マーケの目

インクリメンタリティとは?A/Bテストとの違いとジオテストのやり方

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最終更新:2026年10月17日

インクリメンタリティとは、広告や施策によって「増えた分(増分)」のことで、広告を見せた群と見せなかった群を比べ、広告がなくても起きた成果を差し引いて、残った分だけを広告の効果と数える考え方です。それを実験で確かめる方法をインクリメンタリティテスト(リフトテスト)と呼びます。結論を先に書くと、管理画面に並ぶコンバージョン数は「広告が関わった成果」で、「広告が生んだ成果」とは限りません。その差を測るのがこのテストです。過去の集計データから全媒体の効きをまとめて推定するMMM(マーケティングミックスモデリング)に対して、インクリメンタリティテストは一つの施策を実際に止めて確かめる実験、という違いがあります。この記事では、増分の計算例、A/Bテストとの違い、ジオテストとホールドアウトの種類、GoogleとMetaで確認できる機能まで書きます。

インクリメンタリティとは?増分の計算と指標の一覧

インクリメンタリティは、「その広告がなかったら、成果はどれだけ減っていたか」という問いへの答えです。広告を見せる群(テスト群)と見せない群(対照群)をランダムに分け、二つの群の成果の差を広告の増分と考えます。

増分を測る必要があるのは、広告は買うつもりの人の前にも出るからです。もともと買う予定だった人が、たまたま広告を押してから買えば、管理画面ではその広告の成果として数えられます。でも、その広告がなくてもその人は買っていました。この「広告がなくても起きた成果」を引かないと、広告の効きは実際より大きく見えます。

架空の例で計算します。以下は説明のための例で、実在のサービスや数字ではありません。ある通販の広告で、対象の20万人をランダムに半分ずつに分け、10万人にだけ広告を出したとします。広告費は200万円、商品の単価は1万円、管理画面が「広告経由」と数えた購入は800件でした。

指標 計算 例の値
テスト群の購入率 1,200件 ÷ 10万人 1.2%
対照群の購入率 1,000件 ÷ 10万人 1.0%
増分の購入(増分コンバージョン) 1,200件 − 1,000件 200件
リフト率 200件 ÷ 1,000件 20%
管理画面のCPA 200万円 ÷ 800件 2,500円
増分CPA(iCPA) 200万円 ÷ 200件 1万円
管理画面のROAS 800件 × 1万円 ÷ 200万円 400%
増分ROAS(iROAS) 200件 × 1万円 ÷ 200万円 100%

同じ広告が、管理画面ではCPA2,500円・ROAS400%の優等生に見え、増分で見るとCPA1万円・ROAS100%になります。800件のうち600件は、広告がなくても買っていた人だった、という読み方です。CPAとROASの式はCPC・CPM・CPAの違いとは?計算式と例とROASとは?読み方・計算式とROI・CPAとの違いで書いています。インクリメンタリティは新しい指標を足す話ではなく、同じ式の分子を「関わった成果」から「増えた成果」に入れ替える話です。

インクリメンタリティの出どころ──ランダム化比較を「出さない群」に使う

インクリメンタリティにも、特定の提唱者は見当たりません。土台は、対象をランダムに分けて比べるランダム化比較試験で、それを「広告を出す」と「出さない」の比較に使ったものです。ランダムに分けて比べる考え方の由来はABテストとは?やり方の手順と有意差の考え方で、統計学者フィッシャーの実験計画法までさかのぼって書きました。

この考え方が広告の世界で広く知られるきっかけの一つになったのが、eBayの研究者らによる実験です。トム・ブレイク(Tom Blake)、クリス・ノスコ(Chris Nosko)、スティーブン・タデリス(Steven Tadelis)の論文「Consumer Heterogeneity and Paid Search Effectiveness: A Large Scale Field Experiment」(NBERワーキングペーパー、2014年。のちに学術誌Econometricaに掲載)は、eBayの検索広告の効果を大規模な実験で測ったものです。社名を含む検索語への広告(指名検索広告)をYahoo!とMSNで止めたところ、失われた広告からのクリックの99.5%が、すぐに自然検索からのクリックに置き換わったと報告されています。論文は、指名検索広告には測定できる短期の効果がなかったと結論づけています。

この結果は、2012年のアメリカで、誰もが名前を知っているeBayという事例です。知名度の低い会社の指名検索広告に、そのまま当てはまるわけではありません。ただ、「広告から来た人」と「広告のおかげで来た人」が別物になりうることを、ここまではっきり示した例はそう多くありません。

