キャリアデザイン

強いチームの作り方──博報堂・アクセンチュアで学んだ、マネージャーとして大切にしてきた価値観

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2022年の夏、ぼくはひとつのスライドを作った。

チームのメンバーに伝えたいことが、うまく言葉にできなかった時期がある。朝会でも、1on1でも、なんとなくすれ違う感覚が続いていた。だから、自分の頭を整理する意味でも、価値観をスライドにまとめることにした。

タイトルは「チームってなあに」。

博報堂で13年、アクセンチュアで5年。マネージャーとして関わったチームは、数え切れないくらいある。うまくいったチームも、空中分解したチームも。そのなかで「これは本当に大切だ」と思ったことだけを、12枚のスライドに落とし込んだ。

今回はそのスライドをもとに、ぼくがチームマネジメントで本当に大切にしてきたことを書く。マネージャーとして成功してきた話というより、失敗して、迷って、それでも続けてきた記録として読んでもらえると嬉しい。

01|チームを愛する

チームを愛する

仕事とは「人の役に立つこと」。

そう定義したとき、チームとは「より多くの人の役に立つための器」になる。一人でできることには、限界がある。チームがあるから、届けられる価値の総量が増える。

でも、ぼくはこうも書いた。「仕事を好きになりすぎないで」と。

博報堂時代、仕事が好きすぎて壊れかけた時期がある。断ることができなかった。対応する能力はあったと思う。でも抱え込みすぎて、結局ミスにつながった。仕事への愛着が強すぎると、失望したときの落差が大きくなる。誰かへの期待が強すぎると、裏切られたときに立ち直れなくなる。

うつ状態になったこともある。産業医に申告して、時短労働にしてもらったこともある。「残業しない=時短労働」という時代の話だ。

そういう経験を経て、気づいた。仕事そのものを愛するのではなく、仕事場という「場所」を愛する方が、長く続けられる。人でも成果でもなく、この場所をみんなでつくっていくという感覚が、強いチームの土台になる。誰にでも心を預けられ、ラップトップを開くのが楽しみになるような仕事場。それをチームと呼んで、丸ごと愛しておく。

02|平坦な場所でしかパスは通らない

平坦な場所でしかパスは通らない

チームが機能しなくなるとき、たいてい問題は「指示の内容」ではない。

関係性が歪んでいる。それだけのことが多い。

上司から「これをやっておいて」と言われても、関係が硬直していたら、言葉はまっすぐ届かない。指示を受けた側は反発するか、黙って従うかのどちらかになる。どちらも、チームにとって損失だ。

アクセンチュアでは、論理の精度を常に求められた。でも、どんなに精緻なロジックも、関係性が平らでなければ相手には届かない。人間はロボットじゃないから、感情のフィルターを通してしか言葉を受け取れない。

だから雑談をする。積極的に、意図的に。整地するために。ぼくがチームで実践していたのは、週に一度、仕事と関係ない話だけをする時間を30分作ること。最初は「なぜこんな時間が必要なのか」と思うメンバーもいた。でも続けていくうちに、1on1の質が変わり、フィードバックの受け取り方が変わり、チームの空気が変わっていった。

フラットな場所をつくることが、マネージャーの最初の仕事だとぼくは思っている。

03|いつでも抜けられるチームが最良

いつでも抜けられるチームが最良

「誰一人欠けられないチーム」は、一見すると強そうに見える。でも実態は、脆い。

誰かが休めない、抜けられない、という状態は、チームへの信頼がないことの裏返しだ。

博報堂時代、「自分がいないと回らない」という感覚に、どこか酔っていた部分がある。それが充実感のように感じられた。でも今思えば、それはチームへの甘えだった。自分の仕事を誰かに渡す努力を、していなかっただけだ。

あるとき、急に体調を崩して数日休まなければならなくなった。チームはぼくがいなくても、なんとか回った。そのことに安堵する気持ちと、少しだけ寂しい気持ちが同時にあった。でも後者は、ただの自意識過剰だった。

いつでも離れられるチームをつくるためには、お互いの強みを理解して、少し真似できるようにしておく必要がある。仕事の属人化を避けること。それが、チームに本当の意味での安心をもたらす。休まないのは、美徳じゃない。チームを信頼していない証。このスライドを作りながら、自分に言い聞かせていた。

04|変化こそ、強さ

変化こそ、強さ

去年のやり方は通用しない。

マーケティングの世界では、これが文字通り当てはまる。SNSの台頭、動画広告の爆発、生成AIの登場。ぼくが博報堂に入った頃とは、戦場のルールが根本から変わっている。

