最終更新:2026年10月12日
第一想起(トップ・オブ・マインド)とは、あるカテゴリーについてヒントなしで聞かれたとき、生活者がいちばん最初に名前を挙げるブランドのことです。「ビールといえば?」と聞かれて真っ先に口から出る一つ、その状態を指します。英語ではTop of Mind Awareness(略してTOMA)と呼ばれます。マーケティングの実務で第一想起を見る意味は一つで、買う瞬間に最初に浮かぶかどうかを確かめることにあります。2番目以降に浮かぶブランドは、知られていても選ばれにくいからです。この記事では、第一想起の意味と認知の段階のなかでの位置、第一想起率の測り方、純粋想起やエボークトセットとの違い、そして実務で数字を読み違えないための見方まで書いていきます。
第一想起(トップ・オブ・マインド)とは?認知の4段階での位置
第一想起とは、ブランド認知を深さで4段階に分けたときの、いちばん上の段にあたる状態です。知っている、思い出せる、の先にある「最初に思い出される」という状態で、認知のなかで最も強い形だと考えるとわかりやすいと思います。
認知の段階は、次の表のように整理されます。下から上へ、認知が深くなっていきます。
| 段階 | 状態 | 調査での聞き方(例) | 生活者の頭の中 |
|---|---|---|---|
| 第一想起(トップ・オブ・マインド) | ヒントなしで最初に名前が挙がる | 「◯◯といえば、思い浮かぶブランドを挙げてください」の1番目 | 考える前に出てくる。迷わず手が伸びる |
| 純粋想起(ブランド再生) | ヒントなしで思い出せる(2番目以降を含む) | 同じ質問で挙がったブランドすべて | 候補として浮かぶ。比べる対象に入る |
| 助成想起(ブランド再認) | 名前やロゴを見せられれば知っていると答えられる | 「次のうち、知っているものを選んでください」 | 見れば分かる。自分からは思い出さない |
| 非認知 | 見せられても知らない | 上の質問でどれも選ばれない | 存在していないのと同じ |
表の上の2段と下の2段のあいだには、大きな溝があります。助成想起の段階にいるブランドは、店頭で目に入れば「ああ、知ってる」と思ってもらえますが、買おうと思い立った瞬間には浮かびません。純粋想起に入って初めて、比較のテーブルに着けます。そして第一想起は、そのテーブルのなかでも最初に手に取られる席です。
人は買い物のたびに、すべての候補を丁寧に比べるわけではありません。最初に浮かんだもので問題がなければ、そのまま決めてしまうことがほとんどです。だから同じ「思い出される」でも、1番目と2番目のあいだには、順位の差以上の開きがあります。2番目は「1番目に何か不満があったときの控え」になりやすく、控えが出番をもらえる場面は多くありません。
第一想起の出典と第一想起率の測り方
第一想起を認知の最上段として整理したのは、ブランド論の研究者デービッド・アーカー(David Aaker)です。著書「ブランド・エクイティ戦略」(原題 Managing Brand Equity、1991年、邦訳はダイヤモンド社)のなかで、ブランド認知を非認知・再認・再生・トップ・オブ・マインドの4段のピラミッドとして示しました。上の表は、このピラミッドを実務の調査の聞き方に置き換えたものです。
アーカーはブランド認知を、ブランド・エクイティ(ブランドが持つ資産としての価値)を構成する要素の一つに位置づけています。つまり第一想起は、広告の評価指標である以前に、ブランドの資産の厚みを測る物差しとして生まれた概念です。言葉自体は広告業界で以前から使われていて、誰が最初に言い出したかまでははっきりしません。ただ、認知の段階として体系立てて説明した代表的な出典は、このアーカーの整理だと考えてよいと思います。
第一想起率の出し方はシンプルで、純粋想起の質問で、そのブランドを1番目に挙げた人の割合を数えます。
- 第一想起率 = そのブランドを最初に挙げた回答者数 ÷ 回答者全体
- 純粋想起率 = そのブランドを(何番目でもよいので)挙げた回答者数 ÷ 回答者全体
架空の例で考えてみます。あるカテゴリーで1,000人に「◯◯といえば?」と聞き、Aブランドを1番目に挙げた人が300人、2番目以降まで含めて挙げた人が550人いたとします。この例では、Aの第一想起率は30%、純粋想起率は55%です。同じAでも、二つの数字の差が大きいほど「思い出されはするけれど、最初ではない」人が多いことになります。
