転職戦略

退職代行を使う前に知っておきたいこと──辞めるのは権利であって、迷惑ではない

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ぼくが会社を辞めるとき、一番きつかったのは仕事の中身ではなかった。

「周りに迷惑をかける」という感覚だった。引き継ぎのこと、上司への報告のこと、退職日まで続く気まずい空気のこと。辞める意思が固まってからも、そこに相当なエネルギーを使った。辞めると決めてから実際に会社を出るまでの数週間が、在職中でいちばんしんどかったかもしれない。

正直に打ち明けると、ぼく自身は退職代行を使ったことはない。でも、退職代行というサービスが知られるようになったとき、「こういう選択肢があれば、あのときもう少し楽だったかもしれない」とは思った。「辞める」という行為をもっと事務的に処理していい、という発想は、今のぼくには自然に受け入れられる。

3月から4月にかけては、転職と退職が増える季節だ。新入社員として入ったけれど「思っていたのと違う」という人も、何年か勤めて限界が来た人も、この時期に動く人は多い。退職代行を使うかどうかに関わらず、「辞めるとはどういうことか」を先に整理しておくのは、損ではないと思う。

この記事では、退職代行の仕組みと運営タイプの違い、業界で起きたモームリの一件、そして選ぶときに外してはいけないポイントまでを、ぼくの視点で順番に整理していく。使うか使わないかを決める前に、まず全体像をつかんでほしい。

そもそも、会社を辞めるとはどういうことか

日本の法律では、退職の意思を伝えてから原則2週間で退職できる。就業規則に「1ヶ月前に申し出ること」と書かれていても、法律上は2週間で問題ない。民法627条に定められた内容で、会社がどう言おうと、ここは変わらない。

つまり、会社を辞めること自体は、法的にはとてもシンプルだ。

でも、実際にはそう簡単に感じないことが多い。その理由のほとんどは、感情と人間関係にある。上司に言い出しにくい、引き止められそう、周りに申し訳ない、退職を切り出す場面が怖い──こういう心理的なコストが、退職を必要以上に重くしている。

退職は「裏切り」でも「逃げ」でもなく、労働契約の解除でしかない。法律が認めた権利だ。それを頭でわかっていても、感情的にはきつい。ぼく自身もそうだった。博報堂を辞めるとき、アクセンチュアを辞めるとき、それぞれに「お世話になった人たちに申し訳ない」という気持ちが邪魔をした。でも、辞めた後に振り返れば、その感覚は全部ただの感情で、プロセスとしてはどちらも拍子抜けするほどシンプルに終わった。

面白いのは、辞めたあとに残るのは「迷惑をかけたかどうか」ではなかったこと。残ったのは、あのとき自分がどう動いたか、という納得のほうだった。引き止めや気まずさに飲まれて先延ばしにした時間ほど、あとから悔いが残る。逆に、決めてから動くまでが早いほど、次の自分に早くバトンを渡せる。だからぼくは、辞めると決めた後の「間」を、できるだけ短くすることをすすめたい。

「辞める」ことを感情で処理しようとするから重くなる。もっと事務的に扱っていい。退職代行は、その発想を形にしたサービスだと思う。

退職代行とは何か

退職代行とは、退職の意思を本人の代わりに会社へ伝えてくれるサービスだ。

利用者は会社に連絡せず、代行業者が「本日付けで退職します」という意思を会社に伝える。その後の書類のやり取りまで代行してくれるところも多い。つまり、会社の人間と一切話さずに退職できる。

ここで大事なのは、ひとくちに退職代行と言っても運営主体が3種類あることだ。この違いを知らないまま選ぶと、あとで「思っていた対応をしてもらえない」ということが起きる。

  • 一般企業(民間)型──最も数が多い。退職の意思を伝えることはできるが、法的な交渉(有給消化の要求・未払い賃金の請求など)には対応できないことがある
  • 労働組合型──団体交渉権を持つため、会社との条件交渉が法的に可能。有給消化の交渉などに強い
  • 弁護士型──法的対応まで一貫して任せられる。料金は高めになりやすいが、未払い残業代の請求など複雑なケースに向く

自分がただ「気まずさから解放されたい」だけなのか、それとも「有給や未払い分をきちんと交渉してほしい」のか。ここで必要な型が変わる。まず、そこを自分の中ではっきりさせておくといい。

退職代行を使うメリット

精神的なコストをほぼゼロにできる

退職を切り出す場面は、多くの人にとって最もきつい部分だ。上司の反応が怖い、引き止められたらどうするか、気まずい時間が続くのがしんどい──退職代行はこのプロセスを丸ごと省ける。退職を決意してから実行するまでの心理的な障壁が、かなり低くなる。ぼくがあのとき一番苦しんだのは、まさにこの部分だった。

