40代になって、ふと「自分って旬を過ぎたのかな」と思う瞬間
クライアントとの打ち合わせで、若いマーケターがTikTokの最新トレンドを語っているのを聞きながら、ぼくはふと「ああ、これ全然ついていけてないな」と思ってしまった。40歳を過ぎてから、そういう瞬間が増えた気がする。
博報堂で13年、アクセンチュアで5年。それなりのキャリアを積んできたつもりだったけれど、40代に入ってから「ベテラン」という言葉が急に「過去の人」という響きに聞こえるようになった。転職サイトを見ても「35歳まで」という文字が目に入るし、新しいツールが出るたびに「また覚えなきゃいけないのか」とため息が出る。
でも、独立して1年経った今、ぼくは確信している。40代こそが、マーケターとして一番面白い時期なんだと。ただし、それには「旬を保つ」ための意識的な戦略が必要になる。この記事では、40代マーケターが陥りやすい罠と、どうやって市場価値を維持・向上させていくかについて、ぼく自身の経験も交えながら書いていく。
40代マーケターが陥りやすい「ベテランの罠」
まず最初に、ぼく自身が何度も足を突っ込みかけた(そして今も時々ハマる)「ベテランの罠」について整理しておきたい。これ、本当に怖いのは、自分では気づかないうちに陥っていることなんだよね。
①過去の成功体験への依存
「2015年のあのキャンペーンは大成功だったんですよ」って、何度同じ話をしているんだろう。過去の成功体験は確かに貴重な資産だけど、それに依存し始めると危険信号だ。ぼくも博報堂時代に手がけた大型プロジェクトの話を、つい何度もしてしまっている自分に気づいて愕然としたことがある。
市場は変わる。消費者は変わる。メディア環境も変わる。5年前の成功パターンが今も通用するとは限らない。むしろ、過去の成功体験が「新しいやり方」を試すことへのブレーキになってしまうことが多い。
②新しいツールへの学習拒否
「またマーテックツールが増えたのか」「ChatGPTとか使わなくてもマーケティングはできる」——こういう思考、危ないよね。ぼくも正直、新しいツールが出るたびに「また覚えなきゃいけないのか」という気持ちになる。40代になると、新しいことを学ぶのに20代の頃の倍以上の時間がかかる気がするし。
でも、「学ばない」という選択をした瞬間に、マーケターとしての市場価値は急速に下がっていく。特に今はAIの進化が速すぎて、半年前の知識がもう古いと感じることもある。
③「俺が若い頃は」という思考
「昔はこんなツールなくてもやってたんだよ」「最近の若い人は楽でいいよね」——こういう言葉が口から出始めたら、完全にベテランの罠にハマっている証拠だ。ぼくも飲み会で酔っ払うと、つい「昔は…」って話し始めそうになることがある。
環境が違う。時代が違う。それを「昔と比べて」評価すること自体がナンセンスなんだよね。若手が効率的なツールを使いこなしているなら、それは彼らの強みであって、批判する対象じゃない。
④肩書きへの過度な依存
「元・大手広告代理店」「前職はコンサルファーム」——肩書きで自己紹介していないだろうか。ぼくが独立して一番怖かったのは、「博報堂」「アクセンチュア」という看板を外したとき、自分に何が残るのかということだった。
40代になると、過去のキャリアの「看板」に頼りたくなる。でも、今求められているのは「あなたが今、何ができるか」であって、「どこにいたか」じゃない。肩書きは過去の証明であって、現在の実力の証明にはならない。
⑤若手への嫉妬
これが一番厄介かもしれない。若いマーケターが最新のトレンドをキャッチして成果を出していると、素直に喜べない自分がいる。「でも、あれって本質じゃないよね」とか、「たまたまうまくいっただけでしょ」とか、心の中で言い訳を始める。
ぼくも、20代のクライアントがTikTokマーケティングで結果を出しているのを見て、複雑な気持ちになったことがある。でも、その嫉妬こそが成長を止める最大の敵なんだよね。
40代マーケターの「本当の強み」
さて、ネガティブな話ばかりしてきたけれど、40代マーケターには20代30代にはない、本当の強みがある。ぼくが独立してから改めて気づいたのは、この強みをちゃんと理解して活かせるかどうかが、40代での市場価値を決めるということだ。
