博報堂→アクセンチュア。「で、実際どうだったの?」に正直に答える
ぼくは2007年に博報堂に入社して、6年間営業と統合プロモーションプランナーとして働いた。TVCM、WEB、店頭プロモーションをメディア横断でプランニングして、ゲーム会社や外資系製薬、菓子メーカーなんかを担当していた。
その後、スタートアップのCOOを経て、2019年にアクセンチュアのCreative Divisionにマネージャーとして入った。いわゆる「広告代理店からコンサルへの転職」というやつだ。
この記事にたどり着いた人は、おそらく今まさに広告代理店で働いていて、「コンサルに転職するのってどうなんだろう」と考え始めているんだと思う。転職サイトの求人情報や年収比較はいくらでも見つかる。でも、本当に知りたいのは「実際に中に入って、何が変わって、何が変わらないのか」というリアルな手触りの部分じゃないだろうか。
だからこの記事では、スペック比較ではなく、ぼく自身の体験をできるだけ正直に書くことにした。カッコつけても仕方ないので、苦労したことも後悔したことも含めて、そのまま出す。読み終わったあとに「自分はどうしたいか」の判断材料が少しでも増えていれば嬉しい。
転職前夜:なぜコンサルに行こうと思ったか
博報堂での仕事は、正直に言って楽しかった。大きな予算を動かして、テレビCMが世に出て、SNSで話題になる。チームで一つのキャンペーンを作り上げる高揚感は、何物にも代えがたいものがあった。
でも、5年目くらいから、ずっと引っかかるものがあった。
それは「クライアントの本当の課題に踏み込めない」というもどかしさだ。
たとえば、あるクライアントのキャンペーンを担当していたとき、明らかに商品のポジショニング自体がズレていると感じることがあった。広告のクリエイティブをどれだけ磨いても、根っこの戦略がズレていたら効果は限定的だ。でも、代理店の立場でそこに口を出すのは難しい。「それは御社の経営判断ですよね」という見えない壁がある。
ぼくたちに求められていたのは「与えられたオリエンに対して、最高のアウトプットを出すこと」であって、「オリエンそのものを書き換えること」ではなかった。
もちろん、優秀な営業やプランナーはそこに踏み込むこともある。でもそれは属人的な信頼関係に依存していて、構造的にそういう仕事ができるわけではなかった。
「もっと上流から関わりたい」「事業そのものの方向性に手を突っ込みたい」——その気持ちが年々強くなっていった。それが、コンサルという選択肢を意識し始めたきっかけだった。博報堂を辞めたあと、一度スタートアップのCOOを経験して、事業サイドの視点を持てたことも大きかった。その経験があったからこそ、アクセンチュアに入ったときに「戦略側で仕事をする」ということの意味を実感として理解できた。
変わったこと①:仕事のスコープが根本的に違う
「広告を作る人」から「事業課題を解く人」へ
代理店時代、ぼくの仕事のゴールは明確だった。「いい広告を作って、世の中に届けること」。そのために企画書を書き、クリエイターと議論し、メディアプランを組み、プレゼンに臨む。すべてのプロセスが「アウトプットとしての広告」に向かっていた。
コンサルに移って、この前提がひっくり返った。
アクセンチュアで最初に担当したのは官公庁の案件だった。テーマは、ある政策の認知を広げて行動変容を促すというもの。一見すると「広告の仕事」に近く見えるかもしれない。でも実際にやったことは、まず政策そのもののターゲット分析から入り、どの層にどんなメッセージが刺さるかを調査設計し、コミュニケーション戦略全体を設計し、KPIの設定方法まで提言する——という仕事だった。
広告を作ったか? 作らなかった。少なくとも、ぼくの仕事のスコープには「制作」は入っていなかった。
その後担当した大手通信会社の案件でも同じだった。ブランディングの案件と言えばそうなのだけど、実際に議論していたのは「そもそもこの事業のブランドはどうあるべきか」「顧客体験の全体像をどう再設計するか」という話で、広告クリエイティブの話はその一部でしかなかった。
アウトプットの変化
