資料を自分で直してしまう病

アクセンチュアでマネージャーになったとき、ぼくは資料を自分で直していました。
メンバーが作ったスライドを見て、「ここのロジック、ちょっと弱いな」と思ったら、自分で手を入れる。アイデアの起点も、どうしても自分で出したくなる。クライアントへの提案が迫っていれば、なおさらです。「自分がやった方が早い」。実際にそうだったと思います。
でも、気づいたら、マネジメントの時間がなくなっていました。
ぼくがやっていたのは、マネージャーの仕事ではなく、スキルの高いプレイヤーの仕事でした。チームの成果を出すために「自分が何とかしないと」と思い込んでいた。でもそれは、マネージャーとしての最大の誤解だったと思います。
日本の管理職の99%がプレイングマネージャー
これはぼくだけの話ではありません。
産業能率大学が上場企業の課長を対象にした調査によると、プレイヤー業務を兼務している課長は99.2%。ほぼ全員です。しかも業務の約半分がプレイヤーとしての仕事に費やされています。
リクルートワークス研究所の調査では、プレイヤー業務の割合が30%を超えるとチームの業績が悪化し始めるという結果が出ています。適切なのは20〜30%。でも現実には、管理職の85%がプレイヤー業務3割以上で、最も多い回答は70〜80%でした。
つまり、ほとんどのマネージャーが「やりすぎ」の状態にいます。
理由のトップは「難度の高い業務を遂行する人材が少ない」(57.2%)。要するに、「任せられる人がいないから自分でやるしかない」。ぼくがアクセンチュアで感じていたことと同じです。でも、その構造を放置したまま自分が巻き取り続けると、いつまで経ってもチームは育ちません。
新任マネージャーの40%が18ヶ月で失敗する
海外の調査にも目を向けると、もっとシビアな数字が出てきます。
CEB(現Gartner)の調査では、新しくマネージャーになった人の約40%が18ヶ月以内に失敗するとされています。Korn Ferryの調査ではさらに厳しく、初めてリーダー職に就いた人の80%以上がうまくいかないという結果もあります。
なぜこれほど失敗するのか。最大の原因は、プレイヤーとして評価されたスキルがマネージャーの役割とは別物だということです。個人として成果を出す力と、チームに成果を出させる力は、まったく違う筋肉を使います。
でも、多くの組織では「プレイヤーとして優秀だった人」がマネージャーに昇格します。そして、特にトレーニングもないまま現場に放り込まれる。英国の調査では、マネージャーとしてのトレーニングを一切受けずに管理職になった人が82%にのぼります。
ぼく自身も、マネージャーの仕事が何なのか、誰にも教わらなかった。プレイヤーとして培ったやり方をそのまま続けて、それが問題だということにしばらく気づけませんでした。
広告代理店では「任せて待つ」ができていた

不思議なことに、博報堂にいたときは、これができていました。
広告代理店は分業が前提です。制作は制作、ストラテジックプランナーはストプラ。ぼくは全体を統括するディレクターのポジションだったので、それぞれに任せて、上がってきたものに対してフィードバックする。そういう動き方が自然にできていました。
なぜかというと、広告代理店というシステム自体が「チームで動くもの」として設計されているからです。個人が全部やる前提になっていない。だから、ディレクションして待つことに違和感がなかった。
あと、日本の広告代理店は、個人への成果プレッシャーがそこまで強くないという面もあります。チームとして評価される文化がベースにある。これは大きかったと思います。
コンサルに来て、プレイヤーに戻ってしまった
コンサルは構造が違います。
その人自身の市場価値がいくらか。それが評価の軸です。マネージャーという肩書きになっても、「個人としてどれだけバリューを出したか」が常に問われる。その空気の中で、ぼくはプレイヤーに戻ってしまいました。
振り返ると、目標設計はできていたと思います。クライアントに対して何を達成するか、どこに向かうか。そこは見えていました。
でも、「誰がどのポジションを担って、どう進めるか」を具体的にディレクションできていなかった。若手がアイデアを出しやすい環境を作ること。資料はディレクションだけして任せること。本来やるべきだったことが、全部後回しになっていました。
プレイヤーとして優秀だった自分のやり方を、そのまま持ち込んでしまった。過去の勝ちパターンに囚われていたんだと思います。
マネージャーの仕事は「環境をつくること」