調査をするときに気をつけたいのは、質問の順番です。純粋想起は、ブランド名やロゴを見せる質問より必ず先に聞きます。先に選択肢を見せてしまうと、その記憶が混ざって、本来は思い出せなかったはずのブランドまで挙がってしまうからです。第一想起の数字は、聞き方ひとつで簡単に膨らみます。
純粋想起・エボークトセット・メンタルアベイラビリティとの違い
第一想起は、純粋想起のなかの「1番目」だけを切り出した指標です。エボークトセットやメンタルアベイラビリティとはよく一緒に語られますが、見ているものの単位が違います。
似た言葉を並べると、次のように整理できます。
| 概念 | 見ているもの | 単位 | 確かめる問い |
|---|---|---|---|
| 第一想起 | 最初に浮かぶ1ブランド | 1つ(順位の1位) | 最初に浮かぶのは自分たちか |
| 純粋想起 | ヒントなしで浮かぶブランドすべて | 複数(順位を問わない) | そもそも思い出されているか |
| エボークトセット(想起集合) | 買うときに候補として検討されるブランドの集合 | 少数の候補リスト | 比較の土俵に乗っているか |
| メンタルアベイラビリティ | さまざまな購買状況で思い出される確率 | 状況(CEP)ごとの想起の広さ | どれだけ多くの場面で思い出されるか |
エボークトセットは「候補のリストに入っているか」を見る概念で、そのリストに入るための考え方はエボークトセット(想起集合)とは?意味と純粋想起・助成想起の違いで詳しく書きました。第一想起は、そのリストのなかで何番目に置かれているかを問う、もう一段細かい物差しです。リストに入っていることと、リストの先頭にいることは、別の話になります。
メンタルアベイラビリティとの違いは、場面の数を数えるか、一つの場面での順位を見るかです。メンタルアベイラビリティは「喉が渇いたとき」「手土産を選ぶとき」といった購買の入口(CEP)をいくつ押さえているかという、横の広さの話でした。考え方の全体はメンタルアベイラビリティとは?意味とCEP・実務での高め方にまとめています。第一想起は、その一つひとつの入口で何番目に浮かぶかという、縦の順位の話です。横に広く、縦に高く。二つを掛け合わせて見ると、ブランドの想起の形が立体的になります。
広告の出稿量のシェアとの関係も、押さえておきたいところです。出稿量で市場のどれくらいを占めているかを示すシェア・オブ・ボイス(SOV)は、第一想起を動かす主な原因の一つです。SOVが入力、第一想起が結果、と置くと、広告の効き目をどこで測ればいいかが見えてきます。
実務での使い方──「買う瞬間に最初に浮かぶか」を検算する
第一想起を実務で使うときの問いは、一つに絞れます。買う瞬間に、最初に浮かぶのは自分たちか。認知率を眺めて安心する前に、この問いで数字を検算します。
ブランド調査のデータを見ていた頃、よく出会ったのが「第一想起率は横ばいなのに、売上だけが落ちていく」という状態でした。調査票の上ではカテゴリー名を聞かれて1番目に名前が出るのに、実際の売り場では選ばれていない。多くの場合、原因は聞き方と買い方のずれにありました。調査は「◯◯といえば?」とカテゴリー全体で聞きますが、生活者が実際に買うのは「今夜の家飲みで」「急いでいる朝に」といった、もっと具体的な場面です。カテゴリー全体での第一想起と、場面ごとの第一想起は、別の数字として動きます。
そこで、第一想起を検算に使う手順は次のようになります。
- まず、自分たちが勝ちたい購買の場面を二つか三つに絞る(全部の場面は狙わない)
- その場面ごとに「◯◯なとき、何を買いますか」と純粋想起で聞き、1番目に挙がる名前を数える
- カテゴリー全体の第一想起率と、場面ごとの第一想起率を並べて、ずれている場面を探す
- ずれている場面について、広告の表現や売り場で「その場面とブランドの結びつき」を見せられているかを点検する
失敗しやすいのは、カテゴリー全体の第一想起率という一つの数字だけを追いかけることです。大手のブランドは、全体で聞けばたいてい1番目に名前が挙がります。それは過去の積み上げの結果で、明日の売上の先行指標になっているとは限りません。逆に、小さいブランドが全体の第一想起を取りにいくのは、予算の面でかなり厳しい勝負になります。勝てる場面を選んで、その場面でだけ1番目に浮かぶ状態をつくる。小さいブランドの現実的な戦い方は、そちらにあります。
