最終更新:2026年10月19日
定款の事業目的の書き方は、今やる事業と数年以内にやりそうな事業を、登記で通じる言葉で一行ずつ並べ、最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」を置くのが基本です。事業目的は定款に必ず書く事項で、登記もされ、取引先や銀行が「この会社は何をする会社か」を確かめる場所になります。書き方の物差しは適法性・営利性・明確性の3つです。後から目的を追加するには定款の変更と変更登記が必要で、登録免許税3万円がかかります。この記事では、一人で会社を作る人が「どこまで書くか」を決めるための原則、マーケターやコンサルタントが独立するときの文例、許認可が要る業種の注意、追加するときの手続きと費用をまとめます。制度と金額は最終更新日の時点で公式ページを確認した内容です。
定款の事業目的とは?結論から
定款の事業目的とは、会社が営もうとする事業を定款に書いたもので、会社を見分ける基準のひとつとして必ず記載しなければならない事項です。一人で会社を作る人が決めるのは、何を入れるかより「何年先まで見て入れるか」のほうです。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 位置づけ | 定款の絶対的記載事項。合同会社は会社法第576条第1項第1号、株式会社は第27条第1号 |
| 登記 | 設立の登記で登記する事項に含まれる(合同会社は会社法第914条第1号)。登記事項証明書で誰でも見られる |
| 書き方の物差し | 適法性・営利性・明確性(日本公証人連合会 9-4 定款認証 Q5) |
| 最後の一行 | 「前各号に附帯関連する一切の事業」など。法務局の記載例も最終号に置いている |
| 言葉の注意 | ローマ字や専門用語は、広く認知されていないと登記申請が受理されない場合がある(法務省・合同会社設立登記申請書の記載例) |
| 後から追加 | 定款変更(合同会社は総社員の同意)+変更登記。登録免許税は1件3万円(法務局・合同会社の目的変更の記載例) |
事業目的の制度・要件・費用
事業目的の要件は、会社法の条文が「目的を書け」と定め、書き方の物差しを公証人と法務局の案内が補う形になっています。表に出典をつけて整理します。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 定款に書く義務 | 目的は定款に必ず記載する | 会社法第576条・第27条 |
| 3つの物差し | 適法性・営利性・明確性。会社法で類似商号の規定がなくなり具体性は登記官の審査対象ではなくなったが、この3つは従前どおり必要とされる | 日本公証人連合会 Q5 |
| 言葉の選び方 | 一般に市販されている用語辞典に載っているなど、広く社会的に認知された用語を使う。必要なら括弧書きで説明を添える | 法務省 記載例 |
| 参考になる一覧 | 記載できる目的の例として、総務省の「日本標準産業分類」が挙げられている | 法務省 記載例 |
| 許認可が要る事業 | 許認可・登録・届出が要る事業は、目的の書き方に問題がないか当該官公庁に事前に問い合わせる。登記が受理されても許認可の関係で問題になる場合がある | 法務省 記載例 |
| 目的を変える決め方 | 合同会社は定款に別段の定めがなければ総社員の同意。株式会社は株主総会の決議(特別決議) | 会社法第637条・第466条・第309条第2項第11号 |
| 変更登記の期限 | 変更が生じてから2週間以内に本店所在地で登記する | 会社法第915条第1項 |
| 登記を怠ったとき | 100万円以下の過料の対象 | 会社法第976条第1号 |
| 変更登記の登録免許税 | 1件につき3万円(合同会社・株式会社とも) | 法務局の記載例(合同会社・株式会社) |
3つの物差しを言い換えると、適法性は「法律に反する事業や、資格がないとできない事業を書かない」、営利性は「利益を上げることを目指す事業を書く」、明確性は「読んだ人が何の事業か分かる言葉で書く」です。たとえば「人を幸せにする事業」は気持ちとしては分かっても、何をする会社なのかが伝わりません(架空の例)。
「前各号に附帯関連する一切の事業」は、上に並べた本業に付いてくる周辺の業務を受け止める一行です。法務局の記載例でも、設立の例は「前各号に附帯する一切の事業」、目的変更の例は「前各号に付帯関連する一切の事業」と、最終号に置かれています。ただし、この一行で本業とつながりのない新しい事業まで書いたことになる、と考えるのは危険です。新しく始める事業は、号を立てて書くほうが安全です。
事業目的の書き方の手順と文例
事業目的は、仕事を書き出し、将来の分を足し、許認可を確かめ、登記で通じる言葉に直し、並べ替えて最後に附帯の一行を置く、の順で作ると迷いません。
- いま売上が立っている仕事を全部書き出す。請求書に書いている品目が、そのまま候補になります。
- 数年以内にやりそうな仕事を足す。研修、セミナー、物販、メディア運営など、話が出ている程度のものも候補に入れます。
