最終更新:2026年10月17日
ブランドステートメントとは、ブランドが何を信じ、誰に何を約束するのかを、数行から数段落の文章で語ったものです。一言で覚えてもらうタグラインと違い、ステートメントは「なぜそう言えるのか」まで文章で書きます。結論から言えば、良いステートメントは美しい文章ではなく、社員や制作に関わる人が迷ったときに判断の物差しとして使える文章です。この記事では、パーパス・ミッション・ビジョン・タグラインとの違いを表で整理し、提唱者がいない言葉の出どころ、公式サイトで確認できる有名な例、誰に・何を・なぜの3つから書く手順と架空の例、飾りで終わるステートメントの型まで順に書いていきます。
ブランドステートメントとは?パーパス・ミッション・タグラインとの違い一覧
ブランドステートメントは、ブランドの考えと約束を「文章」で示すものです。パーパスやミッションが一文で答えを言い切る言葉だとすれば、ステートメントはその答えに至る理由や、生活者との約束までを含めて語る、いちばん長い言葉になります。
似た言葉を、答えている問いと長さで並べると次のようになります。例はすべて架空の文具ブランドで作りました。
| 言葉 | 答えている問い | 長さ | 主な読み手 | 例(架空の文具ブランド) |
|---|---|---|---|---|
| パーパス | なぜ存在するのか | 一文 | 社会・生活者 | 「書くことで、考えが自分のものになる時間を守る」 |
| ミッション | 何をするのか | 一文 | 社員・顧客 | 「一生使える筆記具を、手の届く値段でつくる」 |
| ビジョン | どうなりたいのか | 一文 | 社員・投資家 | 「手で書く人が、もう一度ふえている社会」 |
| タグライン | 一言で言うと何者か | 数語〜一文 | 生活者 | 「書くと、わかる。」 |
| ブランドステートメント | 何を信じ、誰に何を約束するのか、それはなぜか | 数行〜数段落 | 生活者と、ブランドを担う社内外の人の両方 | 「速く打てる時代に、わたしたちは遅く書く道具をつくっています。……」(全文は後半の書き方の章) |
表を縦に読むと、上の4つは一文以内で言い切る言葉で、ステートメントだけが文章です。だからステートメントには、ほかの言葉にない役割があります。パーパスやタグラインが「何を」を短く示すのに対して、ステートメントは「なぜそう言えるのか」と「だから何を約束するのか」を書く場所になります。その「なぜ」を時間の流れで語るとブランドストーリーになります。
パーパスとミッション・ビジョンの関係そのものはブランドパーパスとは?ミッション・ビジョンとの違いと事例で、一言で覚えてもらう言葉の作り方はタグラインとは?キャッチコピーとの違いと例、作り方を解説で詳しく書きました。この記事では、文章で語るステートメントに絞って書きます。
ブランドステートメントの出どころ──提唱者はいない、近い型は2つある
ブランドステートメントには、「この人が提唱した」と言える一次出典は見当たりません。広告やブランドづくりの現場で使われてきた呼び名で、学術的な定義も一つには決まっていません。
ただ、似た役割を持つ言葉には出どころのはっきりしたものが2つあります。どちらも社内向けの言葉で、ここを区別しておくと、ステートメントの位置づけが見えやすくなります。
| 言葉 | 出どころ | 形 | 主な読み手 |
|---|---|---|---|
| ポジショニングステートメント | ジェフリー・ムーア(Geoffrey Moore)の「キャズム」(原書1991年)で示された型がよく使われる | 「〔誰〕にとって、〔ブランド〕は〔カテゴリー〕の中で〔便益〕をもたらす。〔競合〕と違って〔差別点〕がある」という穴埋めの一文 | 社内(企画・営業・開発) |
| ブランドマントラ | ケビン・レーン・ケラー(Kevin Lane Keller)が1999年に学術誌「Journal of Marketing Management」に発表した論文 | ブランドの本質を3〜5語程度に縮めた短い言葉 | 社内(ブランドに関わる全員) |
| ブランドステートメント | 特定の提唱者はいない | 数行〜数段落の文章 | 社外と社内の両方 |
ポジショニングステートメントは、競合との違いを社内でそろえるための設計図です。外に出すことは想定されていないので、言い回しは事務的でかまいません。考え方の土台はポジショニングとは?意味とポジショニングマップの作り方・軸の決め方に書いています。ブランドマントラは、社員が日々の判断で思い出せるように、本質を数語まで削った合言葉です。
ブランドステートメントは、この2つと違って外に向けて書かれることが多く、公式サイトや採用ページ、ブランドブックに載ります。外に出す文章でありながら、中で働く人の判断もそろえる。この二重の役割が、ステートメントを書きにくくしている原因でもあります。
