日時点の制度で書いています。
フリーランス新法とは?結論から
フリーランス新法は、発注者の規模を問わず「一人で受ける事業者」との取引に最低限のルールを敷き、発注者が組織であるほど義務が増える二段構えの法律です。要点を表にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号) |
| 施行日 | 2024年(令和6年)11月1日 |
| 守られる側 | 特定受託事業者=従業員を使用しない個人、または代表者1人のほかに役員がなく従業員も使用しない法人 |
| 義務を負う側 | 業務委託事業者(フリーランスも含む)と、そのうち従業員を使う・役員が2人以上いる特定業務委託事業者 |
| 対象の取引 | 事業者から事業者への業務委託(物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供)。業種の限定はなく、消費者との取引は対象外 |
| 担当する役所 | 取引の適正化は公正取引委員会・中小企業庁、就業環境の整備は厚生労働省 |
法律の全文はe-Gov法令検索(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)で、解説は公正取引委員会のパンフレット「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」で読めます。「新法」は施行前後に広まった呼び名で、公正取引委員会は「フリーランス法」「フリーランス・事業者間取引適正化等法」と表記しています。
フリーランス新法の適用対象と発注者の義務(制度・要件)
フリーランス新法で発注者が負う義務は、発注者が従業員を使っているかどうかと、委託の期間が1か月以上か6か月以上かの2つで段階的に増えます。最初に、誰が守られて誰が守る側なのかの定義を押さえます。
| 用語 | 定義(2条) | 補足 |
|---|---|---|
| 特定受託事業者(フリーランス) | 業務委託の相手方である事業者で、①個人で従業員を使用しないもの、②法人で一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの | 会社員が副業で業務委託を受けている場合も、その業務の範囲では該当し得る |
| 業務委託事業者 | 特定受託事業者に業務委託をする事業者 | フリーランス同士の取引でも、発注する側はこれにあたる |
| 特定業務委託事業者 | 業務委託事業者のうち、①個人で従業員を使用するもの、②法人で二以上の役員がいる、または従業員を使用するもの | 60日以内の支払いや禁止行為の義務を負う |
| 従業員を使用 | 1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇うこと | 同居親族だけを使っている場合は該当しない。一方、同居親族が役員なら「他の役員」にあたる |
定義は条文と公正取引委員会のQ&Aで確認しました。そのうえで、発注者の区分と委託の期間ごとにかかる義務は次のとおりです。
| 義務・禁止 | 条文 | 負う人 | 期間の条件 |
|---|---|---|---|
| 取引条件の明示 | 3条 | 業務委託事業者(全員) | なし |
| 期日における報酬の支払い(受領から60日以内) | 4条 | 特定業務委託事業者 | なし |
| 募集情報の的確な表示 | 12条 | 特定業務委託事業者 | なし |
| ハラスメント対策の体制整備 | 14条 | 特定業務委託事業者 | なし |
| 7つの禁止行為 | 5条 | 特定業務委託事業者 | 1か月以上の業務委託 |
| 育児・介護等との両立への配慮 | 13条 | 特定業務委託事業者 | 6か月以上の業務委託(それより短い委託は努力義務) |
| 中途解除・不更新の30日前予告と理由の開示 | 16条 | 特定業務委託事業者 | 6か月以上の業務委託 |
1か月・6か月には、契約の更新によってその期間以上続くことになる委託も含まれます(5条・13条、公正取引委員会パンフレット)。
明示しなければならない取引条件は次の8項目です。⑦と⑧は、該当する取引のときだけ必要です。
- ① 発注者とフリーランスの名称(ペンネームなど、互いを特定できるものでもよい)
- ② 業務委託をした日(業務委託をすることに合意した日)
- ③ 給付・役務の内容(品目・数量・仕様など。知的財産権を譲渡・許諾させる場合はその範囲も)
- ④ 給付を受け取る日、または役務の提供を受ける日
- ⑤ 給付を受け取る場所、または役務の提供を受ける場所
- ⑥ 報酬の額と支払期日(支払期日は具体的な日を特定する)
- ⑦ 検査をする場合は、検査を完了する日
- ⑧ 現金以外の方法で払う場合は、支払方法に関すること
明示の方法は書面か、電子メール・SNSのメッセージ・チャットツールなどの電磁的方法で、電話など口頭は認められません。電磁的方法で明示した場合でも、フリーランスから書面を求められたら原則として遅滞なく交付します。知的財産権を譲渡・許諾させる場合は、その対価を報酬に加える必要があります(いずれも公正取引委員会パンフレット)。