型や前例は、考えを整理するための手段として有効だ。身につける価値はある。でも、クライアントが求めているのは型でも前例でもない。現状の課題を打破する、最良の変化。

最大のリスクは、リスクを取らないこと。これは、チームメンバーに伝えてきた言葉であると同時に、ぼく自身に言い続けてきた言葉でもある。アクセンチュアを辞めたのも、独立を選んだのも、変化することへの恐怖より、変化しないことへの恐怖の方が大きかったから。

誰かが新しいやり方を考えてきたら、変化が訪れたことに感謝する。変化に抵抗するエネルギーを、変化を設計するエネルギーに変える。それがマネージャーの仕事だとぼくは思っている。

05|ルールを歓迎しよう

ルールを歓迎しよう

クリエイティブな仕事をしている人ほど、ルールを嫌がる傾向がある。

でもぼくは、ルールこそがチームを自由にすると思っている。

面倒なことをルール化して機械的にこなす。そうすることで、頭のリソースを本当に大切なことに使えるようになる。報告のフォーマット、会議の進め方、フィードバックのタイミング。こういった「面倒なこと」をルールにしておけば、毎回ゼロから考える必要がなくなる。

博報堂でクリエイティブチームを束ねていたとき、「ブリーフのフォーマットを統一しよう」と提案したことがある。最初はかなり反発があった。「型にはめるな」「自由にやらせてくれ」という声が出た。でも導入してみると、会議の時間が半分以下になり、成果物のブレも減った。自由になったのは、型をつくった後だった。

ルールをつくれるのは、人間だからこその能力。自分にとって不都合なルールであっても、チームに必要なものなら理解した上で歓迎する。それができるかどうかが、プロフェッショナルかどうかの分岐点だとぼくは感じている。

06|チャンスをつくれ

チャンスをつくれ

どんなに優秀でも、一人で満塁ホームランは打てない。

前の打席の人がヒットを打てば、自分もヒットでつなぐ。満塁で打席が回ってきたら、思いっきり振り回す。みんなが打席に立つから、大きなチャンスをつくることができる。

博報堂時代、「自分が全部やれば早い」と思っていた時期がある。でも、それはチームのチャンスを奪っていた。ぼくが先回りすればするほど、誰かの打席が減っていた。

あるプレゼンの前日、若いメンバーが「自分にやらせてほしい」と言ってきた。かなり重要なクライアントへのプレゼンだった。正直、不安だった。でも任せることにした。結果は成功だった。そのメンバーは、ぼくが用意していた資料とはまったく違うアプローチで、クライアントを動かした。

マネージャーの仕事は、自分が打つことではなく、チームが打てる状況をつくること。その一枚の資料は、誰かの想いにつながっているか。大きな結果は、チームでつくる。

07|違いは必然

違いは必然

戦隊ヒーローの必殺技が全員同じではないように、人の能力はそれぞれ違う。

「なぜできないのか」を追求すると、チームは縮む。「どうしたらできるか」を探すと、チームは広がる。

アクセンチュアでは、論理的思考が得意な人、データ分析が得意な人、クリエイティブの感覚が鋭い人、クライアントとの関係構築が上手い人。様々なバックグラウンドを持つ人が集まっていた。最初はその「違い」がぶつかり合う場面もあった。

ぼく自身、アクセンチュアではかなり異質な存在だったと思う。広告代理店出身で、数字より感情を動かすことを優先するタイプ。でも論理と感性の橋渡し役として機能できたのは、その違いがあったから。均質なチームは、均質な答えしか出せない。違いを掛け合わせた方が、近道が見つかる。私たちは当たり前に違う。その前提を忘れないこと。

08|仮説から導こう

仮説から導こう

このスライドには「手戻り禁止条例」という別名をつけた。

時間が奪われる大半は「やり直し」だ。やり直しが生まれる原因のほとんどは、最初の仮説が曖昧なまま作業を始めてしまうこと。

会議では「どうやってやるか」より先に、「何を描くか」を議論する。データを集めてもシナリオはつくれない。シナリオがなければ、役者も揃わない。仮説を握る。作業で裏付ける。その繰り返しで、手戻りをなくす。

博報堂時代、クリエイティブブリーフを丁寧に書くことを大切にしてきた。「どんな広告を作るか」より先に「誰の、どんな気持ちを動かすか」を徹底的に議論する。そのプロセスがあるかないかで、最終的なアウトプットの質が全然変わった。日常から世の中を俯瞰して見ておくこと。好きなことに夢中になっておくこと。それが仮説の質を上げる土台になる。深く考えることが、最短経路を導いてくれる。

09|フィードバックループに入ろう

フィードバックループに入ろう

フィードバックをするとき、まず良かった点を伝える。

これは「褒めてから叱る」というテクニックではない。本当に良かったことを、正直に伝えるということだ。改善点が見つかったことを、同じように喜び合う。なぜなら、改善の余地があるということは、まだ伸びしろがあるということだから。

