マーケの目

フレーミング効果とは?日常とマーケの例、アジア病気問題をわかりやすく

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最終更新:2026年10月12日

フレーミング効果とは、中身がまったく同じ情報でも、どの枠組み(フレーム)で見せるかによって受け手の判断が変わってしまう心理の傾向です。「1万人が使った」と「99%が選ばなかった」は、母数によっては同じ事実を言っています。それでも、読んだ人の気持ちは正反対に動く。結論から言えば、フレーミング効果は印象を盛るための技ではなく、自分がどちら側の事実に光を当てたかを確かめるための検算の道具です。種類の一覧、出典になったアジア病気問題、日常とマーケの例、使うときの線引きまで順に整理します。

フレーミング効果とは?3つの種類と言い換えの一覧

フレーミング効果とは、論理的には等しい二つの表現のあいだで、人の選択や評価が系統的にずれる現象です。うそは一つも入っていないのに、言い方を変えるだけで選ばれ方が変わる。そこがこの効果のやっかいなところです。

研究者のアーウィン・レヴィンらは1998年の論文で、フレーミング効果を3つの種類に整理しました。ひとまとめに語られがちですが、起きている心の動きはそれぞれ少しずつ違います。

種類 何を言い換えるか 典型的な研究・例 起きやすい反応
リスク選択フレーミング 確実な選択肢と賭けの選択肢を、「助かる」側と「失う」側のどちらで語るか トヴェルスキーとカーネマンのアジア病気問題(1981年) 得の言い方では確実なほうを、損の言い方では賭けのほうを選びやすい
属性フレーミング 商品や数字の一つの属性を、良い面と悪い面のどちらで表すか ひき肉の「赤身75%」と「脂肪25%」の比較(レヴィンとゲイス・1988年) 良い面で表したほうが評価が高くなりやすい
ゴールフレーミング 行動を「すれば得られるもの」と「しなければ失うもの」のどちらで促すか 乳がんの自己検診を促す説明文の比較(メイヤーウィッツとチェイケン・1987年) テーマによっては「しないと失う」のほうが行動につながる

実務の言葉に置き換えると、同じ事実の「言い換え」は次のように並びます。左と右で、中身は一つも変わっていません。

同じ事実 明るい側のフレーム 暗い側のフレーム
利用者数 1万人が使ったサービス 対象者の99%が選ばなかったサービス
天気予報 降水確率は30% 7割の確率で雨は降らない
治療や手術 成功率90% 10人に1人はうまくいかない
満足度調査 8割が満足と回答 5人に1人は満足していない
無料体験 7日間無料で試せる 8日目から料金が発生する

天気予報の行のように、どちらが「明るい」かは受け手の立場で入れ替わります。洗濯物を干したい人には「7割は降らない」が明るく、傘を売りたい店には「降水確率30%」のほうが商機に見える。フレームは情報の側ではなく、受け手の関心の側にかかっているものだと考えると整理しやすいと思います。

出典──トヴェルスキーとカーネマンの「アジア病気問題」(1981年)

フレーミング効果の出典は、エイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)とダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)が1981年に学術誌サイエンスに発表した論文「The Framing of Decisions and the Psychology of Choice」です。この論文で示された「アジア病気問題」が、いまもフレーミング効果の代表例として引かれ続けています。

設定はこうです。600人の死亡が見込まれる珍しい病気の流行に備えて、二つの対策のどちらかを選んでもらう。一つ目のグループには「助かる人数」で、二つ目のグループには「亡くなる人数」で、同じ内容を説明しました。

グループ 確実な対策 賭けの対策 確実な対策を選んだ割合
「助かる」で説明(152人) 200人が助かる 3分の1の確率で600人全員が助かり、3分の2の確率で誰も助からない 72%
「亡くなる」で説明(155人) 400人が亡くなる 3分の1の確率で誰も亡くならず、3分の2の確率で600人全員が亡くなる 22%

「200人が助かる」と「400人が亡くなる」は、600人という前提の上では同じ結果です。それなのに、助かる側で語られると72%が確実な対策を選び、亡くなる側で語られると確実な対策を選んだのは22%にとどまり、78%が賭けのほうへ移りました。人は得の話では手堅くなり、損の話では賭けに出やすい。この非対称は、二人が1979年に発表したプロスペクト理論の予測とぴったり重なります。

