=LOVE、≠ME、≒JOY。指原莉乃さんがプロデュースする3つのアイドルグループの名前は、どれも数式の記号から始まっています。ぼくはこれを見たとき、アイドルの話としてではなく、ブランド設計の話として鳥肌が立ちました。結論から書きます。この3つの記号は思いつきのネーミングではなく、「愛(=)」「個性(≠)」「余白(≒)」という意味を記号で体系化した、ひとつのネーミングシステムです。しかもそのシステムは、ファンを3グループの間で回遊させ、母体である指原莉乃さんというIPの信用の下にぶら下げる、教科書どおりのブランドアーキテクチャになっています。広告会社でブランド体系を設計してきた目線で、順番に解剖していきます。
なぜ指原莉乃は数式記号でグループ名を体系化したのか
ネーミングシステムとは、個々の名前を単発で考えるのではなく、共通の文法を先に決めて、その文法から名前を生成する設計思想のことです。=LOVE、≠ME、≒JOYを並べると、「数式記号+英単語(全部大文字)」という文法が透けて見えます。1組目を決めた時点で、2組目・3組目の名前の作り方まで決まっているわけです。
ふつう、姉妹グループの名前は「AKB48に対するSKE48」のように、地名や番号で横に増やしていきます。でも指原莉乃さんは記号を選びました。=(イコール)、≠(ノットイコール)、≒(ニアリーイコール)。この3つは数学の授業で誰もが習う記号で、しかも意味が明確に違います。等しい、等しくない、ほぼ等しい。名前を見た瞬間に、3グループが「同じ文法の中の別の値」だと直感的に伝わる。ぼくが感心したのは、ここで記号の意味そのものがグループのコンセプトと接続していることでした。単に見た目をそろえたのではなく、意味で体系化しているのです。
ネーミングの記号設計──なぜ「=」「≠」「≒」だったのか
記号ネーミングとは、文字や単語ではなく記号そのものをブランド名の中心に据える手法で、視認性・独自性・意味の三つを一度に取りに行く設計です。3つの記号がそれぞれ何を背負っているのかを見ていきます。
まず=LOVE(イコールラブ)。オフィシャルの説明では、「アイドルはファンに愛されなければいけない、そしてアイドルという仕事も自分が愛さなければいけない」という想いが込められていて、=(イコール)にはメンバー同士が平等であるという意味もあるとされています(=LOVE オフィシャルサイト)。愛を等号で表す。ファンとアイドルが等価で、メンバー同士も等しい。愛の思想を「=」という一文字に圧縮しています。
次に≠ME(ノットイコールミー)。こちらは「過去の自分とは違う自分になる」「みんな違う個性、違う魅力があって、集まったときにグループとして輝く」という願いから名づけられたと語られています(YOUTH TIME JAPAN project)。≠は「等しくない」。つまり、誰とも同じではない私、という個性の宣言です。=LOVEが「平等・等しさ」を掲げたのに対して、妹分の≠MEは「不等・違い」を掲げる。母体とわざと反対の意味を持たせている。ここが設計者の芸の細かさだと思います。
そして≒JOY(ニアリーイコールジョイ)。≒は「ほぼ等しい、限りなく近い」。オフィシャルには「メンバーと応援してくれるファンが出会ったときに、喜びを感じて幸せな気持ちになってほしい」という想いが込められているとあります(≒JOY オフィシャルサイト)。完全な一致ではなく、限りなく近い。ぼくはこの「ほぼ」に、余白と伸びしろのニュアンスを読み取りました。まだ完成していない、これから近づいていく存在。3番目の妹分にちょうどいい記号です。
=で愛(等しさ)、≠で個性(違い)、≒で余白(近さ)。3つの記号が、それぞれ別のコンセプトを一文字で言い切っている。ネーミングでこれだけの情報量を、覚えやすさを損なわずに載せているのは、率直にすごいと思います。
ブランドアーキテクチャとは何か
ブランドアーキテクチャとは、ひとつの母体が複数のブランドを持つとき、それぞれの関係と役割を体系的に設計する考え方です。全部を同じ名前で統一するのか、バラバラに独立させるのか、その中間を取るのか。ここの設計次第で、ブランド同士が助け合うか、食い合うかが決まります。
指原莉乃さんの3グループは、この中間の形をとっています。マーケティングでは「エンドースト・ブランド」と呼ばれる型に近い。=LOVE、≠ME、≒JOYはそれぞれ独立した名前とファンダムを持ちながら、「指原莉乃プロデュース」という保証ラベルが全部の背中についている。個々は自立しているけれど、母体の信用に裏書きされている状態です。
これを全部「指原莉乃グループ1号・2号・3号」のように母体の名前で統一していたら、それぞれの独自の世界観が育たなかったはずです。逆に、母体を一切出さずに完全に独立したブランドにしていたら、新グループを立ち上げるたびにゼロから認知を作り直す必要があった。記号でつなぎつつ、名前は独立させる。この折衷が、立ち上げコストと独自性の両取りを実現しています。ぼくが企業のブランド体系を設計するときに一番悩むのが、まさにこの「統一と独立のどこで線を引くか」でした。
