マーケの目

RAGとは?生成AIの検索拡張生成の読み方・仕組み・ビジネスでの使い方

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最終更新:2026年10月17日

RAG(ラグ)とは、Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)の略で、生成AIが答える前に外部の資料を検索し、見つけた内容を質問に添えてから回答を作らせる仕組みのことです。2020年に当時のFacebook AI Research(現在のMeta)の研究者らが論文で提案しました。この記事で扱うのは生成AIの文脈のRAGです。検索候補に出てくる医療分野の「RAG」や、プロジェクト管理で進捗を赤・黄・緑で示すRAGステータスは別の言葉なので扱いません。結論から言うと、RAGはAIを賢くする技術ではなく、AIにどの資料を読ませるかを人が決める仕組みです。非エンジニアのマーケターにとっては、NotebookLMやClaudeのプロジェクト機能のように「資料を渡してから答えさせる」使い方が、そのままRAGの入口になります。この記事では、読み方と3段階の仕組み、2020年の論文、ファインチューニングとの違い、「RAGを入れればハルシネーションが消える」という誤解、実務での使い方まで書いていきます。

RAGとは?読み方と「検索→拡張→生成」の3段階一覧

RAGは「ラグ」と読みます(野村総合研究所の用語解説)。日本語訳はAWSやIBMの公式ページで使われている「検索拡張生成」が一般的で、「取得拡張生成」と訳されることもあります。Microsoftの解説は、RAGを「独自のコンテンツで応答を根拠づけてLLMの機能を拡張するパターン」と定義しています。LLM(大規模言語モデル)とは、ChatGPTやGeminiの土台になっている、大量の文章を学習したAIのことです。

名前の3語が、そのまま3つの段階になっています。

段階 やること 人の仕事にたとえると ここでつまずくと
検索(Retrieval) 質問に関係のある資料の断片を、あらかじめ用意した資料の中から探す 図書館で、関係のある本のページを探す 関係のない資料を拾う。必要な資料を取りこぼす
拡張(Augmented) 見つけた断片を質問に添えて、AIへの指示文(プロンプト)を組み立てる 「この資料を読んでから答えて」と、メモを添えて渡す 資料が多すぎて、要点が埋もれる
生成(Generation) LLMが、添えられた資料を根拠に回答を書く。引用元を示せる 資料を読んだうえで、自分の言葉で答える 資料にないことを補って書く(ハルシネーション)

段階ごとに、専門用語がいくつか出てきます。チャンクは資料を一定の長さで切った断片、埋め込み(エンベディング)は文章の意味を数字の並びに変えたもの、ベクトルデータベースはその数字の並びを保存して「意味が近い断片」を探せるようにしたデータベースです。IBMの解説は、チャンクは大きすぎると内容が一般的になり、小さすぎると意味が失われる、と切り方のトレードオフを説明しています。AWSは公式ページで、RAGを「外部データの作成→関連情報の取得→プロンプトの拡張→外部データの更新」の4段階で、Google Cloudは取り込み・変換・埋め込み・索引作成・検索・生成の6段階で説明していますが、骨格は同じです。

RAGの出典──2020年、Metaの研究者らの論文から

RAGという言葉の出典は、2020年5月にarXiv(論文の公開サイト)に投稿された論文「Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks」です。筆頭著者はパトリック・ルイス(Patrick Lewis)で、当時のFacebook AI Research、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ニューヨーク大学の研究者らが名を連ね、同年のAI分野の国際会議NeurIPSに採択されました。

論文の発想は、2種類の記憶を組み合わせることです。一つは、モデルが学習で内部に覚え込んだ知識(論文の言葉ではパラメトリック記憶)。もう一つは、外部に置いた検索できる資料(非パラメトリック記憶)で、実験ではウィキペディアを100語ごとに切った約2,100万の断片を索引にしました。質問が来ると、まず索引から関係の深い断片を探し、それを添えて文章を生成します。論文は、知識を問う質問応答の3つのタスクで当時の最高精度を出したと報告しています。

注目したいのは、論文が冒頭で挙げた既存モデルの弱点です。答えの根拠(出典)を示せないこと、そして知識を更新しにくいこと。この2つは、2026年10月時点でも生成AIを仕事に使う人が最初にぶつかる壁で、RAGはこの2つに答えるために生まれた方法です。人にたとえると、記憶だけで答える人を、資料を開いてから答える人に変える方法と言えます。モデルを作り直す必要はなく、検索の箱に入れる資料を差し替えれば、答えの根拠も差し替わります。

RAGとファインチューニング・プロンプト・長い文脈の違い

RAGとよく比べられるのがファインチューニング(モデルの追加学習)です。違いを一言で言うと、ファインチューニングはAIの中身を変え、RAGはAIに渡す資料を変えます。目的が「知識を足す」なのか「振る舞いを変える」なのかで選びます。

