マーケの目

ハルシネーションとは?AIの幻覚の語源・原因・対策をわかりやすく解説

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最終更新:2026年10月17日

ハルシネーション(hallucination)とは、生成AIが事実に基づかない誤った情報を、もっともらしく生成することです。総務省の令和6年版 情報通信白書も、この現象を「ハルシネーション(幻覚)」と呼んでいます。もとは医学・心理学で「存在しないものが見える・聞こえる」症状を指す言葉で、AIの文脈では、ChatGPTなどが実在しない判例や統計、出典を自信たっぷりに答えてしまう現象を指します。結論から言うと、ハルシネーションは技術的な対策で減らせても、ゼロにはなりません。だからマーケターやライターにとっての対策は、ツール選びより先に「数字と固有名詞は人が原典を開く」という手順を決めることです。この記事では、意味と種類、語源、起きる理由、実際に起きた事例、対策の一覧まで、一次資料を開いて確認できた範囲で書いていきます。

ハルシネーションとは?意味と2つの種類一覧

ハルシネーションは、AIが「知らないこと」を知らないと言わずに、それらしい答えを作ってしまう現象です。嘘をつく意図があるわけではなく、文章の続きとして確からしい言葉を並べた結果が、事実と食い違います。研究の世界では、何と食い違うかで大きく2つに分けて整理されています。

種類 何と食い違うか 研究上の例 マーケの現場で起きる形
事実性のハルシネーション 世の中の事実 電話の発明者を「エジソン」と答える 実在しない調査会社の数字、存在しない書籍や判例、架空のURL
忠実性のハルシネーション 与えた資料や指示、文脈 渡した文書に書いてない結論を「文書によれば」と書く 自社資料を要約させたら、資料にない機能や価格が足されている

この2分類は、2023年にACM TOIS誌に載ったLLMのハルシネーションに関する調査論文のものです。LLM(大規模言語モデル)とは、ChatGPTやGeminiの土台になっている、大量の文章を学習したAIのことです。同論文は忠実性の側を、指示との不一致、文脈との不一致、論理の不一致の3つに細かく分けています。

それより前の2022年にACM Computing Surveys誌に載った調査論文では、与えた資料と矛盾する「内在的」と、資料からは確かめられない「外在的」に分ける整理が使われていました。外在的な出力は必ずしも誤りではない、と同論文は注記しています。資料に書いてないことを足したが、世の中の事実としては正しい、という場合があるからです。ただ、仕事で使う側から見れば、資料にない内容が混ざった時点で、確かめる手間は同じだけかかります。

ハルシネーションの語源──医学の「幻覚」から辞書の「今年の言葉」まで

ハルシネーションの語源は、医学・心理学で使われてきた「幻覚」です。ケンブリッジ英語辞典は hallucinate の本来の意味を、存在しないものが見えたり聞こえたり感じられたりすること(病気や薬物が原因のことが多い)と説明しています。英語でこの語を使った最初期の人物は17世紀の医師トマス・ブラウン(Thomas Browne)で、「心がさまよう」を意味するラテン語に由来する、と百科事典などの解説では説明されています。一次の語源辞典までは確認できていないので、ここは「とされる」止まりです。

AIの分野に入ってきた経路は、意外にも肯定的な意味からでした。先ほどの2022年の調査論文の注記によると、この語はもともとコンピュータビジョン(画像をコンピュータに理解させる分野)で、画像の足りない部分をもっともらしく補う技術を指す言葉として使われていました。その後、機械翻訳の研究(2021年)や文章要約の研究(2020年)で、「入力に忠実でない内容を生成すること」を指す否定的な言葉として使われるようになります。

一般の言葉になったのは2023年です。ケンブリッジ英語辞典は2023年11月、hallucinate を「今年の言葉」に選び、「AIが幻覚を起こすとき、偽の情報を生成する」という新しい語義を加えました。日本では総務省の令和6年版 情報通信白書が、AI事業者ガイドライン(2024年4月・総務省と経済産業省)の挙げるリスクの一つとして「ハルシネーション(幻覚)」を位置づけています。

この言葉づかいそのものへの異論もあります。2023年にPLOS Digital Health誌に載った論考は、LLMは何かを知覚しているわけではないので「幻覚」は不適切で、欺く意図なく偽の記憶を作る「作話(コンファビュレーション)」のほうが正確だと主張しました。ただ、言葉の知名度では幻覚のほうがはるかに勝っていて、2026年10月時点でも日本語ではハルシネーションが通り名です。

ハルシネーションはなぜ起きるのか──「わからない」より当て推量が得をする仕組み

ハルシネーションが起きる根本の理由は、LLMが事実を調べて答えているのではなく、学習した文章の傾向から「次に来そうな言葉」を予測して文章を作っているからです。Googleの検索セントラルの解説も、生成モデルは事実を検索するのではなく学習データに基づいて可能性の高い単語の並びを予測するため、不正確な出力がありうる、と明記しています。