経験の深さという資産
13年間の広告代理店経験と5年間のコンサル経験。これ、実は膨大な「失敗と成功のデータベース」なんだよね。新しい提案を聞いたとき、「これ、10年前に似たようなことやって失敗したな」とか、「このパターンは別の業界でうまくいったやつだ」とか、瞬時に判断できる。
20代の頃は、一つひとつの施策が新鮮で、すべてが実験だった。でも40代になると、過去の経験から「これは試す価値がある」「これはリスクが高すぎる」という判断が速くなる。この判断速度は、膨大な時間とお金を節約する。
人脈という見えない資産
18年のキャリアで築いてきた人脈は、40代マーケターの最大の武器の一つだ。困ったときに相談できる専門家、一緒にプロジェクトを組める仲間、クライアントを紹介してくれる元同僚——これらは一朝一夕では作れない。
ぼくが独立したとき、最初のクライアントは前職の同僚からの紹介だった。その後も、博報堂時代の先輩や後輩、アクセンチュア時代のチームメンバーが、様々な形でサポートしてくれている。この人脈は、20年かけて少しずつ積み上げてきたものだ。
判断の速さと精度
若い頃は、一つの意思決定に時間がかかった。データを集めて、分析して、上司に相談して、また考えて…。でも40代になると、「これは直感で決めていい案件」と「しっかり分析すべき案件」の区別がつく。
最近、あるクライアントから「原田さんの判断が速くて助かる」と言われたことがある。でもこれ、別に天才的な直感があるわけじゃなくて、過去に似たような判断を100回以上してきているから、パターンが見えているだけなんだよね。
失敗パターンの知識
成功体験よりも価値があるのは、実は失敗体験だとぼくは思っている。どういうパターンで失敗するか、どこに落とし穴があるか、これを知っているかどうかで、プロジェクトの成功率は大きく変わる。
ぼくは博報堂時代に、いくつかのプロジェクトを失敗させている。クライアントとの関係が悪化したこともあるし、チーム内の連携がうまくいかずに炎上したこともある。でも、その失敗の経験があるから、同じ轍を踏まないように事前に手を打てる。
「何が本質か」を見抜く力
マーケティングの世界は、常に新しいトレンドやバズワードが生まれる。AI、Web3、メタバース、生成AI…。でも40代になると、「これは本質的な変化か、それとも一過性のブームか」を見抜く力がついてくる。
すべてのトレンドに飛びつく必要はない。でも、本質的な変化は見逃してはいけない。この見極めができるかどうかが、40代マーケターの価値を決める。ぼくは生成AIについては「これは本質的な変化だ」と判断して、昨年から本気で学び始めた。一方で、他のいくつかのトレンドは「様子見」と判断している。
旬を保つための5つの戦略
じゃあ、具体的にどうやって40代マーケターは「旬」を保てばいいのか。ぼく自身が実践していること、そして時々失敗していることも含めて、5つの戦略を紹介したい。
①AIなど新技術への適応を続ける
これは避けて通れない。特に生成AIの登場は、マーケティングの仕事を根本から変えつつある。ぼくは41歳だけど、ChatGPT、Claude、Midjourney、Canvaなどのツールを日常的に使っている。正直、最初は「面倒くさいな」と思ったけど、使い始めると仕事の効率が全然違う。
重要なのは、「完璧に使いこなす」ことじゃなくて、「まず触ってみる」こと。ぼくの場合、新しいツールが出たら、とりあえず30分だけ触ってみるというルールを作っている。30分触れば、そのツールが自分にとって有用かどうか、だいたい分かる。
あと、若手に教えてもらうことを恥ずかしがらない。ぼくは20代のマーケターに「このツール、どうやって使うの?」って普通に聞く。彼らは喜んで教えてくれるし、その過程で彼らの考え方も学べる。
②社外との接点を意識的に作る
会社員を続けていると、どうしても社内の論理や評価基準に染まってしまう。「うちの会社ではこれが当たり前」が、実は市場では全く通用しないということに気づかないまま、年を重ねてしまう。
ぼくがアクセンチュア時代に意識していたのは、月に1回は社外の人と会うということだった。異業種交流会、セミナー、勉強会、なんでもいい。社外の人と話すことで、「自分の市場価値」が客観的に分かるようになる。