代理店時代のアウトプットは、企画書、絵コンテ、メディアプラン、見積書。コンサルに移ってからのアウトプットは、戦略資料、提言書、調査レポート、ロードマップ。
同じPowerPointを使っているのに、中身がまるで違う。代理店の企画書は「こんなに面白いことができます」というワクワク感で人を動かす。コンサルの戦略資料は「なぜこれをやるべきか」というロジックで人を動かす。どちらが上というわけではないけれど、使う筋肉がまったく違うということは、最初の半年で痛いほどわかった。
変わったこと②:クライアントとの関係性がまるで違う
代理店時代の距離感
代理店にいたとき、クライアントとの関係は、どこまで行っても「発注者と受注者」だった。もちろん、長く付き合ううちに信頼関係は築ける。飲みに行って本音を聞けることもある。でも、構造的には「お金を出す側」と「お金をもらう側」という力関係がベースにあった。
プレゼンの場では、クライアントは「審査員」で、ぼくたちは「提案者」。どれだけいい企画を作っても、最終的に「お任せします」とは言ってもらえても「一緒にやりましょう」という感覚にはなりにくかった。
コンサル時代の距離感
アクセンチュアに入って驚いたのは、クライアントとの距離感の近さだった。というより、距離感の「質」が違った。
コンサルの場合、クライアントの社内に常駐することも珍しくない。同じフロアで同じ課題を見ながら、一緒にゴールに向かう。週次どころか日次でミーティングがあり、資料も一緒に作り上げていく。「同じ船に乗っている」という感覚がある。
代理店時代は「いい提案をして、採用してもらう」ことがゴールだった。コンサル時代は「一緒に正解を見つけて、実行まで伴走する」ことがゴールだった。
この違いは大きかった。代理店時代に感じていた「壁の向こう側に行けない」というもどかしさが、コンサルでは構造的に解消された。クライアントの内部情報にもアクセスできるし、経営層と直接議論する機会もある。「オリエンを書き換える」ことが、仕事として求められる場面すらあった。
ただし、この近さには裏返しもある。代理店時代のように「いいもの作ったんで、どうぞ!」という爽快感は薄い。一緒に泥臭く悩み、一緒に苦しむ。華やかさは間違いなく減った。
変わったこと③:スキルセットと求められるものの違い
代理店で評価されたもの
博報堂時代、ぼくが評価されていたのは主に3つだった。
- クリエイティブセンス:「この企画、面白いね」と言わせる発想力。クリエイターと対等に議論できる引き出しの多さ。
- 人間関係構築力:クライアントとの信頼関係、社内のクリエイターやメディア担当との調整力。代理店の仕事は「人を巻き込む力」が命だった。
- スピード感:「明日までにプラン出して」と言われたら、とにかく形にする瞬発力。完璧じゃなくても、まず出す。フィードバックをもらって磨く。
コンサルで求められたもの
アクセンチュアに入って、求められるスキルの重心が大きくシフトした。
- 論理構成力:結論→根拠→示唆という流れで、ロジカルに物事を組み立てる力。「面白い」ではなく「正しい」が問われる。
- 数字への強さ:定量データを使って仮説を裏付ける力。代理店時代は「感覚的にこっちがいい」で通ることもあったが、コンサルでは通用しない。
- 資料作成力:これは代理店でもあったけれど、質が違う。コンサルの資料は「一人歩きしても意味が伝わる」ことが求められる。プレゼンターがいなくても読めば理解できる資料。情報の構造化、メッセージラインの一貫性、根拠の明示。代理店の企画書とは別物だと思ったほうがいい。
ぼくが苦労したこと
正直に言う。最初の半年はかなりキツかった。
特に苦労したのが、資料の「粒度」のコントロールだ。代理店時代は、企画書の1枚目にドーンとキービジュアルを置いて、感情で引き込むスタイルだった。でもコンサルの資料は、1ページ目から「このプロジェクトのスコープと前提条件」みたいな話が始まる。
ぼくは何度も「このページのメッセージは何ですか?」と先輩コンサルタントに詰められた。「いや、ここは雰囲気で……」という逃げが一切通用しない世界。最初は「なんて窮屈なんだ」と思った。でも慣れてくると、この「ロジックで殴る」スタイルの強さがわかってきた。クライアントの経営層を動かすには、感情だけでは足りない。ロジックという土台の上に、ストーリーを乗せる必要がある。