有名なブランドステートメントの例──公式サイトでの呼び方はばらばら
実在の企業の例を公式サイトで確かめると、「ステートメント」と呼ばれているものの形はかなり幅があります。数語の一行をステートメントと呼ぶ会社もあれば、一行に説明の文章を添えて一組にしている会社もあります。
次の表は、各社の公式サイトや公式発表で呼び方と文言を確認できたものだけを並べています。文言は短く引用し、確認元にリンクしました。
| 企業 | 公式での呼び方 | 文言 | 確認元 |
|---|---|---|---|
| エバラ食品 | ブランドステートメント | 「こころ、はずむ、おいしさ。」に、込めた思いの説明文と、ブランドへの思いを語る長い文章が続く | エバラ食品「経営理念・行動指針・ブランドステートメント」 |
| 三菱電機 | コーポレートステートメント(2001年制定) | 「Changes for the Better」。常により良いものをめざし、変革していく姿勢を表すと説明されている | 三菱電機「コーポレートロゴの歴史」 |
| 日立製作所 | コーポレートステートメント | 「Inspire the Next」。日立ブランドの約束を伝えるメッセージと一緒に使われている | 日立製作所 ニュースリリース(2013年5月7日) |
| 本田技研工業 | グローバルブランドスローガン | 「The Power of Dreams — How we move you.」 | Honda「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」社長スピーチ |
表から分かるのは、呼び方が会社ごとに違うということです。三菱電機と日立は短い一行を「ステートメント」と呼び、ホンダは同じ役割の一行を「スローガン」と呼んでいます。エバラ食品は一行を掲げたうえで、その一行に込めた思いを文章で説明したうえで、「ブランドに込めた思い」という長い文章を続けています。この記事の定義に近いのは、エバラ食品の形です。
もう一つ、検索で出てくる「ブランドステートメント一覧」には注意が必要です。解説記事で例として並べられている文言を各社の公式サイトでたどると、その会社自身は「ミッション」や「パーパス」と呼んでいることがよくあります。名前で集めた一覧は、役割の違う言葉が混ざりやすい。自社のステートメントを考える参考にするなら、呼び方より、その言葉が一行なのか文章なのか、誰に向けて何を約束しているのかで読み分けるほうが役に立ちます。
ブランドステートメントの書き方──誰に・何を・なぜの3つを先に決める
ブランドステートメントは、文章を書き始める前に「誰に」「何を約束するか」「なぜそう言えるか」の3つを一行ずつ決めてから書くと、ぶれずに書けます。この3つが決まらないまま書くと、形容詞を並べた、どの会社にも当てはまる文章になります。
手順は次の5つです。
- 誰に:いちばん届けたい相手を、属性ではなく暮らしの場面で一人決める。「30代の会社員」ではなく「打ち合わせのメモを、あとで読み返して分からなくなる人」まで具体にする
- 何を約束するか:その人に起こしたい変化を一つに絞る。約束が三つ並んだら、まだ決めきれていない
- なぜそう言えるか:約束を信じてもらえる根拠を、事実で書けるものから選ぶ。作り方、続けてきたこと、断ってきたことが根拠になる
- 世界の見方を一文にする:ブランドが「世の中はこうなっている、でも本当はこうあってほしい」と考えていることを書く。ステートメントの書き出しはたいていここになる
- 検算する:書いた文章の社名を競合に差し替えても成り立たないか、制作会社に渡したときに表現の判断に使えるか、の2点を確かめる
1と2の絞り込みは、広告の企画でキーメッセージを一つに決める作業とよく似ています。一つに絞る理由はキーメッセージとは?作り方3ステップと例、コアメッセージとの違いに、3の根拠の選び方はRTB(Reason to Believe)とは?意味と種類、例をマーケティングで解説に書いています。
この手順で、先ほどの架空の文具ブランドのステートメントを書くと、たとえば次のようになります(企業も文章も架空です)。
「速く打てる時代に、わたしたちは遅く書く道具をつくっています。打った言葉は早く流れていきますが、手で書いた言葉は、書いた人の考えとして残るからです。会議のメモが読み返せない人に、考えが自分のものになる時間を届けたい。だから、軸の重さと紙の引っかかりを、書く速さがちょうど考える速さになるところまで調べてきました。書くと、わかる。わたしたちは、その時間を守る道具をつくり続けます。」