独立してからは、逆に社外との接点しかないわけだけど、それでも意識的に「自分とは違う領域」の人と会うようにしている。デザイナー、エンジニア、経営者、フリーランスの編集者…。彼らとの会話が、ぼく自身の視野を広げてくれる。
③「肩書きなし」で勝負できるスキルを磨く
ぼくが40歳で独立を決意したとき、一番怖かったのは「肩書きを失ったとき、自分に何が残るのか」ということだった。「博報堂の原田」でも「アクセンチュアの原田」でもなく、ただの「原田健司」になったとき、誰かぼくに仕事を頼んでくれるだろうか。
だから、会社員時代から意識的に「個人として勝負できるスキル」を磨いてきた。ぼくの場合、それは「言語化する力」だった。複雑な戦略や概念を、誰にでも分かる言葉で説明する。これは、どの会社にいても、独立しても使えるスキルだ。
あなたの「肩書きなしで勝負できるスキル」は何だろう。データ分析か、クリエイティブディレクションか、プロジェクトマネジメントか。それを明確にして、磨き続けることが、40代での市場価値を維持する鍵になる。
④後輩・若手から学ぶ姿勢を持つ
これが一番難しいかもしれない。40代になると、どうしても「教える側」になることが多くなる。でも、「学ぶ側」に回ることを意識的にやらないと、あっという間に時代に取り残される。
ぼくは最近、25歳のマーケターと一緒に仕事をする機会があった。彼女のインスタグラム運用の知識は、ぼくの10倍以上ある。最初は「教えてあげよう」と思っていたけど、途中から「教えてもらおう」に切り替えた。彼女からリールの作り方、アルゴリズムの特性、Z世代の感覚を学んだ。
若手から学ぶときのコツは、「分からないことを素直に聞く」こと。変なプライドは捨てる。「それ、どういう意味?」「なんでそうするの?」って、普通に聞いていい。むしろ、そうやって聞いてくれる先輩の方が、若手からは好かれるんだよね。
⑤副業・複業で「別の市場」での評価を知る
会社員として働いていると、評価基準は「その会社の中」だけになってしまう。でも、市場での本当の価値は、別の場所で試してみないと分からない。だから、ぼくは副業をすることを強く勧めている。
ぼくの場合、アクセンチュア時代に副業規定の範囲内で、いくつかの小さなプロジェクトを個人で受けていた。報酬は大したことなかったけど、「会社の看板なし」で自分に仕事を頼んでくれる人がいることが、大きな自信になった。
副業には、もう一つの効果がある。それは、「自分の市場価格」が分かることだ。時給換算でいくらの価値があるのか。どういうスキルが求められているのか。これを知ることで、本業でも自分の立ち位置が客観的に理解できるようになる。
今は副業可能な会社も増えているし、クラウドソーシングや知人の紹介など、小さく始める方法はいくらでもある。まずは月5万円でもいいから、「会社の外」で稼いでみる経験をすることをお勧めする。
40代での転職・独立の現実
「40代での転職は難しい」——これ、よく聞く言葉だよね。確かに、20代30代に比べれば、選択肢は狭まる。求人サイトを見ても、「35歳まで」という文字が目に入ることも多い。でも、ぼく自身の経験と周りを見ていて思うのは、「40代だから無理」というのは、半分は思い込みだということだ。
40代の転職で難しいのは、「同じような条件」での転職だ。同じ業界、同じ職種、同じ年収レンジで転職しようとすると、確かに厳しい。企業側からすれば、「同じことができる人なら、若くて給料が安い人を採りたい」と思うのは当然だから。
でも、「異なる価値」を提供できるなら、話は変わってくる。例えば、大手広告代理店での経験を活かして、スタートアップのマーケティング責任者になる。コンサルファームでの戦略立案経験を活かして、事業会社のマーケティング部門の立ち上げを担う。こういう「経験の転用」ができると、40代でも十分に選択肢はある。
ぼく自身は40歳で完全独立という選択をした。博報堂13年、アクセンチュア5年という、それなりに安定したキャリアを手放すのは、正直怖かった。妻と娘がいて、住宅ローンもある。「今のままでもいいんじゃないか」という声が、頭の中でずっと響いていた。
