就活の情報は、いまや調べれば無限に出てきます。志望動機の書き方、ガクチカの型、逆質問の例、業界研究のやり方。それなのに、なぜ差がつくのか。結論から書きます。情報が誰にでも手に入る時代の就活で差がつくのは、知識の量ではなく、自分にしか言えない経験をどれだけ積んだか、そしてそれを自分の言葉にできているかです。調べただけの知識は、面接で並べた瞬間に、ほかの学生と同じ言葉になります。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働いて、40歳で独立しました。自分が就活したのは、まだ足で稼ぐしかない時代です。そして数年後には、面接する側にも回りました。両側から見てきたことを書きます。
ぼくの就活は、足で稼ぐしかなかった
ぼくが就活をしていた頃は、情報を集めること自体が仕事でした。説明会に参加しないと次の選考に進めない会社がありました。会社案内を郵送で取り寄せて、それを読んでエントリーする、という手順が普通に残っていました。かろうじてリクナビはありましたが、いまのように、家にいながら企業のすべてが分かる状態ではありません。
だから、動くしかありませんでした。行って、聞いて、もらって、読む。情報を持っていること自体に価値があった時代です。
いちばん覚えているのは、博報堂の合否の連絡です。あの頃の合否連絡は、電話でした。それも携帯ではありません。携帯だと電波の問題で出られない可能性がある、という時代だったので、家の固定電話にかかってきます。
指定された時間に、家で正座して待ちました。何をするでもなく、電話の前で待つんです。心臓が口から出そうなくらい、鼓動が鳴っていたのを、いまでも覚えています。あの数分間の感覚は、たぶん一生忘れません。
いま思うと、あの時代は不便でした。でも、不便だったからこそ、一つひとつの選考に自分の時間と体を使っていました。そのぶん、語れることが手元に残りました。
いまは、調べれば何でも出てくる。だから全員が同じことを言う
いまの就活生は、圧倒的に恵まれています。企業の内情も、選考のフローも、通過したエントリーシートの実物さえ、検索すれば出てきます。生成AIに聞けば、志望動機の下書きまで返ってきます。
ただ、そこに落とし穴があります。誰でも手に入る情報からは、誰とでも同じ言葉しか出てこない。調べた内容をきれいにまとめた志望動機は、面接官から見ると、驚くほど似ています。同じ企業研究をして、同じ型に流し込むのだから、当然です。
情報の格差がなくなった時代に価値が残るのは、情報そのものではありません。情報を持っていることが強みだった時代は、もう終わりました。
面接する側になって、はっきり分かったこと
ぼくは採用の面接官もやってきました。そこで気づいたことがあります。面接官は、あなたの経験がすごいかどうかを見ていません。見ているのは、その経験を通して、あなたがどう考える人なのかです。
だから、こうなります。学生団体の代表でも、留学経験でも、それ自体では差がつきません。同じような経験を語る学生は、何人も来るからです。差がつくのは、その経験の中で、自分が何に迷って、何を選んで、なぜそう決めたのかを話せるかどうかです。
逆に言うと、地味な経験でも十分に戦えます。コンビニのアルバイトでも、そこで自分が何を考えて、どう工夫して、何が変わったのかを語れる人は、強く印象に残ります。ぼくが会ってきた中でも、記憶に残っているのは、派手な実績を並べた人ではなく、平凡な経験を自分の言葉で深く語った人でした。
「自分にしか言えない経験」は、どうやって積むのか
特別なことをする必要はありません。大事なのは、意思決定が自分に残る経験を選ぶことです。ポイントは3つです。
- 決める側に回る:言われたことをやるだけの経験からは、語れることが生まれません。小さくても、自分で決める場面がある経験を選ぶと、迷いと判断が手元に残ります。
- うまくいかなかった経験も抱える:成功体験より、失敗して考え直した経験のほうが、語れる中身が濃くなります。面接官が知りたいのは、うまくいかないときにどうする人かです。
- 数を追わない:たくさんやることより、一つを深くやるほうが効きます。浅い経験を10個並べても、語れる言葉は増えません。
就活のために経験を作るのは、順番が逆です。自分が面白いと思うことに時間を使った結果として、語れる経験が残ります。
積んだ経験を、自分の言葉にする
ここがいちばん難しく、いちばん差がつくところです。経験を積んでも、それを言葉にできていない人は、面接で損をします。もったいない話ですが、実際にとても多いです。
ぼくがやっていたのは、経験を3つの層に分けて書き出すことです。
- 事実:何をしたか。ここは誰でも書けます。
- 判断:そのとき何に迷い、なぜそちらを選んだか。ここから、あなたの言葉になります。
- 意味:その経験から、自分について何が分かったか。ここまで書けると、ほかの誰とも被りません。
多くの人は、事実だけを書いて終わります。でも面接官が知りたいのは、判断と意味のほうです。「サークルの代表として集客を2倍にしました」は事実です。そこから「人を動かすには、正論より、その人の得になる理由を先に示すほうが早いと分かりました」まで言えると、急に自分の言葉になります。
