最終更新:2026年10月17日
PPM分析とは、会社が持っている複数の事業や商品を「市場成長率」と「相対的な市場シェア」の2つの軸で4つの象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)に分け、どこで稼いだお金をどこに回すかを決めるための枠組みです。PPMはプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの略で、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の創業者ブルース・ヘンダーソン(Bruce Henderson)が1970年の小論で考え方を示しました。結論を先に書くと、PPMは事業に順位をつける成績表ではありません。お金の流れを設計する地図です。この記事では、4象限の一覧表と2つの軸の意味、原典の中身、やり方の手順とテンプレート、アンゾフやSWOTとの違い、ユニクロや任天堂を当てはめるときの注意点、「古い」と言われる理由までまとめました。
PPM分析とは?4象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)の一覧
PPM分析の4象限は、市場が伸びているかどうか(縦軸)と、その市場で自社がどれだけ強いか(横軸)の組み合わせで決まります。縦軸はお金がどれだけ出ていくかを、横軸はお金がどれだけ入ってくるかを表していると読むと、4つの象限の意味がつかみやすくなります。
| 象限 | 原典の呼び名 | 市場成長率 | 相対シェア | お金の出入り | 基本の方針 |
|---|---|---|---|---|---|
| 花形 | Stars | 高い | 高い | 稼ぐが、成長についていくための投資も大きい | シェアを守り、市場の成長が落ち着くまで投資を続ける |
| 金のなる木 | Cash Cows | 低い | 高い | 投資が少なくて済み、現金が余る | 同じ事業に再投資しすぎず、余った現金をほかの事業に回す |
| 問題児 | Question Marks | 高い | 低い | 稼ぐ額より、必要な投資のほうがずっと大きい | 集中投資して花形に育てるか、早めに手を引くかを決める |
| 負け犬 | Pets(のちに Dogs) | 低い | 低い | 利益が出ても、シェアの維持に消えて現金が残らない | 縮小・売却・撤退を検討する |
軸の意味は、もう少しだけ丁寧に押さえておきたいところです。縦軸の市場成長率は、自社の売上の伸びではなく、その事業が属する市場全体の伸びです。市場が速く伸びていると、シェアを保つだけで設備や人や広告にお金がかかります。横軸の相対シェアは、自社のシェアそのものではなく、競合と比べた強さです。よく使われるのは、自社のシェアを最大の競合のシェアで割る計算で、1を超えれば業界トップです。シェアが高いほど量の効果でコストが下がり、手元に現金が残りやすくなる、というのがこの横軸の理屈です。
図にするときは、各事業を円で置き、円の大きさで売上の規模を表すのが一般的です。横軸は左に行くほどシェアが高くなるように描かれることが多く、慣れないうちはここで読み違えます。
提唱者と原典──BCGのヘンダーソンと1970年の「The Product Portfolio」
PPMの原典は、BCGの創業者ブルース・ヘンダーソンが1970年に書いた小論「The Product Portfolio」です。BCGの公式サイトでいまも読めるこの文章は、図の説明より先に、お金の理屈を書いています。
中身を短く要約すると、次の3点です。一つ目は、利益率の高さと市場シェアの高さは連動するので、シェアの高い商品ほど現金を生むこと。二つ目は、シェアを保つために必要な追加の資金は市場の成長率で決まるので、成長の速い市場ほど現金を食うこと。三つ目は、だから会社は成長率もシェアも違う商品を組み合わせて持ち、現金を生む商品から伸びる商品へお金を回すべきだ、と説いていることです。ヘンダーソンは、ポートフォリオ(事業の組み合わせ)を持つ必要は「明らか」だと書いています。
