先に、いちばん大事なことを書きます。ゲームが好きだから、という理由は、ゲーム業界への転職ではほとんど武器になりません。好きな人は山ほどいるからです。評価されるのは、好きの中身を分解して、なぜ人がそれに夢中になるのかを、他人に説明できる人です。
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年働き、40歳でtiny合同会社を設立しました。ゲーム会社にいたことはありません。それでもこの記事を書くのは、ゲーミフィケーションをマーケティングに取り込むことを長くやってきて、ゲームのPRにも数多く関わってきたからです。作る側ではなく、外から関わってきた立場だからこそ見えることを書きます。
ゲーム業界には、二つの入口がある
ゲーム業界に転職する、と言うとき、実は行き先が二つに分かれています。ここを混ぜると、自分がどこを狙うべきか分からなくなります。
ひとつは作る側です。プランナー、ゲームデザイナー、エンジニア、イラストレーター、サウンド、シナリオ。ゲームそのものを設計し、実装する人たちです。ここは専門スキルの世界で、多くはポートフォリオや制作実績で評価されます。
もうひとつは届ける側です。マーケティング、プロモーション、事業開発、コミュニティ運営、IP管理。作られたゲームを、どうやって人に届け、遊び続けてもらうかを担う人たちです。異業種のマーケターやビジネス職が移りやすいのは、ほぼ確実にこちら側です。
この記事は、後者の話です。前者は、正直ぼくが語れる領域ではありません。自分が入れる入口を最初に見極める。これが最初の一歩です。
いま、ゲーム会社は「届ける人」を欲しがっている
理由を説明します。ゲームは、作る難しさより、売り続ける難しさのほうが大きくなった業界だからです。
かつては、いいゲームを作れば売れました。いまは、毎日おびただしい数の新作が出て、その大半が誰にも気づかれないまま消えていきます。作る力があっても、届ける力がなければ、存在しないのと同じです。とくにスマホゲームは、リリースがゴールではなく、そこから数年、遊び続けてもらう運用がすべてです。
これは、マーケターにとって追い風です。ゲーム会社が外から採りたいのは、まさに「人に届け、続けてもらう」設計ができる人だからです。広告運用、ブランディング、CRM、コミュニティ設計。どれも、業界の外で鍛えられたスキルがそのまま効きます。ゲームが作れなくても、ゲームを売れる人には、席があります。
ゲーミフィケーションをやってきた人は、実は近いところにいる
ここが、ぼくがいちばん伝えたいところです。
ぼくはずっと、ゲームの発想をマーケティングに取り込むことをやってきました。人はなぜ、意味もなくスタンプを集めてしまうのか。なぜ、あと一歩でレベルが上がるとやめられないのか。なぜ、ランキングに名前が載るだけで頑張れるのか。ゲームが人を動かす仕組みを分解して、それを商品やキャンペーンの設計に持ち込む。それがぼくの仕事の一部でした。
この経験を通して分かったのは、ゲーミフィケーションを扱える人は、ゲーム業界のマーケと地続きだということです。やっていることの本質が同じだからです。人の行動を、内側から動かす仕組みを設計している。対象がキャンペーンかゲームかの違いでしかありません。
だから、もしあなたがマーケティングの現場で、報酬設計や継続の仕組みを考えてきたなら、それはゲーム業界で通じる言語を、すでに話しているということです。「ゲームが好き」より、この経験のほうが、面接ではるかに強い。人の夢中を設計できることの、具体的な証拠になるからです。この考え方の背景はファンエコノミーの記事にも書きました。
外からゲームのPRをやって見えた、内と外の温度差
広告代理店の側から、ゲームのプロモーションに数多く関わってきました。そこで見えたのは、作っている人と、遊んでいる人のあいだにある、大きな温度差です。
作り手は、細部に膨大な時間をかけます。数フレームの動きや、効果音の一音に、本気で悩みます。その情熱は本物です。ただ、その情熱が、そのまま遊び手に伝わるわけではありません。遊び手が反応するのは、最初の数十秒で「面白そう」と感じるかどうか、ただそれだけのこともあります。
外から関わる人間の仕事は、この温度差を埋めることでした。作り手が込めた価値のうち、遊び手に伝わる形になっているものを見つけ、伝わっていないものを翻訳する。これは、外にいたからできた仕事です。中にいると、自分たちの熱量が当たり前になって、外からどう見えるかが分からなくなるからです。
だから、異業種から入る人の価値は「業界を知らないこと」の裏返しでもあります。遊び手にいちばん近い目を、まだ持っている。それは、中にいる人が失いがちなものです。この「外から入る強み」の話は、広告代理店から事業会社への転職記事とも通じます。
ゲームが好きなだけの人が、つまずくところ
逆のことも正直に書きます。ゲームが好きという気持ちだけで入ると、たいてい二つのところでつまずきます。
ひとつは、好きなことと、売れる設計は別だという現実です。自分が面白いと思うものと、多くの人がお金を払うものは、しばしば一致しません。マーケの仕事は、自分の好みを一度脇に置いて、数字と向き合うことです。ここで「自分ならこう作る」が強すぎる人は、届ける側では苦しみます。
