CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」、でんぱ組.inc「でんぱーりーナイト」、FRUITS ZIPPERが歌うクレヨンしんちゃんの主題歌「はちゃめちゃわちゃライフ!」、サンリオ・クロミの「WANNA BE KUROMI」。
全部、同じ人が作った曲です。
玉屋2060%さん。ロックバンドWiennersのギターボーカルで、2012年から他のアーティストに曲を書いています。ぼくが公開情報をたどって数えたら、提供曲だけで105曲ありました。
そして、この人を調べていて一番おどろいたのはヒット曲の数ではありません。アイドル楽曲を研究しない、と本人が公言していることでした。
玉屋2060%さんはどんな人か
玉屋2060%さんは、ロックバンドWiennersのギターボーカルであり、2012年から他アーティストへ曲を書き続けているソングライター・編曲家です。
Wiennersの結成は2007年。バンド活動と並行して、2012年にでんぱ組.incへ「でんぱれーどJAPAN」を書いたところから、楽曲提供の仕事が始まりました。
そこから15年で、提供先は44組。でんぱ組.inc、FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、ナナヲアカリ、神宿、Appare!、FES☆TIVE。にじさんじのバーチャルライバーや、サンリオピューロランドのパーク楽曲、ガチャピン・ムックの19年ぶりのメジャーリリース曲まで書いています。
2025年には、CANDY TUNEに提供した「倍倍FIGHT!」が日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞しました。
数を並べるとヒットメーカーの成功譚に見えますが、この人のやり方は、マーケティングの教科書とはほぼ全部逆です。
| ヒットを作る旧常識 | 玉屋2060%さんの設計 |
|---|---|
| 売れている曲を研究する | 研究しない。情報をあえて入れない |
| 作家性を出して指名を取る | 相手になりきって、本人が作ったように書く |
| バズる仕掛けを設計して入れる | 自分の偏った趣味が、結果としてバズの形になる |
| 当たったジャンルに寄せて量産する | 44組に分散させて、15年かけて広げる |
設計1:競合を研究しない
玉屋さんは、アイドル楽曲の研究をしません。ブルータスのインタビューでは、影響を受けて真似できてしまうから、なるべく情報を入れないようにしていると語っています。
ぼくはこれを読んで、手が止まりました。
広告の現場では、企画に入る前に必ず競合分析をします。他社が何を言っているか、どんなクリエイティブを出しているか、全部並べて壁に貼る。差別化のためです。でも、あれを丁寧にやればやるほど、出てくる企画は競合に似ていきます。競合の土俵の上で「少しだけ違うこと」を探す作業になるからです。
差別化のための調査が、同質化の入口になる。博報堂にいた頃、この矛盾をうまく説明できませんでした。
玉屋さんは、そこを研究しないという一手で抜けています。市場を見ないから、市場の平均に引っ張られない。
設計2:自分の色ではなく、相手になりきる
研究しない代わりに、玉屋さんが徹底しているのが対象への没入です。
依頼を受けたグループの既発曲を全部聴く。メンバーと会って話し、そのキャラクターを掴む。そのうえで、そのグループ自身が作ったように聴こえる曲を書く。本人はこの感覚を、役者の気持ちに近いのかもしれない、と表現しています。
ペルソナ設計と同じことをしているように見えて、ひとつ違います。
マーケティングのペルソナは、たいてい観察で終わります。年齢、職業、休日の過ごし方。資料の中で完結して、書いた本人もそのペルソナになりきってはいない。玉屋さんは、観察したうえで憑依するところまで行っています。
ここが、提供曲が「外注された曲」に聴こえない理由だと思います。ナナヲアカリさんの「完全放棄宣言」も、パンダドラゴンの「パLIFE!パLIKE!パLAUGH!パLOVE!」も、玉屋節でありながら、それぞれのグループの曲としてしか成立しない形をしています。
設計3:30秒の曲を聴いている人が、15秒で切り取られる曲を作る
玉屋さんは、ファストコアというジャンルをよく聴くそうです。1曲がだいたい30秒しかない音楽です。
その影響で、1曲の中に何曲も入っているようなイメージで作る。だから転調が多くなる。「倍倍FIGHT!」もその延長線上にあって、結果的にSNSで切り取られやすい形になった、と語っています。
