最終更新:2026年10月17日
セールスプロモーションとは、値引き・クーポン・試供品・おまけ・懸賞・店頭のPOPなどで、生活者に「いま、この商品を買う」きっかけを渡す販売促進の活動です。略してSP、日本語では販促とも呼ばれます。簡単に言えば、広告が「思い出してもらう理由」をつくる仕事だとすれば、SPは「いま買う理由」を売り場や画面の前でつくる仕事です。ただ、販促は買う人を大きく増やす道具ではありません。研究が示しているのは、値引きで増えた買い手の多くが、もともとその商品を買ったことのある人だったことです。この記事では、SPの種類一覧、広告との役割分担、短期の売上と長期のブランドの関係、販促の組み立て方、日本で販促を打つときの景品と価格表示の決まりまで書いていきます。
セールスプロモーションとは?SPの種類一覧
SPは、期間や対象を区切って「買う動機」を上乗せする手段の総称で、何を上乗せするかによって8つほどの種類に分けられます。値段を下げるのか、モノを渡すのか、試してもらうのか、売り場で目に入れるのか。動かしたい行動しだいで、選ぶ種類が変わります。
よく使われるSPを、渡すものと狙う行動で並べると次のようになります。右の列は、日本の景品表示法で確かめるところの目安です(詳しくは後半のH2で書きます)。
| 種類 | 何を渡すか | 主に動かしたい行動 | 景品表示法で見るところ(目安) |
|---|---|---|---|
| 値引き・増量 | 価格を下げる、同じ価格で量を増やす | いま買う、まとめて買う | 値引きは原則として景品類に当たらない。値下げ前の価格の見せ方(二重価格表示)に注意 |
| クーポン | 次回の買物や特定の商品に使える割引券 | もう一度来る、特定の商品を買う | 自社の取引で使う割引券は、正常な商慣習の範囲なら総付景品の上限の対象外 |
| サンプリング | 小さな見本、試供品、試食 | 初めて試す | 見本・試供品は、適当な限度なら総付景品の上限の対象外 |
| プレミアム(おまけ・ノベルティ) | 購入者や来店者にもれなく渡す景品 | 競合ではなくこちらを選ぶ | 総付景品の上限がかかる |
| 懸賞・キャンペーン | 抽選やクイズで当たる景品 | 応募する、話題にする、買う | 購入が条件なら懸賞の上限がかかる。購入を条件にしないオープン懸賞は景品規制の対象外 |
| POP・店頭陳列 | 売り場の案内、目立つ置き場所 | 棚の前で気づいて手に取る | 書いた内容が実際より良く見えないか(優良誤認・有利誤認) |
| 実演・試食販売 | その場で使い方や味を見せる | 違いを体で分かって買う | 試食品やメイクアップサービスは、見本として扱われる例に挙がっている |
| ポイント・会員特典 | 購入額に応じたポイント、次回の割引 | 続けて買う | 自社の次の買物で使える割引などは、値引きと扱われる例がある |
この表で見てほしいのは、真ん中の列がばらばらなことです。サンプリングは「初めて試す」人を狙い、ポイントは「続けて買う」人を狙います。同じ販促でも、届けたい相手が逆を向いていることがあります。種類を選ぶ前に、誰のどの行動を動かしたいのかを一つに決める。販促の設計はそこから始まります。
SPには、生活者に向けたものだけでなく、小売店や代理店などの流通に向けたもの(販売店への販促物の提供や陳列の支援など)と、自社の営業担当に向けたもの(販売コンテストなど)もあります。この記事では、売り場や画面の前で生活者に向けて打つSPを中心に扱います。
セールスプロモーションと広告の違い──役割分担の表
広告とセールスプロモーションの違いは、効かせたい時間の長さです。広告は時間をかけて頭の中に「思い出される場所」をつくり、SPは期間を区切って「いまの購入」を前に進めます。
言葉の整理から入ると分かりやすくなります。4Pの一つであるPromotionは、広告・PR・人的販売・SPなど、知らせて買う気にさせる活動をまとめた広い意味の「販促」です。セールスプロモーションは、その中の一つの道具にあたる狭い意味の販促です。4Pの全体像は4Pとは?マーケティングミックスの4要素と分析の例・7Pとの違いで書いています。フィリップ・コトラーとケビン・レーン・ケラーの教科書「マーケティング・マネジメント」では、SPは主に短期の動機づけの道具の集まりで、生活者や流通に特定の商品を早く、多く買ってもらうためのもの、という趣旨で説明されています。
| 比べる点 | 広告 | セールスプロモーション |
|---|---|---|
| 主な目的 | 知ってもらう、思い出してもらう、好きになってもらう | いま買ってもらう、試してもらう、もう一度来てもらう |
| 効く時間 | 長い。出稿をやめても記憶は少し残る | 短い。期間が終わると効き目もほぼ終わる |
| 働く場所 | 買う前の、売り場から離れた場所(テレビ・動画・SNSなど) | 買う瞬間に近い場所(店頭・ECの商品ページ・レジ前) |