報酬の支払期日は、検査をするかどうかを問わず、給付を受け取った日(役務なら提供を受けた日)から起算して60日以内の、できる限り短い期間で定めます。支払期日を定めなかった場合は受け取った日が、60日を超えて定めた場合は受け取った日から起算して60日を経過する日が、支払期日とみなされます(4条)。元の発注者から受けた仕事を再委託する場合は、必要な事項を明示すれば、元の発注者の支払期日から起算して30日以内とする例外があります。
1か月以上の業務委託で禁じられる7つの行為は次のとおりです(5条)。
| 禁止行為 | 内容(条文の要約) |
|---|---|
| 受領拒否 | フリーランスに責任がないのに、給付の受け取りを拒む |
| 報酬の減額 | フリーランスに責任がないのに、報酬の額を減らす。振込手数料を合意の有無にかかわらず報酬から差し引くことも減額として問題になる(公正取引委員会Q&A) |
| 返品 | フリーランスに責任がないのに、受け取った後に引き取らせる |
| 買いたたき | 同種・類似の給付に通常支払われる対価より著しく低い報酬を不当に定める |
| 購入・利用強制 | 正当な理由なく、自己の指定する物を買わせたり、役務を利用させたりする |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | 自己のために金銭・役務などを提供させ、フリーランスの利益を不当に害する |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | フリーランスに責任がないのに、内容を変えさせたり、受け取った後にやり直させたりして、利益を不当に害する |
違反かもしれないときの動き方(手順)
受注側が取引で困ったときは、記録をそろえてから「自分で交渉する」「フリーランス・トラブル110番に相談する」「行政機関に申し出る」の3つから選ぶのが基本の流れです。順番に並べます。
- 記録をそろえる:明示された取引条件、発注と修正のやりとり、納品した日、請求書を一か所に集めます
- 日付を数え直す:相手が特定業務委託事業者なら、給付を受け取った日から60日以内に支払期日が定められているかを確かめます
- 自分で交渉する:明示された条件を根拠に、支払いや条件の確認を文面で求めます
- フリーランス・トラブル110番に相談する:厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営する窓口で、弁護士に無料・匿名で相談でき、和解あっせんも使えます。電話は0120-532-110(受付9時30分〜16時30分、土日祝日を除く)、メールでも受け付けています(フリーランス・トラブル110番)。フリーランス自身が発注側になったトラブルや、契約書の作成は対象外です
- 行政機関に申し出る:取引の適正化(明示・支払期日・禁止行為など)は公正取引委員会か中小企業庁へ、就業環境の整備(募集情報・ハラスメント・解除の予告など)は厚生労働省へ申し出られます(6条・17条、厚生労働省 申出窓口)
申し出を受けた行政機関は、報告徴収や立入検査で調べ、指導・助言、勧告を行い、勧告に従わない場合は命令と公表に進みます。命令に違反すると50万円以下の罰金です(24条)。また発注者は、フリーランスが申し出たことを理由に、取引の削減や停止などの不利益な扱いをしてはいけません(6条3項)。
実際の運用も動いています。公正取引委員会によると、2025年度(令和7年度)の申出は604件、勧告は10件、指導は1,542件でした。違反の類型では、期日における報酬の支払義務違反が1,135件(41.6%)、取引条件の明示義務違反が1,126件(41.3%)、買いたたきが250件(9.2%)で、放送業と広告業への集中調査では128名に是正を求める指導が行われています(公正取引委員会 2026年6月10日公表)。マーケ支援の仕事は、まさに調査の対象になった業種の隣にあります。
フリーランス・一人法人の判断ポイント
受注側として確かめるのは「自分が特定受託事業者に入るか」と「相手が特定業務委託事業者か」の2点で、発注側に回るときは自分の会社の役員と従業員の数で義務の範囲が決まります。両方の立場を表で並べます。
| 場面 | 受注側(フリーランス・一人法人) | 発注側(外注する一人法人など) |
|---|---|---|
| 自分の区分 | 代表者1人・従業員なしの法人は特定受託事業者。役員を増やす、従業員を雇うと外れる | 役員1人・従業員なしなら業務委託事業者で、義務は取引条件の明示。従業員を雇う、役員が2人以上になると特定業務委託事業者 |
| 発注のとき | 8項目がメールやチャットで示されているかを見る | 発注のたびに8項目を文字で送る |
| 支払い | 相手が特定業務委託事業者なら、受け取りから60日を超えていないか | 特定業務委託事業者なら60日以内のできる限り短い日に。振込手数料を報酬から差し引かない |
| 長く続く取引 | 6か月以上なら、解除や不更新の30日前予告と理由の開示を求められる | 6か月以上の委託を終えるときは30日前までに予告する |
| 再委託 | 元の発注者の支払期日から30日以内の例外があり得る | 例外を使うなら、再委託である旨などを明示する |