もう一つ苦労したのは、仮説思考の精度だ。代理店時代は「とりあえずたくさんアイデアを出して、良いものを選ぶ」というアプローチが多かった。コンサルでは「まず仮説を立てて、それを検証する」というプロセスが基本。最初の仮説の精度が低いと、その後の作業がすべて無駄になる。この「最初に考え抜く」習慣を身につけるのに、正直1年くらいかかった。
変わらなかったこと:本質は「人への興味」
ここまで「変わったこと」ばかり書いてきたけれど、コンサルに移っても変わらなかったことがある。それは、仕事の本質が「人を動かすこと」だという点だ。
代理店では、消費者の心を動かす広告を作っていた。コンサルでは、クライアントの経営層の意思決定を動かす提言をしていた。対象が違うだけで、「人が何を考えていて、何に反応して、どうすれば行動が変わるのか」を考えるという根っこの部分は同じだった。
そして、広告で培った「クリエイティブ発想」がコンサルでも活きた場面は、想像以上に多かった。
たとえば、あるクライアントへの提言資料を作っていたとき、ロジックは完璧なのにプレゼンで響かない、という壁にぶつかった。そこでぼくは、代理店時代の癖で「この提言を一言で言うと何か」というキャッチコピー的な発想でタイトルを作り直した。それだけで、クライアントの反応が変わった。
コンサルの世界には、分析力や論理構成力に長けた人はたくさんいる。でも「人の心を動かす表現力」を持っている人は意外と少ない。代理店出身者の強みは、まさにここにある。ロジックとクリエイティブの両方を扱える人材は、コンサルの中では希少価値が高い。
だから、代理店経験は捨てるものではなく、コンサルでの「武器」になる。これは声を大にして言いたい。
転職して後悔したこと・よかったこと
正直に言う、後悔したこと
後悔、というと少し語弊があるかもしれない。でも「失ったもの」は確実にあった。
一つは、「作る喜び」の喪失感だ。代理店時代は、自分が関わった広告が世の中に出る瞬間がたまらなく嬉しかった。テレビでCMが流れたとき、電車の中吊りに自分の担当した広告が掲出されたとき、SNSで話題になったとき。あの高揚感は、コンサルの仕事では味わえない。コンサルのアウトプットは基本的に「社外秘」だ。友人に「最近こんな仕事してるんだ」と見せられるものがない。これは地味にこたえた。
もう一つは、文化の違いへの適応コストだ。代理店はどこか「体育会系の文化祭」みたいなノリがある。深夜まで残って、でもその分飲みに行って、馬鹿話をして、また翌朝から仕事。しんどいけど、仲間との一体感があった。コンサルはもっとドライだ。成果を出す人が評価され、そうでない人は静かに去っていく。個人の成果が可視化される分、チームの一体感は代理店時代のほうが強かった気がする。
それから、これは人によるかもしれないけれど、「正解がない問い」に向き合い続ける精神的な負荷も大きかった。代理店時代は「いい広告を作る」という比較的わかりやすいゴールがあった。コンサルでは「そもそも何が課題か」から考えなければならない。答えがない問いに向き合い続けるのは、慣れるまで本当にしんどかった。
でも、やってよかった理由
それでも、転職してよかったと心から思っている。理由はシンプルだ。
視座が上がった。
代理店時代は、どうしても「広告」という枠の中で物事を考えていた。コンサルに移ったことで、事業全体を俯瞰して見る視点が身についた。マーケティングは事業戦略の一部であり、広告はマーケティングの一部でしかない——この当たり前のことを、体感として理解できたのは大きかった。
もう一つ、「ビジネスの言語」を身につけられたこと。代理店時代は「この企画、エモいよね」で話が通じた。でも、経営者やCxOと対話するには、PL・BS、ROI、LTV、CAC……ビジネスの共通言語が必要だ。コンサル時代にこの言語を叩き込まれたことが、今の独立後の仕事に直結している。
