最終更新:2026年10月19日
電子定款を自分で作る方法とは、定款をPDFにして、マイナンバーカードの署名用電子証明書などで電子署名を付け、そのデータのまま登記に使うことです。紙の定款に必要な収入印紙4万円が、電子定款ならかかりません。合同会社は公証人の認証が要らないので、PDF化と電子署名ができれば、あとは登記のオンライン申請に添付するだけです。株式会社はその前に公証役場で認証を受けるひと手間が加わります。この記事は、一人で会社を作る人が自分の手で電子定款を作るときに、何をそろえて、どの順番で進め、どこでつまずきやすいかを書きます。制度と金額は最終更新日の時点で公式ページを確認した内容です。
電子定款を自分で作る方法とは?結論から
電子定款を自分で作るときに要るのは、定款のPDF、電子署名の道具、オンライン申請の環境の3つです。合同会社なら公証役場に行く工程がなく、一人法人なら署名するのも自分一人なので、自分で作る難しさは「署名の準備」にほぼ集まります。
| 項目 | 要点 |
|---|---|
| 電子定款とは | PDFなどの電子データで作り、電子署名を付けた定款。会社法は定款を電磁的記録で作ることを認めている(会社法第26条第2項・第575条第2項) |
| 紙との違い(お金) | 紙の定款の原本には印紙税4万円がかかる(国税庁・印紙税額の一覧表 第6号文書)。電子定款には収入印紙を貼る必要がない(日本公証人連合会 Q3) |
| 合同会社 | 公証人の認証は不要(法務省・合同会社の設立手続について)。社員全員が電子署名し、登記申請に添付する |
| 株式会社 | 公証人の認証を受けないと効力を生じない(会社法第30条)。電子定款の認証は、2024年3月1日からウェブ会議での実施が原則(日本公証人連合会 9-4 定款認証) |
| 主な道具 | マイナンバーカード(署名用電子証明書)、ICカードリーダライタ、申請用総合ソフトが動くパソコン |
| つまずきやすい所 | 署名ソフトの選び方と、パソコンの推奨環境(申請用総合ソフトの推奨OSはWindows 11) |
浮くのは印紙代の4万円だけで、登録免許税などほかの費用は紙でも電子でも変わりません。電子定款の価値は「4万円を払う代わりに、署名の準備を自分でやる」という交換にあります。
電子定款の制度・要件・費用(合同会社と株式会社の比較)
電子定款の制度は、合同会社と株式会社で「認証があるかどうか」だけが大きく違い、印紙が要らない点は共通です。次の表は、最終更新日の時点で公式ページを開いて確かめた内容だけで作っています。
| 項目 | 合同会社 | 株式会社 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 定款を作る人・署名する人 | 社員になろうとする者の全員 | 発起人の全員 | 会社法第575条・第26条 |
| 公証人の認証 | 不要 | 必要(認証がないと効力を生じない) | 会社法第30条、法務省 |
| 紙の定款の印紙税 | 4万円 | 4万円 | 国税庁 第6号文書 |
| 電子定款の印紙税 | なし | なし | 日本公証人連合会 Q3、国税庁 質疑応答 |
| 定款認証の手数料 | なし | 資本金の額等が100万円未満は3万円、100万円以上300万円未満は4万円、それ以外は5万円 | 日本公証人連合会 Q3 |
| 認証手数料の減額 | なし | 資本金の額等が100万円未満で、発起人が全員自然人かつ3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受け、取締役会を置かない場合は1万5,000円(2024年12月1日施行) | 日本公証人連合会・定款手数料の改定 |
| 謄本の手数料 | なし | 1枚250円 | 日本公証人連合会 Q3 |
| 設立登記の登録免許税 | 資本金の額×1000分の7。6万円に満たないときは6万円 | 15万円か出資額の1000分の7のいずれか高い額 | 法務省、日本公証人連合会 Q3 |
国税庁の質疑応答は、印紙税の対象は課税物件表に掲げられた「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないと説明しています。電子定款に印紙が要らない理由は、この整理にあります。逆にいえば、電子定款を作ったあとで紙に印刷し、その紙を原本として扱えば、話は紙の定款に戻ります。
法務局の案内では、合同会社のオンライン申請で添付する定款は「公証人の認証は必要ありません。社員の電子署名が必要です」とされています(法務局・オンライン申請に必要な添付書面情報)。社員が一人の合同会社なら、定款に署名するのは自分だけです。
電子定款を自分で作る手順(合同会社の場合)
合同会社の電子定款は、文面を作る、PDFにする、電子署名する、登記申請に添付して送る、の4段で完成します。道具の準備を先に済ませておくと、署名の段で止まりません。
この手順で使う道具は次のとおりです。マイナンバーカードで進める場合を前提にしています。
| 道具 | 何に使うか | 確認しておくこと |
|---|---|---|
