非公開求人の正体は「採用側の都合」です
非公開求人とは、転職サイトや企業の採用ページに掲載されていない求人のことです。でも「非公開=特別に良い求人」ではありません。非公開になっている理由の大半は、採用する側の社内事情です。
ぼくは博報堂に13年、アクセンチュアに5年いて、どちらの会社でも中途採用の面接官をやっていました。自分が関わったポジションのうち、かなりの割合が「非公開」でした。理由は毎回だいたい同じで、社内への配慮か、競合への配慮か、そのどちらかです。
この記事では、非公開求人がなぜ存在するのか、エージェントからどう引き出すのか、そして「非公開だから応募すべき」とはならない理由まで、採用側の視点から書いていきます。
採用側が求人を非公開にする理由は5つある
非公開求人を理解するには、なぜ企業がわざわざ隠すのかを知るのが近道です。ぼくが採用側にいた経験から、理由は大きく5つに分かれます。
1. 既存社員への配慮
いちばん多いのがこれです。たとえば、あるポジションの人がパフォーマンスを出せていなくて、実質的にその人の「後任」を探しているケース。これを公開で募集したら、本人が気づいてしまいます。
あるいは、組織改編を検討中で、新しいチームのリーダーを外から採りたいけれど、社内にはまだ発表していない。こういう場面では、求人を表に出すわけにいきません。
2. 競合に動きを知られたくない
「デジタルマーケティング責任者を採用中」という情報が公開されていれば、競合は「あの会社、デジタルに本腰を入れるのか」と戦略を読み取れます。新規事業の立ち上げや、海外展開の準備段階では特に、採用情報が事業戦略のヒントになってしまいます。
ぼくがアクセンチュアにいたとき、クライアント先に常駐するコンサルタントの採用は基本的に非公開でした。どのクライアント向けに人を増やすかが見えてしまうと、プロジェクトの存在自体が外に漏れるからです。
3. 応募が殺到するのを避けたい
知名度の高い企業が人気ポジションを公開で募集すると、数百〜数千件の応募が来ることがあります。人事部門の処理能力を超えてしまうため、エージェント経由で「条件に合う人だけ紹介してほしい」という依頼になります。
dodaの2024年の調査では、求人全体のうち約7〜8割が非公開とされています。ただこの数字は「エージェントが保有する求人のうち、サイトに掲載していないもの」という定義なので、すべてが秘密裏に進んでいるわけではありません。単に掲載の手間を省いているだけのケースも含まれています。
4. 経営層・役員クラスのポジション
CFOやCMOといったポジションの採用を公開で行う企業はほぼありません。現職のCFOがいる状態で「CFO募集」と出すわけにはいかないし、そもそも経営層の人選はヘッドハンティングに近い形で進むことが多いです。
5. 急募で掲載が間に合わない
突然の退職や事業環境の変化で、求人票を作って掲載する時間がないケースもあります。「とりあえず付き合いのあるエージェントに声をかける」というパターンです。正直なところ、採用側のドタバタが理由であって、求人の質とは関係ありません。
非公開求人の引き出し方には「聞き方の型」がある
エージェントに登録したからといって、非公開求人が自動的に全部出てくるわけではありません。エージェントも人間なので、「この人に紹介しても話が進みそうにない」と思えば、手持ちの求人を出し惜しみします。逆に「この人なら企業に推薦しやすい」と感じれば、まだ表に出していないポジションを持ってきてくれます。
引き出すために必要なのは、こちらから条件を具体的に絞って伝えることです。
条件を絞って質問する
「何かいい求人ありませんか」という聞き方では、エージェントも出しようがありません。具体的に絞り込んで聞くのがコツです。
- 「年収600万以上で、BtoBマーケティングのマネージャー職はありますか」
- 「事業会社のマーケ部門で、広告運用の実務もやれるポジションを探しています」
- 「リモートワーク週3日以上で、従業員300人以上の企業に絞りたいです」
こういう聞き方をすると、エージェントは自分の手持ちの求人データベースの中から条件に合うものを検索しやすくなります。条件が具体的であればあるほど「あ、あの案件がぴったりだな」と思い出してくれます。
自分の経験を数字で伝える
