最終更新:2026年10月20日
創業融資とは、これから事業を始める人や、始めて間もない人が事業資金を借りる融資のことです。代表的なのは日本政策金融公庫(日本公庫)の「新規開業・スタートアップ支援資金」で、事業開始後おおむね7年以内の人が使え、融資限度額は7,200万円です。税務申告を2期終えていない人は、原則として無担保・無保証人で借りられます。もうひとつの選択肢が、東京都などの自治体が信用保証協会と組んで用意している制度融資です。この記事は、公庫と東京都の公式ページで確認できた要件・金利・流れを、個人事業主と一人法人に分けて整理します。最終更新日時点の制度で書いています。融資の仲介業者や特定の金融機関は勧めません。
創業融資とは?結論から(日本政策金融公庫の場合)
創業融資は、営業実績がまだない人のために、公的な金融機関や自治体が条件をやわらげて用意している事業資金の融資です。日本公庫の場合、創業期(新たに事業を始める人、または事業開始後に税務申告を2期終えていない人)は無担保・無保証人が原則で、金利も一律で引き下げられます。要点を表にしました。
| 項目 | 日本公庫の新規開業・スタートアップ支援資金 |
|---|---|
| 使える人 | 新たに事業を始める人、または事業開始後おおむね7年以内の人。適正な事業計画があり、それを遂行する能力が十分あると認められる人に限る |
| 使いみち | 事業を始めるため、または始めた後に必要な設備資金と運転資金 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(どちらも据置期間5年以内) |
| 担保・保証人 | 希望を聞きながら相談して決める。創業期は原則として無担保・無保証人 |
| 金利 | 基準利率。女性・35歳未満・55歳以上の人などは特別利率。創業期は各制度の利率から0.65%引下げ(雇用を増やす場合は0.9%) |
| 自己資金 | 制度の要件としての記載はない。公庫のQ&Aは「重要な要素のひとつ」とし、創業資金に占める自己資金の割合は平均2割程度と案内 |
出典は日本公庫の新規開業・スタートアップ支援資金、創業融資のご案内、創業支援貸付利率特例制度、創業支援のQ&Aです。
創業融資の制度・要件・金利(公庫と東京都の制度融資)
創業融資は、公庫が自分で貸す融資と、自治体のあっせんで民間の金融機関が信用保証協会の保証付きで貸す制度融資の2本立てです。どちらも制度の中身は時期で変わるので、ここでは2026年10月時点で公式に確認できた数字だけを並べます。
| 比べる点 | 日本公庫(新規開業・スタートアップ支援資金) | 東京都の制度融資(創業) |
|---|---|---|
| 貸す人 | 日本公庫 | 都の指定金融機関(東京信用保証協会の保証付き) |
| 使える人 | 事業開始前、または開始後おおむね7年以内 | 事業を営んでいない個人で、個人は1か月以内、会社は2か月以内に都内で創業する具体的な計画がある人。または創業から5年未満の中小企業者など |
| 融資限度額 | 7,200万円 | 3,500万円 |
| 返済期間 | 設備20年以内・運転10年以内(据置5年以内) | 設備10年以内・運転7年以内(据置1年以内) |
| 金利 | 無担保・税務申告2期前の基準利率は年3.85〜5.45%(令和8年10月1日現在)。特別利率Aは3.45〜5.05%、Bは3.20〜4.80% | 固定金利なら期間に応じて年2.40%以内〜3.30%以内(令和8年10月〜令和9年3月の保証申込受付分)。創業支援特例は0.4%優遇 |
| 保証料 | なし(公庫の直接融資) | 信用保証協会に払う。東京都が信用保証料の3分の2を補助 |
| 保証人 | 創業期は原則として無担保・無保証人 | 法人代表者を除き連帯保証人は不要 |
公庫の金利は日本公庫 金利情報(国民生活事業)、東京都は東京都産業労働局 要項・パンフレットにある令和8年度東京都中小企業制度融資要項(10月1日改定版)で確認しました。公庫の金利表は幅で示されていて、実際の利率は使いみち・返済期間・担保の有無で決まります。金利表の数字と0.65%の引下げがどう組み合わさるかは公式ページからは読み切れないので、申込みのときに支店で確認するのが確実です。制度融資の例は東京都だけに絞りました。他の道府県や市区町村の制度は、それぞれの自治体の案内で確認してください。
公庫の限度額には経緯があります。2024年4月1日の公庫のニュースリリースでは、税務申告を2期終えていない人の無担保・無保証人での融資限度額を3,000万円から7,200万円に拡充したと発表しています(日本公庫 2024年4月1日ニュースリリース)。以前の「新創業融資制度」は、いまの公庫の融資制度一覧には見当たりません。古い解説記事の要件をそのまま信じないほうが安全です。
公庫の創業融資の流れと、創業計画書で見られる点
公庫の創業融資は、予約相談からインターネット申込、面談、審査を経て、契約後に口座へ送金される流れです。公庫のQ&Aによると、申込みから融資が決まるまでの期間は平均的に3週間程度です。