| マイナンバーカード | 署名用電子証明書で定款と申請書類に電子署名する | 署名用電子証明書の暗証番号が分かるか |
| ICカードリーダライタ | パソコンでマイナンバーカードを読み取る | 法務局の案内で必要とされている(法務局・合同会社の設立の登記をしたい方(オンライン申請)) |
| パソコン | 申請用総合ソフトを動かす | 推奨環境はWindows 11、.NET Framework 4.8.1、Adobe Acrobat Reader DC(登記・供託オンライン申請システム・推奨環境) |
| 申請用総合ソフト | 申請書の作成、PDFへの署名、送信 | 登記・供託オンライン申請システムから無料でダウンロードする |
| PDF署名の手段 | 定款のPDFに署名を付ける | 申請用総合ソフトの機能か、指定された署名方式に合うソフトを使う(次の手順5で説明) |
- 定款の中身を決める。合同会社の定款に必ず書く事項は、目的・商号・本店の所在地・社員の氏名又は名称及び住所・社員の全部を有限責任社員とする旨・社員の出資の目的及びその価額の6つです(法務省、会社法第576条)。事業年度や代表社員の定め方もここで決めます。
- 文面をWordなどで作る。法務局が公開している定款の記載例(オンライン申請用の添付書面情報の記載例)を下敷きにすると、条文の並びで迷いません。末尾の作成文言は、紙の「記名押印する」を電子署名に合う書き方に直します。日本公証人連合会の記載例では「電磁的記録である本定款を作成し、電子署名する」という言い回しが示されています(一般社団法人の例。9-4 定款認証)。
- PDFにする。署名したあとに文面を直すと署名をやり直すことになるので、誤字や日付をこの時点で確定させます。
- 電子署名の道具をそろえる。申請者情報の登録と申請用総合ソフトのインストールは、初めて使うときだけ必要です(法務局のオンライン申請の手順)。
- PDFに電子署名する。方法は「署名付きPDFフォルダ」と「電子署名付きPDFファイル」の2通りです(PDFファイルへの電子署名の付与)。署名付きPDFフォルダは申請用総合ソフト等で作る必要があり、ほかのソフトで作ったものは使えません。電子署名付きPDFファイルは、システムが用意する「PDF署名プラグイン」(Adobe Acrobatが必要)、Adobe Acrobat、Adobe Acrobat Reader、SkyPDFで作ったものが、決められた署名形式を満たすとされています。
- 登記申請と一緒に送る。代表社員本人がマイナンバーカードを使ってオンラインで申請し、電子署名した定款を添付書面情報として送ります。オンライン申請で電子署名をすると、印鑑届書に添付する代表社員の印鑑証明書など一部の添付書類が不要になります(法務局)。
定款の文面づくりの段で手が止まりそうなら、ぼくが作った無料ツールのなりわいさんを使ってもらってもかまいません。合同会社・株式会社の定款と設立書類一式をブラウザの中で作る道具で、入力した内容はどこにも送信しない設計にしています。PDF化から署名までの流れは電子定款ガイドにまとめていますが、署名ソフトの対応状況などは時期で変わるので、最後は上の公式ページで確かめてください。
株式会社の場合は、手順3のあとに認証の工程が入ります。日本公証人連合会の案内では、定款の案と実質的支配者となるべき者の申告書を事前に公証役場へ送って内容を確認してもらい、ウェブ会議の日時を予約し、予約日までに電子定款をオンラインで申請する流れです(9-4 定款認証・ウェブ会議による認証制度)。認証を受けた定款データを受け取ってから、登記申請に添付します。紙の定款の認証にはウェブ会議を使えない点も、同じページに書かれています。
一人で会社を作る人の判断ポイント
一人で会社を作る人が電子定款で決めるのは、印紙代4万円を払うか、署名の準備を自分でやるか、専門家に任せるかの3択です。どれが正解かは、手元の道具とかけられる時間でほぼ決まります。
| やり方 | 払うもの | 向いている人 |
|---|---|---|
| 自分で電子定款を作る | 道具をそろえる手間と時間(印紙代はかからない) | マイナンバーカードの暗証番号が分かり、Windowsのパソコンとカードリーダを用意できる人 |
| 紙の定款で進める | 収入印紙4万円 | パソコンの環境をそろえるより、4万円で手間を減らしたい人 |
| 専門家に頼む | 報酬(金額は事務所ごとに異なる) | 登記全体を任せたい人、マイナンバーカードで署名できない事情がある人 |
一人法人に向いている点がひとつあります。合同会社の定款は社員全員の電子署名が必要ですが、社員が自分だけなら署名も一人分で済みます。代表社員本人がマイナンバーカードで申請する法務局のオンライン申請とも、そのままつながります。何人もの署名をそろえる手間がない分、一人で作る人ほど電子定款の手間は小さくなります。
ぼくは40歳のとき、tiny合同会社を一人で作りました。そのとき一番不安だったのが、定款と登記書類でした。聞き慣れない言葉ばかりで、何かひとつ間違えたら手続きが止まりそうに見えたからです(その話は一人で合同会社を設立した記事に書いています)。独立後には、定款と設立書類を作るツールのなりわいさんを自分で作りました。どちらの立場から見ても、電子定款の難しさは法律の理解より、署名の道具が手元で動くかどうかにあります。