ぼくがスライドに書いた言葉のなかで、今でも一番大切だと思っているのがこれだ。「改善すべきはチーム。人を変えようとせず、チームの環境を改善しよう」。人を変えることはできない。でも、環境は変えられる。仕組みは変えられる。誰かの行動を責めるより、その行動が生まれる構造を変える方が、チームは速く変わる。

フィードバックを受けるときは、「良かったことが何か」から聞いてみる。死ぬまで経験が増え続けるのだから、失敗から学び、他者の意見に耳を傾け、また新たに成果に向き合えば、自然に次の道が開けてくる。

10|やりたいこと・やれること・やらねばならないこと

やりたいこと・やれること・やらねばならないこと

仕事は3つに分けられる。

やりたいこと。やれること。やらねばならないこと。

この3つの交差点に、仕事を引き寄せていく。やらねばならないことだけを誰かが抱え込まないように。やれることを精一杯やって、やりたいことを勝ち取れるように。チームでバランスをとりながら、交差点を大きくしていく。

チームメンバーそれぞれに「この3つを書き出してみて」とお願いしたことがある。するとメンバーの見え方が全然変わった。「やりたいこと」がまったくないと言ったメンバーが、実は「クライアントと直接話す仕事がしたい」という強い希望を持っていた。「やらねばならないこと」を一人で抱えすぎているメンバーがいた。言葉にしてみると、チームの歪みが見える。

独立した今、この3つの交差点がかなり大きくなった。tiny合同会社でやっている仕事は、ほとんどが3つ全部に当てはまる。それが、独立という選択をした最大の理由だったかもしれない。

11|知恵という名の梃子を使え

知恵という名の梃子を使え

知識だけでは、最大限の力は発揮できない。

知識に想像力を掛け合わせると、知恵になる。知恵は、物事をありのままに把握し、真理を見極める認識力。それがあると、余計なデータに惑わされず、アイデアの力を最大化できる。

アクセンチュア時代、データと向き合う機会がかなり増えた。でもぼくがずっと怖かったのは、「データを読む人間になること」だった。データはあくまで手段。その裏側にある人間のインサイトを紐解くことが、本当の仕事だと信じていた。

クリエイティブの発想を毎回ロジカルに分解させられた時期がある。「なぜそのコピーなのか、説明してください」と言われ続けた。頭がおかしくなりそうだった。このままではエモーショナルな広告が作れなくなると思って、最終的にアクセンチュアをやめた。すぐに知った気分にならないこと。情報の裏側にある人間ならではのインサイトを紐解くこと。深く考えることが、最短経路を導いてくれる。

12|価値とは何か

価値とは何か

価値とは、コピーされない、唯一であり固有のもの。

お金はなぜ価値があるか。複製できないから。同じ理屈で、クリエイティブの価値も、コンサルティングの価値も、コピーされない部分にある。

「役務を提供するな。価値を提供しよう」

これがスライドの最後の言葉だった。役務とは、決められた仕事をこなすこと。価値とは、誰かの認識や行動を変えること。まとめた資料に、複製できない言葉を書き込む。誰でも書ける言葉ではなく、想像と分析から、唯一の答えを吐き出していく。

クライアントに価値を提供するには、まず自分がその仕事に価値を見出しているかを突き詰める必要がある。他の誰にも見出せない視点があるか。想像力を駆使しているか。データやファクトに裏打ちされ、確かなものになっているか。その問いに正直でいること。それがマーケターとして20年近く働いてきたぼくが、最後に辿り着いた答えに最も近い。

チームを離れた今、改めて思うこと

2022年に作ったスライドを、今読み返してみると、ほとんどすべてが自分自身への言葉だったことに気づく。

仕事を好きになりすぎないで、と書いたのは、好きになりすぎて何度も壊れかけたから。いつでも抜けられるチームが最良、と書いたのは、抜けられない場所に縛られていたから。変化こそ強さ、と書いたのは、変化を恐れていたから。

チームに伝えていたことは、チームを通じて、ぼく自身に返ってきていた。

独立した今、チームのマネージャーという役割はなくなった。でも、この12の価値観は、tiny合同会社という小さな会社の運営にも、クライアントとの関係づくりにも、そのまま活きている。

チームマネジメントに正解はない。でも、ぼくがこの20年で確信を持って言えることがひとつある。

強いチームとは、何かを達成するための道具ではない。それぞれがありのままでいられる、場所のことだと思っている。

この記事が、チームをつくる人、チームの中にいる人、どちらかの参考になれば嬉しい。