原文を読むと、日本で広まっている形との違いもいくつか見つかります。まず、低成長・低シェアの象限の呼び名は「Pets(ペット)」で、「Dogs(負け犬)」ではありません。原文は、この象限について、利益を出してもシェアの維持に再投資するしかなく、現金が残らないと書き、成長期にトップを取れなかった失敗の証拠だとまで言っています。次に、原文には「市場成長率10%」や「相対シェア1.0」のような固定の境目は書かれていません。境目の数字は、あとから使う人がそれぞれ置いてきたものです。
この枠組みがどれだけ広まったかについて、BCG自身は2014年の振り返り記事「The Growth-Share Matrix: BCG Classics Revisited」で、1970年代後半から1980年代前半の最盛期には、米フォーチュン500社のおよそ半分がこの表かその派生を使っていたと推計しています。英語圏では「成長率・シェア・マトリクス(growth-share matrix)」や「BCGマトリクス」と呼ばれることが多く、日本ではPPMという呼び名で定着しました。
PPM分析のやり方とテンプレート──架空の例で4象限に置く
PPM分析のやり方は、分析の単位を決める→市場を定義する→2つの軸の数字を出す→4象限に置く→お金の矢印を引く、の順番です。いちばん時間をかけるべきなのは、数字の計算より市場の定義のほうです。
| 手順 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 1. 単位を決める | 事業ごとか、商品ごとかを決める | 事業と商品が混ざると、比べる意味がなくなる |
| 2. 市場を定義する | 各事業が「どの市場で戦っているか」を一文で書く | 市場を広く取るとシェアは小さく、狭く取ると大きく見える |
| 3. 市場成長率を出す | 業界団体や公的統計などで、市場全体の伸びを調べる | 自社の売上の伸びで代用してしまう |
| 4. 相対シェアを出す | 自社のシェアを最大の競合のシェアで割る | 競合のシェアが分からず、推測の数字が独り歩きする |
| 5. 4象限に置く | 円の大きさで売上規模を表して配置する | 境目の数字を、結論に合わせて動かしてしまう |
| 6. お金の矢印を引く | どの象限の現金を、どの象限に回すかを書く | 配置して満足し、矢印を書かずに終わる |
「PPM分析 ユニクロ」「PPM分析 任天堂」はサジェストでよく挙がる組み合わせです。ただ、手順3と4の数字、つまり各事業の市場全体の成長率と競合とのシェアの比は、どちらの会社のIR資料にも載っていません(理由はあとの節で書きます)。だからここでは、架空の会社の例で説明します。以下はすべて説明のための架空の設定と数字です。
ある文具メーカーが、4つの事業を持っているとします。
| 事業 | 市場の定義 | 市場成長率(例) | 相対シェア(例) | 象限 | お金の流れと方針 |
|---|---|---|---|---|---|
| 油性ボールペン | 国内の事務用ボールペン | 年1% | 1.8倍(業界1位) | 金のなる木 | 広告と設備は維持に絞り、余った現金をほかへ回す |
| タブレット用ペン | 国内のタブレット用入力ペン | 年15% | 1.3倍(業界1位) | 花形 | シェアを守るために投資を続ける |
| 子ども向け学習アプリ | 小学生向けの家庭学習アプリ | 年20% | 0.2倍(後発) | 問題児 | 1年で花形に届く見込みがなければ手を引く |
| ファクス用紙 | 国内の感熱ファクス用紙 | 年マイナス8% | 0.4倍(業界3位) | 負け犬 | 既存の取引先への供給を続けつつ、縮小の時期を決める |