インクリメンタリティテストはA/Bテストとどう違うのか

インクリメンタリティテストとA/Bテストは、どちらもランダムに分けて比べる実験ですが、比べる相手が違います。A/Bテストは「広告A」と「広告B」のように出す案どうしを比べ、インクリメンタリティテストは「出す」と「出さない」を比べます。

観点 A/Bテスト インクリメンタリティテスト
比べるもの A案とB案(どちらも出す) 出す群と、出さない群(ホールドアウト)
答える問い どちらの案のほうが成果が良いか その広告は、そもそも成果を増やしたか
広告を見ない群 ない ある(対照群)
結果の読み方 案どうしの差 増分の件数、リフト率、iCPA、iROAS
手放すもの 負けた案に回した配信の分 対照群に広告を出さなかった期間の、増分の売上
向く判断 クリエイティブ、LP、メールの件名の改善 その媒体を続けるか、予算を増やすか減らすか

二つを取り違えると、判断を誤ります。A/BテストでB案が勝っても、A案もB案も増分がゼロに近い可能性は残ります。A/Bテストが教えてくれるのは「どちらがましか」で、「出す意味があるか」ではありません。逆に、インクリメンタリティテストで増分が確認できたら、次はA/Bテストで案を磨く、という順番で使うと無駄がありません。

アトリビューションとの違いも整理しておきます。アトリビューションは、起きた成果の手柄を経路上の接点に分ける方法で、広告がなかったら成果が減ったのかという因果は示しません。モデルの種類はアトリビューションとは?モデルの種類一覧と例にまとめました。インクリメンタリティテストは、その因果を実験で確かめる側の方法です。広告を見た人の気持ちの変化を同じ考え方で比べるのがブランドリフト調査です。

ジオテストとホールドアウトのやり方──方法の種類と各社の機能

インクリメンタリティテストは、何を単位に群を分けるかで、ユーザー単位のホールドアウトと地域単位のジオテストに大きく分かれます。デジタル広告の中だけで確かめるならホールドアウト、テレビや店頭の売上まで含めて確かめるならジオテストが向いています。

方法 群の分け方 向くもの 注意点
ユーザー単位のホールドアウト 配信対象の人をランダムに分け、一部に広告を出さない 一つの媒体の中のデジタル広告 媒体の機能が必要。媒体をまたいだ効果は測りにくい
ジオテスト(地域単位) 地域を分け、一部の地域だけ広告を止める、または増やす テレビ、店頭、電話注文などオフラインの成果も含めた効果 地域の数、期間、予算が要る。地域ごとの差をならす設計が必要
期間で止める(前後比較) 一定の期間だけ広告を止め、前後や前年と比べる 群を分けられない小さな予算 季節や競合の動きと区別しにくい。参考値として読む

2026年10月17日時点で、各社の公式ページで確認できたことは次のとおりです。仕様は変わりやすいので、使う前に最新のページを確かめてください。

  • Google広告の「コンバージョン リフト測定について」によると、ユーザー単位(集計したユーザー属性でテストグループを作る)と、地域単位(集計した地理的データでテストグループを作り、オフラインのデータにも対応)の2種類があります。アカウントによっては利用できない場合があり、利用にはGoogleの担当者への問い合わせが案内されています。地域単位については「地域に基づくコンバージョン リフト測定のデータについて」で、通常はユーザー単位より大きな予算が必要だと説明されています
  • Metaの開発者向けページ「Lift Study」では、広告を見るテスト群と見ない対照群をランダムに分け、対照群の割合をホールドアウトの割合として指定する仕組みが説明されています。コンバージョンリフトの測定は現在限定的で、利用にはMetaの担当者への問い合わせが必要とされています
  • オープンソースでは、Googleの「Meridian GeoX」が地域実験の設計と分析を扱い、配信を止める型や増やす型の実験に対応しています。実験前に地域ごとの日次のKPIの履歴データが必要とされ、結果はMMMの較正に使えます。Metaが公開する「GeoLift」は、合成コントロール法という統計手法で地域単位のリフトを測るRのパッケージです

どの方法でも、始める前に決めておくことは同じです。何を確かめたいか、どの指標で判定するか、何人(何地域)で何週間回すか。この三つを先に決めずに始めると、結果を見てから都合のいい読み方を選んでしまいます。