マネージャーの仕事は、自分が成果を出すことではなく、メンバーが成果を出せる状態をつくることです。
言葉にすると当たり前に聞こえます。でも、実際にこれを徹底できている人はかなり少ないと思います。具体的に何をするのか、ぼくなりに整理するとこうなります。
- 優先順位を決める。そして「やらないこと」を決める
- 上との交渉や調整を引き受けて、メンバーの手を空ける
- メンバーが自分で判断できる範囲を、少しずつ広げていく
- 問題が小さいうちに気づいて、手を打つ
- チームの外に出て、情報や機会を持ち帰る
どれも地味です。プレイヤー時代のように「自分がこれを作った」「このアイデアはぼくが出した」という手応えがない。でも、メンバーが迷わず動けている状態をつくれているなら、それがマネジメントの成果です。
Gallupの調査では、チームのエンゲージメント(仕事への意欲や当事者意識)の70%はマネージャーに起因するという結果が出ています。メンバーのやる気は、給料や制度ではなく、直属のマネージャーの振る舞いで大きく変わる。つまり、マネージャーが環境づくりに集中するかどうかで、チームのパフォーマンスはかなり変わるということです。
「自分がやった方が早い」の3ヶ月後
「自分がやった方が早い」は、その瞬間だけを切り取れば事実です。
経験があるぶん、資料のクオリティは上がるし、アイデアの精度も高い。目の前の締め切りには間に合います。
でも、それを3ヶ月続けたらどうなるか。
メンバーは「どうせマネージャーが直すから」と思い始めます。自分で考える力が育たない。判断の経験が積めない。マネージャー自身は疲弊して、本来やるべき中長期の設計やチームの外との交渉に手が回らなくなる。
ラーニングエージェンシーが管理職1,070人に行った調査では、悩みの1位は「部下の育成」(50.5%)でした。半分以上の管理職が部下の育成に悩んでいる。でも、部下を育てる時間を自分のプレイヤー業務で食い潰しているなら、育つはずがありません。
プレイヤー業務が5割を超える管理職は、月200時間以上の長時間労働の割合が43.1%という調査結果もあります。自分が倒れたら、チームごと止まる。それは、マネジメントができている状態とは言えません。
マネージャーがやるべきでないこと
何をやるかと同じくらい、何をやらないかが大事だと思います。
ぼくが振り返って「これはマネージャーの仕事じゃなかった」と思うことを挙げます。
- 自分が一番詳しいからと実務を巻き取る
- メンバーより先にクライアントに返事する
- 資料の細部を自分で直す
- すべての会議に出る
- アイデアの最初の一手を自分で出す
全部、ぼくがやっていたことです。どれも「チームのため」だと思っていました。でも実際は、メンバーが経験を積む機会を奪っていただけでした。
サッカーで言えば、監督がピッチに出てボールを蹴っているようなものです。ワールドクラスの選手が揃えば、戦術がなくてもある程度は勝ててしまう。でも、それは監督の仕事ではありません。メンバー一人ひとりの力をどう配置して、どう組み合わせて、どこに向かわせるかを設計すること。ぼくがアクセンチュアで足りなかったのは、まさにこの部分でした。
環境が変わったら、自分のOSも入れ替える
ぼくの場合、広告代理店からコンサルに移ったことで、環境が変わり、評価の仕組みが変わりました。でも自分のスタイルは変えられなかった。
広告代理店は、システムがチーム前提で設計されていたから、自然と「任せる」ができていました。でもコンサルに来て、個人の市場価値で評価される環境になった途端、「自分が成果を出さないと」に引き戻された。
これは環境のせいだけではなく、ぼく自身が「プレイヤーとしての成功体験」を手放せなかったからだと思います。
2024年のGallupの調査では、世界全体でマネージャーのエンゲージメントが30%から27%に低下しています。個人としてのメンバーは18%で横ばいなのに、マネージャーだけが落ちている。責任が増え続けるのに、やり方を教わる機会がない。その結果、マネージャー自身が疲弊して意欲を失っている。
環境が変われば、勝ち方も変わる。プレイヤーとして培ったOSを、マネージャーのOSに入れ替える。頭ではわかっていても、これが一番難しかったと思います。
過去の自分を捨てるところから

プレイヤーとして実績を出してきた人ほど、マネージャーへのスイッチは難しいと思います。
成功体験があるから、同じやり方で勝とうとする。自分が手を動かせば成果が出ることを知っている。でも、それを続ける限り、マネジメントは始まりません。
ぼくがこの記事で伝えたかったことは、結局ひとつです。マネージャーの仕事は、自分が優秀であることではなく、チームが優秀に動ける環境をつくること。そのためには、過去の勝ちパターンを手放す必要がある。
メンバーが自分で考えて、自分で動いて、自分で成果を出している。その状態をつくれたとき、たぶん、プレイヤー時代とは全然違う手応えがあるんだと思います。
ぼく自身、まだその途中にいます。
ひとりで抱えなくていい
ここまで読んで、「自分も同じだ」と思った人もいるかもしれません。
ぼく自身、プレイヤーからマネージャーへのスイッチにかなり苦労しました。頭ではわかっていても、行動を変えるのは簡単ではありません。成功体験が強いほど、手放すのが怖い。
もし今、マネジメントのやり方に迷っているなら、ビジネスコーチングという選択肢があります。ぼくが知っているサービスの中では、ZaPASSがマネージャー層に向いていると思います。
ZaPASSは、ビジネス経験豊富なプロコーチが160名以上在籍しているオンラインコーチングサービスです。受講者の約半数がマネージャー・事業責任者・経営者。月1回のセッションで、自分のマネジメントスタイルを客観的に見つめ直すことができます。

マネジメントの悩みは、上にも下にも相談しづらいものです。社外のプロに壁打ちできる環境があるだけで、視界がかなり変わると思います。