最終更新:2026年10月17日
ブランドリフト調査とは、広告を見た人(露出群)と、広告を見なかった人(非露出群・対照群)に同じアンケートを出し、認知・広告想起・好意・購入意向などの回答の差から、広告がブランドに与えた影響を測る調査です。ブランドリフトサーベイとも呼ばれます。結論を先に書くと、この調査の価値は「広告を見た人の数字」ではなく「見なかった人との差」を出せることにあります。広告を見た人だけに聞いた認知率は、季節や口コミで上がったぶんまで広告の手柄にしてしまうからです。この記事では、設計の一覧表、絶対リフトと相対リフトの計算例、YouTube(Google広告)とMetaの提供条件、費用の考え方、実務での設計の勘所、2026年時点の注意点まで書いていきます。
ブランドリフト調査とは?設計と測る指標の一覧
ブランドリフト調査は、広告以外の条件をそろえた二つのグループを比べる実験です。露出群と非露出群の違いが「広告を見たかどうか」だけになるように分けておけば、回答の差を広告の効果として読めます。
設計の要素を一枚にすると次のようになります。質問文は説明のための例で、実際の文面は媒体ごとに用意されたものを使います。
| 要素 | 内容 | 質問・設定の例 |
|---|---|---|
| 露出群 | 広告を見た人 | キャンペーンの配信対象で、実際に広告が表示された人 |
| 非露出群(対照群) | 広告の対象になり得たが、見なかった人 | 同じ配信対象から、広告を出さないよう分けた人 |
| 広告想起 | 最近その広告を見た覚えがあるか | 「最近、オンラインで◯◯の広告を見ましたか」 |
| 認知 | ブランドを知っているか | 「次のうち、聞いたことがあるブランドはどれですか」 |
| 比較検討 | 買うときの候補に入るか | 「次に◯◯を買うとき、検討するブランドはどれですか」 |
| 好意 | 好ましく感じるか | 「印象が良いブランドはどれですか」 |
| 購入意向 | 買う可能性が高いか | 「買うとしたら、どのブランドを選ぶ可能性が高いですか」 |
指標は、上から下へ行くほど購買に近く、広告で動かしにくくなります。広告想起は広告そのものの記憶なので動きやすく、購入意向は値段や店頭の事情にも左右されるので動きにくい。どの段階の指標を選ぶかは、キャンペーンの目的と、生活者がいまどの段階にいるかで決まります。段階の考え方はパーチェスファネルとは?段階の例とダブルファネルとの違いを解説で書いています。
認知の聞き方には、ブランド名を見せずに思い浮かぶものを答えてもらう純粋想起と、選択肢を見せて知っているものを選んでもらう助成想起があります。媒体のブランドリフト調査は「次のうちどれですか」と選択肢から選ぶ質問が中心なので、助成想起に近い数字です。二つの違いはエボークトセット(想起集合)とは?意味と純粋想起・助成想起の違いにまとめています。
計算方法──絶対リフトと相対リフトの違い
ブランドリフトの大きさは、二通りの数字で表します。絶対リフトは露出群と非露出群の肯定的な回答率の差(ポイント)、相対リフトはその差を非露出群の回答率で割った伸び率(%)です。
ここからは、すべて説明のための架空の数字です。
| 指標(例) | 露出群の肯定率 | 非露出群の肯定率 | 絶対リフト(差) | 相対リフト(差÷非露出群) |
|---|---|---|---|---|
| 広告想起 | 30% | 20% | 10ポイント | 50% |
| 認知 | 62% | 58% | 4ポイント | 約6.9% |
| 購入意向 | 4.5% | 3.0% | 1.5ポイント | 50% |
広告想起と購入意向は、相対リフトがどちらも50%です。でも絶対リフトは10ポイントと1.5ポイントで、動いた人の数はまるで違います。もともとの数字が小さい指標ほど相対リフトは大きく見えやすいので、報告書で「◯%アップ」と書かれていたら、絶対と相対のどちらなのかを最初に確かめる必要があります。
小さな差を確かめるには、たくさんの回答が要ります。Google 広告ヘルプ「Google 広告のリフト測定のステータスと指標について」には、検出したい絶対リフトごとの必要な合計回答数の目安が載っています。たとえば絶対リフト2%なら4,100〜11,000件、1%なら20,000〜45,000件です。差が小さいほど、広告を見た人と見なかった人の違いを見分けるのに多くの回答が必要になる、という説明もあります。
露出群と非露出群をランダムに分けて差を見る考え方は、ABテストと同じです。ABテストが「広告Aと広告Bのどちらが良いか」を比べるのに対して、ブランドリフト調査は「広告を出した場合と出さなかった場合」を比べます。差の読み方や有意差の考え方はABテストとは?やり方の手順と有意差の考え方、一か所だけ変える理由で書いています。
YouTube(Google広告)とMetaの提供条件と費用
YouTubeとMetaは、どちらも広告管理の仕組みの中でブランドリフト調査を無料で用意していますが、誰でもすぐ使えるものではありません。どちらも広告予算の下限があり、Googleはアカウント担当者を通じた利用が前提です。以下は各社の公式ヘルプで確認できた内容で、この記事の最終更新日時点のものです。
