よそおいの話

なぜインドアゴルフ練習場は増えたのか|市場が縮んでいるのに、施設が増える理由

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ぼくが新人のころ、ゴルフの練習といえば打ちっぱなししかありませんでした。郊外の広い土地に、緑のネットが張ってある、あの施設です。ところがいま、街なかにインドアの練習場が次々にできています。結論から書きます。これは流行ではなく、ゴルフという商品の売り方が構造的に変わった結果です。しかも面白いことに、市場全体は激しく縮んでいます。縮んでいるのに、施設は増えている。ここに理由があります。

ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、市場の構造を見る仕事をしてきました。広告屋の目で、この現象を解剖します。

まず、数字を見る

感覚の話をする前に、事実を置きます。全日本ゴルフ練習場連盟が2023年に発表したデータでは、施設数はこうなっています。

施設数 前年比
屋外練習場(打ちっぱなし) 2,322件 42件の減少
インドア練習場 1,518件 196件の増加

屋外が減り、インドアが増えている。しかも増減の幅が違います。減っている数の4倍以上のペースで、インドアが増えています。

そして、もっと衝撃的なのが利用者数です。練習場の利用者は、ピークだった1993年の2,020万人から、450万人にまで減っています出典:東京新聞)。30年で4分の1以下です。

普通に考えれば、市場が4分の1になったら、施設は減ります。実際、屋外は減っています。それなのに、インドアだけが増えている。ここが、この記事で解きたい問いです。

理由①:土地というコスト構造から降りた

いちばん大きいのは、ビジネスモデルの違いです。

打ちっぱなしは、広大な土地が要ります。ボールが200ヤード以上飛ぶので、それだけの奥行きが必要です。つまり郊外にしか作れず、地価と固定資産税を常に払い続ける構造になっています。さらに、ネットの張り替え、照明の電気代、ボールの回収と洗浄、人件費。維持費が重い。

インドアはここを全部捨てました。シミュレーターを使うことで、必要なのは数メートルの奥行きだけになります。すると、ビルの一室で成立する。駅前でも、テナントの空きスペースでも作れます。

マーケティングの言葉にすると、これはコスト構造の転換です。同じ「ゴルフの練習」という価値を、まったく違う原価構造で提供している。だから、市場が縮んでいても新規参入できます。市場が小さくなったのではなく、小さい市場でも成り立つ形に作り替えたわけです。

理由②:時間という最大の障壁を外した

ゴルフが敬遠される最大の理由は、下手であることではありません。時間がかかりすぎることです。

1ラウンドは移動込みで一日仕事です。練習に行くにも、郊外まで車で往復して、打って、帰る。半日は消えます。共働きが当たり前になり、男性も家事や育児を担うようになった時代に、この時間の使い方は続けにくい。実際、東京新聞の記事でも、若い世代が趣味として継続しづらくなっている点が挙げられています。

インドアは、ここを解きました。駅前にあるので移動が要らず、24時間営業の施設なら、深夜でも早朝でも30分だけ寄れます。仕事帰りに1時間、という使い方ができる。

売っているものが変わっています。打ちっぱなしが売っていたのは「広い場所で思い切り打つ体験」でした。インドアが売っているのは「すきま時間に練習できる利便性」です。同じゴルフの練習でも、価値の中身が違います。

理由③:無人化で、損益分岐点を下げた

もうひとつ、経営側の事情があります。多くのインドア施設は、無人で運営されています。

入会も退会もWebで完結し、入館は会員証やアプリで管理し、スタッフは常駐しません。すると人件費がほぼ消えます。24時間営業ができるのも、人がいないからです。人がいる前提なら、深夜に開ける判断はできません。

ここが巧みなところで、無人化はコスト削減と、営業時間の拡大を同時に実現しています。普通、コストを削ると提供価値も下がりますが、この場合は逆に「いつでも使える」という価値が増えています。

打ちっぱなし インドア
必要な土地 広大(郊外) 数メートル(駅前可)
営業時間 有人・限定的 無人・24時間が可能
売っている価値 思い切り打てる体験 すきま時間に練習できる利便性
固定費 重い(土地・人・照明) 軽い(テナント・設備)
1店舗の必要客数 多い 少なくて成立する

理由④:コロナ禍が、需要の形を変えた

そして決定打がコロナ禍です。あの時期、ゴルフは特殊な位置にありました。屋外で、距離を取って歩く競技だったため、数少ない「やっても大丈夫なもの」として残ったのです。

旅行にも飲み会にも使えなかったお金と時間が、ゴルフに向かいました。実際、この時期に若年層の参加が増えたと言われています。ぼく自身、ゴルフを再開したのはコロナ禍でした。