エージェントが非公開求人を紹介するかどうかは、「この人を推薦して企業に喜ばれるか」で判断されます。だから、自分の経験を具体的な数字で伝えることが大事です。
- 「広告運用の予算は月額◯万円規模を担当していました」
- 「チームは◯名で、マネジメント経験は◯年です」
- 「直近のプロジェクトでCPA◯%改善しました」
「マーケティングをやっていました」だけでは、エージェントの側に判断材料が足りません。結果として「とりあえず公開求人を見てください」という対応になりがちです。
希望条件だけでなく「これは避けたい」も伝える
意外と効果があるのが、ネガティブ条件を伝えることです。「常駐型の案件は避けたい」「スタートアップは家族の事情で難しい」など、除外条件があるとエージェントはフィルタリングしやすくなります。
ぼくが転職活動をしていたときも、「年収が下がるのは許容するけど、裁量のないポジションには行きたくない」と伝えたら、担当者が「それならこのポジション、まだ正式には公開していないですが」と出してくれた経験があります。
面談後に1つだけ「追加の質問」をする
初回面談で条件をすり合わせたあと、帰り際やメールで「そういえば、◯◯業界でマーケ責任者を探している企業はありますか?」と1つだけ追加で聞いてみるのも有効です。
エージェントは面談直後に求人のマッチングをするので、このタイミングで具体的な質問が来ると「あ、もう一件あったな」と思い出すことがあります。面談中に全部聞こうとするよりも、ピンポイントの追加質問のほうが効くことがあります。
複数のエージェントを使って非公開求人を比較する
非公開求人は、特定のエージェント1社にしか出ていないケースが多いです。企業が「この件はA社にだけ依頼する」と独占で契約していることがあるからです。だから、1社だけに登録していると見えない求人がかなり出てきます。
ぼくのおすすめは、タイプの違うエージェントを2〜3社使うことです。
- 大手総合型(リクルートエージェント、dodaなど)→ 求人数が多く、幅広い業界をカバー
- ハイクラス・専門特化型(JACリクルートメントなど)→ 年収600万以上や管理職ポジションに強い
- 業界特化型(マーケター特化エージェントなど)→ 職種の理解が深く、ピンポイントの案件を持っている
特にマーケティング職で年収を上げたい人や、外資系・グローバル企業を視野に入れている人は、JACリクルートメントで非公開求人を確認しておくのが手堅い選択肢です。両面型(企業と転職者の両方を同じコンサルタントが担当する)なので、企業側のリアルな温度感を直接聞けます。
マーケターに特化したエージェントの使い分けが気になる方は、マーケター転職エージェントおすすめ6選【使い分けの判断軸で選ぶ・2026年版】でタイプ別の強みと弱みを整理しています。
同じ求人が複数のエージェントから出てくることもある
複数社を使っていると、同じ企業の同じポジションが別々のエージェントから紹介されることがあります。これは普通のことで、問題ではありません。
ただ、同じ求人に2つのエージェント経由で応募してしまうと企業側が混乱するので、重複には気をつけてください。応募する前に「この企業は別のエージェントからも紹介されています」と正直に伝えれば大丈夫です。
エージェントによって求人の見せ方が違う
同じポジションでも、エージェントAは「成長企業のマーケ責任者」と紹介し、エージェントBは「少人数チームで業務範囲が広い」と紹介することがあります。どちらも嘘ではないけれど、強調するポイントが違います。
だから複数のエージェントから同じ求人の話を聞くことで、その企業のポジションをより立体的に理解できます。これは複数社を使う隠れたメリットです。
「非公開求人=良い求人」ではない理由
転職サイトやエージェントのLP(ランディングページ)を見ると、「非公開求人◯万件保有!」と大きく打ち出しているケースがあります。あれを見ると「非公開求人にはすごい案件が隠れている」と期待してしまいがちですが、実態はもう少し地味です。
非公開にする理由の多くは、企業側の事情にすぎない
前半で書いた通り、非公開になっている理由の大半は「社内への配慮」「競合への配慮」「応募の殺到を防ぎたい」「掲載が間に合わない」です。求人の質が高いから非公開にしているわけではありません。