| 項目 | Google広告(YouTube)のブランド効果測定 | Metaのブランドリフトテスト |
|---|---|---|
| 使える人 | Googleアカウント担当者に問い合わせて利用。担当者がいないアカウントでは使えない | アカウント担当者と進めるブランドリフトのほか、管理画面の[テスト]からブランドアンケートテストを作成できる |
| 対象 | 動画・オーディオ・デマンドジェネレーションのキャンペーン。オークションで買うインストリーム広告とバンパー広告(インフィード動画広告は対象外) | 特定のキャンペーン、または広告アカウントのすべての広告 |
| 選べる指標 | 広告想起・認知度・関連付け・比較検討・好意度・購入意向・カスタム指標から最大3つ | 質問は最大3つ・各150文字以内。広告想起の質問を1つ以上含める |
| 日本の最低予算 | 調査開始から10日間の予算で、質問1つ15,000米ドル・2つ30,000米ドル・3つ60,000米ドル(日本は国C区分) | 44,000米ドル(2026年9月15日現在の表) |
| 期間・回答数 | 標準は3〜14日で完了。指標あたり約4,100件の回答で早く終わることがある | 250件以上の回答を得られる長さに。4週間以上を推奨 |
| 調査の出る場所 | YouTubeで、動画の再生が始まる前 | FacebookとInstagramのフィード |
Google側の出典は「ブランド効果測定について」と「ブランドリフト調査を設定する」です。後者には、質問の言語を広告の言語と合わせること、自社のブランド名を回答の選択肢に入れ、競合の名前は3つまで加えられることも書かれています。Googleには、広告を見た人がYouTubeとGoogle検索でブランドを検索しやすくなったかを測る「検索数の増加」測定もあり、こちらの予算の要件は、ブランド効果測定の質問1つぶんと同じとされています。
Meta側の出典は「ブランドリフトテストについて」、「ブランドアンケートテストを作成する」、「ブランドリフトアンケートの質問について」、「ブランドリフトの最小要件」です。Metaは、同じブランドや商品で別のキャンペーンを同時に出していると、非露出群の人がその広告を見てしまい結果が損なわれることがあるので、その場合は使わないよう案内しています。期間中にクリエイティブと予算を変えない前提であることも書かれています。
X(旧Twitter)やLINEなど他の媒体の提供条件は、この記事では扱っていません。どの媒体も条件は変わりやすいので、実施前には必ず最新の公式ヘルプと管理画面の表示で確かめてください。
費用の面では、媒体が用意するブランドリフト調査そのものに調査料はかかりません。Googleはブランド効果測定を「無料ツール」と説明し、Metaも「テストは無料で作成できます」と書いています。ただし、統計的に差を見分けられるだけの回答を集めるために、広告予算の下限が決められています。
表のとおり、日本で実施する場合、Google広告では質問1つで10日間に15,000米ドル、Metaでは44,000米ドルが最低予算として示されています。どちらも米ドルで書かれていて、実際の金額はアカウントの通貨に換算されます。Googleは為替レートを1月・4月・7月・10月の初めに更新すると書いています。つまり「ブランドリフト調査の費用」の実態は、調査代ではなく「この規模の広告を出せるか」という条件です。小さな予算のキャンペーンでは、そもそも対象になりません。
媒体の機能を使わず、調査会社に頼んで露出群と非露出群を集める方法もあります。この場合は調査費がかかりますが、出典を確認できる公開された料金の相場は見当たらなかったので、金額は書きません。見積を取るときは、回答数、対象者の条件、露出の判定方法(どうやって「見た人」を見分けるか)の三つを揃えて比べると、会社ごとの差が見えやすくなります。
予算の条件に届かない場合の手がかりとして、Metaの管理画面には「広告想起リフト率」という指標もあります。ただ、Metaのヘルプはこの指標を認知度とエンゲージメントの目的で使える推定値で、開発中のものと説明していて、実際にアンケートを取って比べるブランドリフト調査とは別物です。代わりの数字として扱うときは、その違いを報告書に一行書いておくほうが誠実だと思います。
実務での使い方──調査の前に「何が動けば成功か」を決める
ブランドリフト調査を実務で使うときにいちばん効くのは、配信の前に「どの指標が、何ポイント動けば成功か」を決めておくことです。結果が出てから指標を選ぶと、たまたま動いた数字を成功の根拠にしてしまいます。
広告会社にいた頃、キャンペーンの振り返りでは、「認知が上がりました」という報告がよく出てきました。でも、その時期にたまたま競合が静かだったのか、季節で関心が高まったのか、広告で上がったのかは、広告を見ていない人と比べないと分けられません。ブランドリフト調査は、その分け方を仕組みとして持っている調査です。数字が上がったことより、比べる相手がいることのほうに価値があるとぼくは思っています。
設計で決めることを、順番に並べると次のようになります。
| 決めること | 考え方 | 失敗しやすい点 |