そして、今ぼくが独立してtiny合同会社を経営しているのも、この転職があったからこそだ。代理店の「作る力」とコンサルの「考える力」、その両方を持っていることが、独立後の最大の差別化要因になっている。BtoBマーケティングのコンサルをしているとき、戦略も描けるし、クリエイティブのディレクションもできる。この「二刀流」は、どちらか一方のキャリアだけでは手に入らなかった。
広告代理店→コンサル転職に向いている人・向いていない人
向いている人の特徴
- 「なぜ?」が口癖の人:クライアントのオリエンをそのまま受け取るのではなく、「そもそもなぜその課題が生まれているのか」を考えたくなる人。代理店にいて「もっと上流から関わりたい」と感じている人は、コンサルとの相性がいい。
- 「作る」より「解く」が好きな人:広告を作ること自体が好きな人と、クライアントの課題が解決されることに喜びを感じる人は、似ているようで違う。後者のタイプは、コンサルでもモチベーションを維持できる。
- 変化を楽しめる人:コンサルは案件ごとに業界もテーマも変わる。代理店以上に「昨日までの常識が通用しない」場面が多い。それを「面白い」と思えるか、「しんどい」と思うかで、フィット感が大きく変わる。
向いていない人の特徴
遠回しに言っても仕方ないので、正直に書く。
- 「自分の名前が世に出る仕事」にこだわる人:コンサルの仕事は基本的に黒子だ。クライアントの成功が自分の成果になる。広告賞を取りたい、自分のクリエイティブで勝負したい、という欲が強い人は、コンサルに行くとフラストレーションが溜まる。
- 「感覚派」を自認していて、それを変えるつもりがない人:代理店では感覚の鋭さが武器になる。でもコンサルでは、その感覚を「なぜそう思うのか」と言語化・構造化する力が求められる。感覚を否定しているわけではない。でも「感覚だけ」で勝負したい人には、コンサルの環境はストレスフルだと思う。
- 「チームのノリ」で頑張れるタイプで、一人で考え抜くのが苦手な人:代理店の仕事はチームプレーの比重が大きい。みんなで盛り上がって、勢いで乗り切る場面も多い。コンサルにもチームワークはあるけれど、個人として「考え抜く時間」の比重がずっと大きい。誰かと一緒にいないと考えがまとまらない、というタイプは苦労するかもしれない。
ただし、これはあくまで「向き不向き」の話であって、「優劣」の話ではない。代理店で輝ける人がコンサルで輝けないこともあるし、その逆もある。大事なのは、自分がどちらの環境で力を発揮できるかを冷静に見極めることだ。
まとめ:「どっちが正解か」ではなく「何を得たいか」で選ぶ
広告代理店とコンサル、どちらが上でどちらが下ということはない。ぼくは両方を経験して、それぞれに素晴らしい部分があると実感している。
代理店には、人の心を動かすクリエイティブの力がある。世の中に「作品」を送り出す喜びがある。コンサルには、事業の根幹に関わるダイナミズムがある。経営を動かす手応えがある。
転職を考えているなら、「コンサルのほうが年収が高いから」とか「コンサルのほうがカッコいいから」という理由で決めないでほしい。そういう動機で転職すると、入ったあとのギャップに苦しむ。
大事なのは、「自分はこの先のキャリアで、何を得たいのか」を考えることだ。
事業の上流に関わりたいのか。クリエイティブの腕を磨きたいのか。独立に向けたスキルを身につけたいのか。それによって、最適な選択肢は変わる。
ぼくの場合は、「事業の全体像を理解した上で、マーケティングの力で成果を出す人間になりたい」という思いがあった。だからコンサルへの転職は正解だった。でも、同じ思いを持っていない人にとっては、代理店に残るほうが正解かもしれない。
もし今、転職するかどうか迷っているなら、まずは「自分が何に不満を感じているのか」「その不満は環境を変えれば解消されるのか」を棚卸しすることをおすすめする。意外と、今の環境でも解決できることかもしれないし、逆に、転職しないと絶対に手に入らないものかもしれない。
次の記事では、ぼく自身が転職活動で使ったエージェントや、マーケター特化型の転職サービスについて、実体験をもとに書く予定だ。「よし、動いてみよう」と思った人は、そちらも参考にしてもらえたら嬉しい。