- 相談:オンラインか支店窓口で予約して相談できる。公庫は全国152支店に創業サポートデスクを置いている
- 申込み:インターネット申込(24時間365日)。創業計画書、設備資金なら見積書、法人なら履歴事項全部証明書または登記簿謄本、運転免許証などの本人確認書類、許認可が要る業種は許認可証を電子データで出す
- 面談:使いみちや事業計画を聞かれる。事業計画に関連する資料や、資産・負債がわかる書類を用意する。オンライン面談もある
- 訪問と審査:店舗や事業所の予定地を訪ねたうえで、事業計画を検討して融資を判断する
- 契約と送金:電子契約サービスで契約し、融資金が金融機関の口座に送金される。電子契約を使う場合は送金先口座の通帳の写し(通帳がないネット銀行ならマイページ画面の写しなど)が要る
- 返済:原則として月賦払い。元金均等・元利均等・ステップ返済などがある
手順は日本公庫 お手続きの流れ(創業予定の方)で確認しました。東京都の制度融資は窓口が違い、指定金融機関・東京信用保証協会・あっせん機関のどこかに申し込みます。金融機関が審査して保証協会に送り、保証協会が保証を決めると信用保証書が出て、それに基づいて指定金融機関が融資します。審査は金融機関と保証協会の二段です(要項 総則の6)。
創業計画書は、公庫の様式なら次の10項目です。様式の代わりに自分で作った計画書を出してもよいとされています(日本公庫 創業計画の書き方・創業計画書(PDF))。見られる点は、公庫の創業の手引(2026年5月版)に書かれているチェックポイントから拾いました。
| 創業計画書の項目 | 公庫の資料で示されている見られる点 |
|---|---|
| 1 創業の動機/2 経営者の略歴等 | 略歴は勤務先名だけでなく、担当業務・役職・身につけた技能まで書く |
| 3 取扱商品・サービス | セールスポイント(自社の強み)、販売ターゲットと販売戦略、競合・市場 |
| 4 従業員/5 取引先・取引関係等/6 関連企業 | 販売先・仕入先・外注先と、回収・支払の条件 |
| 7 お借入の状況 | 法人の場合は代表者個人の借入(住宅・車・カードなど)も書く |
| 8 必要な資金と調達方法 | 設備は複数社から見積を取って吟味しているか。運転資金は黒字化して資金繰りが安定するまでの分を見積もっているか |
| 9 事業の見通し(月平均) | 売上高は計算根拠(前の勤務先での実績・予定地の市場調査・SNSのフォロワーなど)があるか。経費に漏れがないか。業界の平均と比べてどうか |
| 10 自由記述欄 | アピールポイントや、事業を行ううえでの悩み |
自己資金の割合について、創業の手引は日本公庫「2025年度新規開業実態調査」の平均22.9%を参考値として載せています。架空の数字で資金計画を組むと、次のようになります。数字はすべて例です。
| 例:資金計画 | 金額 |
|---|---|
| 設備資金(PC以外の機材・内装など) | 200万円 |
| 運転資金(黒字化までの外注費・家賃など) | 300万円 |
| 必要な資金の合計 | 500万円 |
| 自己資金 | 100万円(合計の20%) |
| 公庫からの借入 | 400万円 |
| 運転資金として7年(84回)の元金均等で返す場合の毎月の元金 | 400万円÷84回=約4万7,619円 |
| 仮に年3.0%とした場合の初回の利息 | 400万円×3.0%÷12か月=1万円(初回の返済は約5万7,619円) |
年3.0%は計算のための仮の数字で、実際の利率ではありません。返済の毎月の額を、事業の見通し(9の項目)の利益から払えるかを先に確かめておくと、計画の筋が通ります。
個人事業主・一人法人の判断ポイント
公庫のQ&Aは、個人で創業して申し込むのと法人で申し込むのとで大きな違いは特になく、どちらが有利でもないと答えています。違いが出るのは、申し込める時期と窓口、出す書類です。
| 論点 | 個人事業主 | 一人法人 |
|---|---|---|
| 公庫の申込窓口 | 創業予定地を管轄する支店 | 登記上の本店所在地を管轄する支店 |
| 申し込める時期(公庫) | 事業開始前から。創業予定地が決まっていないと申し込めない | 設立登記後の法人が融資の対象。資本金の払込みに使うお金は融資の対象外 |
| 追加で要る書類 | 共通の書類(創業計画書・本人確認書類など)だけ | 履歴事項全部証明書または登記簿謄本 |
| 東京都の制度融資の「創業した日」 | 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の開業日 | 登記簿上の会社設立日。個人で創業して同じ事業を法人化した人は、個人で創業した日から5年未満が対象 |
| 借入の状況の書き方 | 本人の借入 | 代表者個人の借入も書く |
窓口と資本金の扱いは日本公庫 Q&A、書類はお手続きの流れ、東京都の定義は要項の創業融資の項で確認しました。資本金を借りたお金で払い込む発想は使えないので、資本金の額は手持ちの資金で決めることになります。資本金と信用の関係は資本金はいくらにするかに、登記の証明書の取り方は履歴事項全部証明書と登記簿謄本の違いにまとめています。
