よそおいの話

「生き方をデザインする」という発想がキャリアを変える

「キャリアは、気づいたら決まってた」という違和感

ぼくは今41歳で、これまで博報堂に13年、アクセンチュアに数年、そして今は独立して自分の会社を経営している。こう書くと、すごく計画的にキャリアを歩んできたように見えるかもしれない。でも正直に言うと、30代前半までは全然そんなことなかった。

「営業部に異動になりました」「このプロジェクトを担当してください」「次は〇〇さんの下につくことになりました」——キャリアって、気づいたら会社の都合や上司の一言、なんとなくの流れで決まっていくものだと思っていた。自分で選んでいるようで、実は選ばされていた。そんな感覚に覚えがある人は多いんじゃないだろうか。

でも、本当はキャリアって「デザイン」できるものなんだ。洋服を選ぶように、部屋のインテリアを決めるように、自分の生き方を整えて、形にしていくことができる。このブログのタイトル「よそおい」には、まさにそういう思いを込めている。今日はその話をしたい。

「よそおい」という言葉に込めた意味

「よそおい」というブログ名を聞いて、最初は「ファッションブログ?」と思った人もいるかもしれない。でも、ぼくが込めた意味は少し違う。

「装い」という言葉は、たしかに外見を整えることを指す。でもぼくは、もっと広い意味で使っている。生き方を整える、デザインする、自分らしさを表現する——そういう全体的な営みとして「装い」という言葉を捉えているんだ。

ファッションって、単に「おしゃれをする」ということじゃなくて、「自分がどう在りたいか」を表現するものだと思う。カジュアルな服を選ぶのか、きっちりしたスーツを着るのか。それは気分やTPOの問題だけじゃなくて、「自分をどう見せたいか」「どういう価値を届ける人間でありたいか」というメッセージでもある。

キャリアも同じだと、ぼくは考えている。どんな会社で、どんな仕事をして、どんなスキルを磨いて、誰とつながりを持つか。それは全部「自分らしさの表現」になる。そして、それは自分でデザインできるものなんだ。

このブログは、まさにその「キャリアの装い方」を一緒に考える場所にしたいと思っている。だから「よそおい」という名前をつけた。生き方をデザインするための、思考の道具箱みたいなブログにしていきたい。

キャリアをデザインするとはどういうことか

「キャリアをデザインする」と言われても、最初はピンとこないかもしれない。デザインって、グラフィックデザイナーや空間デザイナーがやることで、自分のキャリアとは関係ないように感じる人もいるだろう。

でも、デザインの本質って何かというと、「目的を持って、制約の中で、最適な形を作る」ということだと思う。そしてそこには、「自分なりの審美眼」が必要になる。これは、そのままキャリアにも当てはまる。

多くの人が陥りがちなのは、「与えられた仕事を頑張る」というモードだ。もちろん、それ自体は悪いことじゃない。目の前の仕事に全力で取り組むのは大切だ。でも、それだけだと「キャリアをデザインしている」とは言えない。なぜなら、そこには「自分が届けたい価値」という起点がないからだ。

キャリアをデザインするというのは、「自分が届けたい価値を起点に、働き方や身につけるスキルを選んでいく」ということだと、ぼくは考えている。そのためには、次の3つの問いと向き合う必要がある。

キャリアデザインに必要な3つの問い

  • 10年後、どんな状態で働いていたいか
    これは「どんな役職につきたいか」という話じゃない。朝起きて仕事に向かうとき、どんな気持ちでいたいか。誰とどんな関係性の中で働いていたいか。どれくらいの時間を仕事に使っていたいか。そういう「状態」のイメージを持つこと。
  • 自分が一番価値を発揮できる場はどこか
    これは自分の強みを知るということでもあるし、「どんな文脈で自分が輝くか」を理解するということでもある。大企業がいいのか、ベンチャーがいいのか。チームで働くのが得意なのか、一人でやり切るのが得意なのか。正解はないけれど、自分なりの答えは持っておきたい。
  • 「これだけは譲れない」という軸は何か
    年収、働く場所、一緒に働く人、仕事内容、社会的意義——何を最優先するかは人それぞれだ。でも、「全部大事」だと、結局デザインはできない。優先順位をつけること。これが一番難しいけれど、一番大事なことだと思う。

この3つの問いに、明確な答えを持っている人は意外と少ない。でも、持っている人と持っていない人では、キャリアの進み方がまったく違ってくる。デザインには「意図」が必要だからだ。

