キャリアコーチングとは、求人を紹介しないかわりに、あなたからお金をもらうサービスです。
転職エージェントは企業から手数料を受け取ります。キャリアコーチングは利用者から受け取ります。報酬の出どころが違うだけで、提供されるものも、向いている人も、注意すべき点も全部変わります。
採用側で中途の面接に関わっていた立場から、この2つの構造上の違いと、費用をどう考えればいいのかを整理します。
キャリアコーチングとは何か
キャリアコーチングは、有料でキャリアの相談に乗るサービスです。数か月の期間を区切り、面談を重ねながら、自己理解の整理、強みの言語化、今後の方向性の設計を行います。転職を前提としない相談も受けます。
転職エージェントとの決定的な違いは、報酬の出どころです。エージェントは職業紹介事業として、採用が決まった企業から手数料を受け取ります。だから利用者は無料で使えます。キャリアコーチングは求人を紹介しないため、利用者からの受講料が収益になります。
ここで、契約の前に知っておきたい制度上の話があります。特定商取引法には特定継続的役務提供という区分があり、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介サービスの7つが指定されています(消費者庁「特定継続的役務提供」https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/continuousservices/)。この7つに該当する契約には、書面の交付義務や中途解約のルールが法律で定められています。
キャリアコーチングは、この7つには含まれていません。つまり、中途解約や返金の条件は、その会社の契約内容次第になります。契約前に確認すべきなのはここです。
提供の形も整理しておきます。多くのサービスは、2か月から6か月の期間を区切り、その中で数回から十数回の面談を組みます。面談はオンラインが中心で、間の期間に自己分析のワークが宿題として出ます。担当がつく点はエージェントと同じですが、担当が持ってくるのは求人ではなく問いです。ここを取り違えると、初回の面談で肩透かしを食らいます。
転職エージェントとの違いを並べる
2つは競合するサービスに見えますが、機能が重なっていません。
| 比較する軸 | キャリアコーチング | 転職エージェント |
|---|---|---|
| 費用を払う人 | 利用者 | 採用した企業 |
| 求人の紹介 | 原則なし | あり |
| ゴール | 方向性を自分で決められること | 採用の決定 |
| 期間 | 数か月の契約 | 転職活動が終わるまで |
| 転職しない選択 | 結論として認められる | 成果にならない |
| 向いている状態 | 何をしたいか決まっていない | 動く方向が決まっている |
表の「転職しない選択」の行が、両者の性格を分けます。エージェントは採用が決まってはじめて報酬が発生する仕組みなので、転職しない結論に時間を割く動機がありません。悪意ではなく、事業の構造です。逆にキャリアコーチングは、先に費用を受け取っているため、残るという結論を出しても成り立ちます。
だから、併用が一番自然な形になります。先にコーチングで軸を作り、その軸を持ってエージェントに行く。順番が逆だと、紹介された求人を軸のないまま比較することになり、条件の数字だけで判断してしまいます。同時並行にする必要はありません。決めるフェーズと動くフェーズを分けるだけの話です。
採用側から見て、これは何の代わりになるのか
採用の現場でよく見るのが、志望動機を語れない候補者です。経歴も実績も十分なのに、なぜこの仕事なのかを説明できない。この状態のまま応募を続けると、書類は通っても面接で止まります。
足りていないのは面接の技術ではなく、判断の軸です。何を優先し、何を諦めるか。この軸がないまま求人を眺めても、条件の良し悪ししか見えません。キャリアコーチングが引き受けているのは、この軸を作る工程です。
ただ、軸は他人が渡してくれるものではありません。コーチが問いを投げ、こちらが言葉にし、それを何度も削る。作業の主体は最後まで利用者側にあります。だから、答えをもらえる場だと期待して申し込むと、費用に見合わなかったと感じることになります。
費用の考え方も、そこから決まります。判断すべきは金額の高さではなく、その金額を払って何を持ち帰るかです。持ち帰るものが「自分の言葉で説明できる方向性」であれば、面接での通過率にも、入社後の納得度にも効きます。逆に、求人の紹介を期待しているなら、無料のエージェントのほうが目的に合っています。
もうひとつ、選ぶときに見ておきたいのが担当者の経歴です。キャリアコーチングに公的な資格の要件はありません。だから、誰が担当につくかで受け取れるものが大きく変わります。無料相談の枠がある会社なら、そこで担当の経歴と、自分の業界の事情をどこまで知っているかを確かめてから決めるのが安全です。相性の確認ではなく、前提知識の確認として使ってください。
よくある誤解
- 高い金額を払えば転職先が決まる:求人の紹介は原則ありません。決まるのは方向性であって、応募先ではありません。
- エージェントの上位版:役割が違います。軸を作るのがコーチング、決めた軸で動くのがエージェントです。順番で使うほうが噛み合います。
- いつでも解約できる:キャリアコーチングは特定継続的役務提供の7類型に含まれないため、法律による中途解約の規定は当然には及びません。契約書の条項を先に読んでください。
- 転職しないなら意味がない:残ると決めた場合も結論です。何を条件に残るのかが言葉になれば、次の判断が早くなります。
よくある質問
転職エージェントとの違いは何ですか
費用を払う人と、ゴールです。エージェントは採用した企業から手数料を受け取り、採用の決定をゴールにします。キャリアコーチングは利用者から受講料を受け取り、方向性を自分で決められる状態をゴールにします。求人の紹介は原則ありません。転職すると決めた段階では、エージェントのほうが機能します。
費用はどう考えればいいですか
金額の高低ではなく、持ち帰るものと比べてください。判断の軸を言葉にするのが目的なら、それが面接の通過率や入社後の納得度に効きます。求人の紹介を期待しているなら、その期待は満たされません。契約前に、期間・面談の回数・成果物として何が残るのかを、書面で確認するのが確実です。
転職しない結論になってもいいのですか
問題ありません。むしろ、その結論を出せることがこのサービスの構造上の強みです。エージェントは採用が決まってはじめて報酬が発生するため、残る選択に時間を割く動機がありません。転職するかどうかを含めて迷っている段階なら、有料の相談のほうが利害が噛み合います。
途中で解約や返金はできますか
契約内容によります。特定商取引法の特定継続的役務提供として指定されているのは7つの役務で、キャリアコーチングはそこに含まれていません。そのため法律に基づく中途解約のルールは当然には適用されず、条件は各社の契約書で定められます。申し込む前に、解約の可否、返金の計算方法、途中で担当を変更できるかを確認してください。
まとめ
キャリアコーチングは、転職を代行する場ではありません。何を選ぶかを、自分の言葉で言えるようにする場です。
そもそも有料の相談が必要な状態なのかを見極めたいならキャリアコーチングで迷ったときの考え方が先です。実際に受けたときの流れはキャリパトの体験レビューにまとめています。
お金を払って買っているのは、答えではありません。答えを自分で出すための、時間と問いです。