お金の話

独立してわかった「人脈が全て」の現実

独立後の人脈

独立する前、「人脈が大事」という言葉を何度も聞いてきました。でも正直、ぼくはその言葉があまり好きじゃありませんでした。

なんとなく、「つながりを利用する」ようなイメージがあったからです。博報堂にいた頃は、仕事は会社の看板で来るものでしたし、アクセンチュアでも「アクセンチュアの〇〇さん」として動いていました。人脈を意識的に作ろうとしたことは、ほとんどありませんでした。

独立して、初めてわかりました。「人脈が全て」というのは、表現が足りなかったんだと。正確には、「独立後の仕事のほぼ全ては、人を通じてしか来ない」という現実です。

独立直後に気づいた「看板」の重さ

孤独なフリーランス

独立した最初の月、ぼくは途方に暮れていました。

博報堂では担当クライアントが10社以上いました。アクセンチュアでも常に複数のプロジェクトが動いていました。それが一夜にしてゼロになります。案件も、チームも、「次の打ち合わせ」も、全部なくなります。

そこで初めて気づきました。あの仕事は「博報堂」に来ていたのであって、「原田賢治」に来ていたんじゃありませんでした。当たり前の話なんだけど、その当たり前を体で理解するのに独立が必要でした。

ぼくが13年間積み上げてきたのはスキルと実績でした。でも、仕事を運んでくるのは「関係性」でした。スキルがあっても、それを「必要としている誰か」と繋がっていなければ、スキルは存在しないのと同じです。

最初の3ヶ月、仕事はほぼ来ませんでした。預金残高を見ながら「これは判断ミスだったかもしれない」と思った夜もあります。

最初の仕事は「元同僚」から来た

ビジネスの繋がり

転機は4ヶ月目でした。博報堂時代の同僚から連絡が来ました。「今フリーでやってるって聞いたんだけど、うちのクライアントでマーケティング戦略を見てほしい案件があって」という内容でした。

その後、最初の半年で受けた仕事を振り返ってみると、ほぼ全部が「誰かの紹介」でした。元同僚、昔のクライアント、SNSで繋がっていた人。一件も、営業メールや広告から来た仕事はありませんでした。

独立してから今まで続けてきた仕事の流れを整理すると、こうなります。

誰かがぼくの存在を知っている → その人がぼくを思い出す → 仕事の話が来る。

シンプルだけど、このフローの各ステップが機能するためには、「人との関係」が必要です。知ってもらうこと、思い出してもらうこと、紹介してもらうこと。全部、人を通じてしか起きません。

「人脈を作る」の誤解

ぼくが人脈という言葉を嫌いだったのは、「人脈を作る」という行為のイメージが歪んでいたからだと思います。

名刺を大量に配る。異業種交流会に参加しまくる。有名人にDMを送る。そういう「つながりを増やす行為」が人脈形成だと思っていました。

でも独立してわかりました。それは人脈じゃなくて、ただの「知り合いリスト」です。

本当の意味での人脈とは、「何かあったときに連絡できる関係性」だと思っています。一方通行じゃなくて、双方向で。名前を知っているだけじゃなくて、お互いに何者かを理解していて。困ったときに声をかけられる関係。

これは数じゃなくて、質の話です。

「与える」ことが先にある

与えることの大切さ

独立後、人間関係の質が変わった一番の理由は、「与えることを先にするようにした」ことだと思っています。

会社員のときは、正直なところ「この人は自分の仕事に役立つか」という視点で人を見ていた部分がありました。意識してなかったけれど、今振り返るとそういう計算がありました。

独立してからは、「この人に何かできることはあるか」という発想になりました。知識のシェア、紹介、フィードバック。見返りを求めずに先に渡します。

これは綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、実際にはかなり実用的な話です。与えた人は覚えています。助けてもらった人は、機会があれば返そうとします。人間の互恵性は思っているより強いです。

ただ、計算ずくでやると相手に伝わります。「この人、何か狙ってる」という空気は敏感に読まれます。だから与えることは「習慣」にした方がいいです。損得を考える前に動く癖をつけます。

