検索結果で1位を取っても、6割クリックされなくなりました。
Ahrefsが今年2月に出した調査で、GoogleのAI Overviewsが表示される検索では、オーガニック1位のクリック率が約58%下がったと報告されています。調べもの系のキーワードに至っては、1位のクリック率が1.76%から0.61%まで落ちたそうです。
SEOの世界で「1位を取る」は、長いあいだゴールでした。その1位が、クリックされない。2026年の上半期は、この事実がじわじわと業界に浸透していった半年だったと思います。
ぼくはこの半年を「マーケティングの相手が、人間だけではなくなった半年」として記憶しておきたいと思っています。AIが記事の「読者」になり、ECの「顧客」になった。でも、跳ねた企画はどこまでも人間くさかった。この振り返りでは、その3つを順番に書いていきます。
AIが「読者」になった──検索流入が静かに消えた
上半期、マーケターの間で一番増えた挨拶は「流入、減ってません?」だったかもしれません。
実際、Web担当者の6割超がAIの影響で検索流入の減少を実感しているという調査が出ています。検索してもリンクを踏まない「ゼロクリック」の層は約半数まで広がり、「検索エンジンとAIを使い分ける」「AIをメインにする」と答えた人は約4割にのぼりました。
生活者は検索をやめたわけではありません。「調べて、リンクを踏んで、読む」という行動をやめただけです。答えはAIが要約してくれる。元記事にたどり着く必要がなくなった。
だからこの半年で、対応の早い会社は発想を切り替えました。「クリックされる前提のSEO」から、「AIに正しく理解されて、引用される前提の情報設計」へ。AIO、GEO、LLMOと呼び名はまだ定まっていませんが、やることの本質はひとつです。記事の一番の読者がAIになったのだから、AIが読みやすいように書く。
ぼく自身、このブログでも上半期からAI検索対策の運用を回すようにしました。書いていて感じるのは、AIに引用されやすい文章の条件が、結局「結論が先にある」「主語がはっきりしている」「一次情報がある」という、人間にとって読みやすい文章の条件とほとんど同じだということです。
小手先のテクニックが剥がれ落ちて、書き手の誠実さだけが残る。そう考えると、この変化はそんなに悪いものではないと思っています。
AIが「顧客」になった──エージェンティックコマース元年
読者だけではありません。上半期は、AIが「顧客」になった半年でもありました。
2月に、Yahoo!ショッピングが「Yahoo!ショッピング エージェント」の提供を始めました。条件を伝えれば、AIが商品を探して、比較して、提案してくれる。この「エージェンティックコマース」と呼ばれる領域は、日経クロストレンドの「今後伸びるビジネス」ランキングにも上半期から新キーワードとして追加されています。マッキンゼーは2030年までに世界で750兆円規模になると予測していて、国内でも大企業の約6割が3年以内の本格運用を検討しているという調査もあります。
数字よりも、ぼくが立ち止まったのはこの指摘です。
ブランドが予算をかけて作ったキャッチコピーや映像は、人間の印象には残る。でもAIエージェントは、それを「この商品を選ぶ理由」として扱わない。
AIが購買を代行する世界では、選ばれる理由は「良さそうな雰囲気」ではなく、スペック、価格、在庫、レビュー、返品条件といった構造化された事実になります。博報堂でコピーを揉んでいた身としては複雑な気持ちもありますが、ここは冷静に見ておきたいところです。
つまりマーケターは上半期、2人目の顧客を持ちました。心が動く人間と、事実しか読まないAI。この2人は選ぶ基準がまったく違います。人間向けの表現とAI向けの情報設計を、両方やる。どちらかだけでは、もう届かない構造になりつつあります。
それでも、跳ねたのは人間くさい企画だった
ここまで書くと「もう情緒の時代は終わりか」という話に聞こえますが、上半期の現実は逆でした。
一番わかりやすいのが、サントリーの「ギルティ炭酸NOPE」です。3月の発売からわずか1週間で2,000万本。令和以降のサントリー炭酸飲料で最速だそうです。
囚人服のCMに電気グルーヴの楽曲、裏原宿には指名手配ポスター風の屋外広告、表参道では檻の中からサンプリング。「ギルティ監獄」という世界観で物理空間を埋め尽くす、かなり力技の展開でした。しかも味は「何味かわからない」と賛否両論。でも、その賛否こそがSNSで語られる燃料になりました。
考えてみると、「何味かわからない」はスペックとしてはマイナスです。AIエージェントが事実で商品を比較する時代に、説明のつかない商品をあえて出す。でも生活者は、スペックで語れないものほど、自分の言葉で語りたくなる。この企画が設計していたのは「好かれること」ではなく「語られること」でした。AIには絶対に評価できない価値です。このキャンペーンの分解はnoteに詳しく書きました。
エンタメでも同じ構図がありました。劇場版チェンソーマンの主題歌、米津玄師さんの「IRIS OUT」がビルボード総合1位。作品と楽曲が一体で語られて、SNSの感想が次の観客を連れてくる。データではなく、熱量が流通の主役でした。
AIが事実を運ぶ時代になるほど、事実以外のもの──ユーモア、熱量、物語──の希少価値が上がる。上半期の話題を並べていくと、その対比がはっきり見えてきます。
AIコンテンツの洪水と、生活者が向かった先
もうひとつ、静かに進行した変化があります。今年、AIが生成するコンテンツの量が、人間の作るものを上回ったと言われています。
でも、その多くは平均的な水準にとどまっている。そして生活者が求めているのは、人間が作ったコンテンツだという調査結果も出ています。
これはぼくの実感とも合います。SNSを眺めていて手が止まるのは、きれいにまとまった文章ではなくて、その人にしか書けない失敗談だったり、現場の生々しい数字だったりします。AIが「平均的に良いもの」を無限に供給するようになった結果、平均から外れたものだけが目に入るようになった。
コンテンツの勝負所が「うまさ」から「その人しか持っていないもの」に移った。上半期は、それが誰の目にも見えるようになった半年だったと思います。
下半期、マーケターは何を磨くか
振り返ると、2026年上半期の変化はひとつの文に集約できます。
マーケティングの相手に、AIが加わった。
記事はまずAIに読まれ、商品はまずAIに比較される。だから、AIに正しく理解される情報設計はもう選択肢ではなく前提です。ここをサボると、そもそも土俵に上がれません。
でも、それは勝負の半分でしかありません。AIが事実を運んだ先で、最後に財布を開くのも、リポストを押すのも、映画館に足を運ぶのも人間です。NOPEが証明したように、人間は相変わらず「語りたくなるもの」にお金を払います。
事実はAIに届くように整える。感情は人間に届くように作る。この両利きが、下半期のマーケターに要る筋力だと思います。
そしてこれは、キャリアの話でもあります。AIに代替されるのは「平均的にうまい仕事」で、残るのは「その人しか持っていない視点と経験」です。上半期の変化は、マーケター一人ひとりに「あなたの固有の価値は何か」を突きつけた半年でもありました。
ぼくも、その問いの前に立っている一人です。下半期も、この場所から見えたものを書いていきたいと思います。