| 測りやすさ | 売上への効きは、時間差があって測りにくい | 期間中の売上が動くので、測りやすく見える |
| 使いすぎたときの失敗 | 記憶には残っても、売り場で選ばれない | 値引きを待つ人が増え、定価で買われなくなる |
表の「測りやすさ」の行は、販促が予算を集めやすい理由でもあります。期間中に売上が上がれば、効いたように見える。ただ、その売上のうちどれだけが販促がなくても起きていたのかは、表の外にあります。この点は次のH2で書きます。
お金の流れで見ると、日本では販促の多くが広告費の統計の外にあります。電通の「2025年 日本の広告費」では、総広告費8兆623億円のうち、屋外・交通・折込・DM・フリーペーパー・POP・イベント・展示・映像ほかをまとめた区分は1兆7,184億円(前年比102.0%)でした。これは販促に使うメディアの費用で、値引きの原資や景品そのものの費用は含まれていません。広告とPRの違いは広告とPRの違いとは?費用・信頼・寿命の比較表と業界の違いにまとめています。
短期の売上と長期のブランド──値引きのあとに何が残るか
値引きを中心とした販促は、期間中の売上を押し上げても、その後の売上やブランドへのロイヤルティをほとんど変えないことを示した研究があります。売上の山は、新しい買い手が増えたというより、もともとの買い手が買う日を前に動かした結果であることが多いからです。
よく引かれるのが、アンドリュー・アレンバーグ(Andrew S. C. Ehrenberg)、キャシー・ハモンド(Kathy Hammond)、ジェラルド・グッドハート(G. J. Goodhardt)が1994年に学術誌ジャーナル・オブ・アドバタイジング・リサーチに発表した、価格に関わる販促の「その後」を調べた研究です(WARCの論文要旨)。複数の国の主要な食品・日用品ブランドを調べた結果、価格の販促はたいてい、そのブランドのその後の売上にもロイヤルティにも影響していませんでした。期間中に増えた買い手のほとんどが、以前にもそのブランドを買ったことのある人だったからです。著者たちは、価格の販促への支出は増やすより減らす方向で考えるべきだと結んでいます。
この結果は、市場シェアの大きいブランドほど買い手の数が多く、ロイヤルティも少し高くなるダブルジョパディの法則と同じ研究の流れから出てきたものです。ブランドが大きくなるのは、まだ買っていない人に届いて思い出してもらえたときで、すでに買っている人に安く売ったときではありません。値引きは、いまの買い手の財布から、少し先の売上を前借りしているのに近い動きです。
それでも、販促が無駄なわけではありません。役割が違うだけです。新しい買い手に試してもらう入口としては、値引きより試供品や試食のほうが向いています。続けて買ってくれる人の離脱を止める栓としては、ポイントや次回のクーポンが働きます。ロイヤルティを行動と態度の両面で見る考え方はブランドロイヤルティとは?行動的・態度的の違いと4つの型を解説で書きました。気をつけたいのは、値引きを「ブランドを育てる施策」として扱うことです。値引きが育てるのは、多くの場合、値引きを待つ習慣のほうです。
販促の組み立て方──目的から種類を選ぶ手順
販促は、種類から選ぶと失敗しやすく、動かしたい行動から選ぶとうまくいきやすい施策です。ぼくは次の5つの順番で組み立てます。
- 最初に、動かしたい行動を一つに決める(初めて試す/いま買う/もう一度来る/棚の前で選ばれる)
- その行動をとる相手を決める(まだ買っていない人か、すでに買っている人か)
- 行動と相手に合う種類を、上の一覧表から選ぶ
- 渡せる上限と表示の決まりを、企画の形を決める前に確かめる
- 終わり方と測り方を決める(いつ終えるか、期間の後の売上をどう見るか)
4つ目の順番は、実務ではかなり効きます。広告会社にいた頃、販促キャンペーンの企画は、景品の上限を確かめたところで形が大きく変わることがよくありました。少数の人に豪華な賞品を当てるのか、買った人全員に小さなものを渡すのか、購入を条件にせず誰でも応募できる形にするのか。どれを選ぶかで、渡せる景品の額も、狙える行動も変わります。アイデアを固めてから上限を調べると、企画を一から組み直すことになります。
5つ目の終わり方は、いちばん忘れられやすい項目です。期間限定の値引きを延長し続けると、限定の言葉が効かなくなり、値引き後の価格が新しい定価のように受け取られます。限定の言葉が持つ力と、その使い方の線引きは希少性の原理とは?例とクッキー実験、限定表示の景表法の注意で書いています。
測り方は、期間中の売上だけを見ないことがすべてです。期間の前・期間中・期間の後を並べ、期間の後に売上が落ち込んでいないかを見ます。できるなら、販促をしなかった地域や店舗と比べて、販促がなくても起きた売上を差し引く。こうした「増えた分」の測り方はインクリメンタリティとは?A/Bテストとの違いとジオテストのやり方にまとめています。
日本で販促を打つときの注意点──景品規制と価格表示(2026年時点)
