よそおいの話

「TikTok売れ」の正体|発見型消費とアルゴリズム時代のヒット設計

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「TikTok売れ」とは何か

「TikTok売れ」とは、生活者が自分から探しにいかなくても、おすすめのフィードで偶然出会った商品やコンテンツが爆発的に売れる現象のことです。結論から書くと、これは運のいいバズではなく、発見型消費という新しい買い方に、レコメンドアルゴリズムという装置が噛み合った結果です。1989年に出た筒井康隆さんの小説「残像に口紅を」が、2021年に一人のクリエイターの30秒動画をきっかけに8万5000部も緊急重版された話を、ぼくは今も忘れられません(Business Insider Japan)。30年間動かなかった本が、数週間で動いた。ここには、ヒットの作られ方そのものが変わった証拠がつまっています。

ぼくは博報堂で13年、そのあとアクセンチュアで5年、広告とメディアの設計を仕事にしてきました。その目線で言うと、「TikTok売れ」はマーケティングの教科書が一章まるごと書き換わったくらいの事件だと思っています。この記事では、なぜアルゴリズムの時代にヒットの作られ方が変わったのかを、できるだけ構造で解きほぐしていきます。

そもそも、どれくらいの規模の現象なのか

「TikTok売れ」は一過性のブームではなく、すでに巨大な経済圏になっています。TikTokの日本の月間アクティブユーザー数は、2025年11月時点で4,200万を突破しました。2022年の2,120万から、およそ3年で2倍です(TikTok Newsroom日本経済新聞)。日本人のおよそ3人に1人が使っている計算になります。

金額の話もしておきます。TikTokが2026年6月に発表した経済効果レポートによると、2025年にTikTok経由で生まれた推定消費額は3,468億円(前年比プラス46パーセント)、国内名目GDPへの貢献は6,800億円、支えた雇用は5万2000人でした(TikTok Newsroom)。この3,468億円という数字は、日本レコード協会が示す国内音楽市場のオーディオ・映像パッケージ規模とほぼ同じ水準です。ひとつのアプリがつくり出す消費が、音楽市場ひとつぶんに並んだ。そう考えると、規模の大きさが少しだけ肌でわかる気がします。

なぜアルゴリズムの時代にヒットの作られ方が変わったのか

ヒットの構造が変わった一番の理由は、情報の流れが「プッシュ型」から「プル型」へ、さらに「発見型」へと重心を移したからです。プッシュ型とは、企業がテレビCMや広告で一方的に情報を届ける売り方のこと。プル型とは、生活者が検索やSNSで自分から情報を引き寄せる売り方のことです。

ぼくが博報堂に入ったころ、ヒットは基本的にプッシュでつくるものでした。大量の広告費を投下して、一週間で認知を立ち上げて、店頭に山積みする。テレビの前にみんながいた時代は、それで数字が動きました。でも、テレビの視聴が分散して、生活者が検索で必要な情報を自分で取りにいくようになると、プル型の設計が主役になっていきます。SEOやコンテンツマーケティングが伸びたのは、この流れの中でのことでした。

そして今、その先で起きているのが発見型です。生活者はもう「探す」ことすらしていません。おすすめのフィードを眺めているうちに、探してもいなかったものに出会って、気づいたら買っている。プッシュのように押しつけられたのでもなく、プルのように自分で探したのでもない。この中間にあるのが、TikTokがつくった買い方です。

観点 従来型(プッシュ/プル)のヒット TikTok型(発見型)のヒット
きっかけ 企業からの広告、または生活者の検索 おすすめフィードでの偶然の遭遇
情報の流れ 企業が届ける/生活者が探しにいく アルゴリズムが「合いそうな人」に配る
ヒットの主導権 予算を持つ企業側 反応した生活者とアルゴリズム側
広がり方 認知を一気に立ち上げる(面で買う) 反応の連鎖で後から広がる(点から燃える)
寿命 広告出稿が止まると急速に冷える 過去のものが何年後でも突然よみがえる
コスト構造 大量の広告費が前提 予算ゼロでも着火しうる/読めない

発見型消費(ディスカバリー消費)とは何か

発見型消費とは、目的を持って探した結果ではなく、偶然の出会いから生まれる消費のことです。英語ではディスカバリー消費とも呼ばれます。ポイントは、生活者の頭の中に「欲しいもの」が最初から存在していない点にあります。

従来のマーケティングは、ニーズを前提にしていました。喉が渇いた人にお茶を売る。転職を考えている人に求人を届ける。つまり、すでにある欲求をどう満たすかの勝負でした。ところが発見型では、欲求そのものをその場でつくり出します。小説なんて何年も読んでいなかった中高生が、たまたま流れてきた30秒の紹介動画で「読みたい」という気持ちを、その瞬間に生まれさせられる。需要を満たすのではなく、需要を発生させる。ここが決定的に新しいところだと、ぼくは思っています。