Google Cloudの解説は、原因として学習データの不足、誤った前提、データの偏り、そしてグラウンディング(現実の知識との結びつけ)の欠如を挙げています。知らない企業の売上を聞かれても、LLMには「売上の数字らしい文章」を作る能力があるので、空欄のまま止まらずに埋めてしまうわけです。

2025年9月、OpenAIの研究者らはこの問題を、論文「Why Language Models Hallucinate」で訓練と評価の側から説明しました。要点は、モデルの訓練と評価の手順が、不確かさを認めることより当て推量に報酬を与えている、という指摘です。難しい試験問題を前にした学生が、白紙で出すより何か書いたほうが点になるので推測で埋める。正解か不正解かだけで採点する評価には同じ構造があるので、「わからない」と言うモデルより当てずっぽうで答えるモデルのほうが高く評価されてしまいます。同論文は、誕生日のように規則性のない事実では、訓練データに1回しか出てこない事実の割合がハルシネーションの発生率の下限の目安になると述べ、対策として主要なベンチマーク(性能評価テスト)の採点方法を変えることを提案しています。

では、いつかゼロになるのでしょうか。見解は割れています。2024年の論文「Hallucination is Inevitable」は、理論上ハルシネーションは排除できないと主張しました。これに対してOpenAIの論文は、何でも答えようとする基盤モデルでは不可避でも、知らないことには「わからない」と答える設計にすれば幻覚しないモデルは作れる、と反論しています。総務省の白書は、技術的な対策が検討されているものの完全に抑制できるものではないとして、利用者が出力の正誤を確認することが望ましいとしています。研究者の結論がどちらに落ちても、使う側ができることは変わりません。出る前提で手順を組むことです。

ハルシネーションの事例──裁判所に提出された架空の判例

ハルシネーションの事例として最もよく引かれるのは、2023年にアメリカの裁判所で、弁護士がChatGPTの作った実在しない判例を書面に引用した事件です。ここでは、裁判所の決定文か通信社の報道で確認できたものだけを表にします。

事例 何が起きたか 何が問われたか 出典の種類
マタ対アビアンカ事件(米ニューヨーク南部地区連邦地裁・2023年6月) 弁護士がChatGPTで調べた実在しない判例を書面に引用し、指摘を受けたあとも撤回しなかった 裁判所は弁護士の悪意を認め、5,000ドルの制裁金を命じた 裁判所の決定文(PDF)
Google Bardの発表広告(2023年2月) ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の成果を説明する回答に誤りがあり、太陽系外惑星の最初の画像を撮ったのは別の望遠鏡だとNASAが確認した 発表当日のAlphabetの株価下落と報じられた ロイター配信の記事
エア・カナダのチャットボット(カナダBC州民事解決審判所・2024年2月) チャットボットの案内が誤っていた。会社側は「チャットボットは別の法的主体」と主張した 審判所はこれを「驚くべき主張」とし、ウェブサイト上の情報には会社が責任を負うと判断した 法律事務所による裁定の解説
デロイト(オーストラリア・2025年10月) 政府向けの報告書に、実在しない参考文献や連邦裁判所の判決の偽の引用が含まれていた。修正版で生成AIの使用を開示 最終回の支払いを政府に返金。AIが原因かどうかについて同社は回答していない AP通信の配信記事

最初の事件の決定文は、冒頭で「信頼できるAIツールの補助を受けること自体は不適切ではない」と述べたうえで、書面の正確さを守る「門番」の責任は弁護士にある、と続けています。AIを使ったこと自体は責められていません。確かめなかったことが責められています。エア・カナダの裁定も、技術的にハルシネーションと断定した記述は確認できませんでしたが、問われたのは同じ「サイトに載せた情報の責任は誰にあるか」でした。

日本国内で、生成AIが作った架空の判例が裁判所に提出されたような事例は、ぼくが調べた範囲では確認できませんでした。確認できたのは総務省の白書による注意喚起です。事例が見つからないことと、起きていないことは別なので、国内の事例を「ない」とは書けません。

ハルシネーションの対策一覧──出典を出させる・資料を渡す・人が確かめる

ハルシネーションの対策は、AIに「わからない」と言える余地を与える、答えの根拠を資料に縛る、最後に人が原典を開く、の3層で考えると整理できます。どれか一つで足りるものではなく、重ねて使うものです。