独立2年目に、納品も請求も済んだ案件の入金が3週間止まったことがあります。原因はクライアントの社内承認の遅れで、担当者に悪意はありませんでした。ぼくの最初の契約書には支払いが遅れたときの条項がなく、今はすべての契約書に入れています(クライアントが払ってくれない──ファクタリングという選択肢)。フリーランス新法は、発注者が組織である場合に「支払期日を決め、その日に払う」ことを法律の義務にしました。ただ、法律が直接守るのは条件の明示と期日までで、入金を待つあいだの資金繰りまでは面倒を見てくれません。請求から入金までの時間差は、売掛金の管理として別に備えておく必要があります(売掛金とは)。
一人法人の受注側で見落としやすいのは、守られるのが「代表者のほかに役員がいない間」だけである点です。家族を役員に入れると、同居の親族でも「他の役員」になり、特定受託事業者から外れます。逆に、従業員として同居親族だけを使っている場合は、従業員を使用していることになりません(公正取引委員会Q&A・パンフレット)。
発注側に回る場面でも、明示義務は相手がフリーランスなら一人法人にもかかります。たとえば外注先のデザイナーにバナー制作を頼むなら、メール本文に次のような項目を並べます。当事者は架空で、例(そのまま使える雛形ではない)として示します。
- 委託者:合同会社サンプル企画/受託者:ヤマダデザイン(業務委託をした日:2026年11月2日)
- 内容:ECサイト用バナー3点(指定サイズ・修正2回まで)
- 納期と納品場所:2026年11月20日、指定のクラウドフォルダ
- 検査完了日:2026年11月27日
- 報酬と支払期日:税込◯円、2026年12月31日に銀行振込(振込手数料は委託者負担)
この例では、納品の11月20日を1日目として数えると、支払期日の12月31日は42日目で、60日以内に収まります。契約書を交わす場合の印紙は印紙税と契約書、電子契約で交わす場合は電子契約とはにまとめています。
フリーランス新法のよくある間違いと注意点
フリーランス新法でいちばん多い誤解は「契約書を交わしていない取引には関係ない」と考えることで、実際には口約束で始まった取引こそ、明示義務がいちばん効く場面です。ほかにも、次の思い込みに注意してください。
- フリーランス同士なら関係ない:業務委託事業者にはフリーランスも含まれ、発注する側に明示義務があります
- 一人法人は対象外:代表者1人・従業員なしの法人は特定受託事業者です
- 60日ルールはどの発注者にもかかる:支払期日の義務を負うのは特定業務委託事業者です。従業員のいない個人や一人法人の発注者には4条はかかりませんが、明示した支払期日に払う約束であることは変わりません
- 月末締めなら何日後でもよい:月単位の締切制度でも、受け取った日から60日以内に払う必要があります(公正取引委員会パンフレット)
- 手数料の差し引きは合意すればよい:振込手数料を報酬から差し引くことは、合意の有無にかかわらず減額として問題になります
- 業務委託契約なら必ず対象:形式が業務委託でも、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合は労働基準関係法令が適用され、この法律は適用されません。消費者との取引や単なる商品の売買も対象外です
- 下請法と同じ:旧下請法(2026年1月から取適法)とは対象も義務も別の法律で、両方にあたる取引もあります。違いは取適法の別記事で整理しています
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約の判断は弁護士・税理士に確認してください。最終更新日時点の法令と、公正取引委員会・厚生労働省の案内で確認できた範囲で書いています。
フリーランス新法に関するよくある質問
フリーランス新法の支払期日60日は、いつから数えますか?
給付を受け取った日、役務の場合は提供を受けた日から起算します。検査をするかどうかは関係ありません。その日から60日以内の、できる限り短い期間で支払期日を定める必要があり、義務を負うのは従業員を使う、または役員が2人以上いる特定業務委託事業者です。
一人法人もフリーランス新法の対象ですか?
代表者1人のほかに役員がなく、従業員も使用していない法人なら、特定受託事業者として保護の対象です。従業員は1週間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みの人を指します。同居親族が役員に入ると「他の役員」にあたり、対象から外れます。
フリーランス新法に違反するとどうなりますか?
フリーランスからの申し出などをきっかけに行政機関が調べ、指導・助言や勧告を行います。勧告に従わなければ命令と公表があり、命令違反は50万円以下の罰金です。2025年度の公正取引委員会の勧告は10件、指導は1,542件でした。
フリーランス新法の適用対象にならないのはどんな場合ですか?
消費者との取引、委託ではない単なる商品の売買、実質的に労働者と判断される働き方は対象外です。受注側が従業員を使っている場合や、役員が2人以上いる法人の場合も、特定受託事業者にはあたりません。
おわりに──フリーランス新法は、口約束を記録に変える法律
フリーランス新法が受注側に渡したのは、強い交渉力ではありません。条件を文字で残させる権利と、その文字を根拠に相談できる窓口です。発注側に回ったときも、守るべきことの出発点は同じです。決めるべきなのは、法律を武器にすることではなく、すべての取引を「書いて、数えて、残す」形で始めることです。