TikTokが従来のプラットフォームと違うのは、フォロー関係を飛び越えて配信されることです。あるクリエイターはこう説明していました。YouTubeはサムネイルとタイトルを見てクリックして初めて見てもらう形式だから、もともと興味がある人にしか届かない。でもTikTokはおすすめ欄にランダムで流れてくる仕様だから、これまで興味がなかった層にも届く、と(ねとらぼ)。フォロワーが少なくても、内容さえよければアルゴリズムが「合いそうな人」に配ってくれる。この「関心の壁を越えて配られる」性質こそ、発見型消費のエンジンです。

「探す検索」から「出会う検索」へ

発見型消費と対になって進んでいるのが、検索行動の変化です。若い世代にとって検索は、もはやGoogleに言葉を打ち込むことだけを意味しなくなっています。

実際、若年層はファッション・美容・料理・お出かけ先といった生活まわりの情報を、TikTokやInstagramで探す傾向が強まっています(ITmedia マーケティング)。文字で調べるより、実際に使っている人の動画を見たほうが早いし、雰囲気まで伝わるからです。Z世代のTikTok利用率は2025年で52.8パーセントと、すでに二人に一人が使う道具になっています(サイバーエージェント)。

ここで起きているのは、検索の主語の入れ替わりです。従来の検索は「自分が探す」行為でした。これからの検索は「向こうから出会う」体験に近づいています。ぼくはこれを、能動の検索から受動の検索へのシフトだと捉えています。生活者は「答え」を探しているのではなく、「まだ知らないいいもの」に出会いたがっている。この気分の変化に気づけるかどうかで、これからのマーケティングの打ち手はかなり変わってくると思います。

なぜ過去の曲が突然ヒットするのか

発見型消費のいちばんわかりやすい証拠が、楽曲の再ヒットです。TikTokの時代のヒットは、発売日という時間の軸から切り離されています。何年前の曲でも、いま誰かの体に響けば、いまのヒットになる

2025年には、Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」が年間総合チャートのJAPAN Hot 100で首位を取っただけでなく、「ダーリン」「ケセラセラ」「青と夏」といった過去の曲までトップ10に並びました。海外でも、コニー・フランシスさんが1962年に録音した「Pretty Little Baby」がTikTokでの広がりをきっかけによみがえり、Spotifyで1億3000万回以上再生され、Billboard Global 200に5週ランクインしています(TikTok Newsroom)。60年以上前の曲が、いまの世界的ヒットになる。従来のヒットチャートの常識では、ちょっと考えられなかったことです。

なぜこんなことが起きるのか。理由は、TikTokでは楽曲が「作品」ではなく「素材」として流通するからです。人は曲を聴くために動画を見ているのではなく、踊ってみたやネタ動画をつくるための音として曲を使います。使いやすいテンポ、覚えやすいサビ、短く切り取れる15秒。これらの条件がそろった曲は、発売年に関係なく、生活者の手で無数のUGC(生活者が自分でつくる投稿)に加工され、そのたびに新しい人の耳に届きます。ハッシュタグはその素材を束ねる棚の役割を果たし、同じ音を使った投稿が一か所に集まって、さらに次の作り手を呼び込む。作品を届けるのではなく、素材を配って参加してもらう。この構造が、時間を無効にするのです。

「TikTok売れ」は書籍やコスメでも起きている

「TikTok売れ」は音楽だけの話ではありません。むしろ、この言葉が広まったきっかけは書籍でした。冒頭で触れた「残像に口紅を」は、あるクリエイターが本の魅力を短くまとめて紹介したことで在庫が各通販サイトで切れ、緊急重版がかかりました(Real Sound)。同じクリエイターは、紹介した小説が10万部以上増刷されたこともあると語っています(ねとらぼ)。

コスメや食品でも構造は同じです。使ってみた動画、ビフォーアフター、正直なレビュー。派手な広告ではなく、等身大の生活者の実演が、次の生活者の「試したい」を生む。TikTokの調査では、週1回以上使う人のうち、紹介された観光地を実際に訪れた人が33.5パーセント、紹介された映画を映画館で観た人が29.0パーセントにのぼりました(TikTok Newsroom)。見て終わりではなく、体を動かして買いにいく人が3割前後いる。この数字の大きさが、「TikTok売れ」が現象ではなく行動になったことを物語っています。TikTok Shopが2025年に日本で始まったのも、この「発見して、その場で買う」流れをアプリの中で完結させるためでした。

バイラルは本当に「設計」できるのか

ここまで読むと、では狙ってバズを起こせるのか、という問いが浮かぶはずです。ぼくの答えは、着火の瞬間は読めない。でも、燃えやすい状態はつくれる、です。

広告の仕事をしていた身として正直に書くと、どの動画がいつ跳ねるかを事前に当てるのは、ほぼ不可能です。アルゴリズムの反応は、こちらの都合では動きません。でも、燃え広がりやすい条件を整えることはできます。ぼくが「TikTok売れ」の事例を並べて見えてきたのは、次のような共通点でした。