|---|---|---|
| 測る指標 | キャンペーンの目的に一番近い段階を1〜2個に絞る | 質問を増やすほど予算の条件が上がり、どれも差が出にくくなる |
| 成功の基準 | 「広告想起が何ポイント」と配信前に決める | 結果を見てから、動いた指標だけを報告する |
| 比べる相手の選択肢 | 実際に比べられている競合ブランドを入れる | 選択肢が自社に有利すぎて、どの群でも肯定率が高くなる |
| 期間中の条件 | クリエイティブと予算を途中で変えない | 途中で広告を差し替え、何の効果か分からなくなる |
| 結果の使い道 | 次のキャンペーンで何を変えるかまで決めておく | 「リフトあり」で満足し、判断に使われない |
もう一つ気をつけたいのは、ブランドリフト調査が測るのは、広告を見た直後の気持ちの変化だけだという点です。売上がどれだけ増えたかは、別の方法で確かめる必要があります。実験で測るならインクリメンタリティテスト、過去のデータから推定するならMMM(マーケティングミックスモデリング)です。成果をどの接点の手柄とみなすかの考え方はアトリビューションとは?モデルの種類一覧と例、GA4での選び方で書いていますが、アトリビューションは「誰が成果に貢献したか」の配分で、ブランドリフト調査は「広告がなかったら何が違ったか」の比較です。問いが違うので、片方の数字でもう片方を代わりにすることはできません。
2026年時点の注意点──数字は媒体の中でしか比べられない
2026年時点でブランドリフト調査の結果を読むときに気をつけたいのは、媒体ごとに質問の文面・回答の集め方・対照群の作り方が違うので、YouTubeのリフトとMetaのリフトをそのまま並べて比べられないことです。比べてよいのは、同じ媒体の同じ設計で測った数字どうしです。
媒体が自分の広告の効果を自分で測る形でもあることは、知っておいてよいと思います。Googleのヘルプには、過去に広告動画を見た人だけを狙うキャンペーンでは対照群を作れないことや、狙いを絞りすぎると回答が集まらず「データ不足」になることが書かれています。設定のしかたで、測れるかどうか自体が変わります。結果の数字だけでなく、どんな設定で測ったのかを報告書に残しておくと、次の比較に使えます。
Metaの最小要件のページには「2026年9月15日現在」と日付が書かれていて、要件は変更される場合があるとも明記されています。Googleの最低予算も為替で動きます。この記事の数字は最終更新日時点のものなので、実施を決める前に公式ヘルプを開き直すのが安全です。
認知の調査は、ブランドリフトのような実験の形でなくても、定期的に同じ質問を同じ聞き方で取り続けるだけで、長い目で見た変化をつかめます。実験で短期の差を測り、定点の調査で長期の流れを見る。二つの役割の違いは、調査の種類を整理した定量調査と定性調査の違いとは?手法一覧と使い分け・組み合わせ方もあわせて読むと整理しやすいと思います。
ブランドリフト調査に関するよくある質問
ブランドリフト調査とは簡単にいうと何ですか?
広告を見た人と見なかった人に同じアンケートを出し、答えの差から広告の効果を測る調査です。広告想起・認知・好意・購入意向などを測ります。広告を見た人だけに聞くのではなく、見なかった人と比べることで、広告以外の理由で上がったぶんを差し引けます。
YouTubeのブランドリフト調査に費用はかかりますか?
Googleはブランド効果測定を無料ツールと説明していて、調査料はかかりません。ただし最低予算の条件があり、日本では質問1つで調査開始から10日間に15,000米ドルが目安として示されています。Googleアカウント担当者を通じた利用が前提で、担当者がいないアカウントでは使えません。
Metaのブランドリフト調査の条件は何ですか?
Metaのヘルプでは、日本の最低予算は44,000米ドル(2026年9月15日現在)です。質問は最大3つで各150文字以内、広告想起の質問を1つ以上含める必要があります。同じブランドで別のキャンペーンを同時に出していると結果が損なわれることがあるので、その場合は使わないよう案内されています。
ブランドリフト調査の質問は何を選べばいいですか?
キャンペーンの目的に一番近い段階の指標を1〜2個に絞るのがおすすめです。新商品を知ってもらうなら広告想起や認知、候補に入れてもらうなら比較検討を選びます。質問を増やすほど予算の条件が上がり、それぞれの差も出にくくなります。
おわりに──効果は、見た人と見なかった人のあいだにある
広告の効果を知りたくなると、つい広告を見た人の声を集めたくなります。でも、見た人の認知率がどれだけ高くても、それが広告のおかげなのかは、その数字だけでは分かりません。
効果は、見た人の中にあるのではありません。見た人と見なかった人のあいだにあります。ブランドリフト調査は、その「あいだ」を測るために、わざわざ広告を見せない人をつくる調査です。比べる相手を持たない数字は、どれだけ大きくても判断の材料にはなりにくい。予算の条件に届かないときでも、この考え方だけは手元に置いておくと、報告書の数字の読み方が変わると思います。読み方で迷ったら、ぼくのXアカウント(@yosooi3)に問いかけてもらえれば、できる範囲で答えようと思います。