即日から出社しなくて済むケースがある

有給が残っていたり、会社側が合意すれば、連絡した当日から出社しないことも可能だ。パワハラや職場環境の問題で「もう一日も行きたくない」という状況でも、物理的に関係を断ち切れる。

有給消化や退職条件の交渉を代わりにやってくれる

退職日の調整、有給消化の交渉、離職票の発行依頼など、退職にともなう細かいやり取りを代行してくれる。特に労働組合型のサービスは団体交渉権を持つため、有給消化などの交渉が法的に可能だ。弁護士型であれば、未払い残業代の請求まで対応できる。

退職代行のデメリット・注意点

費用がかかる

数万円という金額は、安くはない。でも、退職を先延ばしにしている時間のコストや、心身のダメージを考えると、金額以上の価値があると感じる人も多いようだ。ここは、自分がいま何にどれだけ消耗しているかで見え方が変わる。

民間業者は法的な交渉ができない

一般企業が運営する退職代行業者は、退職の意思を伝えることはできるが、会社との条件交渉まで踏み込むと「非弁行為」として違法になる。有給消化の交渉や未払い賃金の請求が必要な場合は、労働組合型か弁護士型を選ぶ必要がある。ここは、あとで書くモームリの件とも直結する、いちばん大事な注意点だ。

荷物や書類は自分で対応が必要なこともある

デスクの荷物の郵送、健康保険証の返却、源泉徴収票の受け取りなど、完全に接触ゼロにはできないこともある。ほとんどは郵送で対応できるけれど、退職後のやり取りが全部代行されるわけではない、という点は理解しておいたほうがいい。

転職先への影響はほぼない

「退職代行を使ったことが転職先にバレる」という心配をする人もいるけれど、退職の理由や方法が転職先に伝わることは通常ない。退職代行を使ったこと自体は、基本的に次の転職に影響しない。

退職代行「モームリ」に何が起きたか──業界全体に警戒が必要な理由

退職代行を語るうえで、避けて通れない出来事がある。業界で最大規模に成長した「モームリ」をめぐって、2025年から2026年にかけて深刻な問題が報じられた。サービスを選ぶ前に知っておいたほうがいい話なので、報道されている範囲で整理しておく。

2025年10月──家宅捜索が報じられた

報道によると、警視庁がモームリの運営会社と提携先を、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索したとされる。報じられた容疑の核心は、弁護士資格を持たない運営会社が利用者を特定の弁護士に紹介し、その見返りを受け取っていたのではないか、というものだった。この報酬は別の名目で処理されていたとも報じられている。

2026年2月──代表が逮捕されたと報じられた

その後の報道では、運営会社の代表らが逮捕され、提携していた弁護士側も書類送検されたとされる。不正とされる期間は複数年にわたるとみられ、動いていた金額も相当な規模だったと報じられた。いずれも報道段階の内容で、最終的な事実関係は今後の手続きで判断されるものだと、ぼくは受け止めている。

社内の実態も問題視されたと報じられている

あわせて、自社の従業員が退職代行を使って辞める事態が起きていたこと、元社員による告発があったことなども報じられた。「労働者の味方」として広く知られたサービスの内側に、こうした指摘が向けられたこと自体が、業界全体の信頼をあらためて問うきっかけになった。

ここから学べること

現在も営業は続いていると報じられている。ただ、この一連の報道が突きつけたのは、「有名なサービスだから安心」という思い込みは危ういという一点だと思う。退職代行を選ぶときは、運営主体が透明かどうか、そして労働組合か弁護士がきちんと関与しているかを確認する。この一手間が、自分を守る。次に紹介するサービスは、その視点で見ていく。

知っておくといい退職代行サービス5つ

ここからは、運営体制の性格がはっきりしているサービスを、切り口を変えて5つ挙げておく。実績の件数や料金は変動するし、断定できる数字でもないので、細かい条件は必ず各社の公式サイトで確認してほしい。ぼくが伝えたいのは「どういう軸で選ぶか」のほうだ。

1. 退職代行ネルサポ──労働組合型で、精神的なサポートまで見てくれる

まず挙げたいのが、労働組合が運営する退職代行ネルサポだ。団体交渉権を持つため、有給消化などの交渉を法的に適正な形で進められる。特徴的なのは、退職心理カウンセラーが在籍しているとされる点で、「退職を切り出せない」「もう精神的にボロボロ」という状態の人に寄り添う設計になっている。ぼくがあのとき一番きつかったのは感情の部分だったから、ここを手当てしてくれる発想には共感する。料金や保証の詳細は公式で確認を。