ぼくのキャリアは「デザイン」だったのか

ここまで偉そうに書いてきたけれど、正直に言うと、ぼく自身のキャリアが最初から「デザイン」されていたわけじゃない。むしろ逆だった。

博報堂に入社したのは2007年。新卒で入って、最初の10年くらいは完全に「与えられた仕事を頑張る」モードだった。「営業部に配属されました」「はい、頑張ります」。「このクライアントを担当してください」「はい、やります」。そういう日々だった。

もちろん、仕事は楽しかったし、やりがいもあった。クライアントの課題を解決して、喜んでもらえたときの達成感は大きかった。でも、どこか「自分がこの仕事をやる意味」が掴めていなかった気がする。「別にぼくじゃなくてもいいんじゃないか」という感覚が、どこかにあった。

転換点: 30代半ばで初めて真剣に考えた

転機が訪れたのは、30代半ばのときだった。博報堂で10年近く働いて、それなりに実績も積んで、後輩もできて、「この先もこの会社でやっていくのかな」と漠然と思っていた時期だ。

そのとき、ふと思ったんだ。「ぼくは、何者として生きたいんだろう」って。

博報堂の〇〇さん、というアイデンティティはあった。でも、それは会社が与えてくれたアイデンティティであって、自分で選び取ったものじゃなかった。もし明日会社を辞めたら、ぼくは何ができる人間なんだろう。何を届けられる人間なんだろう。そう考えたとき、答えが出なかったんだ。

それが怖かった。このままいくと、40代、50代になったときに「会社の看板がないと何もできない人」になってしまうんじゃないか。そういう危機感が、初めて芽生えた。

そこから、ぼくは初めて「キャリアをデザインする」ということを意識し始めた。10年後、どういう状態で働いていたいか。自分が届けたい価値は何か。そのために、今何をすべきか。そういうことを、真剣に考えるようになった。

アクセンチュアへの転職: 初めて「デザインした」選択

そして出した答えが、アクセンチュアへの転職だった。これは、ぼくにとって初めて「デザインした」キャリアの選択だったと思う。

なぜアクセンチュアだったかというと、「デジタル×クリエイティブ×ビジネス変革」という領域で、自分の価値を試したかったからだ。博報堂で培った広告クリエイティブの知見を、もっと事業の上流から関われる環境で活かしたい。そして、デジタルという新しい武器も手に入れたい。そういう明確な意図があった。

結果的に、アクセンチュアでの数年間は、ぼくにとって大きな成長の時期になった。クライアントの経営課題に向き合い、事業戦略からマーケティング、クリエイティブまで一気通貫で考える経験ができた。そして何より、「会社の看板がなくても戦える力」が、少しずつついてきた実感があった。

独立も、デザインの延長線上にある

そして40歳を前にして、ぼくは独立を選んだ。これも、デザインの延長線上にある選択だった。

「10年後、どんな状態で働いていたいか」という問いに対して、ぼくが出した答えは「自分の裁量で、一緒に働く人を選んで、届けたい価値に集中できる状態」だった。そのためには、組織に所属するよりも、独立したほうがいい。そう判断した。

今振り返ると、博報堂時代の「なりゆきキャリア」と、アクセンチュア以降の「デザインしたキャリア」では、自分の中での納得感がまったく違う。前者は「流されている」感覚があったけれど、後者は「選んでいる」という実感がある。その違いは、想像以上に大きい。

「なりゆきキャリア」の罠

ここまで読んで、「自分は完全に『なりゆきキャリア』だな…」と思った人もいるかもしれない。大丈夫、ぼくもそうだった。そして、それ自体は恥ずかしいことじゃない。

でも、知っておいてほしいことがある。「なりゆきキャリア」には、気づかないうちに陥る罠があるということだ。

悪意なく、会社の都合に最適化されていく

会社は、あなたに悪意を持って仕事を振っているわけじゃない。むしろ、「この人ならこの仕事ができる」と信頼しているから任せている。でも、その結果として何が起こるか。

あなたは、「会社にとって都合のいいスキル」を磨いていくことになる。社内の調整力、特定のクライアントとの関係性、社内システムの使い方——それらはたしかに価値があるスキルだ。でも、それは「その会社でしか使えないスキル」かもしれない。

ぼくが博報堂時代に感じていた「別にぼくじゃなくてもいいんじゃないか」という感覚の正体は、まさにこれだった。ぼくは「博報堂で価値を発揮する人」にはなっていたけれど、「市場で価値を発揮する人」にはなれていなかった。