ぼくが採用側にいたときの体感でいうと、非公開求人のなかにも「条件がいまいちだから公開すると人が来ない」ケースは普通にありました。給与レンジが市場相場より低いとか、業務範囲が異常に広いとか、そういう求人もエージェント経由なら「まずは面談で話を聞いてもらえませんか」とソフトに進められるからです。
エージェントの「非公開です」は営業トークでもある
エージェントのビジネスモデルは、転職者を企業に紹介して入社が決まったら成功報酬をもらう仕組みです。だから「この求人は非公開です。今だけです」と伝えることで、転職者の意思決定を後押しする意図がある場合もあります。
これ自体は悪いことではありません。でも「非公開だから特別」と無条件に信じてしまうのはリスクがあります。
見るべきは「非公開かどうか」ではなく、中身
結局のところ、公開か非公開かはラベルの違いでしかありません。見るべきなのは求人の中身です。
- ポジションの業務範囲は明確か
- 年収レンジは市場相場と合っているか
- なぜこのポジションが空いているのか(新設か、退職補充か)
- 上司にあたる人はどんな人か
- 入社後に期待される成果は何か
この5つを確認すれば、非公開であるかどうかに関係なく、その求人が自分に合っているかを判断できます。エージェントに「なぜこのポジションは非公開なんですか?」と聞いてみるのも有効です。まっとうな理由があれば教えてくれますし、曖昧に濁すようなら少し警戒していいと思います。
非公開求人を引き出すためにやるべきことの整理
ここまでの内容を表にまとめます。
| やること | 具体的なアクション | なぜ効くのか |
|---|---|---|
| 条件を絞って聞く | 年収・職種・業界・勤務形態を具体的に伝える | エージェントが検索しやすくなる |
| 経験を数字で伝える | 予算規模・チーム人数・改善幅など | 企業に推薦しやすくなる |
| 除外条件も伝える | 「これは避けたい」を明確に | フィルタリング精度が上がる |
| 複数エージェントを使う | タイプ違いで2〜3社 | 独占案件を拾える |
| 中身を確認する | 業務範囲・年収・退職理由・上司・期待成果 | 非公開かどうかに惑わされない |
よくある質問
非公開求人はどうすれば見られますか?
転職エージェントに登録し、面談で希望条件を具体的に伝えることで紹介してもらえます。転職サイトの検索では基本的に表示されません。
非公開求人は公開求人より条件がいいのですか?
必ずしもそうとは限りません。採用側の社内事情で非公開にしているだけのケースが大半です。年収が低い・業務範囲が曖昧な非公開求人も存在するので、求人の中身をしっかり確認することが大切です。
エージェントに登録すれば全ての非公開求人を紹介してもらえますか?
いいえ。エージェントはあなたの経験・スキル・希望条件に合う求人だけを紹介します。条件が曖昧だと紹介される数が減るので、面談前に自分の希望を整理しておくのが大事です。
複数のエージェントに登録してもいいのですか?
問題ありません。むしろ推奨です。エージェントごとに保有する非公開求人は異なるため、2〜3社に登録して比較するのが現実的な方法です。ただし、同じ求人に重複して応募しないよう管理は必要です。
非公開求人に応募して不採用だった場合、他の企業にバレますか?
バレません。エージェントには守秘義務がありますし、応募情報はそのエージェントと応募先企業の間でしか共有されません。
非公開求人に過度な期待はいらない
ぼくは採用する側と転職する側の両方を経験して思うのですが、非公開求人に対する期待値は少し下げておいたほうがいいです。「非公開」というラベルに振り回されるよりも、自分の条件を具体的に言語化して、それに合う求人を地道に探すほうがずっと効率的です。
エージェントは味方にもなるし、ただの仲介者にもなります。その差を分けるのは、こちらから条件を具体的に伝えているかどうかです。「何かいい求人ありませんか」ではなく「こういう条件のポジションはありますか」と聞く。それだけで、出てくる求人の質は変わります。
転職活動って、なんとなく「隠れた当たりくじを引く」みたいなイメージを持ちがちですが、実際はもっと地味で、でもその地味さの中に自分に合うポジションがあったりします。非公開かどうかは気にせず、中身を見て判断する。それがいちばん確実な方法だと、ぼくは思っています。