2. 弁護士法人みやび──法的な交渉まで一貫して任せたいなら

モームリの件で書いたとおり、「弁護士か労働組合が関与しているか」は選ぶうえでの生命線になる。そこをいちばん厚くカバーできるのが、弁護士が直接対応する弁護士法人みやびだ。退職の意思を伝えるだけでなく、未払い残業代の請求や、こじれたときの法的な交渉まで一貫して任せられる。料金は民間型より高くなりやすいけれど、「会社ともめそう」「請求したいものがある」という人にとっては、この安心感は費用に見合うと思う。詳しい費用は公式で確認してほしい。

3. 退職代行Jobs──相談実績が多く、まず安心感で選びたい人に

「とにかく実績のあるところに頼みたい」という人に向くのが退職代行Jobsだ。相談を多く受けてきた分の運用の安定感があり、労働組合と提携しているため、有給消化などの交渉にも適正に対応できる。はじめて退職代行を使うことに不安がある人は、こういう「みんなが使っている」タイプから検討するのが心理的に楽だったりする。料金や後払いの可否は公式で確認を。

4. 退職代行ヒトヤスミ──費用をできるだけ抑えたい人に

費用の負担をなるべく軽くしたいなら、料金が安いクラスの退職代行ヒトヤスミが候補になる。すでに心身がすり減っていて、まとまったお金を出す余裕がない、という状況の人は少なくない。そういうとき、まず動き出すためのハードルを下げてくれる選択肢はありがたい。ただし安さだけで決めず、どこまで対応してもらえるかは、申し込む前に公式で確認してほしい。

補足:とにかく安く、早く済ませたいなら

最近は、AIを使って手続きをさらに簡素化したAI退職代行という選択肢も出てきた。行政書士が監修していて、費用を極力抑えられるのが特徴とされる。手厚い伴走よりも「とにかく安く、事務的に終わらせたい」という人には、こういう割り切った選択肢が合うこともある。ここでも、どこまで対応してもらえるかは公式で確認してから決めてほしい。

もうひとつ、性別に特化したサービスもある。男性なら男の退職代行、女性ならわたしNEXT(女性の退職代行)という選択肢がある。同じ性別のスタッフに相談できたり、その立場でよくある事情を汲んでもらいやすかったりする。細かいことのようだけれど、心がすり減っているときほど、こういう「話しやすさ」は効いてくる。

結局のところ、正解はひとつではない。感情のケアがほしいのか、法的な交渉がほしいのか、実績の安心か、費用の軽さか。自分がいま一番外したくない軸を決めてから選ぶと、迷いが減る。

5. 円満退職ユニオン──料金の分かりやすさで選ぶなら

同じ労働組合型でも、料金の設計で選ぶという手もある。円満退職ユニオンは労働組合法人が運営していて、正社員でもアルバイトでも一律22,000円(税込・2026年7月時点)で、追加料金が発生しないと明示している。

ここは地味だが、実は大きい。退職を考えている人は、たいてい消耗している。そういう状態で「雇用形態によって料金が変わります」「オプションで別途」と言われると、判断のコストがまた増える。一律いくら、と先に分かることそのものが、精神的な負担を減らす設計になっている。

労働組合型なので団体交渉権があり、有給消化や未払い賃金の交渉もできる。さらに、裁判や調停が必要になった場合には提携する弁護士を無料で紹介してもらえるとされている。労働組合型で始めて、こじれたら弁護士につなぐという道が用意されているのは、現実的だと思う。料金や対応範囲は変わることがあるので、最終的には公式サイトで確認してほしい。

退職を決めたら、次のルートをすぐに確保する

ぼくが自分の転職経験から一番伝えたいのは、じつはここだ。

辞める前に、次の選択肢を動かし始める。

「辞めてから考える」は、精神的には楽に見えて、実際には焦りを生む。収入が途絶えた状態で転職活動をすると、条件の悪いオファーでも受けたくなってしまう。選択肢が少なく見えてくる。ぼく自身が転職したときも、在職中に動き始めていたおかげで、「急いで決めなくていい」という余裕が生まれた。この余裕が、結果的に条件のいい移り方につながった。

退職代行を使うかどうかに関わらず、退職を意識し始めた段階で、転職サービスへの登録だけでも動いておくといいと思う。登録は無料で、数分で終わる。求人を見るだけでも「次の選択肢がある」という感覚が生まれて、今の職場を続けるかどうかの判断そのものにも余裕が出る。

リクルートエージェント──求人数で選ぶなら最初の一択

国内最大級の求人数を持つ総合型エージェントだ。あらゆる職種・業界に対応しているので、まず転職市場の全体像をつかみたいなら登録しておいて損はない。担当者がついてくれるから、「転職活動の進め方がわからない」という状態でも相談しながら動ける。無料で登録でき、求人を見るだけでも問題ない。リクルートエージェントへの登録はこちらから。