この会社のお金の流れは、ボールペンで生まれた現金を学習アプリに回して花形に育てられるか、という一点にかかっています。理想の順番は、金のなる木の現金で問題児を花形に育て、その市場の成長が落ち着いたころに花形が次の金のなる木になる循環です。ヘンダーソンの原文も、花形はトップを保ったまま市場の成長が鈍れば金のなる木になり、問題児はトップになれなければお荷物になると書いています。逆に、花形が投資不足でシェアを落とすと、成長が止まったときには負け犬になります。4象限は止まった分類ではなく、時間とともに事業が動いていく道筋だと考えると、手順6の矢印が書きやすくなります。
アンゾフの成長マトリクス・SWOT分析・プロダクトライフサイクルとの違い
アンゾフの成長マトリクスが「次にどこへ伸びるか」を選ぶ表なら、PPM分析は「いま持っている事業のあいだで、お金をどう配るか」を決める表です。同じ4マスの図でも、答えている問いが違います。
| フレームワーク | 答える問い | 見る単位 | PPM分析との関係 |
|---|---|---|---|
| PPM分析 | どの事業で稼ぎ、どの事業に投じるか | 複数の事業・商品 | ― |
| アンゾフの成長マトリクス | 既存か新規かの市場と製品で、どこへ伸びるか | これからの打ち手 | 新しく始めた事業は、たいてい問題児の象限から始まる |
| SWOT分析 | 一つの事業の内と外に、何があるか | 一つの事業 | 象限ごとの方針を決めるときに、各事業の中身を掘る |
| プロダクトライフサイクル | 商品はいまどの段階にいるか | 一つの商品や市場 | 縦軸の市場成長率は、段階の見立てとほぼ重なる |
| GE・マッキンゼーの9マス | 業界の魅力と自社の強さから、どこに投資するか | 複数の事業 | 2つの軸を複数の要素で評価する、PPMの発展形 |
アンゾフの4つの戦略はアンゾフの成長マトリクスとは?4つの戦略と事例・使い方を解説で整理しました。二つの表を続けて使うと、アンゾフで選んだ新規事業が、PPMでは問題児として現金を食う側に並ぶことが見えます。新しい挑戦を始めるなら、それを支える金のなる木があるかを先に確かめる。この順番が、二つの表をつなぐ使い方です。
一つの事業を深く見るのはSWOT分析とは?やり方と例、クロスSWOTで打ち手に変える方法の役割です。PPMで「この問題児に投資するか」を迷ったら、その事業だけを取り出してSWOTで強みと機会を掛け合わせると、投資の根拠が具体的になります。縦軸の読み方はプロダクトライフサイクルとは?4段階の特徴と戦略を一覧表で解説とほぼ同じで、導入期・成長期の市場は高成長、成熟期・衰退期の市場は低成長に当たります。
GE・マッキンゼーの9マスは、マッキンゼーの解説によれば、BCGの表に続いて1970年代前半に生まれた枠組みで、業界の魅力と事業の競争力の2軸で事業を評価します。市場成長率とシェアという1つずつの数字に頼らない分、PPMより実態に近くなりますが、評価の項目を選ぶ人の判断が入りやすくなります。
失敗の型と2026年の注意点──PPM分析は古いのか
PPM分析の失敗でいちばん多いのは、市場の数字の代わりに自社の数字を置いてしまうことです。自社の売上が伸びていれば花形、落ちていれば負け犬、と並べた図は、PPMの形をした売上の成績表にすぎません。
ユニクロがわかりやすい例です。ファーストリテイリングの2025年8月期の決算サマリーには、事業ごとの数字が載っています。
| 事業区分 | 売上収益 | 前期比 | 事業利益 |
|---|---|---|---|
| 国内ユニクロ事業 | 1兆260億円 | 10.1%増 | 1,813億円 |
| 海外ユニクロ事業 | 1兆9,102億円 | 11.6%増 | 3,053億円 |
| ジーユー事業 | 3,307億円 | 3.6%増 | 283億円 |
| グローバルブランド事業 | 1,315億円 | 5.3%減 | 26億円 |
この表から分かるのは、どの事業がどれだけ売り、どれだけ稼ぎ、自社の中でどれだけ伸びたかです。PPMの縦軸に必要な「それぞれの市場全体の成長率」と、横軸に必要な「最大の競合と比べたシェア」は載っていません。前期比の伸びを市場成長率の代わりに置けば図は描けますが、それは自社の伸びの図です。任天堂はもっとはっきりしていて、2025年3月期の有価証券報告書で、会社全体を単一のセグメントとしています。製品の種類別の売上(ゲーム専用機、モバイル・IP関連収入など)は載っていますが、事業区分ごとの利益や市場の数字はないので、事業単位のPPMは公開資料からは描けません。ネットで見かける両社のPPM図は、誰かの推測を含んだ読み替えだと思って見たほうが安全です。