でも、決断したのは、「このままだと、自分の市場価値が分からないまま50代を迎えてしまう」という危機感からだった。会社の看板を外したとき、自分に何が残るのか。それを知らないまま年を重ねるのが、一番怖かった。
独立して1年。収入は会社員時代より不安定だけど、平均すれば前職と同程度は稼げている。それ以上に大きいのは、「自分の力で稼いでいる」という実感だ。クライアントは、「博報堂の原田」でも「アクセンチュアの原田」でもなく、「原田健司」個人に仕事を頼んでくれる。この感覚は、会社員時代には味わえなかった。
もちろん、独立が全員に合っているわけじゃない。でも、「40代は遅い」という思い込みは、絶対に間違っている。むしろ、経験と人脈が蓄積されている40代だからこそ、独立や転職の成功確率は高くなる。
もし転職を考えているなら、まずは自分の市場価値を客観的に知ることから始めるといい。ビズリーチやリクルートダイレクトスカウトのようなスカウト型のサービスに登録してみると、自分にどんなオファーが来るのか分かる。それだけでも、今後のキャリア戦略を考える材料になる。
ぼくが41歳の今、意識していること
じゃあ、ぼく自身は今、どうやって「旬」を保とうとしているのか。正直に書くと、うまくいっていることもあれば、全然できていないこともある。
まず、意識的にやっているのは「週に1回は新しいことを試す」ということ。新しいAIツール、新しいマーケティング手法、新しい業界の情報。何でもいいから、毎週一つは「今まで知らなかったこと」に触れるようにしている。これをやらないと、あっという間に思考が固まってしまう気がするから。
あと、20代30代のマーケターとの接点を意識的に作っている。たぶん、ぼくが一番学んでいるのは、彼らとの会話からだ。TikTokの使い方、Z世代の価値観、最新のツールの使い方。彼らの感覚をインプットし続けないと、すぐに「おじさんマーケター」になってしまう。
一方で、できていないこともある。例えば、体力の維持。40代になると、20代の頃のように徹夜で働くことはできない。でも、運動する習慣をちゃんと作れていなくて、これは今年の課題だ。頭の「旬」を保つには、体の健康が不可欠だということを、最近痛感している。
それから、「守り」に入らないこと。これも意識しているけど、難しい。独立して1年経って、ようやく安定してきた。でも、この「安定」が罠になる。今のクライアントとの関係を守るだけでなく、新しいチャレンジを続けないと、気づいたときには市場から取り残されている。
最近、ある先輩経営者に言われた言葉が印象に残っている。「40代は、20代30代で蒔いた種が実る時期だ。でも、同時に50代60代のために種を蒔き続けなきゃいけない時期でもある」。今、目の前の仕事をこなすだけじゃなくて、5年後10年後の自分のために、今何をするかを考える。これが、40代マーケターの「旬」を保つ秘訣なんだと思う。
40代は「終わり」じゃなく、「仕込みが実る時期」
40代になって、「もう旬を過ぎたかな」と感じることは、たぶん誰にでもある。ぼくも、若いマーケターの勢いを見て、そう思うことがある。でも、それは「終わり」じゃなくて、むしろ「本当のスタート」なんだとぼくは思っている。
20代30代は、がむしゃらに走る時期だった。失敗しても許されたし、とにかく量をこなすことで成長してきた。でも40代は違う。一つひとつの判断に重みがあって、その判断が大きな成果につながる。経験と人脈という資産を活かして、20代30代にはできない価値を提供できる時期なんだよね。
ただし、それには「旬を保つ」ための意識的な努力が必要だ。新しい技術を学び続ける。若手から学ぶ姿勢を持つ。社外との接点を作る。肩書きに依存しない。副業で市場価値を確かめる。これらは、放っておけばできることじゃない。意識して、時間を使って、やり続けないといけない。
ぼくは41歳で、まだまだ「旬」だと思っている。というか、これから一番面白い時期に入ると思っている。過去の経験が資産になり、それを新しい挑戦に活かせる。そのために、学び続けて、チャレンジし続けて、自分自身をアップデートし続ける。それが、40代マーケターのキャリア戦略だとぼくは信じている。
あなたも、「40代だから」という言い訳をせずに、今日から何か一つ、新しいことを始めてみてほしい。それが、5年後10年後のあなたの「旬」を作る第一歩になるはずだから。