3グループの位置づけを一枚で比べる
ここまでの整理を、記号の意味・コンセプト・デビュー時期で一覧にします。
| グループ | 記号(読み) | 記号の意味 | コンセプトの核 | お披露目/メジャーデビュー |
|---|---|---|---|---|
| =LOVE(イコールラブ) | =(イコール) | 等しい | 愛と平等(母体・基準となる存在) | 2017年9月6日デビュー(Wikipedia) |
| ≠ME(ノットイコールミー) | ≠(ノットイコール) | 等しくない | 個性と違い(母体と対の価値観) | 2021年4月7日メジャーデビュー |
| ≒JOY(ニアリーイコールジョイ) | ≒(ニアリーイコール) | ほぼ等しい | 喜びと余白(近づいていく存在) | 2024年1月17日メジャーデビュー(ORICON NEWS) |
こうして並べると、3グループが「等しさ→違い→近さ」という意味のグラデーションで配置されているのがわかります。バラバラの3組ではなく、ひとつの座標軸の上に置かれた3つの点。これがネーミングシステムの威力です。
記号論から見た「空いていた陣地」
記号論の観点でいうと、ブランド名は「シニフィアン(意味するもの)」であり、それがどれだけ独自で、覚えやすく、他と混ざらないかが価値になります。=、≠、≒という数式記号は、アイドルグループの名前としてほぼ誰も使っていなかった、空いていた陣地でした。
マーケティングの世界では、バイロン・シャープが「ディスティンクティブ・アセット(独自の識別資産)」という概念を広めました。ロゴでも色でも音でも、そのブランドだと一瞬でわかる固有の記号を持て、という話です。指原莉乃さんの3グループは、名前そのものを識別資産にしてしまった。ライブの物販でも、SNSのハッシュタグでも、記号を見た瞬間にどのグループか判別できる。文字で「あいらぶ」と書くより、「=LOVE」と記号で書いたほうが視認性が高く、他のアイドル名と混ざりません。
それに、記号は言語に依存しません。海外のファンが日本語のグループ名を読めなくても、=、≠、≒の違いは伝わる。ぼくが博報堂でグローバルブランドの相談を受けたとき、いつも壁になったのが「日本語の語感が海外で消える」問題でした。記号ネーミングは、その壁を最初から回避しています。
プロデューサーIPという発明
プロデューサーIPとは、作品やグループではなく、作り手自身がブランドとして信用と集客力を持つ状態のことです。指原莉乃さんは、この3グループにおいて最強のエンドーサー(保証人)として機能しています。
彼女はAKB48時代に総選挙で頂点を経験し、卒業後もテレビやSNSで露出が絶えない。その知名度と「アイドルを知り尽くしている人」という信頼が、新グループを立ち上げるたびの認知の初期加速になっています。実際、≠MEは1stシングルがオリコンで初登場1位を記録し(株式会社DONUTS プレスリリース)、≒JOYもメジャーデビューのミニアルバムでオリコン1位を獲得しています(ORICON NEWS)。無名の新グループがいきなりチャート1位を取れるのは、楽曲の力だけではなく、「指原莉乃がプロデュースしている」という保証ラベルが先に効いているからです。
ここが企業のブランド戦略と重なります。新商品を出すとき、まったくの新ブランドで出すか、信頼のある母体ブランドの名を借りて出すか。母体が強いほど、新商品の立ち上がりは速い。指原莉乃さんという人格が母体ブランドそのものになっていて、記号のグループはその子ブランドとして次々に送り出せる構造になっています。プロデューサー本人がブランドの中核になっているから、グループを増やしても信用が薄まらない。むしろ増えるほど「指原ファミリー」としての厚みが増す設計です。
3グループ間の回遊設計──ファンを「辞めさせない」仕組み
回遊設計とは、複数のブランドを持つ企業が、顧客をブランド間で行き来させ、ひとつの経済圏に長くとどまらせる仕組みのことです。指原莉乃さんの3グループは、この回遊が驚くほど丁寧に作り込まれています。
象徴的なのが、3グループ合同での活動です。=LOVE、≠ME、≒JOYの総勢36名(=LOVE11名・≠ME12名・≒JOY13名)が集まって「トリプルデート」という合同楽曲を歌い、そのMVを公開しました(ガルポ!)。合同の個別お話し会も開催されています。この「イコノイジョイ」という合同ユニットの動きは、マーケティングでいうクロスセルそのものです。=LOVEのファンに≠MEを見せ、≒JOYのファンに=LOVEを見せる。ひとつのグループのファンを、他の2グループへ自然に橋渡ししているわけです。