実務での使い方──まず「いちばん成績がよく見える広告」から疑う

インクリメンタリティを実務で疑う順番は、管理画面の成績がいちばんよく見える広告からです。指名検索広告とリターゲティング広告は、もともと買うつもりの人の前に出やすいので、関わった成果と増やした成果の差が大きくなりやすいからです。

指名検索広告は、社名や商品名で検索した人に出る広告です。仕組みはリスティング広告とは?仕組みと品質スコアで書きました。一度サイトに来た人を追いかけるリターゲティング広告も、もう一度来るつもりだった人を拾っている可能性があります。仕組みと規制の現状はリターゲティング広告とは?リマーケティングとの違いとCookie規制にまとめています。どちらも効かないと言いたいわけではありません。競合が自社の名前で広告を出している場合など、止めると取られてしまう場面もあります。だからこそ、思い込みではなく実験で確かめる価値があります。

受注側と発注側の両方の仕事を見てきて思うのは、広告を止めて確かめる提案は、広告を売る側からは出しにくいということです。出稿を減らす提案は、自分の売上を減らす提案でもあるからです。インクリメンタリティテストは、発注する側が自分から言い出さないと、なかなか始まりません。

実務の手順は、次の5つです。

  • 確かめる問いを一文で決める。「指名検索広告を止めても、指名検索からの購入は減らないのではないか」のように、止める対象と見る指標を書く
  • 群の分け方を選ぶ。媒体の機能が使えるならユーザー単位、使えないなら地域単位、どちらも無理なら期間で止めて参考値として読む
  • 期間と規模を先に決める。購入までに数週間かかる商品なら、止めたあとも成果を追う期間をとる
  • 結果はiCPAとiROASで読み直す。管理画面のCPAとの差が大きい広告ほど、予算の見直しの候補になる
  • 一度で終わらせない。媒体や季節が変わると増分も変わるので、主な媒体は年に一度は確かめ直す

予算の小さな個人や中小の事業では、ランダムに分ける機能が使えないことも多いと思います。その場合でも、2週間だけ指名検索広告を止めて、自然検索からの流入と購入の合計がどう動くかを見るだけで、「広告がなくても来ていた人」の大きさの見当はつきます。厳密な実験ではありませんが、何も確かめずに出し続けるよりは、ずっと確かな判断材料になります。

インクリメンタリティに関するよくある質問

インクリメンタリティとは簡単に言うと何ですか?

広告によって増えた成果のことです。広告を見せた群と見せなかった群を比べ、広告がなくても起きた成果を差し引いて、残った分だけを広告の効果と数えます。管理画面のコンバージョン数は広告が関わった成果なので、増分はそれより小さくなるのが普通です。

リフト調査とインクリメンタリティテストは同じものですか?

考え方は同じで、見せた群と見せなかった群の差を測ります。購入や申し込みなどの行動で差を測るものをコンバージョンリフト、認知や好意などをアンケートで測るものをブランドリフトと呼び分けることが多いです。広い意味では、どちらもインクリメンタリティを測る方法に含まれます。

Google広告でインクリメンタリティテストはできますか?

Google広告には、ユーザー単位と地域単位のコンバージョン リフト測定があります。ただし公式ヘルプでは、アカウントによっては利用できない場合があり、利用にはGoogleの担当者への問い合わせが案内されています。地域単位は通常、ユーザー単位より大きな予算が必要とされているので、最新の条件は公式ヘルプか担当者に確かめてください。

小さな予算でもインクリメンタリティは確かめられますか?

厳密なランダム化の実験は難しくても、確かめる方法はあります。指名検索広告のように疑わしい広告を一定期間だけ止め、自然検索も含めた購入の合計がどう動くかを見れば、増分の見当はつきます。季節や競合の影響と区別しにくいので、結果は参考値として読み、条件を変えて繰り返すと確かさが上がります。

おわりに──広告がなくても売れた分を引いて、残ったものだけが広告の仕事

管理画面のレポートの上では、広告が連れてきた客と、広告の前をたまたま通っただけの客は、同じ顔をしています。どちらも一件のコンバージョンとして数えられ、どちらも広告の成績を押し上げます。

広告が売ったのではない。広告がなくても売れた分を引いて、残ったものだけが広告の仕事。

次に、成績のいい広告の予算を増やそうという話になったら、その前に一度だけ「この広告を止めたら、何件減るだろう」と問いかけてみてほしいと思います。その問いに答えられない広告ほど、確かめる価値があります。

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