カーネマンは著書「ファスト&スロー」(早川書房、村井章子訳)でもこの実験を取り上げ、専門家であっても言い方に引っぱられることを紹介しています。数字に強い人ならだまされない、という話ではありません。人の判断が、最初に差し出された枠の中で行われてしまう性質そのものを示した実験です。

属性フレーミングの側では、アーウィン・レヴィンとゲイリー・ゲイスが1988年に、ひき肉を「赤身75%」と表示した場合と「脂肪25%」と表示した場合で評価を比べ、前者のほうが好ましく評価されることを示しました。1998年のレヴィンらの整理は、これらを「何が言い換えられているか」で3つに分けたものです。

アンカリング効果・損失回避との違いと使い分け

フレーミング効果は「同じ情報をどの枠で見せるか」、アンカリング効果は「最初に見せた数字が基準になる」、損失回避は「同じ大きさなら損のほうを強く感じる」という現象です。三つは混同されやすいのですが、動かしているレバーがそれぞれ違います。それぞれの詳しい例はアンカリング効果とは?例の一覧と原典の実験、価格表示での使い方と損失回避とは?損失回避バイアスの例とマーケでの使い方・悪用の線引きで書いています。

概念 動かしているもの マーケでの典型
フレーミング効果 事実の切り取り方・言い方 「成功率90%」と書くか「失敗率10%」と書くか
アンカリング効果 判断の基準になる最初の数字 定価を先に見せてから割引価格を出す
損失回避 得と損の感じ方の重さの差 「得します」より「損しません」と伝える

関係で言えば、損失回避はフレーミング効果がなぜ起きるかを説明する理屈の一つです。アジア病気問題で「亡くなる」と言われた人が賭けに出たのは、損の枠に入れられたとたん、確実な損を受け入れるのがつらくなったからでした。それぞれの効果を広告や価格の場面でどう見るかはマーケターが知っておくべき10個の心理学的法則で事例とあわせて紹介しているので、この記事ではフレーミングの「検算」としての使い方に絞ります。

もう一つ近いのが、特徴を便益に言い換える作業です。「容量1TB」を「写真が一生ぶん入る」と書き直すのは、事実の枠を商品の側から生活者の側に移す、広い意味でのフレーミングです。特徴・利点・便益の言い換えの型はベネフィットとメリットの違いの記事にまとめています。

実務での使い方──逆のフレームで書き直して検算する

フレーミング効果をいちばん安全に使う方法は、書いたコピーや資料の数字を、わざと逆のフレームで書き直して読み比べることです。「1万人が使った」と書いたら、「対象者の99%が選ばなかった」と書き直してみる。そのうえで、どちらを出しても恥ずかしくないかを確かめます。

手順にすると、次の4つです。

  • 伝えたい事実を、数字と母数のセットで書き出す(「1万人」なら、何人のうちの1万人か)
  • 明るい側と暗い側、両方のフレームで一文ずつ書く
  • 暗い側を読んだ人が、明るい側の表現を見て「だまされた」と感じないかを考える
  • 感じるなら、母数や条件を添えるか、表現そのものを変える

この検算が効くのは、フレーミングの失敗の多くが「母数を隠したこと」から起きるからです。1万人という数字は大きく聞こえます。でも、対象が100万人いる市場なら、選ばれた割合は1%です。母数を伏せて大きな数字だけを見せると、読み手はあとで母数を知ったときに、数字そのものではなく書き手を疑うようになります。

自分で有料記事やサービスを売る側になってから、ぼくは紹介文に数字を入れるたびに、この裏返しをやるようにしています。売る側に立つと、どうしても明るい側の言葉ばかり選びたくなる。だからこそ一度だけ暗い側で書いてみて、その文を読んだ人の顔を思い浮かべる。それで書き直したくなった数字は、たいてい盛りすぎていた数字です。

逆に、暗い側のフレームが役に立つ場面もあります。健康診断や点検、保険の見直しのように「やらないと失うもの」がはっきりしている行動は、得の言い方より損の言い方のほうが動いてもらいやすいことがあります。前の章のゴールフレーミングの研究が示しているのはこの領域です。どちらの枠を選ぶかは好みではなく、相手がいま何を守りたいと思っているかで決まります。