二つ目の失敗は、市場の定義で象限を動かしてしまうことです。同じ事業でも、市場を広く取ればシェアは小さく見え、狭く取れば業界1位に見えます。シェアの順位ごとの目標と打ち手はコトラーの競争地位戦略で整理しました。広告会社にいた頃、事業の説明資料で、自社が1位になるように市場の切り方を調整した図をよく見ました。手順2の「どの市場で戦っているか」の一文は、結論の前に、関係者全員で合意しておくべきところです。
三つ目は、負け犬をすぐに切り捨てることです。原文は負け犬を「要らない」とまで書きましたが、実務では、その商品が主力商品の取引の入口になっていたり、顧客との接点を支えていたりします。象限は撤退の候補を挙げる道具で、撤退を決める道具ではありません。
そのうえで、「PPMは古い」と言われる理由には、正面から答えておきたいと思います。BCG自身が2014年の振り返り記事で、表の前提が変わったことを認めています。調べた業界の75%で、事業が一つの象限にとどまる平均期間は、1992年の4年から2012年には2年未満へと半分になりました。金のなる木が利益に占める割合も、1982年から2012年で25%下がったとしています。そのうえで同じ記事は、表を捨てるのではなく、もっと速く、試行錯誤を前提に使うべきだと結んでいます。2026年のいま使うなら、年に一度の経営計画で描いて終わりにせず、四半期ごとくらいに市場の定義と矢印を見直す使い方が合っていると思います。
小さな会社で使うときの注意もあります。自分でいくつかの小さなサービスを運営する立場で考えると、配る資源はお金より先に時間です。一人や数人の会社では、問題児を3つ同時に育てる余力はありません。PPMの「どこで稼ぎ、どこに投じるか」という問いは、そのまま「どこに自分の時間を投じるか」に置き換えると、規模に関係なく使えます。
PPM分析に関するよくある質問
PPM分析の金のなる木とは何ですか?
市場の成長は落ち着いているものの、自社のシェアが高い事業のことです。成長についていくための投資が少なくて済むので、手元に現金が余ります。その現金を同じ事業に再投資しすぎず、問題児や花形に回すのが、PPMでの金のなる木の役割です。
負け犬の事業はすぐに撤退すべきですか?
すぐに撤退すると決めるのは早すぎます。負け犬の象限は、撤退や縮小を検討する候補を示しているだけです。その商品が主力商品の取引の入口になっていないか、顧客との接点を支えていないかを確かめてから、縮小の時期と方法を決めます。
ユニクロや任天堂でPPM分析はできますか?
公開資料だけで正確に描くのは難しいです。ファーストリテイリングのIR資料には事業ごとの売上や利益が載っていますが、PPMに必要な市場全体の成長率と競合とのシェアの比は載っていません。任天堂は有価証券報告書で単一セグメントとしていて、製品の種類別の売上はあっても、事業区分ごとの利益は開示されていません。
PPM分析は古いのですか?
お金の流れで事業の組み合わせを考える発想は、いまも有効です。ただ、BCG自身が2014年に、事業が一つの象限にとどまる期間が短くなったと分析しています。年に一度描いて終わりにせず、市場の定義と資金の矢印をこまめに見直す前提で使えば、2026年でも十分に役に立ちます。
おわりに──順位をつける表ではなく、行き先をつける表
PPM分析の図を見ると、つい、どの事業が勝ち組でどの事業が負け組かを探してしまいます。でも、ヘンダーソンが1970年に書いたのは、事業の優劣ではなく、現金がどこで生まれてどこへ流れるかの話でした。4つの象限に置いた時点では、まだ地図に印をつけただけです。
金のなる木から問題児へ、問題児から花形へ。矢印を一本引いたときに、初めてPPMは戦略になります。
PPMは、事業に順位をつける表ではない。お金に行き先をつける表。