ぼくは2019年の秋に、資本金50万円でtiny合同会社を一人で作りました。登記が終わってすぐに取引が始まったので、法人口座の開設が間に合わず、入金先がしばらく個人口座になって帳簿が複雑になりました(tiny合同会社を設立してわかったこと)。その後GMOあおぞらネット銀行で法人口座を開いたときは、開設まで数日かかりました。申し込む前に事業内容を1〜2行で言い切れるようにしておくと詰まりにくい。それがそのときの実感です(GMOあおぞらネット銀行の法人口座)。公庫の電子契約では送金先口座の情報を出すので、一人法人は法人口座を先に用意しておく順番になります。創業計画書の「取扱商品・サービス」も、口座開設で聞かれる「何の仕事で、誰からお金をもらうのか」と同じ問いです。
もうひとつ、独立2年目にクライアントからの入金が止まって、手元の資金が尽きかけたことがあります(クライアントが払ってくれない──資金ショートしかけたとき)。そのとき気づいたのは、資金繰りは困ってから動くほど選べる手段が減ることでした。公庫の融資は決定まで平均3週間程度かかります。創業融資は、手元にお金があるうちに計画として組むものだと思います。
創業融資のよくある間違いと注意点
創業融資でいちばん多い間違いは、「通りやすい窓口」や「代わりに通してくれる人」を探すことです。公庫は本人のインターネット申込を受け付けていて、審査されるのは事業計画とそれを実行する力です。
- 仲介業者に頼めば通ると思う:公庫の申込みは本人がインターネットで直接できます。相談先も公庫の創業サポートデスクや、自治体・商工会議所などの公的な窓口があります。成功報酬で「融資を通す」とうたう業者を通しても、審査の基準は変わりません
- 資本金を融資で払い込もうとする:公庫は資本金の払込みに使う資金を融資の対象外としています。法人は設立登記の後に申し込みます
- 古い制度名と要件で調べる:「新創業融資制度」は現在の公庫の融資制度一覧にありません。限度額も2024年に7,200万円へ拡充されています。調べるときは公庫の現行ページを見ます
- 金利を一つの数字で考える:公庫も東京都も、金利は返済期間・担保・特例の有無で変わる幅で示されています。東京都の要項の利率は、令和8年10月から令和9年3月までに保証の申込みを受け付けた分のものです
- 自治体の制度を他県にそのまま当てはめる:限度額・保証料の補助・利率は自治体ごとに違います。東京都の数字は東京都の制度です
- 売上の見通しに根拠がない:公庫の手引は、売上高を計算根拠つきで予測することを求めています。「これくらい売れるはず」は根拠になりません
この記事は、最終更新日時点で日本公庫と東京都産業労働局の公式ページ・要項で確認できた制度で書いています。融資を受けられるかどうかは、公庫・金融機関・信用保証協会の審査で決まります。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
創業融資に関するよくある質問
自己資金なしでも創業融資は受けられますか?
公庫の新規開業・スタートアップ支援資金のページには、自己資金を要件とする記載はありません。ただし公庫のQ&Aは自己資金を「重要な要素のひとつ」とし、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが大事だと答えています。公庫の調査では、創業資金に占める自己資金の割合は平均2割程度です。
日本政策金融公庫の創業融資の流れと期間は?
予約相談、インターネット申込、面談、事業所予定地の訪問と審査、電子契約、送金の順です。公庫のQ&Aでは、申込みから融資が決まるまで平均的に3週間程度とされています。融資の条件によっては、もっと時間がかかる場合があります。
創業融資の審査では何を見られますか?
公庫は、適正な事業計画があり、それを遂行する能力が十分あるかを創業計画書などで確かめます。創業の手引では、売上の計算根拠、経費の漏れ、設備の見積の比較、黒字化までの運転資金の見積が確認点として挙げられています。略歴は勤務先名だけでなく、担当業務や身につけた技能まで書くよう案内されています。
東京都の創業融資と日本政策金融公庫はどう違いますか?
公庫は公庫が直接貸し、限度額は7,200万円です。東京都の制度融資(創業)は都の指定金融機関が東京信用保証協会の保証付きで貸し、限度額は3,500万円、信用保証料の3分の2を都が補助します(令和8年度要項)。どちらが合うかは、金利・保証料・返済期間を同じ条件で並べて比べます。
おわりに──創業融資は、借りる手続きではなく、計画を人に説明する手続き
創業融資の情報を探すと、金利や限度額の数字ばかりが目に入ります。でも公庫の書類を読むと、いちばん紙幅を取っているのは創業計画書で、問われているのは「何を、誰に、いくらで売り、その根拠は何か」です。数字はその答えの後についてきます。創業融資で決めるべきことは、どこで借りるかより先に、自分の事業を1枚の計画で説明できるかどうかです。