日本で販促を企画するときは、景品表示法の二つの決まりが直接関わります。景品をいくらまで渡せるかを決める景品規制と、価格や品質を実際より良く見せる表示を禁じる表示規制です。
景品規制について、消費者庁の「景品規制の概要」は、一般懸賞・共同懸賞・総付景品の3つに分けて限度額を示しています。一般懸賞は、取引価額5,000円未満なら景品の最高額が取引価額の20倍、5,000円以上なら10万円で、総額は懸賞にかかる売上予定総額の2%まで。商店街などが共同で行う共同懸賞は最高額30万円、総額は3%までです。購入者や来店者にもれなく渡す総付景品は、取引価額1,000円未満なら200円、1,000円以上なら取引価額の10分の2までとされています。商品の購入や来店を条件にせず、広く告知して誰でも応募できる「オープン懸賞」には景品規制が適用されず、平成18年4月に上限額の定めも撤廃されました。懸賞の種類ごとの設計と上限額はオープン懸賞とクローズド懸賞の違いとは?に書きました。
値引きやクーポンが景品とどう分かれるかは、消費者庁の告示と運用基準で整理されています。景品類を定める告示(景品類及び表示を指定する件)は、正常な商慣習に照らして値引きと認められる利益を景品類から外しています。総付景品の告示(一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限)は、見本などの宣伝用の物品や、自社の取引で使う割引券を、正常な商慣習の範囲なら上限の対象外としています。ただし、懸賞で値引きを当てる形や、「○○プレゼント」のように景品だと受け取られる見せ方をすると扱いが変わることがあります。
価格表示では、値引きの見せ方に注意が要ります。消費者庁の「二重価格表示」のページは、過去の販売価格を比べる価格に使うなら「最近相当期間にわたって販売されていた価格」であること、メーカー希望小売価格を使うならあらかじめ公表された価格であることなどを、不当表示にならない条件として挙げています。実際には売っていなかった「通常価格」から何割引きと見せるのは、有利誤認にあたるおそれがあります。有利誤認と優良誤認の考え方は優良誤認と有利誤認の違いとは?景品表示法の事例と課徴金を解説で、インフルエンサーに販促の投稿を頼むときの決まりはステマ規制をわかりやすく解説で整理しています。
ここに書いたのは、公開されている公式ページを読んだうえでの整理で、法的助言ではありません。個別の企画が規制にかかるかどうかは、消費者庁の相談窓口や弁護士に確かめるのが確実です。業種によっては、新聞・雑誌・不動産・医療用医薬品などのように、別の告示や業界の公正競争規約で独自のルールが決まっている場合もあります。
セールスプロモーションに関するよくある質問
セールスプロモーションとは簡単に言うと何ですか?
期間や対象を区切り、生活者に「いま買う」きっかけを渡す販促の活動です。値引き、クーポン、試供品、おまけ、懸賞、店頭のPOP、実演、ポイントなどが含まれます。広告が思い出してもらう理由をつくるのに対し、SPは買う瞬間の後押しを受け持ちます。
セールスプロモーションと広告はどう違いますか?
いちばんの違いは、効かせたい時間の長さです。広告は時間をかけて記憶をつくり、セールスプロモーションは期間を区切って購入を前に進めます。4PのPromotionは両方を含む広い意味の販促で、SPはその中の一つの道具にあたります。
セールスプロモーションの具体例にはどんなものがありますか?
スーパーの週末セール、レシートで応募する懸賞、化粧品売場でのタッチアップ、新商品の試食販売、購入者全員へのノベルティ、ECの初回限定クーポン、アプリのポイントなどが代表的な例です。どれも、誰のどの行動を動かしたいかで選び分けます。
セールスプロモーションの会社は何をしているのですか?
販促の企画から、景品やPOPなどの販促物の制作、キャンペーンの応募受付や当選者への発送を受け持つ事務局の運営、店頭での実演やサンプリングの人員の手配までを請け負う会社が多くあります。広告会社の中に販促を担当する部門を持つ会社もあります。依頼するときは、企画だけでなく、景品の上限や表示の確認まで見てくれるかを確かめておくと安心です。
おわりに──販促は、買う日を動かす道具
セールスプロモーションは、成果がすぐ数字に出るぶん、効いているように見えやすい施策です。期間中の売上の山を見ると、もっと打ちたくなる。でも、その山の多くは、もともと買う人が少し早く買っただけかもしれません。
販促は、買う人を増やす道具ではありません。買う日を動かす道具です。新しい買い手を増やしたいなら、思い出される理由をつくる広告や、初めて試せる入口のほうに力を置く。いまの買い手を逃したくないなら、続ける理由を渡す。その役割の違いが見えていれば、値引きに頼りきらない販促の組み方が見えてくると思います。迷うことがあれば、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。