質の高い繋がりを「少数」持つこと

少数精鋭の人脈

独立して5年のフリーランスの先輩に言われた言葉があります。「本当に仕事に繋がる人間関係は、30人いれば十分だ」と。

最初は「少なすぎる」と思いました。でも今はわかります。

フォロワー10万人より、「この人に言えば適切な人を紹介してくれる」5人の方が、フリーランスとしての仕事には直結します。広く浅くつながるより、特定の人と深くつながる方が、長期的には圧倒的に価値が高いです。

ぼくが今でも連絡を取る「本当の意味での人脈」は、多分50人に満たないです。博報堂時代の同僚、アクセンチュア時代のチームメンバー、独立後に共に仕事をしたクライアント、SNSで繋がって実際に会った人。

この50人との関係を、意識的に「切らないようにしています」。定期的に近況を聞く、記事を送る、ランチに誘う。小さな接触を続けることで、関係が生き続けます。

「オンラインの発信」が人脈の質を変えた

発信・アウトプット

独立後、SNSでの発信を本格的に始めました。正直、最初は「仕事に繋がればいいな」という下心がありました。でも発信を続けていると、それ以上のことが起きました。

自分のことを「知っている状態」で連絡してくる人が増えました。「よそおいさんの投稿を読んでいて、ずっと話したかったんです」という文脈で会う人は、最初から一定の信頼関係があります。ゼロから自己紹介をする必要がありません。

これは時間の節約でもありますし、関係の質の問題でもあります。「合いそう」と思って来てくれる人は、実際に合う確率が高いです。ミスマッチが少ないです。

発信の内容は、自分が信じていることを等身大で書くことにしています。格好いいことを言おうとすると、「格好いいと思っている自分」に来てほしい人が集まります。でもぼくが話したいのは、現場でもがいている人たちです。だから失敗も、不安も、包み隠さず書くようにしています。

コミュニティへの参加と「場」の作り方

コミュニティ

独立して気づいたのは、「場」の重要性です。

会社にいるときは、職場という「場」が自動的にありました。毎日同じ人と顔を合わせて、自然と関係が深まっていました。独立すると、その「場」がなくなります。

意識的に「場」を作るか、既存の「場」に入るかしないと、孤立します。

ぼくがやったのは、いくつかのオンラインコミュニティに入ること、定期的なランチ会を主催すること、勉強会に登壇する機会を探すことでした。

「場」の良さは、定期的な接触が自然に生まれることです。毎月同じ勉強会に来る人とは、半年経てばそれなりの関係になります。意図して「繋がろう」としなくても、「また来てますね」という積み重ねが関係をつくります。

自分でコミュニティを作ることも有効です。でも最初から大きなものを作ろうとしなくていいです。5〜6人が定期的に集まる場所を作るだけで、それが後に大きな広がりになることがあります。

人脈は「資産」じゃなくて「生態系」

人脈という言葉には、どこか「ストック」「資産」のイメージがあります。でも実際はそうじゃないと思っています。

人脈は、生き物です。関係を維持するための行動をやめると、関係は自然と薄くなります。連絡しなくなると、相手の記憶の中でのぼくの存在感は下がります。関係は放置すると劣化します。

逆に、意識的に接触を続けることで、関係は深まります。お互いの仕事を知っている。近況を知っている。何かあったときに声をかけやすい。この状態を維持することが、人脈の「管理」だと思っています。

会社員に戻らない限り、ぼくは誰かの看板を借りることができません。「よそおい」という個人への信頼と関係性だけが、仕事を運んできます。そう考えると、人間関係への投資は最もROIの高い投資の一つだと今は思っています。

独立を考えている人へ

独立を考えている人に伝えるとしたら、こうです。

独立する前に作れる関係性は、独立後に作るより5倍くらい簡単です。会社員の名刺がある状態での「繋がり」は、個人の名刺しかない状態でのそれより、ずっとハードルが低いです。

独立前から、「この人との関係を大切にしておこう」と意識することには、大きな意味があります。スキルを磨くのと同じくらい、関係性を磨くことに時間をかけてほしいと思っています。

独立後の孤独は、想像より大きいです。そのときに「連絡できる人がいる」という事実は、精神的にも実務的にも、かなり大きな支えになります。

人脈が全て、というのは少し言い過ぎかもしれません。でも、独立してからの仕事のほぼ全ては、人を通じて来ました。それはぼくの現実です。