だから判断の順番は、先に道具の確認です。マイナンバーカードの暗証番号が分かるか、Windowsのパソコンがあるか、カードリーダがあるか。3つとも「ある」なら自分で作る価値があります。どれかが「ない」なら、それをそろえる手間と4万円を比べます。会社を作る全体の流れは一人で法人を作るということに、設立後の口座づくりはGMOあおぞらネット銀行の法人口座の記事にまとめています。
電子定款のよくある間違いと注意点
電子定款のつまずきは、ほとんどが「署名の形式」と「パソコンの環境」のどちらかで起きます。法律の要件で止まる人より、ソフトの準備で止まる人のほうが多い手続きです。
- Macで進めようとして止まる。申請用総合ソフトの推奨環境はWindows 11です(推奨環境)。推奨環境とは動作を確認した環境のことなので、それ以外で動く保証はありません。
- 手持ちのPDFソフトで署名して検証できない。決められた署名形式と設定値を満たしていない電子署名付きPDFファイルは、システム上で署名を検証できません(PDFファイルへの電子署名の付与)。Adobe Acrobatの署名機能を使うときは「Adobeデフォルトセキュリティ方式」で署名する必要があり、一部のICカードタイプの電子証明書はAcrobatやAcrobat Readerの署名機能を使えない場合があると注意書きがあります。
- PDF署名プラグインをAcrobat Readerで使おうとする。公式ページでは、PDF署名プラグインの利用にはAdobe Acrobatが必要とされています。
- 署名用電子証明書の暗証番号を忘れている。マイナンバーカードの署名には署名用電子証明書が要ります。暗証番号を忘れて役所に行き直すのは、法人口座の記事でも書いた、いちばんありがちな足止めです。
- 署名したあとに文面を直す。直した時点で署名をやり直すことになります。株式会社は、公証人の認証を受けた定款を成立前に変えられる場面が会社法で限られているので(第30条第2項)、認証の前に目的や商号を確定させておきます。
- 電子定款で設立費用が全部浮くと思う。浮くのは印紙代だけです。登録免許税(合同会社は最低6万円)はそのまま残ります。
- 同じ商号・同じ本店の会社を確かめていない。商号と本店が同一の会社がすでにあると設立の登記ができないため、法務局の記載例は事前の確認を求めています(添付書面情報の記載例)。
この記事は、最終更新日の時点で法務省・法務局・日本公証人連合会・国税庁の公式ページを確認して書いています。手数料や推奨環境は改定されることがあるので、申請の前にリンク先で最新の案内を見てください。個別の判断(自分の会社がどうするか)は、税理士・司法書士・社労士に確認してください。
電子定款に関するよくある質問
電子定款を自分で作る人から出やすい質問を4つ選びました。電子署名の意味、公証役場、合同会社の認証、マイナンバーカードがない場合の4つです。
電子定款の電子署名とは何ですか?
紙の定款の署名や記名押印に代わる、電子データ用の本人確認のしるしです。会社法は、電磁的記録で定款を作るときは法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとるよう定めています。個人なら、マイナンバーカードの署名用電子証明書を使って付けるのが一般的な方法です。
電子定款の認証は公証役場に行かずに受けられますか?
株式会社の電子定款なら、ウェブ会議で受けられます。日本公証人連合会は、2024年3月1日から、利用者から特段の希望がない限り電子定款の認証の面前審査をウェブ会議で行う運用を始めています。紙の定款の認証にはウェブ会議を使えません。
合同会社の電子定款にも公証人の認証は必要ですか?
必要ありません。法務省の案内でも、合同会社の定款は公証人の認証を受ける必要がないとされています。社員全員が電子署名をした定款を、そのまま設立登記の申請に添付します。
マイナンバーカードがないと電子定款は作れませんか?
マイナンバーカード以外にも、商業登記のオンライン申請で使える電子証明書として、民間の認証局が発行するものが登記・供託オンライン申請システムの一覧に載っています。署名の準備が難しければ、紙の定款で収入印紙4万円を払う方法や、専門家に定款の作成を頼む方法もあります。どれを選ぶかは、準備にかかる手間と4万円を比べて決めます。
おわりに──電子定款で決めるのは「4万円」か「準備の手間」か
電子定款の手順を並べると長く見えますが、法律の要件は合同会社ならほとんど迷う所がありません。止まるのは、署名用電子証明書の暗証番号、Windowsのパソコン、カードリーダ、署名ソフトといった道具の側です。
電子定款は節約の裏技ではなく、4万円の印紙代と署名の準備を交換する手続きです。
道具が手元にそろっているなら、自分で作れば4万円が浮きます。そろっていないなら、それをそろえる手間と4万円を一度だけ見比べてください。どちらを選んでも、会社の中身は変わりません。