方法 何をするか 人にたとえると 向いていること 弱点
RAG 外部の資料を検索して、回答の材料にする 資料を開いてから答える 社内資料、更新の多い情報、出典を示したい場面 検索が外れると誤る。資料の管理が要る
ファインチューニング モデルそのものを追加学習させる 研修で覚え込ませる 文体や形式、専門分野の癖を覚えさせる 学習に手間がかかる。知識が変わるたびに再学習。出典を示せない
プロンプトエンジニアリング 指示文の書き方を工夫する 頼み方を工夫する 手軽で、すぐ試せる モデルが知らない知識は出てこない
長い文脈に全部入れる 資料をまるごと指示文に入れる 資料を全部、机の上に広げる 資料が少ないとき 多すぎると、途中の情報を見落とす

IBMの解説は、RAGとファインチューニングは排他ではなく併用できると説明しています。文体や形式の癖はファインチューニングで、日々変わる情報はRAGで、という組み合わせです。長い文脈に全部入れる方法との境目については、Anthropicが2024年9月の記事で、知識ベースが約20万トークン(同社の説明では約500ページ)に収まるならRAGなしで全部プロンプトに入れられる、と書いています。トークンはAIが文章を数える単位です。ただし長く入れるほど安全なわけではなく、2023年の論文「Lost in the Middle」は、関連情報が入力の中央にあると精度が落ちることを報告しました。

関連する言葉も位置づけておきます。コンテキストエンジニアリングは、Anthropicが2025年9月の記事でプロンプトエンジニアリングの自然な発展と位置づけた考え方で、指示文だけでなくツール・外部データ・履歴まで含めて、AIに見せる情報を設計します。RAGは、その中の「外部データを用意する手段」にあたります。AIエージェントは、目的を受けて自分で手順を決めて動くAIで、RAGを検索ツールの一つとして使うことがあります。MCPは、AIと外部のデータやツールをつなぐ共通規格で、公式サイトはUSB-Cポートにたとえています。RAGのデータの差し込み口になることはありますが、別の概念です。

「RAGを入れればハルシネーションが消える」は誤解

RAGはハルシネーション(生成AIが事実にないことをもっともらしく答える現象)を減らしますが、消しはしません。Google CloudのRAG Engineの解説も「減らす」と書いていて、IBMの解説は、RAGはモデルを完全に誤りのない状態にはしない、と明記しています。

数字で示した研究があります。スタンフォード大学などの研究者らが2024年に公開した論文「Hallucination-Free?」は、RAGを使っている法律調査AIツール(Lexis+ AI、Westlawなど)を検証し、17〜33%の割合でハルシネーションが起きたと報告しました。資料を渡しても、この割合です。

なぜ消えないのか。理由は3段階のそれぞれにあります。検索の段階では、関係のない断片を拾ったり、必要な断片を取りこぼしたりします。IBMが挙げたチャンクの切り方のトレードオフは、ここに効きます。拡張の段階では、資料が長くなるほど真ん中の情報が見落とされます。生成の段階では、資料に書いてないことをモデルが補って書いてしまいます。それに、検索の箱に入れた資料そのものが古ければ、AIは古い答えを引用つきで返します。

「RAGは死んだ」という言い回しも見かけますが、はっきりした原典は見当たりません。確認できた一次発言は、Claude Codeの開発者ボリス・チェルニー(Boris Cherny)が2025年5月の対談で、初期はRAGを使っていたが最終的にgrep(文字列検索)などを使うエージェント検索に落ち着いた、と語ったものです。ただ、これはコード検索の話で、RAG全般の否定ではありません。RAGの側も、AIが検索の計画を立て直すエージェント型RAGや、知識グラフを使うGraphRAG(Microsoft Research)へと形を変えています。Microsoftは2026年10月時点で、Azure AI Searchの新規実装はLLMがクエリを分解するエージェント検索から始めるよう案内しています(一部はプレビュー)。検索の計画からレポートづくりまでをAIが回すディープリサーチも、同じ流れにある機能です。

実務でどう使うか──非エンジニアにとってのRAGは「資料を見せてから答えさせる」こと

非エンジニアにとってのRAGは、ベクトルデータベースを立てることではなく、AIに自分の資料を見せてから答えさせる使い方そのものです。2026年10月17日時点で、公式ページで確認できたサービスを表にします。

使い方 サービスの例 公式ページで確認できたこと(2026年10月17日時点)
個人・小規模:資料を読ませて答えさせる NotebookLM(ヘルプ上の名称は「Gemini Notebook」) PDF・ウェブサイト・YouTube・音声・Googleドキュメントなどを読み込み、ソースに基づいて引用つきで回答する。ヘルプに「RAG」の語はない
個人・小規模:資料を置いた作業部屋を作る Claudeのプロジェクト ヘルプにRAGの明記あり。有料プランでは知識が大きくなるとRAGモードが自動で有効になり、容量が最大10倍に広がる
企業:社内資料で答えるAIを作る Azure AI Search、Amazon Bedrock Knowledge Bases、Google CloudのRAG Engine いずれも管理型のRAG基盤。BedrockはS3・SharePoint・Confluence・Google Driveなどに接続。Google Cloudのページ上の製品名は「Gemini Enterprise Agent Platform」に変わっている