ここで重要なのは、新しく入ってきた層が、昔からのゴルファーとは違う人たちだったという点です。若く、都市部に住み、時間がなく、そして人目を気にする。この層に、郊外の打ちっぱなしは合いませんでした。需要の中身が変わったから、供給の形も変わった。順番はこちらです。

理由⑤:「見られたくない」という感情を設計に入れた

最後に、いちばん見落とされがちな点を挙げます。多くのインドア施設は、半個室のブースになっています。

これは技術の都合ではありません。感情の設計です。ゴルフを始めたばかりの人にとって、いちばん嫌なのは下手なスイングを人に見られることです。打ちっぱなしは、両隣に上級者がいて、後ろも通ります。

ここに矛盾があります。下手な時期こそ練習が必要なのに、下手な時期がいちばん見られたくない。この矛盾が、初心者を練習場から遠ざけていました。

半個室は、この心理的障壁を物理的に解いています。広告の仕事をしていて痛感するのは、人が動かない理由は、能力よりも恥ずかしさであることが多いということです。恥ずかしさを取り除くと、行動が変わります。ここを設計に入れているのが、いちばん巧いところだと思います。

広告屋から見た、この事例の学び

ぼくがこの現象から受け取ったのは、次の一点です。市場が縮んでいることと、事業が成立しないことは、別の話だということ。

利用者が4分の1になった市場で、新規出店が続いています。可能にしたのは、需要を掘り起こしたからではありません。縮んだ市場のサイズに合う原価構造を作ったからです。

これは、どの業界でも起きています。市場が縮んだとき、多くの企業は需要を戻そうとします。でも、たいてい戻りません。戻すより、その規模でも黒字になる形に作り替えるほうが早い。インドアゴルフは、そのお手本のような事例です。

そして、削ったのはコストだけではありません。時間の負担と、恥ずかしさも一緒に削っています。だから、以前は来なかった層が来ています。

ぼく自身、インドアのほうが続いています

最後に、実感を書いておきます。ぼくはゴルフを2回始めていて、新人のころと、コロナ禍のときです。どちらも先輩に誘われたのがきっかけでした。

そして独立してから分かったのは、決まった時間に出かける前提の習慣は、生活が不規則になると続かないということでした。締切も打ち合わせも読めないので、打ちっぱなしに行く時間が確保できません。

その意味で、24時間営業のインドア施設は、独立している人と相性がいいと思っています。FiT24インドアゴルフのようなセルフ型の施設は、年中無休で24時間開いていて、入退会もWebで完結します。打席の予約もスマホでできて、シミュレーターでスイングが数値化されます。料金は店舗によりますが、ゴルフ会員で月13,200円ほど、ジムとの併用プランもあります。

ゴルフが人脈に効くのは事実ですが、それは接待だからではありません。半日一緒にいると、会議室では出てこない話が出てくるからです。この話は独立してわかった「人脈が全て」の現実にも書きました。

よくある質問

なぜインドアゴルフ練習場が増えているのですか

市場が縮んでも成立する原価構造に作り替えられたためです。シミュレーターによって必要な土地が数メートルで済むようになり、郊外の広大な用地が不要になりました。さらに無人運営で人件費を抑え、24時間営業を可能にしています。屋外練習場が前年比42件減の2,322件である一方、インドアは196件増の1,518件となっています。

ゴルフ人口は減っているのですか

大きく減っています。練習場の利用者数は、ピークの1993年に2,020万人でしたが、近年は450万人程度まで落ち込んでいます。30年で4分の1以下です。それでもインドア施設が増えているのは、少ない利用者数でも黒字になる形に事業モデルが変わったからです。

打ちっぱなしとインドア、どちらがいいですか

目的で選ぶといいです。実際の弾道や飛距離を確かめたいなら屋外が向いています。生活が不規則で時間が読めない場合や、人目を気にせず練習したい場合はインドアが向いています。売っている価値が「思い切り打つ体験」と「すきま時間の利便性」で異なると考えると、選びやすくなります。

コロナ禍はゴルフ市場にどう影響しましたか

屋外で距離を取れる競技だったため、活動が制限された時期に選ばれやすくなりました。旅行や外食に使えなかった時間とお金が流れ込み、若年層の参加が増えたと言われています。この新しい層が都市部在住で時間が少なかったことが、インドア施設の需要につながっています。

まとめ

インドアゴルフ練習場が増えたのは、ブームだからではありません。縮んだ市場に合わせて、原価構造ごと作り替えたからです。土地を捨て、人を置かず、駅前の小さな区画で成立させた。

そして削ったのはコストだけではありませんでした。移動時間と、下手なところを見られる恥ずかしさも、一緒に取り除いています。だから、これまで練習場に来なかった層が来ています。

市場が縮んでいることと、事業が成立しないことは別の話です。需要を戻そうとするより、その規模でも回る形に変えるほうが早い。ゴルフの練習場という地味な業界に、その答えが出ていました。

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