  • 参加の余白があること。完成された作品より、真似したくなる・使いたくなる素材のほうが広がる。踊れる、語れる、突っ込める隙間を残す。
  • 最初の3秒で気持ちが動くこと。フィードは一瞬で流れる。説明から入らず、いちばん引きの強い一点を頭に置く。
  • 生活者の言葉で語られること。企業の宣伝文句ではなく、一人の人間の実感。だからこそ次の人が信じて、自分の言葉で語り直す。
  • 過去の在庫を捨てないこと。時間が無効になる世界では、古い商品もコンテンツも、いつでも再起動しうる資産になる。

つまりバイラル設計とは、着火装置を押すことではなく、火がついたときに一気に燃え広がる薪を、あらかじめ乾いた状態で積んでおくことだと思っています。狙って着火はできない。でも、着火したときの延焼のしやすさは、設計の問題です。

広告屋から見た「TikTok売れ」の正体

最後に、メディアプランニングの目線でこの現象を一段抽象化しておきます。「TikTok売れ」の本質は、ヒットの主導権が、予算を持つ企業側から、反応する生活者とアルゴリズムの側へ移ったことです。

かつてのメディアプランは、お金でリーチを買う仕事でした。いくら払えば何人に届くかを設計し、届いた数がそのまま結果に近かった。でも発見型の世界では、届ける先を企業が決めきれません。誰に配るかを決めているのは、生活者の反応を見たアルゴリズムです。だからこの世界では、お金でリーチを買う発想の手前に、「アルゴリズムに配りたくなる素材をつくる」という発想が要ります。ちなみに、日本国内でTikTokに広告を出す企業はすでに48万社を超えていますTikTok Newsroom)。それだけの企業が、この新しい配られ方に賭けているということです。

アクセンチュアにいたころ、ぼくはデータで意思決定を最適化する仕事をたくさんやりました。その経験から言えるのは、アルゴリズムは万能の魔法ではなく、生活者の反応を映す鏡だということです。鏡に映って増幅されるのは、結局のところ、人の心を動かした一点だけ。だから「TikTok売れ」の時代になっても、マーケターがやることの根っこは変わっていないと、ぼくは思っています。変わったのは、その一点を誰が見つけて、どう広げるかの経路のほうです。企業が全部コントロールする時代は終わって、生活者と一緒につくる時代になった。ぼくはこの変化を、こわいと思うより、おもしろいと思っています。

マーケターがここから持ち帰れること

「TikTok売れ」を追いかけると、TikTokをどう攻略するかという運用の話に落ちがちです。でも、ぼくがいちばん大事だと思っているのは、その手前にある考え方の転換のほうです。

需要を満たす発想から、需要を生む発想へ。作品を届ける発想から、素材を配って参加してもらう発想へ。企業がコントロールする発想から、生活者と一緒に広げる発想へ。この3つの転換は、TikTokをやらない人にも効きます。自分のキャリアやスキルをどう世に出すかという、セルフブランディングの話にもそのまま応用がききます。自分という商品を、探されるのを待つのではなく、誰かのフィードに偶然出会わせる。そのために、真似したくなる余白のある発信をする。考え方の骨は、まったく同じです。

マーケターとしての市場価値や、これからのキャリアの立て方については、よそおいのブログのキャリア記事のほうでもぼくの実体験を書いています。ヒットの作られ方が変わった時代に、自分の価値の見せ方をどう更新するか。よかったら、そちらもあわせて読んでもらえたら嬉しいです。

よくある質問

「TikTok売れ」と従来のバズは何が違うのですか

従来のバズは、話題になって一時的に注目が集まる現象を指すことが多いです。「TikTok売れ」は、その注目が実際の購買や来店、増刷といった行動にまで結びつく点が違います。TikTokの調査では、紹介された観光地を実際に訪れた人が週1回以上利用者の33.5パーセントいました(TikTok Newsroom)。見て終わらず、体が動くところまでいくのが特徴です。

なぜ古い商品や過去の曲まで売れるのですか

TikTokのおすすめフィードは、発売時期に関係なく「いま合いそうな人」にコンテンツを配るからです。時間の軸から切り離されているため、何年前のものでも、いま誰かの反応を得れば、いまのヒットになります。1962年録音の曲が2025年に世界的ヒットになった例もあります(TikTok Newsroom)。

企業は「TikTok売れ」を狙って起こせますか

着火の瞬間を狙って当てるのは、正直かなり難しいです。ただ、燃え広がりやすい状態はつくれます。真似したくなる余白を残す、最初の3秒で気持ちを動かす、生活者の言葉で語る。この条件を整えておくと、着火したときの広がり方が変わります。

フォロワーが少なくても「TikTok売れ」は起こせますか

起こせます。TikTokはフォロー関係を越えておすすめフィードに配信される仕様のため、フォロワーが少なくても内容がよければ広く届きます。実際、「残像に口紅を」の再ヒットも、大量の広告費ではなく一本の紹介動画から始まりました(Business Insider Japan)。

BtoBの商材でも発見型消費の考え方は使えますか

使えます。BtoBでも、意思決定する人は一人の生活者です。売り込みの資料より、実際に使った人の等身大の声のほうが信じられます。需要を満たすのではなく、まだ気づかれていない課題に「出会わせる」発信を設計する。この考え方は、業種を問わず効くとぼくは思っています。

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