- 許認可が要るかを確かめる。たとえば古物の売買は都道府県公安委員会の許可(古物営業法第3条)、有料の職業紹介は厚生労働大臣の許可(職業安定法第30条)が要ります。該当しそうなら、書き方を窓口に事前に確認します。
- 登記で通じる言葉に直す。「〜の企画、制作及び販売」「〜に関するコンサルティング業務」のような定番の形に寄せます。社内の呼び名やカタカナの新語は、括弧で説明を足すか、一般的な言葉に置き換えます。
- 本業を第1号にして並べる。登記事項証明書を開いた人は上から読むので、いちばん説明したい仕事を先頭に置きます。
- 最後に附帯の一行を置く。「前各号に附帯関連する一切の事業」で締めます。
マーケター・コンサルタントが独立するときの文例を表にしました。いずれも架空の例で、定番の言い回しを示すためのものです。自分の会社に入れるかどうかは、上の手順で判断してください。
| やりたい仕事 | 文例(架空の例) | メモ |
|---|---|---|
| マーケティングの相談・顧問 | 経営、マーケティング及び広報に関するコンサルティング業務 | 独立したマーケターの第1号になりやすい |
| 広告の企画・制作 | 広告、宣伝及び販売促進に関する企画、制作及び代理業務 | 代理店的な仕事も受けるなら「代理業務」まで |
| SNSの運用代行 | インターネットメディア及びSNSアカウントの企画、運用及び運用代行 | 英字の略語は説明を添えるか一般語にする判断も |
| 調査・分析 | 市場調査、マーケティングリサーチ及びデータ分析業務 | BtoBの分析案件を受ける人向け |
| デザイン | グラフィックデザイン、ウェブデザインその他各種デザインの企画及び制作 | 制作を外注して納品する場合も含めやすい |
| Web制作・ツール開発 | ウェブサイト及びウェブコンテンツの企画、制作、運営及び保守 | 自社サービスを持つなら別号でソフトウェアの開発・販売も |
| 研修・セミナー | 各種セミナー、研修会及び講演会の企画、運営及び講師の派遣 | 企業研修の登壇があるなら入れておく |
| 有料記事・講座の販売 | インターネットを利用した教育コンテンツの企画、制作、配信及び販売 | 有料noteやオンライン講座を会社で売る場合 |
| 執筆・編集 | 各種記事、文書の企画、執筆、編集及び校正業務 | 寄稿や書籍の仕事がある人向け |
| 最終号 | 前各号に附帯関連する一切の事業 | 必ず最後に置く |
反対に、直したほうがいい書き方の例も並べておきます。こちらも架空の例です。
| 直す前(架空) | 何が引っかかるか | 直した例(架空) |
|---|---|---|
| グロースハック支援 | 広く認知された用語か判断が分かれる | ウェブマーケティングに関する支援業務 |
| あらゆるビジネスのサポート | 何の事業か分からない(明確性) | 各種事務処理の代行及びアウトソーシングの受託業務 |
| 人材紹介 | 許可が要る事業で、取る予定がないなら書く意味が薄い | 人事制度及び組織開発に関するコンサルティング業務 |
| マーケティングと広告とSNSとデザインの仕事 | 1つの号に詰め込みすぎて読みにくい | 号を分けて、1号に1つの事業を書く |
文例を選んで並べる作業は、ぼくが作った無料ツールのなりわいさんでもできます。合同会社・株式会社の定款と設立書類一式をブラウザの中で作る道具で、事業目的は文例から選ぶ形にしてあり、入力した内容はどこにも送信しない設計です。紙の定款の印紙代が気になる人向けに電子定款ガイドも置いています。どの道具で作っても、許認可と言葉の確認は自分の目で行ってください。
一人で会社を作る人の判断ポイント
一人で会社を作る人の事業目的は、「売上の見込みがあるか」と「許認可が要るか」の2つの問いで、入れるかどうかがほぼ決まります。迷う行は、後から足す手間と費用で判断します。
| その仕事の状態 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| いま売上が立っている | 入れる | 会社の実態そのもの。第1号の候補 |
| 数年以内にやる話が出ている | 入れてよい | 後から足すと定款変更と変更登記の手間、登録免許税3万円がかかる |
| 許認可が要り、取る予定がある | 入れて、窓口に書き方を事前確認 | 定款に書くだけでは営業できない。許可の要件も別にある |
| 許認可が要り、取る予定がない | 入れない | 書いても営業できないうえ、何の会社か伝わりにくくなる |
| 本業と関係がなく、予定もない | 入れない | 登記事項証明書を見た取引先や銀行に、会社の像がぼやけて伝わる |