マーケターの仕事で言えば、読ませる資料の候補はすでに手元にあります。ブランドガイドやトンマナの資料、過去の提案書、顧客アンケートやインタビューの記録、商品情報とよくある質問。これらを渡してから書かせれば、AIの答えは一般論から自社の文脈に寄ります。自社で集めたファーストパーティデータの価値は、分析だけでなく、AIに読ませる資料としても出てきます。ただし顧客の個人情報や未公開の情報を外部のAIに渡す前には、そのサービスがデータを学習に使うか、どこに保存するかを規約で確かめる必要があります。

ぼく自身も、記事を書くときは自分の過去記事と手元のナレッジをAIに先に検索させ、その結果を踏まえて書かせています。仕組みとしては手製のRAGに近いもので、狙いは、過去に書いたことと矛盾しないようにすることと、文体を揃えることです。それでも固有名詞と数字は、最後に自分で原典を開いて確かめています。記事の投稿やSNS投稿の作業をClaude Codeで自動化した話はマーケターがClaude Codeを使ったら、外注していた作業が半日で終わったに書きました。

企業の導入例は、AWSの公式ブログで公開されているものが確認できました。鴻池運輸は、社内文書を検索して答えるAIチャットで、検証100件中95件が合格し、着手から4か月で本番に移ったと報告されています。JDSCは契約書など約1万部の横断検索で、問い合わせ対応の時間が約97%短縮されたとしています。ダイキン工業は社内向けのRAGテンプレートを整え、公開から半年で約8部門・チームが使っているとありますが、精度などの定量的な効果は書かれていません。いずれもベンダー側の公式ブログの数字で、第三者の検証ではない点は踏まえておく必要があります。

市場としては、調査会社のMarketsandMarketsが2025年10月に、RAGの世界市場を2025年の19.4億ドルから2030年に98.6億ドルへ、年平均38.4%で成長すると予測しています。国内では、Digeonの調査(517人・@IT 2026年1月掲載)でRAGを「導入済み」と答えたのは17.8%で、未導入の理由の最多は「どの業務に使えるか分からない」の29.1%でした。技術が足りないのではなく、どの資料をどの仕事に読ませるかが決まっていない。導入の壁は、ここにあります。

RAGに関するよくある質問

RAGとは簡単に言うと何ですか?

生成AIが答える前に、手元の資料や社内文書を検索して、見つけた内容を質問に添えてから回答させる仕組みです。Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)の略で、2020年にMeta(当時Facebook AI Research)の研究者らが論文で提案しました。AIを「記憶だけで答える人」から「資料を開いてから答える人」に変える方法です。

RAGの読み方は何ですか?

「ラグ」と読みます。野村総合研究所の用語解説でもこの読み方で、英語の頭文字をそのまま読んだものです。日本語では「検索拡張生成」と訳されることが多く、AWSやIBMの日本語ページもこの訳語を使っています。

NotebookLMやClaudeのプロジェクト機能はRAGですか?

Claudeのプロジェクト機能は、公式ヘルプにRAGを使うことが明記されています(2026年10月時点)。NotebookLM(公式ヘルプでは「Gemini Notebook」の名称)は、読み込んだソースに基づいて引用つきで答える設計ですが、公式ヘルプに「RAG」の語は出てきません。資料を渡してから答えさせるという意味では、どちらもRAG的な使い方にあたります。

RAGを使えばハルシネーションはなくなりますか?

なくなりません。減ります。スタンフォード大学などの論文は、RAGを使った法律調査AIでも17〜33%でハルシネーションが起きたと報告し、IBMも完全に誤りのない状態にはならないと明記しています。検索が外れる、資料が古い、資料にないことを補う、の3つが残るので、数字と固有名詞は人が原典で確認する前提で使うのが現実的です。

おわりに──RAGは、AIに知識を足す技術ではなく、人が資料を選ぶ仕事

RAGの解説は、たいてい仕組みの話として語られます。検索して、添えて、生成する。でも、この仕組みの中でいちばん結果を左右する部分は、技術ではありません。検索の箱に、誰が、どの資料を入れたかです。古い価格表を入れれば古い価格を、根拠のない社内メモを入れれば根拠のない答えを、AIは引用つきで丁寧に返してきます。

2020年の論文が解こうとしたのは、AIが出典を示せないことと、知識を更新できないことでした。その答えがRAGです。ただ、どの出典を信じるか、どの知識を今日の正解とするかを決める作業は、論文の外側に残りました。そこは人の仕事です。

RAGとは、AIを賢くする技術ではなく、AIに何を読ませるかを人が決める仕事。

AIに資料を渡す前に、自分ならその資料を信じて答えるか。その問いに「はい」と言える資料だけを箱に入れる。それが、RAGを実務で使うときの、いちばん地味で、いちばん効く手順だと思います。

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