対策 具体的にやること 効く理由 限界
「わからない」と言ってよいと伝える 指示文に、確信がないときは「わからない」と答えてよい、と書いておく 当て推量より棄権を選びやすくなる 棄権が増えるだけで、正答が増えるわけではない
根拠の引用を先に抜き出させる 長い資料を渡すときは、まず該当箇所を原文のまま引用させ、その引用に基づいて答えさせる 資料に書いてあることと書いてないことの線が見える 引用そのものが作られることがあるので、人が原文と照合する
主張ごとに根拠を探させ、なければ撤回させる 下書きの一文ごとに裏づけの引用を探させ、見つからない主張は削らせる 資料にない内容の混入を拾いやすい 資料そのものが誤っていれば、誤りが残る
資料を渡してから答えさせる 自社資料や公的統計を先に検索・添付して、その範囲で答えさせる(RAGと呼ばれる仕組み) 記憶ではなく手元の資料に基づいて答える 資料が古い、検索が外れる、と誤りも引き継ぐ。ゼロにはならない
複数回実行して比べる 同じ質問を何度か投げ、答えがぶれる箇所を疑う ぶれる箇所は根拠が弱い 一貫して間違うことはある
人が原典を開く 数字・固有名詞・引用・URLは、公開前に一次資料で確かめる 最終責任は公開する側にある 手間がかかる。だから何を確かめるかを先に決める

上の3つはAnthropicの公式ドキュメントが挙げている方法で、同ドキュメントは「大きく減らすが、完全には排除しない。大事な情報は必ず検証する」と注記しています。4つ目の、資料を検索してから答えさせる仕組みは、2020年の論文が、モデル単体では根拠の提示と知識の更新が難しいという弱点を外部の記憶で補う方法として提案したものです。この仕組みがRAG(検索拡張生成)です。

公開する側の責任は、検索エンジンの方針にも書かれています。Googleの検索セントラルは、生成AIは調査や構成づくりに有用だとしつつ、公開前にAI生成物を手作業で事実確認して見直すことを求め、それはタイトルやメタディスクリプション、構造化データにも適用されるとしています。価値を足さない大量生成は、スパムポリシー違反になりうるとも明記しています。こうした量産物はAIスロップとも呼ばれます。AI検索と検索順位の関係はSEOとは?AI検索との関係でまとめました。

ぼく自身、この用語解説シリーズの下書きをAIに手伝わせていて、実在する企業の数字が一つ、どの一次資料にも見つからないことがありました。文章としては自然で、数字もそれらしく見えました。でも、出典が開けない以上は書けないので、公開前にその数字を削りました。それ以来、出典のない相場や平均値は、AIが出してきても書かないと決めています。AIが出した仮説が正しいかを確かめるのは、最後まで人の仕事だと思っています。この考え方はAIを使いこなすマーケターが生き残る理由でも書きました。

AIに反論させて下書きの穴を探させる使い方は、AIを「思考の壁打ち相手」にする方法にまとめています。ただし、反論もまたAIの出力なので、反論の中の数字も同じように確かめる必要があります。

ハルシネーションに関するよくある質問

ハルシネーションとは簡単に言うと何ですか?

生成AIが、事実ではないことや与えた資料にないことを、本当らしい文章で答えてしまう現象です。英語の hallucination(幻覚)から来ていて、総務省の白書も「ハルシネーション(幻覚)」と表記しています。AIに悪意があるわけではなく、文章の続きを予測する仕組みの副作用として起きます。

ハルシネーションは完全に防げますか?

2026年10月時点では、完全には防げないと考えるのが安全です。理論上排除できないとする論文と、「わからない」と答える設計なら防げるとする論文の両方があり、総務省の白書も完全には抑制できないとしています。資料を渡す、根拠を引用させるなどの対策で大きく減らしたうえで、数字と固有名詞は人が原典で確認する、という組み合わせが現実的です。

ハルシネーションと誤情報・バイアス・ディープフェイクの違いは何ですか?

ハルシネーションは、AIが生成する過程で生まれる、事実と違う出力のことです。誤情報は、人が作ったものも含めて誤った情報全般を指します。バイアスは誤りではなく偏り(特定の属性に不利な出力など)の問題で、ディープフェイクは人が意図して作る偽の画像や動画です。総務省の白書も、ハルシネーションとバイアス、ディープフェイクを別のリスクとして挙げています。

ハルシネーションを減らすプロンプトのコツはありますか?

Anthropicの公式ドキュメントが挙げているのは、確信がないときは「わからない」と答えてよいと伝えること、長い資料では先に該当箇所を引用させてから答えさせること、主張ごとに根拠の引用を探させて見つからなければ撤回させることの3つです。どれも減らす効果はありますが、ゼロにはならないと同ドキュメントも注記しているので、公開前の確認は省けません。

おわりに──ハルシネーションは、AIの話ではなく、確かめる人の話

ハルシネーションの解説は、たいていAIの欠点の話として語られます。でも、裁判所が制裁金を命じた相手はChatGPTではなく弁護士でした。報告書の返金に応じたのもAIではなく、報告書に名前を載せた会社です。間違いを作ったのはAIでも、間違いを世に出したのは、確かめずに公開した人のほうでした。

AIが幻覚を見ることは、止められません。止められるのは、幻覚が記事や提案書になる手前の一か所だけです。

ハルシネーションは、AIが間違える話ではなく、人が確かめない話。

数字と固有名詞と引用。この三つだけでも、公開ボタンを押す前に原典を開く。その手間を引き受ける人が、AIの時代の門番だと思います。

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