面白いのは、プロデューサーからは「SNSでバズる曲を」と発注されている、という点です。それなのに本人は、その要素を意識せずに作っている。狙っていないのに、勝手にそうなる。
バズは、仕掛けの上手さで出るものだと思われがちです。でも実際に強いのは、体に入っているものが出てしまう人のほうです。30秒の音楽を浴び続けた人の手癖が、たまたま15秒の時代と噛み合った。
マーケターの言葉に直すと、アウトプットの癖はインプットの偏りでしか作れない、ということだと思います。トレンドを均等に浴びている人からは、平均的なものしか出てきません。
設計4:44組に分散した15年
玉屋さんは、特定のグループの専属作家になっていません。105曲の提供先は44組に分かれていて、最多のでんぱ組.incでも14曲です。
年ごとに並べると、その広がり方が見えます。
| 時期 | 提供曲数 | この時期の主な提供先 |
|---|---|---|
| 2012〜2015年 | 9曲 | でんぱ組.inc、ベイビーレイズ |
| 2016〜2019年 | 23曲 | 神宿、FES☆TIVE、クマリデパート |
| 2020〜2023年 | 37曲 | ナナヲアカリ、ゆるめるモ!、Appare!、浦島坂田船 |
| 2024〜2026年 | 36曲 | CANDY TUNE、FRUITS ZIPPER、サンリオ、にじさんじ |
でんぱ組.incが14曲、次いでFES☆TIVEとAppare!が7曲ずつ。上位3組を合わせても、全体の3割に届きません。
これは、アイドル業界という浮き沈みの激しい市場で仕事を続けるうえで、かなり効いていると思います。1組の解散や失速が、そのまま自分の失速にならない。しかも提供先の内訳は、地下アイドルからメジャー、VTuber、サンリオ、テレビ番組のキャラクター、プロ野球のパ・リーグまで広がっています。
独立して働くぼくには、ここが一番現実的な学びでした。1社に深く入り込むほど、単価も信頼も上がります。でもその1社の予算が止まった月に、こちらの売上もゼロになる。分散は、臆病さではなく設計です。
105曲を数えて、わかったこと
この記事を書くために、玉屋さんの提供曲を全部データベース化しました。作りながら気づいたことを書いておきます。
まず、キャリアのピークが今でした。2026年は8月の時点で13曲。2012年は1曲、2021年で12曲。15年目の今年が、数のうえでは最多です。曲を書く仕事は若い人のものだと思われがちですが、この人の曲線は右肩上がりのままです。
次に、検索では出てこない層の厚さです。105曲のうち、公式動画が確認できたのは82曲でした。残りの23曲は、動画が公開されていません。バナナマン日村勇紀さんのキャラクター・ヒム子の曲や、サンリオピューロランドのパーク楽曲などです。ネットで話題になった曲だけを見ていると、この人の仕事の2割は存在しないことになります。
もうひとつ。「倍倍FIGHT!」「トキメキUNITED」「素直でごめんね」「ともだちのうた」は、振付師の槙田紗子さんと組んだ曲でした。槙田紗子さんが変えた4つの常識を調べたときにも同じ結論に行き着いたのですが、真似したくなる余白を残す設計を、作曲と振付の両側からやっている。バイラルヒットの多くは、この二人の交差点で起きています。
数えるという地味な作業をしないと、この重なりには気づけませんでした。
玉屋2060% 楽曲データベース(提供曲105曲・公式動画つき)
よくある質問
Q. 玉屋2060%さんの代表曲は?
CANDY TUNE「倍倍FIGHT!」、でんぱ組.inc「サクラあっぱれーしょん」「でんぱーりーナイト」、ナナヲアカリ「完全放棄宣言」、FRUITS ZIPPER「はちゃめちゃわちゃライフ!」あたりが代表曲として挙げられます。「倍倍FIGHT!」は2025年の日本レコード大賞優秀作品賞を受賞しました。
Q. Wiennersと玉屋2060%は同じ人ですか?
同じ人です。玉屋2060%さんは2007年結成のロックバンドWiennersのギターボーカルで、バンド活動と並行して他アーティストへの楽曲提供を行っています。
Q. なぜアイドル楽曲を研究しないのですか?
影響を受けて真似できてしまうから、と本人がインタビューで語っています。代わりに、提供先のグループの既発曲を聴き込み、メンバーと会って、そのグループ自身が作ったように聴こえる曲を書くやり方をとっています。
Q. 提供曲の一覧はどこで見られますか?
網羅された公式の一覧がないため、ぼくが公開情報をもとに非公式のデータベースを作りました。提供曲105曲を、公式動画つきで年代・アーティスト別に並べています。Wienners名義の曲は含めていません。
(この記事の情報は2026年8月3日時点のものです。提供曲は現在も増えています)