日本市場・2026年時点での注意点──言い換えと誤認の境界

フレーミングそのものは違法でも不正でもありません。ただ、言い換えた結果として、実際より著しく良いもの、あるいは著しく得なものだと誤解させれば、景品表示法の不当表示(優良誤認・有利誤認)の問題になります。境界は「事実が正しいか」ではなく「受け手が誤認するか」に置かれています。

消費者庁の表示規制の概要でも、表示全体から一般の生活者が受ける印象で判断する考え方が示されています。つまり、一文ずつ見れば正しい数字でも、母数や条件を極端に小さく書いて印象を作れば、問題になりうる。逆のフレームで書き直す検算は、この「全体の印象」を自分で先に確かめる作業でもあります。

2026年のいまは、フレームを選ぶのが人間だけではなくなりました。生成AIに商品説明や広告文を書かせると、指示しないかぎり明るい側のフレームで、母数を省いた文章が出てきやすい。下書きの量が増えたぶん、どちらの事実に光を当てたかを最後に確かめる人の役目は、むしろ重くなっていると思います。

「フレーミング効果は古い」「再現しない」という声もときどき見かけます。アジア病気問題については、心理学の有名な実験をまとめて追試した大規模な再現プロジェクト(メニー・ラボ、2014年)でも、得と損の言い方で選択が変わる結果が再現されています。古いのは実験の年代であって、言い方で判断が動くという人の性質ではない、と受け止めておくのが実態に近いと思います。

フレーミング効果に関するよくある質問

フレーミング効果の日常の例にはどんなものがありますか?

天気予報の「降水確率30%」と「7割は雨が降らない」、手術の「成功率90%」と「10人に1人は失敗」、食品の「赤身75%」と「脂肪25%」などが代表的です。どれも中身は同じなのに、受け取る気持ちが変わります。スーパーの「3個で300円」と「1個100円」のように、まとめ方を変えるだけの表示もフレーミングの一種です。

メディアのフレーミングとは何ですか?

報道や情報発信で、現実のある側面を選んで目立たせ、ほかの側面を後ろに下げることで、受け手の解釈を方向づける働きのことです。政治コミュニケーションの研究者ロバート・エントマンが1993年の論文で、フレーミングを「認識された現実のいくつかの側面を選び、目立たせること」と定義したことがよく引かれます。心理学のフレーミング効果が「同じ情報の言い方」を扱うのに対して、メディアのフレーミングは「どの情報を選ぶか」まで含む広い概念です。

ポジティブとネガティブ、どちらのフレームが効きますか?

一律の正解はなく、行動の種類で変わります。健康行動の研究では、病気を防ぐ行動は得の言い方、病気を見つける検査は損の言い方が効きやすいという整理(ロスマンとサロヴェイ・1997年)がありますが、その後のメタ分析では差は小さいとする報告もあります。迷ったら両方のフレームで小さく試し、反応の差を見て決めるのが確実です。

フレーミングは印象操作や嘘になりませんか?

事実を変えていなければ嘘ではありませんが、母数や条件を隠して誤認させれば印象操作になり、景品表示法の問題にもなりえます。どの文章にも何らかのフレームはあるので、フレームを使わない選択肢はありません。逆のフレームで書き直しても後ろめたくないかを確かめることが、誠実な言い換えと操作を分ける線引きだと思います。

おわりに──中立な言い方は、どこにもない

フレーミング効果を知ると、「では、どう書けば中立なのか」と考えたくなります。でも、どの文章にも枠はあります。数字を割合で書くか人数で書くか、得の側から書くか損の側から書くか。何かを書いた時点で、ぼくたちはもうどちらかを選んでいます。

だから大事なのは、枠を外そうとすることではなく、自分がどの枠を選んだかを知っていることです。「1万人が使った」と書いた人が、「99%が選ばなかった」という裏側も同時に見えているかどうか。その差が、言葉の信用の差になっていくのだと思います。

伝え方を選ぶことは避けられない。避けられるのは、選んでいないふりだけです。

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