費用の感覚をつかむために、架空の数字で計算してみます。例として、設立時に入れなかった事業を2年目に1つ、4年目にもう1つ足したとします。目的の変更登記は1件3万円なので、登録免許税だけで3万円×2回=6万円です。4年目にまとめて2つ足せば、同じ申請で済むので3万円です。最初の定款に入れておけば、この費用はかかりません。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働いたあと、40歳でtiny合同会社を作りました。社員はぼく一人です。以前、一人で法人を作った経験を書いた一人で法人を作るということで、ぼくは事業目的について「広く書いておく方が後で楽」と書きました。いま付け足すなら、広くの意味は「関係のない業種まで並べる」ではなく「自分の本業が数年で伸びていく先まで書いておく」です。マーケティングの相談から始めた人が、研修や講座、制作へ広がっていくのは自然な流れなので、その範囲を最初に書いておけば足りることが多いはずです。
もうひとつの見方は、事業目的を読むのは自分ではなく他人だという点です。法人口座を開くときにも事業内容を入力する場面があり(GMOあおぞらネット銀行の法人口座の記事)、取引先は登記事項証明書で会社の目的を見ます。並んだ目的と、自分が口で説明する仕事が一致しているかどうか。そこで迷うなら、行を減らすほうに倒すのが一人法人には合っていると思います。役員報酬など設立直後に決める他のことは一人法人の役員報酬の決め方に書いています。
事業目的のよくある間違いと注意点
事業目的の失敗は、書きすぎるか、言葉が伝わらないか、許認可を見落とすかの3つにほぼ分かれます。どれも設立後に直せますが、そのたびに手続きと費用がかかります。
- カタカナの新語や英字の略語をそのまま書く。法務省の記載例は、広く社会的に認知されていない用語だと登記申請が受理されない場合があると注意しています(記載例)。
- 許認可の事業を書けば営業できると思う。定款は会社の宣言で、許可そのものではありません。労働者派遣事業は厚生労働大臣の許可(労働者派遣法第5条)、宅地建物取引業は国土交通大臣か都道府県知事の免許(宅地建物取引業法第3条)が別に要ります。
- 附帯の一行があるから何でもできると考える。新しく始める事業は、号を立てて書き足すのが安全です。
- 目的を変えたのに登記していない。変更登記は2週間以内で、怠ると過料の対象です(会社法第915条・第976条)。
- 変更登記で、足した目的だけを書く。株式会社の記載例は、変更部分だけでなく変更後の全ての目的を記録するよう注意しています(株式会社の目的変更の記載例)。
- 株式会社で、認証のあとに目的を直そうとする。公証人の認証を受けた定款は、会社の成立前は限られた場合しか変更できません(会社法第30条第2項)。軽い修正なら事実上の訂正で扱われる場合もあるとされていますが、可否は認証を受けた公証人に問い合わせる必要があります(日本公証人連合会 Q1)。目的は認証の前に固めておきます。
この記事は、最終更新日の時点で法務省・法務局・日本公証人連合会・e-Gov法令検索の公式ページを確認して書いています。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。許認可が関わる事業は、その許認可の窓口にも確認が必要です。
定款の事業目的に関するよくある質問
事業目的について検索されやすい質問を4つ選びました。一覧の探し方、どこまで書くか、自分で追加できるか、追加の費用の4つです。
事業目的の一覧はどこで見られますか?
法務省の記載例は、記載できる目的の例として総務省の日本標準産業分類を参考に挙げています。同業の会社の登記事項証明書を取って、どんな言い回しで書いているかを見るのも実務的な方法です。この記事の文例表は、マーケター・コンサルタント向けの架空の例です。
事業目的はどこまで書けばいいですか?
いま売上が立っている事業と、数年以内にやる見込みがある事業までが目安です。許認可が要る事業は、取る予定があるときだけ入れます。本業と関係がなく予定もない事業は、入れないほうが会社の像がはっきりします。
事業目的の追加は自分でできますか?
できます。合同会社なら総社員の同意で定款を変え、総社員の同意書を添えて変更登記を申請します。法務局は申請書の様式と記載例を公開しており、書面でもオンラインでも申請できます。変更から2週間以内に登記する点だけは忘れないでください。
事業目的を追加する費用はいくらですか?
登記にかかる登録免許税は、法務局の記載例で1件3万円です。司法書士に頼む場合は報酬が別にかかり、金額は事務所ごとに異なります。複数の目的を足すなら、同じ申請でまとめると登録免許税は1件分で済みます。
おわりに──事業目的は「今の仕事」ではなく「数年後の自分」に書く
事業目的の書き方には、3つの物差しと定番の言い回しがあり、そこまでは誰が書いても大きくは変わりません。差が出るのは、どこまで先を見て行を足すかです。
事業目的は、今の仕事の説明書ではなく、数年後の自分に出しておく許可証です。
書き足すたびに3万円と手続きがかかるなら、最初の定款は少し先の自分を想像して書くほうが安くつきます。ただし、想像の範囲は本業が伸びていく先まで。そこから外れる行は、思い切って消してください。