この作業は、書かないとできません。頭の中で考えているだけでは、言葉になりません。ぼくはいまでも、大事なことは書き出してから話すようにしています。
使えるサービスは、目的で使い分ける
足で稼ぐしかなかった時代と違って、いまは自分の経験を届ける手段が増えました。使い分けの考え方だけ書いておきます。
- スカウト型:自分の経験を登録しておくと、企業から声がかかる仕組みです。代表的なのはキミスカ
で、書いたプロフィールを見た企業からスカウトが届きます。ここがいちばんの使いどころで、自分の言葉がどんな企業に届くのかが、返ってくる反応で分かります。志望動機を考える前に、まず自分の経験がどう読まれるかを試せる、という意味で言語化の答え合わせになります。 - 就活エージェント:担当者と話しながら、自己分析や選考対策を進める形です。ユメキャリAgent
のように、大手企業の現役人事が関わっているサービスもあります。一人で言語化するのが難しいときは、人に話したほうが早いです。自分の経験は、聞かれて答えるうちに輪郭が出てくるからです。
もうひとつ、エノサポ就活のように、自己分析を軸にしたサービスもあります。「やりたいことが見つからない」「自分に合う企業が分からない」という状態から始められる設計で、エントリーシートの添削や模擬面接を何度でも受けられます。言葉にするのを一人で抱えないための場所として使うと、この記事で書いた作業がそのまま進みます。
三つ目に、他人の言葉を読むという使い方があります。就活会議には、内定者のエントリーシートや選考体験記、社員の口コミが集まっています。
ここで大事なのは、読んで真似するためではないということです。真似した瞬間に、この記事で書いてきた「全員が同じことを言う」状態に戻ります。
読む目的は、差分を見つけることです。同じ設問に対して他人がどう答えているかを何十本か読むと、自分の経験のどこが平均的で、どこがずれているかが分かります。ずれている部分が、自分にしか言えないことです。平均を知らないと、自分のずれにも気づけません。他人のESは、その物差しとして使うのがいちばん役に立ちます。
もうひとつ、SNS就活(TOKUMORI)には、人気企業の内定者がインターン生として在籍していて、その人たちに話を聞けるという仕組みがあります。これは、この記事で書いてきたことと直接つながります。内定者が何を語ったかではなく、その人が自分の経験をどう言葉にしたのかを聞いてください。エントリーシートの完成形だけを見ても、そこに至る過程は見えません。過程を聞ける相手がいるなら、そちらのほうがはるかに価値があります。担当のアドバイザーにも現役や元の人事が多いので、採用する側がどこを見ているかも聞けます。
どちらも、使えば内定が出るというものではありません。自分の経験を、他人に伝わる言葉にするための道具だと考えると、ちょうどいい距離感で使えます。
よくある質問
ガクチカに書けるような、すごい経験がありません
すごい経験は要りません。面接官が見ているのは、経験の派手さではなく、その中で何を考えたかです。アルバイトでもゼミでも、自分が迷って選んだ場面があるなら、それは十分に語れる素材になります。むしろ、地味な経験を深く語れる人のほうが記憶に残ります。
生成AIで志望動機を書くのは、ありですか
下書きや壁打ちに使うのは、有効だと思います。ただ、出てきた文章をそのまま出すのは危険です。誰でも同じ道具を使える以上、そこから出る言葉は似通います。AIには、自分の判断や迷いを引き出す質問役をやってもらい、最後は自分の言葉に直すのがいいと思います。
情報収集は、どこまでやればいいですか
企業研究は必要ですが、そこで差はつきません。調べれば誰でも同じ情報にたどり着くからです。調べる時間と、自分の経験を書き出して言葉にする時間を比べたとき、後者に時間を使っている人のほうが、面接では強くなります。
面接官は、本当に「考え方」を見ているのですか
見ています。新卒採用では、いまの実力より、これから伸びるかどうかを見ます。伸びる人かどうかは、経験の中でどう考えたかにいちばん表れます。だから、実績の大きさより、判断の質と、それを説明できるかが問われます。
まとめ
ぼくの時代は、情報を持っていること自体が強みでした。説明会に足を運び、会社案内を取り寄せ、固定電話の前で正座して合否を待つ。不便でしたが、そのぶん自分の体を通した経験が残りました。
いまは、情報では差がつきません。誰でも同じことを調べられるからです。だからこそ、自分にしか言えない経験を積んでいるか、そしてそれを自分の言葉にできているかが、そのまま差になります。
ひとつだけ補足すると、書き出したものは、どこかに出してみたほうが早く育ちます。自分では地味だと思っていた経験に、思わぬ企業が反応することがあるからです。スカウト型に登録しておくのは、その反応を見るための手段として使えます。内定を取るためというより、自分の言葉の通じ方を測るためだと考えると、気楽に使えます。
調べる時間を少し減らして、書き出す時間を増やす。やることはそれだけです。あなたが何を考えてきた人なのかは、あなたにしか言葉にできません。
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