この回遊設計がなぜ効くのか。アイドルファンには「推し変」という現象があります。応援していたメンバーが卒業したり、気持ちが離れたりして、推す対象が変わること。ふつうのグループなら、推し変はファンの離脱、つまり売上の喪失を意味します。でも指原莉乃さんの経済圏では、推し変が起きても行き先が同じ経済圏の中にある。=LOVEの推しが卒業しても、≠MEや≒JOYに移ってもらえれば、ファンはエコシステムの外に出ていかない。ぼくの言葉でいうと、これはファンのLTV(生涯価値)を、グループ単位ではなく経済圏単位で最大化する設計です。1グループの寿命に、ファンの熱量を縛りつけない。だから記号でつないでおく意味があるのです。
広告会社の目線で見ると、これは完璧なブランドポートフォリオだった
ぼくは博報堂で13年、アクセンチュアで5年、企業のブランドや事業のポートフォリオ設計に関わってきました。その目線で指原莉乃さんの3グループを見ると、教科書に載せたいくらい整理されたブランド体系に見えます。
企業がブランドを増やすとき、いちばん怖いのが「カニバリ(共食い)」です。似たようなブランドを並べると、顧客が分散するだけで全体のパイは増えない。それを避けるには、ブランドごとに担う価値をずらす必要があります。=LOVEは「愛・王道・基準」、≠MEは「個性・違い」、≒JOYは「喜び・これから」。生活者から見て、それぞれが背負う意味がきれいにずれている。だからファンは「どれか一つ」ではなく「全部を並行して」応援できる。カニバらないどころか、互いを補完し合っています。
そして、この全体を「指原莉乃プロデュース」という保証ブランドが束ねている。記号という共通の文法が、3つのバラバラなグループを一つの体系に見せている。個々の独立性と、全体の統一感が両立している。ぼくが提案書で何度も描こうとしてうまくいかなかった図が、アイドルの世界で完成形として動いているのを見て、素直に負けたと思いました。名前ひとつに、ここまでの戦略を畳み込めるものかと。
マーケターやビジネスパーソンにとって、これは他人事ではない気がしています。自分というブランドをどう名づけ、どんな体系の中に置くか。名前の設計は、キャリアの設計と地続きです。自分の市場価値をどう言語化して、どんな肩書きの下に置くかという話は、職務経歴書の書き方にもそのままつながっていきます。ちなみに、指原莉乃さん本人がどうやって「売れるものを作れる人」になったのかは、なぜ指原莉乃はプロデューサーとして成功したのかで別に解剖しているので、あわせて読んでもらえると、この記号戦略の背景がもっと見えてくると思います。
よくある質問
=LOVE、≠ME、≒JOYの記号にはどんな意味がありますか
=(イコール)は「等しい」で、愛とメンバー同士の平等を表します。≠(ノットイコール)は「等しくない」で、一人ひとりの個性と違いを表します。≒(ニアリーイコール)は「ほぼ等しい」で、ファンとの近さや、これから完成に近づいていく余白を表します。3つの記号が「等しさ→違い→近さ」という意味のグラデーションで並ぶよう設計されています。
なぜ姉妹グループを地名や番号ではなく記号で名づけたのですか
記号は視認性が高く、他のアイドル名と混ざりにくく、言語に依存しないからだと考えられます。マーケティングでいう「独自の識別資産」を、名前そのものに持たせた形です。加えて、記号の意味をそのままグループのコンセプトに接続できるため、名前を見ただけで各グループの立ち位置が直感的に伝わる利点があります。
3グループがそれぞれヒットしているのはなぜですか
楽曲やメンバーの魅力に加えて、「指原莉乃プロデュース」という保証ラベルが新グループの立ち上がりを加速させているためと考えられます。実際に≠MEは1stシングルがオリコン初登場1位、≒JOYもメジャーデビュー作がオリコン1位を記録しています。母体となる指原莉乃さん本人の信用が、子ブランドである各グループに裏書きされる構造になっています。
3グループ合同での活動には、どんな狙いがありますか
ファンをグループ間で回遊させ、ひとつの経済圏に長くとどまらせる狙いがあると読み取れます。合同楽曲「トリプルデート」や合同イベントを通じて、あるグループのファンを他の2グループへ橋渡ししています。これにより、応援対象が変わっても同じ経済圏の中に留まりやすくなり、ファンの熱量が特定グループの寿命に縛られにくくなります。
名前は、いちばん最初に決めて、いちばん長く残るものです。=LOVE、≠ME、≒JOY。この3つの記号を並べたとき、そこには「愛」と「個性」と「喜び」が、たった一文字ずつで置かれていました。ぼくはアイドルにそこまで詳しいわけではないけれど、名前の設計だけで、これほど雄弁に戦略を語れるものかと、しばらく手が止まりました。自分の仕事に、自分のキャリアに、こんな一文字を置けているだろうか。そんなことを、記号を眺めながら考えていました。