もう一つ、第一想起は「何もしなければ下がっていく」指標だと考えておいたほうが安全です。競合が露出を増やせば、自分たちの順位はそのぶん押し下げられます。露出の量を、何人に届いたかと一人に何回届いたかに分けて見る方法はインプレッション・リーチ・フリークエンシーの違いで書いています。一度取った1位は守らなくていい資産ではなく、毎年借り直している席に近いと思います。
2026年時点での注意点──AIに聞いたときの「最初の一つ」
2026年時点で第一想起を考えるときに外せないのは、生活者の頭の中だけでなく、AIの回答の中での順番も「最初に浮かぶか」の勝負になりつつあることです。生活者が「◯◯でおすすめは?」とAIアシスタントに聞いたとき、最初に名前が挙がるブランドは、人の記憶でいう第一想起に近い役割を持ちはじめています。
ただし、二つは同じものではありません。人の第一想起は、広告や体験の積み重ねでつくられる記憶です。AIの回答で何番目に挙がるかは、ウェブ上でそのブランドがどう語られているか、第三者からどれだけ言及されているかに左右されます。調査でいう第一想起率が高くても、AIの回答では名前が挙がらないこともありえます。だから今後は、生活者への純粋想起調査と並べて、「主要な質問をAIに投げたとき、自分たちは何番目に出てくるか」を定点で見ておく価値があります。測り方はまだ定まっていないので、毎月同じ質問で記録をつけるくらいの素朴なやり方で十分だと思います。
「第一想起は古い指標ではないか」という声にも触れておきます。SNSや検索で比較が簡単になった今、最初に浮かんだものをそのまま買う人は減った、という見方です。たしかに、家や車のように調べてから買う高額なカテゴリーでは、第一想起の重みは相対的に下がります。でも、調べるときに最初に検索窓に打ち込む名前、比較記事で最初に開くページは、やはり最初に浮かんだブランドです。比較が簡単になったぶん、比較の起点に選ばれる価値は、むしろ上がっていると思います。
もう一点、第一想起率の数字を見るときは、聞いた相手が誰かを必ず確かめておきたいところです。カテゴリーを普段使っていない人まで含めて聞いた数字と、実際に買っている人だけに聞いた数字では、意味がまるで違います。売上に近いのは後者です。
第一想起に関するよくある質問
第一想起は英語で何と言いますか?
英語ではTop of Mind Awareness(トップ・オブ・マインド・アウェアネス)と言い、略してTOMAと書かれることもあります。日本語のカタカナでは「トップ・オブ・マインド」がそのまま使われます。調査会社や広告会社のレポートでは「第一想起率」「TOM」と書かれることも多いので、どれも同じものを指していると考えて大丈夫です。
第一想起と純粋想起の違いは何ですか?
純粋想起は、ヒントなしで思い出せたブランドすべてを数えます。第一想起は、そのなかで1番目に挙がったブランドだけを数えます。純粋想起が「思い出されるか」、第一想起が「最初に思い出されるか」を見る指標で、第一想起は純粋想起の一部です。
第一想起率はどうやって調べますか?
カテゴリー名だけを伝えて「思い浮かぶブランドを挙げてください」と自由に答えてもらい、1番目に書かれた名前を数えます。ブランド名を見せる質問より先に聞くこと、聞く相手をそのカテゴリーの購入者に絞ることの二つを守ると、数字が実態に近づきます。可能なら「◯◯なとき」と場面を変えて聞くと、場面ごとの強さと弱さが見えてきます。
小さいブランドでも第一想起は取れますか?
カテゴリー全体での第一想起を取るのは難しくても、場面を絞れば十分に取れます。「この状況なら、まずこれ」と思い出される場面を一つ決めて、その場面とブランドの結びつきを繰り返し見せ続けることが近道です。全員の1番目を狙うより、特定の場面での1番目を確実に取るほうが、小さいブランドには向いています。
おわりに──第一想起は人気の順位ではなく、場面ごとの指定席
第一想起という言葉を聞くと、つい「カテゴリーでいちばん有名なブランド」を思い浮かべてしまいます。でも、生活者が実際に何かを買うのは、カテゴリーの前ではなく、いつも具体的な場面の前です。喉が渇いた午後、急いでいる朝、誰かに何かを贈りたい夜。その一つひとつに、最初に浮かぶ一つの席があります。
第一想起は、人気の順位ではありません。買う瞬間の、場面ごとの指定席です。その席に座れているかどうか、2番目で満足していないか。数字を見るたびにそこを問い直すだけで、広告の評価の仕方は少し変わってくると思います。