「市場価値」と「社内価値」のズレ

「会社が必要としているスキル」と「市場で価値があるスキル」は、必ずしも一致しない。というか、一致しないことのほうが多い。

社内で高く評価されている人が、いざ転職市場に出てみたら全然評価されなかった——そういう話は、実はよくある。それは、その人が無能だからじゃない。社内価値と市場価値がズレていただけなんだ。

30代のうちは、まだ軌道修正が効く。新しいスキルを身につける時間もあるし、キャリアチェンジもしやすい。でも、40代になってから「ポータブルスキルがない」と気づいたときには、選択肢がかなり限られてしまう。これが、なりゆきキャリアの一番怖いところだ。

早めに気づいた人ほど、選択肢が増える

でも、逆に言えば、早めに気づけば大丈夫だ。20代後半、30代前半で「自分のキャリアをデザインしよう」と思えた人は、まだまだ十分に軌道修正できる。

ぼく自身、気づいたのが30代半ばだったけれど、それでもなんとかなった。今からでも遅くない。大事なのは、「このままでいいのか?」と自分に問いかけることだ。

キャリアをデザインするための実践ステップ

じゃあ、具体的にどうすればキャリアをデザインできるのか。ここからは、ぼく自身がやってきたこと、そして周りのマーケターたちと話す中で見えてきた「実践ステップ」を共有したい。

ステップ① 「棚卸し」ではなく「編集」をする

キャリアを考えるとき、よく「これまでの経験を棚卸ししましょう」と言われる。たしかに、自分が何をやってきたかを整理することは大事だ。でも、ぼくは「棚卸し」という言葉があまり好きじゃない。なぜなら、それは「過去の事実を並べる」という作業だからだ。

ぼくが提案したいのは、「編集」だ。過去の経験を、「何ができるか」ではなく「何を届けてきたか」という視点で整理し直すこと。

例えば、「営業を5年やりました」と書くのと、「クライアントの潜在的な課題を引き出し、社内のクリエイティブチームと連携しながら、期待を超える提案を届けてきました」と書くのでは、印象がまったく違う。前者は「職務経歴」だけど、後者は「あなたの価値」を表現している。

自分の経験を「編集」するときのコツは、以下の3つだ。

  • 動詞で語る: 「営業経験」ではなく「引き出す」「つなぐ」「届ける」など、あなたがやってきた「行為」を言語化する
  • 成果ではなく価値を語る: 「売上〇〇円達成」も大事だけど、「それによって誰がどう喜んだか」まで言語化する
  • 再現性を意識する: 「たまたまうまくいった」ではなく、「こういう状況では、こういうやり方で価値を出せる」というパターンを見つける

この「編集」をすることで、自分が「何者として価値を届けてきたか」が見えてくる。そして、それが次のキャリアを考えるときの「軸」になる。

ステップ② 「ロールモデル」より「コンセプト」を持つ

キャリアを考えるとき、「〇〇さんみたいになりたい」というロールモデルを持つことは、たしかに有効だ。でも、それだけだと危険だとぼくは思っている。

なぜなら、ロールモデルはあくまで「その人のキャリア」であって、「あなたのキャリア」ではないからだ。時代背景も違えば、その人が持っていた条件も違う。同じようにやろうとしても、うまくいかないことが多い。

ぼくが提案したいのは、ロールモデルを持つのではなく、「コンセプト」を持つことだ。

コンセプトというのは、「自分はどういう価値を届ける人間でありたいか」という一貫した考え方のことだ。例えば、ぼくの場合は「マーケティングとクリエイティブの力で、事業の本質的な変革を支援する人」というコンセプトを持っている。

このコンセプトがあると、キャリアの選択がブレなくなる。「この仕事は自分のコンセプトに合っているか?」「この転職は、コンセプトを深める選択になるか?」——そういう判断軸ができる。

コンセプトの作り方は、以下のような問いから始めるといい。

  • 自分が一番ワクワクする瞬間はどんなときか
  • 周りから「あなたといえばこれだよね」と言われることは何か
  • 10年後、「こういう人だったよね」と言われたいことは何か