JAC Recruitment──ミドル〜ハイクラスの転職に強い

年収の高いミドル〜ハイクラス層に特化したエージェントだ。外資系やグローバルポジションの求人に強く、コンサルティングファームや事業会社の管理職ポジションを探すなら向いている。担当者のレベルが高く、キャリア相談の質が他社と違うと感じる人も多い。年収アップを狙った転職を考えているなら、JAC Recruitmentを押さえておきたい。

リクナビNEXT──スカウトで自分の市場価値を知る

プロフィールを登録しておくと、企業やエージェントからスカウトが届くタイプのサービスだ。「今の自分にどんなオファーが来るのか」を確認するだけでも使う価値がある。転職を急いでいない段階でも登録しておけば、自分の市場価値を客観的に把握できる。まず現在地を知りたいなら、リクナビNEXTのスカウト登録から始めるといい。

マーケター向けにもう少し具体的な選び方を知りたい人は、マーケター転職エージェントおすすめ6選にまとめてある。職種が近い人はこちらも見てほしい。

こんな人は、退職代行を使う価値がある

  • 上司や会社の人間と話すこと自体が、精神的に限界に来ている
  • 退職を切り出したが引き止められ、身動きが取れなくなっている
  • パワハラ・ハラスメント環境で、直接話すことにリスクを感じる
  • 有給が残っているのに、消化させてもらえそうにない
  • 未払い残業代など、会社に対して法的に主張したいことがある

こんな人は、自分で対応できると思う

  • 上司との関係が普通にあり、話し合える余地がある
  • 退職の意思は固まっているが、感情的な問題はそれほどない
  • 引き継ぎをしっかりやりたい、という気持ちがある

退職代行は「逃げるためのサービス」ではなく、「プロセスを合理化するサービス」だ。使うかどうかは、自分の状況と、心身にかかっているコストで判断すればいい。どちらを選んでも、辞めるという決断そのものを責める必要はない。

よくある質問

Q. 退職代行を使うと、会社から損害賠償を請求されますか?

基本的にはない。退職は労働者の権利であり、それを行使したことで損害賠償が認められるケースはほぼないとされている。ただし、無断欠勤が続いていたり、引き継ぎを一切拒否したりした場合は、別の問題が生じる可能性がある。不安な場合は弁護士型のサービスを選ぶと安心だ。

Q. 即日退職は本当に可能ですか?

条件による。有給が残っていて即日から消化する場合、または会社が即日退職に同意した場合は可能だ。法律上は2週間の予告期間があるため、有給がない場合や会社が拒否した場合は、即日退職が難しいこともある。

Q. 退職後、失業保険はもらえますか?

退職理由による。自己都合退職の場合は給付制限期間があるが、パワハラや労働環境の問題が原因の場合は、制限なしで受給できる可能性がある。詳しい条件はハローワークで相談するのがいい。

Q. 退職代行を使ったことは、転職先にバレますか?

通常はバレない。退職方法を転職先に開示する義務はなく、前職から転職先に伝わることも基本的にない。

Q. モームリは今でも使えますか?

報道によると、現在も営業は続いているとされる。ただ、本文で触れたように、運営体制をめぐって深刻な問題が報じられたサービスだ。運営主体が透明で、労働組合や弁護士が関与しているサービスは他にもあるので、ぼくとしてはそちらから選ぶことを勧めたい。

おわりに──辞めるのは、迷惑ではない

退職は、感情的に重くなりやすい出来事だ。でも、法律のうえではシンプルな契約の解除でしかない。ぼくがあのとき一番きつかった「周りに迷惑をかける」という感覚も、辞めてしまえば、ほとんどが自分の中だけの重さだったと気づいた。

退職代行は、その重さを事務的に処理するための道具だ。精神的に限界が来ているなら、使う価値は十分ある。使わなくていいなら、使わなくていい。どちらでもいい。ただ、モームリの一件が教えてくれたのは、運営主体が透明か、労働組合や弁護士が関与しているかを確認してから選ぶ、という当たり前の一手間の大切さだった。

そして、辞めると決めたら、次のルートを早く動かすこと。転職サービスへの登録は無料で、今すぐできる。次の選択肢を確保してから辞めるほうが、心に余裕が生まれる。ぼく自身が、それを何度も実感してきた。

「辞めたい。でも、次にどう動けばいいのかわからない」。そう感じているなら、まずはマーケターキャリアタイプ診断(無料・10問)で、自分がどういう動き方に向いているのかを知るところから始めてもいい。動き出すきっかけは、小さくていい。

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