書き出しが世界の見方(4)、二文目がその理由、三文目が誰に何を約束するか(1と2)、四文目が根拠(3)、最後にタグラインで締めています。ステートメントの最後の一行がタグラインになっている形は、実在の企業でもよく見られます。文章で語った約束を、一言にして持ち帰ってもらうためです。
ブランドステートメントが飾りで終わる型──読まれない前提で書く
ブランドステートメントは、生活者に全文を読まれる機会がほとんどない文章です。だから「読まれて感動されること」を目標にすると失敗します。本当の読み手は、そのブランドの接点をつくる社員や制作に関わる人で、彼らが迷ったときに読み返して判断できるかどうかで価値が決まります。
広告会社でブランドキャンペーンを企画する側にいると、オリエンの資料にブランドの文章が添えられてくることがありました。企画の判断に使えたのは、言い回しの美しい文章より、誰に何を約束しているかがはっきり書かれた文章でした。約束が書かれていれば、表現の候補を並べたときに「これは約束から外れている」と言えます。書かれていなければ、その文章は企画の場では読み返されません。
飾りで終わるステートメントには、決まった型があります。
- 「笑顔」「未来」「豊かさ」など、どの会社でも言える言葉だけでできている
- 世界の見方は書いてあるが、誰に何を約束するのかが書かれていない
- 約束の根拠が一つもなく、思いだけが続いている
- パーパスやミッションと同じ内容を、長く言い換えただけになっている
- 一度掲げたきり、商品や事業が変わっても読み直されていない
なかでも見落とされやすいのが、パーパスとの重複です。パーパスとステートメントが同じことを言っているなら、ステートメントは要りません。ステートメントに書くべきなのは、パーパスの一文では書ききれない「なぜ」と「誰への約束」です。役割が重なっていないかは、表の5つの言葉を並べて、それぞれが違う問いに答えているかで確かめられます。
ステートメントの言葉づかいは、そのままブランドの話し方の見本にもなります。です・ます調か、主語を「わたしたち」にするか、どのくらい言い切るか。文章で書く以上、内容と同時に声の調子も決まってしまうので、言葉の雰囲気の決め方はトンマナとは?トーン&マナーの意味と例、トンマナシートの作り方の考え方とそろえておくと、広告やサイトの文章とずれにくくなります。話し方の手前にある性格の決め方はブランドパーソナリティに書きました。
ブランドステートメントに関するよくある質問
ブランドステートメントとは簡単に言うと何ですか?
ブランドが何を信じ、誰に何を約束するのかを、数行から数段落の文章で語ったものです。一言で言い切るタグラインやパーパスと違い、「なぜそう言えるのか」まで書くのが特徴です。社外に向けて書かれることが多いものの、社内の判断をそろえる役割も持っています。
ブランドステートメントとタグラインの違いは何ですか?
いちばん大きな違いは長さと役割です。タグラインは一言で覚えてもらうための言葉で、ステートメントは約束の理由まで文章で語るための言葉です。ステートメントの最後の一行をタグラインにして、文章で語った内容を一言で持ち帰ってもらう形もよく使われます。
ブランドステートメントの有名な例はありますか?
公式サイトで確認できる例では、エバラ食品が「こころ、はずむ、おいしさ。」をブランドステートメントとして掲げ、説明の文章を添えています。三菱電機の「Changes for the Better」や日立製作所の「Inspire the Next」は、各社がコーポレートステートメントと呼んでいる一行です。呼び方は会社ごとに違うので、名前より役割で読み分けるのが確実です。
ブランドステートメントは英語で何と言いますか?
英語でもbrand statementと呼ばれます。ただ、長い宣言文はブランドマニフェスト(brand manifesto)と呼ばれることもあり、英語圏でも呼び方は一つに決まっていません。日本と同じく、言葉の名前より、一行なのか文章なのか、誰に向けた言葉なのかで区別するほうが混乱しません。
おわりに──ステートメントは、外に向けて書き、内側で使う
ブランドステートメントを書こうとすると、どうしても生活者に読まれる場面を想像して、きれいな文章を目指してしまいます。でも、全文を読む生活者はほとんどいません。何度も読み返すのは、そのブランドの名前で商品をつくり、広告をつくり、問い合わせに答える人たちです。
ステートメントは、外に向けて書き、内側で使う。
外に出しても恥ずかしくない約束を書いておけば、中の人はその約束を守る判断ができます。書き終えたら、一度だけ、制作を頼む相手にその文章を渡すつもりで読み返してみてほしいと思います。表現を選ぶ物差しとして使えるなら、そのステートメントはもう働きはじめています。