最初から完璧なコンセプトを作る必要はない。まずは仮のコンセプトを作って、実際に動きながら修正していけばいい。大事なのは、「自分なりの一貫性」を持つことだ。

ステップ③ 小さく試す

キャリアをデザインするといっても、いきなり転職したり独立したりする必要はない。むしろ、最初は「小さく試す」ことが大事だと、ぼくは思っている。

小さく試すというのは、例えば以下のようなことだ。

  • 副業をやってみる: 今の会社にいながら、自分のスキルを外部のプロジェクトで試してみる。それによって、「市場での自分の価値」が見えてくる
  • 社外活動に参加する: 勉強会やコミュニティに顔を出して、違う会社の人たちと話してみる。自分の「当たり前」が、実は当たり前じゃないことに気づく
  • 転職市場に露出してみる: 実際に転職するかどうかは別として、エージェントに登録したり、カジュアル面談を受けたりしてみる。「今の自分はどう評価されるのか」を知ることができる

ぼく自身、アクセンチュアに転職する前に、いくつかの会社とカジュアル面談をした。その中で、「自分が届けたい価値と、会社が求めている価値が一致する場所」を探していった。いきなり決断するのではなく、小さく試しながら確信を深めていったんだ。

これは、マーケティングでいうところの「MVPテスト」と同じだと思う。いきなり完成品を作るのではなく、小さく試して、学んで、修正する。キャリアデザインも、それでいいんだ。

ステップ④ 定期的に「見直す」

キャリアのデザインは、一度決めたら終わりではない。むしろ、定期的に見直すことが大事だ。

ぼくは、半年に一度くらいのペースで、「今の自分のキャリアは、自分が思い描いていた方向に進んでいるか?」を振り返る時間を作っている。そこで、ズレを感じたら、修正する。場合によっては、コンセプト自体を見直すこともある。

なぜなら、自分自身も変わるし、市場も変わるし、働き方の選択肢も変わるからだ。5年前に正解だったキャリアの選択が、今も正解だとは限らない。

定期的な見直しをするときに、ぼくが使っている問いは以下の3つだ。

  • 今の仕事は、自分のコンセプトに合っているか?
  • 今身につけているスキルは、10年後も価値があるか?
  • 今の自分は、3年前の自分より成長しているか?

この問いに対して、「Yes」と即答できないなら、それは見直しのサインだ。別に今すぐ行動を起こす必要はないけれど、「このままでいいのか?」と自分に問いかけることは大事だと思う。

マーケターだからこそ、キャリアデザインが得意なはず

ここまで読んでくれたあなたがマーケターなら、実はキャリアデザインはそんなに難しくないはずだ。なぜなら、マーケターが日々やっている仕事と、キャリアデザインは、本質的に同じだからだ。

マーケターの仕事は、「誰に・何を・どう届けるか」を考えることだ。ターゲットを設定して、提供価値を定義して、コミュニケーション戦略を立てる。それは、まさにキャリアデザインと同じ構造をしている。

  • 「誰に」= どんな企業・市場に自分の価値を届けたいか
  • 「何を」= 自分はどんな価値を提供できるのか
  • 「どう」= その価値をどういう形で届けるか(雇用、業務委託、独立など)

自分自身を「ブランド」として考える——これは、マーケターにとってはそんなに違和感のない発想だと思う。実際、転職活動も、独立も、結局は「自分というブランドのマーケティング活動」なんだ。

だから、マーケターであるあなたは、本来キャリアデザインが得意なはずなんだ。クライアントのブランドを考えるときに使っている思考法を、そのまま自分に適用すればいい。それだけで、キャリアの見え方は大きく変わってくる。

装いをデザインするように、キャリアをデザインしてほしい

長くなったけれど、ここまで読んでくれてありがとう。

ぼくがこのブログで一貫して伝えたいのは、「キャリアは、自分でデザインできる」ということだ。会社の都合や、上司の一言や、なんとなくの流れに任せるのではなく、自分が届けたい価値を起点に、働き方を選んでいくことができる。

それは、洋服を選ぶように、部屋のインテリアを決めるように、自分の「装い」を整えていくことだと、ぼくは思っている。だからこのブログを「よそおい」と名付けた。

もちろん、すぐに完璧なデザインができるわけじゃない。ぼく自身、30代半ばまでは全然デザインなんてできていなかった。でも、気づいてから動き始めれば、少しずつ変わっていく。大事なのは、「このままでいいのか?」と自分に問いかけることだ。

このブログが、あなたのキャリアデザインの「参謀」になれれば嬉しい。一緒に、自分らしい働き方を考えていこう。

次の記事では、具体的な転職の考え方や、マーケターとしてのスキルの棚卸し方法についても書いていくつもりだ。ぜひ、また読みに来てほしい。