もうひとつは、遊ぶ側と作る側は、まったく違う体力を要求されるということです。好きなゲームを、締め切りに追われながら、数字目標を背負って毎日触る。それは趣味とは別物です。好きだったものが仕事になったとき、なお好きでいられるか。ここは、入る前に自分に正直に問うべきところです。
この二つを踏まえたうえで、それでも人の夢中を設計したいなら、向いています。好きは入口の動機でよくて、武器にするのは別のものだ、と切り分けられる人が続きます。
ゲーム業界の職を、どこで探すか
ゲーム業界は、求人の探し方にコツがあります。魅力的なポジションほど、一般の転職サイトに出てこないからです。未発表タイトルのチーム増員や、人気作の運用拡大は、表に出せない情報として動きます。だから、業界に特化して、非公開の枠を握っている窓口を通すほうが早いです。
ゲーム・エンタメ業界に特化しているのがAnyKan(エニカン)です。
2006年から続くエージェントで、担当のコンサルタントに元ゲーム開発者や業界経験者が多いのが特徴です。これは、外から入る人間にとって地味に効きます。業界の常識や、会社ごとの文化を、前提から説明してもらえるからです。求人の多くが非公開で、クリエイター職からデスクワーク寄りのビジネス職まで扱っています。マーケやプロモの枠を探すなら、こういう業界特化の窓口が向いています。
正社員の求人を幅広く見たいなら、転職ボックスもあります。IT・ゲーム業界の正社員求人を扱っていて、まず市場にどんなポジションがあるのかを俯瞰する用途に向いています。特化エージェントで深く相談する前に、全体像をつかんでおくと、話が具体的になります。
ここまでは「届ける側」の話でした。もし未経験から「作る側」、つまりIT・エンジニア職を目指すなら、入口が変わります。ユニゾンキャリアは、IT・Web・ゲーム業界の未経験転職に特化していて、無料のITスクールを併設しているのが特徴です。学びながら転職活動を進められる設計なので、実務経験がまだない状態からでも始められます。ぼくは作る側を語れる立場ではありませんが、そこを目指す人のために、入口だけは示しておきます。ただしSES寄りの求人も含まれるので、どんな案件に就くことになるのかは、面談でしっかり確認してください。
どちらを使うにしても、共通して効くのは、自分の経験を「人の夢中を設計してきた実績」として語れる形に整えておくことです。職務経歴書の書き方はマーケター向けの職務経歴書の記事にまとめました。ゲーミフィケーションの実績があるなら、それを数字とセットで書けると、業界未経験でも読み手の見る目が変わります。
よくある質問
ゲーム業界未経験でも、マーケティング職に転職できますか
できます。むしろゲーム会社は、ゲームを作れる人より「作ったゲームを届け、遊び続けてもらう」設計ができる人を外から採りたがっています。広告運用、ブランディング、CRM、コミュニティ設計といった、業界の外で鍛えたスキルはそのまま通用します。ゲーム制作の経験がないことは、届ける側なら大きな障害になりません。
ゲームが好きなことは、転職で有利になりますか
好きなだけでは有利になりません。同じくらい好きな人が大勢いるからです。有利になるのは、なぜ人がそのゲームに夢中になるのかを分解して説明できることです。好きは動機として持っておき、面接で語るのは、人の行動をどう動かしたかという具体的な実績にしてください。
ゲーミフィケーションの経験は、ゲーム業界で評価されますか
評価されます。ゲーミフィケーションは、ゲームが人を動かす仕組みをマーケティングに応用するものなので、やっていることの本質がゲーム業界のマーケと同じです。報酬設計や継続の仕組みを考えてきた経験は、業界で通じる言語をすでに話しているのと同じで、未経験からの転職でも強い材料になります。
ゲーム業界の求人は、普通の転職サイトで見つかりますか
一部は見つかりますが、魅力的なポジションほど表に出てきません。未発表タイトルのチーム増員や人気作の運用拡大は、非公開情報として動くためです。ゲーム・エンタメ業界に特化して非公開求人を扱うエージェントを併用すると、選択肢が大きく広がります。
ゲーム業界のマーケティング職は、給与水準が高いですか
会社と職種によって幅がありますが、ヒットタイトルを抱える会社や、運用型のゲームで成果を数字で示せるポジションは、他業界のマーケ職と比べても遜色ない、あるいは上回る水準があります。売上に直結する運用マーケほど、成果が待遇に反映されやすい傾向です。
まとめ
ゲーム業界への転職は、ゲームが好きかどうかで決まりません。ゲームの何が人を動かすのかを、他人に説明できるかどうかで決まります。
もしあなたが、マーケティングの現場で人の夢中を設計してきたなら、それはゲーム業界がいま最も欲しがっている力です。ぼくがゲーミフィケーションを通じて実感したのは、その力が、対象を変えても通用するということでした。ゲームを作れなくても、ゲームを届けられる人には、席があります。
好きを入口にして、武器は別に用意する。その切り分けができたとき、業界の外にいたことは、弱みではなく強みに変わります。