結論から書きます。セレンディピティ、つまり思いがけない幸運な出会いは、運任せに見えて、実は起こる確率を上げられます。偶然そのものは選べません。でも、偶然が起きやすい状況に自分を置くことは、意図してできます。セレンディピティとは、設計できる運のことです。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳で独立しました。振り返ると、キャリアの節目はたいてい、狙って起こしたことではなく、思いがけない出会いや偶然から始まっていました。その偶然を、どうすれば呼び込めるのか。経験から整理します。
セレンディピティとは何か
セレンディピティとは、探していなかったものを、偶然、幸運な形で見つけ出す能力や現象のことです。何かを探している途中で、当初の目的とは別の、もっと価値あるものに出会う。そういう出来事を指します。
科学の世界では、この言葉がよく使われます。ある薬を研究していて、まったく別の効能を持つ薬を偶然発見する、といった話です。大事なのは、これがただの幸運ではないことです。同じ偶然に出くわしても、その価値に気づける人と、見過ごす人がいます。セレンディピティは、偶然と、それを掴む力の、両方がそろって初めて成立します。
なぜいま、セレンディピティが大事なのか
計画どおりに進めることが得意な時代なら、偶然の価値は小さかったかもしれません。でも、いまはそうではありません。理由が三つあります。
ひとつめは、正解が読めなくなったことです。変化が速く、何が当たるか誰にも分かりません。緻密な計画を立てても、その前提がすぐ古くなる。こういう時代には、計画からは出てこない、偶然の発見のほうが、道を開くことがあります。
ふたつめは、便利さが、偶然を奪っていることです。おすすめ機能は、自分が好みそうなものばかりを差し出します。効率的ですが、その分、想定外との出会いが減ります。心地よく最適化された世界にいると、偶然が入り込む隙間が、どんどん狭くなる。だから、意図して偶然を招き入れる必要が出てきました。
みっつめは、キャリアが、一本道でなくなったことです。ひとつの会社で勤め上げる時代ではなくなり、道は自分で作るものになりました。その道の分岐点は、たいてい予期せぬ出会いから生まれます。独立して人脈に助けられ続けた実感は、人脈が全ての現実という記事にも書きました。
偶然を呼び込む、四つの設計
では、どうすればセレンディピティは起こりやすくなるのか。運を待つのではなく、確率を上げる方法を四つ挙げます。
ひとつめは、いつもと違う場所に、自分を置くことです。同じ人と、同じ場所で、同じことを繰り返していると、出会うものも同じになります。少し違うコミュニティに顔を出す、専門外の本を読む、行ったことのない場所へ行く。偶然は、いつもの外側にしか落ちていません。
ふたつめは、自分が何を探しているかを、言葉にしておくことです。これは逆説的に聞こえるかもしれません。でも、何に興味があるのかを自分で分かっている人ほど、偶然の中から価値を拾えます。アンテナが立っていない人には、目の前を通り過ぎたチャンスも、ただの風景に見えます。探しものを意識しているから、無関係に見えるものの中に、つながりを見つけられます。
みっつめは、開いておくことです。予定を詰めすぎず、余白を残す。誘いに、とりあえず乗ってみる。すぐに役立つかで判断せず、面白そうかで動く。効率だけで動いていると、偶然の入る余地がなくなります。一見無駄に見える時間や関係の中に、後から効いてくるものが混じっています。
よっつめは、自分から、少し差し出すことです。知っていることを共有する、困っている人を助ける、面白いものを人に渡す。与える人のところに、巡り巡って偶然が返ってきます。受け取るのを待つだけの人より、まず差し出す人のほうに、思いがけない縁は集まります。これは、与える設計が効くという意味で、プロセスエコノミーの記事で書いた、過程を開くことの効き目とも通じます。
ただし、偶然は「掴む力」がないと意味がない
最後に、いちばん大事なことを書きます。どれだけ偶然を呼び込んでも、その価値に気づけなければ、何も起きません。セレンディピティは、偶然の出会いと、それを掴む力の掛け算です。
掴む力とは、目の前の出来事を、自分の関心や課題と結びつけて考える力のことです。ふだんから、自分は何をしたいのか、何に引っかかっているのかを、はっきりさせておく。その解像度が高い人ほど、偶然を意味あるものに変えられます。ぼんやり生きていると、幸運が通り過ぎても気づけません。偶然を招く設計と、それを掴む準備。この両方がそろって初めて、運は味方になります。自分の関心を掘り下げる作業は、キャリア全体を考えることにもつながります。マーケターのキャリアパスの記事もあわせて読んでもらえたらと思います。
よくある質問
セレンディピティとは何ですか
探していなかったものを、偶然、幸運な形で見つけ出す能力や現象のことです。何かを探す途中で、当初の目的とは別のもっと価値あるものに出会う出来事を指します。ただの幸運とは違い、同じ偶然に出会っても価値に気づける人とそうでない人がいるため、偶然とそれを掴む力の両方がそろって成立します。
セレンディピティは設計できるのですか
偶然そのものは選べませんが、偶然が起こりやすい状況に自分を置くことは意図してできます。いつもと違う場所に身を置く、探しものを言葉にしておく、予定に余白を残す、自分から先に差し出す。これらによって、思いがけない出会いに遭遇する確率を上げられます。
なぜいまセレンディピティが重視されるのですか
変化が速くて正解が読めなくなり、計画外の発見が道を開く場面が増えたこと、おすすめ機能などの最適化が想定外との出会いを減らしていること、そしてキャリアが一本道でなくなり分岐点が予期せぬ出会いから生まれるようになったこと。この三つが背景にあります。
偶然を掴む力は、どうすれば身につきますか
ふだんから、自分が何をしたいのか、何に引っかかっているのかをはっきりさせておくことです。自分の関心や課題の解像度が高い人ほど、目の前の偶然を自分のテーマと結びつけ、意味あるものに変えられます。逆に、関心が曖昧なままだと、幸運が通り過ぎても気づけません。
まとめ
セレンディピティとは、思いがけない幸運な出会いであり、そしてそれは、運任せではなく設計できるものです。いつもと違う場所に身を置き、探しものを言葉にし、余白を残し、自分から差し出す。この四つが、偶然の確率を上げます。
ただし、偶然を呼び込むだけでは足りません。その価値に気づき、掴む力があって初めて、偶然は幸運に変わります。そのためには、自分が何を求めているのかを、ふだんから解像度高く分かっておくこと。偶然を招く設計と、それを掴む準備。この両輪を回せる人のところに、いい偶然は、繰り返し訪れます。運は、待つものではなく、育てるものです。